朝焼けと薄暮の間

はるか

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なんでもないようなことが

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入学式はあっけなく終わった。

 校長の長い話も、来賓の祝辞も、どれも心に残っていない。覚えているのは、保健室での皓月さんの声と笑顔。そして、入学式が行われて体育館の前に貼ってあったクラス分け表を見た時の驚きだ。

 式のあと、教室に戻って簡単な自己紹介。

 俺の番になり、特に言うことも思いつかず、「暁月陽光です。楽しい学校生活を送れたらいいなと思っています」と無難に済ませた。

 そして「皓月葵です。どうか、皆さん仲良くしてくださいね」という挨拶。

 そう。偶然にも俺は皓月さんと同じクラスになったのだ。ああ、神は実在した……!!

 簡単な連絡事項を伝えられた後、その日は午前のうちに解散となり昇降口は新入生でごった返していた。

 そんな中、廊下の壁にもたれ、鞄を抱えて立ち尽くす皓月さんの姿が目に入った。

「皓月さん、大丈夫か?」

 声をかけると、彼女は小さく笑みをつくった。

「ええ……ちょっと眩暈がしただけです」

「駅まで送るよ。倒れられたら困るから」

「……じゃあ、お言葉に甘えます」

 彼女の頷きに、拒否されなくてよかったー! とか思ったのは我ながら単純すぎるか?

 校門を出て、並んで歩き始める。

 通りを行く人から見れば、ただの新入生二人。

 けれど俺にとっては、二十年ぶりの下校だった。ただ制服で気になる女の子と並んで歩くだけの日常。

 その当たり前が、どうしようもなく眩しい。

「……入学式、わたしも出たかったです」

 葵がぽつりとつぶやく。

「そうだな。でも、まさかおんなじクラスになれるなんてびっくりしたよ」

「自己紹介のとき……暁月くん、すごく落ち着いてました」

「落ち着いてたか? むしろ内心はおどおどしまくってたけどな」

「ふふ……そうは見えませんでした。なんだか、周りより一歩引いて見ている感じがしましたよ?」

 その言葉に、一瞬心臓が跳ねる。

 彼女に悟られてはいけない。

 他の人より二十年分の人生を経験があるなんてこと、知られたらどんな目で見られることやら。少なくとも変な目で見られるのは避けられそうな気がする。

「……まあ、人より場慣れする機会が多かったからかな」

 曖昧に笑ってごまかす。

 春風が吹き、彼女の髪が揺れて俺の肩をかすめる。
 その柔らかな感触に、わけもなく鼓動が早くなった。

 駅前のハンバーガーショップは、昼時もいうこともあり多くの客で溢れていた。

「暁月くん? どうしたんですか?」

「実は俺、こういうハンバーガーショップって行ったことなくてさ。高校生になったらそのうち行ってみたいと思ってたんだよな」

「暁月くんもですか? 私も行ったことなくて、いつか食べてみたいなと思ってたんです!」

「高校生っていえば、こういうお店ってイメージあるもんな」

 彼女の体調がよくなったら、誘ってみたら案外喜んでくれるかもしれないな。

 電車を待つ間、二人で並んでホームに立つ。周囲の喧騒の中、皓月さんの声だけはかき消されることなくしっかりと耳に届く。

「……今日は、本当に助かりました」

 皓月さんが視線を落としながら言う。

「俺は大したことしてないさ」

「いいえ。もし朝、暁月くんがいなかったら……たぶん、途中で倒れてました」

 彼女は少し頬を赤らめ、言葉を選ぶように続けた。

「それに……こうして一緒に帰れて、安心しました」

 どれだけ剣を振るっても得られなかったものがここにあった。

 人に必要とされる、ただそれだけでこんなにも心が満たされるのか。

 やがて滑り込んできた電車に乗り込み、俺たちは自然と隣同士に腰かけた。
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