境界線の独白

海藻ゼリー

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番外編:残響の輪郭 ― 最初の男、終わりの音

第一章:教育という名の消費

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モニターの中で、殺人鬼から逃げ惑う生存者が無機質な音を立てて発電機を修理している。

彼女が時折上げる、鼓膜を震わせるような鋭い悲鳴。それは、僕が彼女の配信者としての才能を初めて確信した、あの天性のリアクションだった。けれど、その才能の種を蒔いたのは、僕ではない。十歳年上の、あの「最初の男」だ。

彼女が高校生の時にバイト先で出会い、五年にわたって彼女を繋ぎ止めていたその男は、彼女に一本のホラーゲームを教え込んだ。四人の生存者が一人の殺人鬼から逃げ回る、終わりのない鬼ごっこ。
彼女が今、配信のメインタイトルに据えているそのゲームの操作方法も、隠れる場所のセオリーも、すべては彼との時間の中で培われたものだ。彼女が楽しそうに、あるいは必死に画面に向かう姿を見るたび、僕はその背後に、かつて彼女の隣でコントローラーを握っていた男の影を幻視する。

彼は実家暮らしで、自由になる金を潤沢に持っていた。
二人が過ごしたのは、一晩数万円もするような高級ホテルではない。けれど、お洒落で内装が凝っていて、何より食事が評判のラブホテルだった。

「あそこの生パスタ、本当に美味しかったんだよ。肉寿司もあったし」

彼女は時折、懐かしむようでもなく、ただ事実としてそうこぼす。
短時間の「休憩」で入室し、食事を済ませ、身体を重ねる。事後の余韻に浸る間もなく、二人はまた街へ繰り出し、ゲームセンターで時間を潰す。そんなルーティンを五年間、数え切れないほど繰り返してきた。

受付のスタッフに顔を覚えられているのではないかと、彼女が不安になるほど通い詰めた密室。
そこで行われていたのは、愛の交歓というよりは、効率的な「消費」だった。彼は彼女に美味しいものを食べさせ、ゲームを教え、対価として彼女の若さを求めた。求められ、応じ、その後すぐにゲーセンの喧騒に紛れる。その繰り返しの中で、彼女の身体には「求められることでしか自分の価値を証明できない」という歪な感覚が刷り込まれていった。今の彼女が抱える自己肯定感の低さは、間違いなく、この五年間の「教育」という名の消費によって形作られたものだ。

三十代半ばの僕が、二十代前半の彼女の隣に座るとき、言いようのない毒が体内を巡る。
僕がようやく手に入れた彼女との穏やかな時間は、かつて彼が「休憩」の合間に、あるいはゲームの待ち時間に、造作もなく享受していた景色の一部に過ぎないのではないか。
僕が彼女を抱き寄せる時、彼女がふと見せる「義務」のような微かな強張りに、僕はあのホテルの冷えたシーツの匂いを想像してしまう。

「嫉妬」と呼ぶにはあまりにやるせない。

今の僕たちが笑い合い、共有しているゲームの知識でさえ、彼が彼女に残した「呪い」の延長線上にある。感謝と憎しみが混ざり合い、言葉にならない塊となって喉に詰まる。けれど、僕はその毒を飲み込み、今日も彼女の隣でモニターを見つめる。彼が彼女に植え付けた「消費される女」としての記憶を、僕の泥臭い、見返りを求めない献身で一つずつ塗り替えていくしかないのだ。彼女が上げる悲鳴が、過去の恐怖ではなく、今この瞬間を生きている証としての叫びに変わるまで。僕は彼女が生きる世界を、隣で生き続けると決めている。
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