朝焼けと薄暮の間

はるか

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球技大会に向けて

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球技大会の話が出たその日の放課後から、クラスは一気にざわつき始めた。

「俺はバスケ!」「いやいや、サッカーだろ!」なんて声が飛び交い、黒板の端に貼られたエントリー用紙には早くも種目ごとの希望者の名前が書かれ始めている。

 もちろん、俺もどれにするか考えなきゃいけない。

 正直、バスケはドリブルもシュートも自信ない。バレーボールはサーブのたびに変な方向に飛ばす未来しか見えない。だから消去法で選ぶしかないわけで……。

「よし、俺はサッカーにするか」

 思い切って名前を書き込むと、後ろから声が飛んできた。

「お、暁月もサッカーか! いいじゃん、一緒にやろうぜ」

 振り返ると、隣の席の武田がにやっと笑っている。元気の塊みたいなやつだ。

「武田はポジションどこやるんだ?」

「俺? フォワードに決まってんだろ。ゴール決めて女子にキャーキャー言わせるんだ」

「はいはい。夢見るのはタダだもんな」

 くだらないやり取りに笑い合いながら席に戻ると、後ろの席の皓月さんがノートを閉じて話しかけてきた。

「暁月くん、サッカーやるんだ」

「うん。まあ、バスケもバレーも苦手だしな。サッカーなら走ってりゃ何とかなるだろ」

「……走るの得意なんだね」

 皓月さんは、少し羨ましそうに微笑んだ。

 俺は何となく言葉に詰まった。彼女が運動に参加できないことを、みんな知らない。けれど俺は、彼女の「見学」という一言を聞いてしまったから。

「まあ、得意ってほどでもないけどさ。ボールがこっちにこなければ大丈夫だと思う」

 冗談っぽく言うと、皓月さんは「ふふっ」と小さく笑った。

 それから二週間、体育の時間はほとんど球技大会の準備に使われた。といっても、ガチで練習するわけじゃなく、ポジション決めやルール確認、ちょっとした試合形式の練習をする程度だ。

 結局、俺はキーパーに立候補した。

 理由は単純で、走り回るのが苦手なわけじゃないけどフォワードやミッドフィルダーは目立ちすぎる。

ディフェンスも悪くないけど、どうせなら後ろで構えてる方が性に合ってる。

「おー、暁月がキーパーか。頼りにしてるぞ!」

 武田が肩を叩いてくる。

「お前、頼りにしすぎるなよ。止められる保証はねーぞ」

「大丈夫だって! 俺がガンガン点取るから!」

「それ一番フラグっぽいんだけど……」

 そんなふうに軽口を叩き合うたび、チームの雰囲気は少しずつ盛り上がっていった。

 ある日の昼休み、なぜか大会に向けてモチベーションの高い俺たちは教室の窓際の机を囲んでポジション確認の話をしていた。

「暁月がキーパーで、武田がフォワード。んで、中盤は……」

 クラス委員の真面目系男子・宮下がノートにメモを取りながら仕切っている。

「女子も混ぜてやらないと人数足りないからな」

「でも女子ってあんま走らないだろ」

「お前、そういうこと言うなよ」

 笑いながら言い合っていると、ふと視線の先に皓月さんが見えた。彼女は数人の女子に囲まれて、楽しそうにおしゃべりしている。

 ――少し安心した。

 俺が余計なことをしなくても、ちゃんと彼女の居場所はできつつある。そう思うと、胸の奥がじんわり軽くなるんだ。

「なあ暁月、お前と仲いい皓月さん、球技大会は出ないの?」

 武田がひそひそ声で聞いてくる。

「皓月さん? ……うん、ちょっと事情あって見学なんだってさ」

「ふーん。なんか大人っぽい感じだよな、皓月さんって」

「だな。なんか普通の一年より落ち着いてる」

 俺は曖昧に笑ってごまかした。

 彼女のことを勝手に話すわけにはいかない。けど、みんなが自然に彼女を受け入れてくれたらいいなって、心から思った。

 球技大会が近づくにつれて、クラス全体の空気もさらに熱を帯びていった。

休み時間にボールを蹴って遊ぶやつもいれば、バレーとバスケ組は体育館で練習試合をしている。

 そんな中、皓月さんはいつも通り穏やかに過ごしていた。

「応援頑張るね」とか「写真撮るの好きだから、記録係やろうかな」とか言って、できることを探しているみたいだった。

「なあ皓月さん、写真撮るなら俺が点いれてるとこ撮ってくれよ」

「ふふっ、じゃあちゃんと決めてね」

「おう、任しとけ!」

 そんな軽口を叩けるくらいクラスの雰囲気はいい感じに仕上がっているのが、元陰キャな俺にも楽しい。

 そして迎えた、球技大会当日の朝。

 グラウンドには早くもテントが立ち並び、クラスごとにカラー分けされたハチマキを巻いた生徒たちが集まっていた。晴れ渡った空の下、吹き流しの旗が風に揺れている。

「おお、テンション上がるな!」

 武田が声を上げ、俺の肩をばんばん叩く。

「お前、最初から飛ばすとバテるぞ」

「うるせー! 今日の俺はやる男なんだ!」

 俺は苦笑しつつ、ゴール前に並べられたビブスを手に取った。背中には大きく「1」の数字。そう、今日は俺がこのチームの守護神だ。

 ふと観客席の方を見ると、皓月さんが女子たちと並んで座っていた。手を振ると、彼女も小さく振り返してくれる。

 その笑顔に、不思議と力が湧いてきた。

 ――よし、やるか。

 グラウンドに足を踏み出した瞬間、クラスメイトたちの声援が響いた。
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