朝焼けと薄暮の間

はるか

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下校後

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放課後(といってもまだ午前中だけど)の電車揺れは、朝よりも少しだけ柔らかく感じた。

 人の数もまばらで、窓から射す光どこかほっとする。

 隣に座る皓月さんが、制服のスカートの裾をそっと整えながら、小さなため息を漏らしたのを耳にして、俺は思わず彼女の横顔を盗み見てしまった。

 同じ学年のはずなのに、どうしてこんなに落ち着いて見えるんだろう。

 笑い方も、言葉の選び方も、視線の向け方さえも。
「大人っぽい」という言葉では片づけられない、何かを背負っているような雰囲気を、皓月さんは纏っていた。

「……ふふ、何かついてる?」

 目が合った瞬間、皓月さんが首を傾げる。

「あ、いや……ごめん。ちょっと考えごと」

「考えごと?」

「ん……新しいクラスのこととか、部活とか。いろいろさ」

 ごまかすように言ったけど、内心はまったく違った。俺はただ、彼女の横顔が気になって仕方なかっただけだ。

 窓から差し込む光に照らされた頬の線。そのわずかな陰影すら、他の同級生たちとは別のもののように思えた。

 電車が減速し、次の駅を告げるアナウンスが流れる。皓月さんは立ち上がりながら、鞄の持ち手をぎゅっと握った。

「じゃあ、私はここで。……また明日ね、暁月君」

 その言葉に、ほんの少しの名残惜しさが滲んでいるように思えたのは、俺の勝手な期待だろうか。我ながら少し気持ち悪い。

「うん、また明日」

 電車のドアが閉まり、彼女の姿が視界から消える。残された俺は、座席に深く腰を沈め、窓の外を流れる景色にぼんやりと視線を預けた。

 帰宅して制服を脱ぎ、ベッドに体を投げ出した。天井を見上げると、今日一日の出来事が鮮やかに思い返される。入学式、クラス分け、そして皓月さんとの会話。
 胸がざわざわする。緊張なのか、不安なのか、それとも別の感情なのか、まだ自分ではうまく言葉にできない。

 ただ一つだけはっきりしている。

 ――明日も、彼女と話したい。

 その気持ちは、間違いないと思う。

 いつの間にかまぶたが重くなり、意識がゆっくりと沈んでいく。

 夢の中でも、皓月さんの横顔が浮かびそうな気がして、俺は小さく笑いながら眠りに落ちた。


 電車のドアが閉まる瞬間、私は小さく息を吐いた。

 手を振りたい気持ちもあったけれど、結局できなかった。

 窓越しに暁月君の姿が遠ざかっていくのを横目で確認しながら、私は人波に紛れるようにホームを歩き出す。

 同じ制服を着ていても、私はやっぱり「同級生」には見えないんじゃないか――そんな不安が、胸の奥にひっそりと広がる。

 けれど、彼はそんなことを少しも気にしていないように見えた。それが嬉しくもあり、怖くもある。

 帰宅すると、私は真っ先に制服を脱いでハンガーに掛けた。

 ふと、部屋の隅に置いた姿見が視界に入る。

 けれど、私はすぐに視線を逸らした。

 ――鏡を見るのは、あまり好きじゃない。

 だから私は最低限しか鏡を見ない。代わりに、今日の自分を心の中で思い返す。

 入学式の校門をくぐったときの緊張。クラスメイトたちの賑やかな声。そして、電車の中での時間。

 そのどれもが、病院の白い天井の下では得られなかった、きらきらしたものだった。

「……ふふ」

 無意識に笑みがこぼれる。

 胸の奥の痛みや、先の見えない不安は消えてはいない。けれど、今日だけは、それを少し忘れることができた。

 私はベッドに潜り込み、毛布を引き寄せた。

 暁月君の笑顔が、目を閉じても鮮やかに浮かんでくる。
 ――明日も、また会えるだろうか。

 そんな期待と、胸の奥に隠す秘密を抱えたまま、私は静かに眠りに落ちていった。
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