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部活選び
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翌朝。
昨日のことを思い返しながら、俺はまたぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られている。
3日目にもなると、初日の通学の楽しさも無くなった。押し合いへし合いする波に飲まれるのは想像以上に体力を削る。
異世界で魔物の群れに突っ込んでいたときの方が、まだ気楽だったかもしれない。
ということは、この電車で通勤通学する人はみんな異世界に行ってもなんとかなるんじゃないか?そんな馬鹿なことを考えていると、視界の先に2日前に電車で見送った後ろ姿があった。
すっきりと結んだ黒髪が、車内の喧騒の中でひときわ映えていた。皓月さんだ。
「おはよう」
声をかけると、彼女は少し驚いたようにこちらを振り返った。
「あ、暁月くん。おはようございます」
ほんの少し間を置いて、柔らかく笑みを浮かべる。
その表情は、どこか儚げな雰囲気を醸し出しているように見えた。
俺はふと、昨日の欠席を思い出した。
「そういえば……昨日は学校、休んでたよな。具合でも悪かったのか?」
皓月はわずかに目を泳がせてから、首を横に振る。
「ううん。ちょっと急用ができて休んじゃったの。心配かけたならごめん」
その言い方は、なんだか言葉を選んでいる気配がした。
俺はそれ以上踏み込むのはやめた。理由を話したくないのなら、無理に聞き出すのは野暮だろう。
「そっか。まあ、元気そうならよかった」
「うん、ありがとう」
短いやりとりの中に、妙な感情が芽生える。
彼女の言葉には隠された事情が何かある気がするが、いずれ話してくれる日が来るのを待つしかないか。
電車が揺れ、ふたりは自然と近い距離で立ち続ける。
会話はそこで途切れたけれど、沈黙もなんだか心地よい気がした。むしろ、不思議な安心感が漂っていた。
教室に入ると、ホームルーム前のざわめきが耳に飛び込んでくる。
入学式や昨日の授業が終わり、クラスメイトたちは少しずつ打ち解け始めていた。
「なあなあ、暁月。部活とか入る?」
近くの男子が声をかけてきた。
「部活……か」
その言葉に思わず考え込む。異世界では剣を振るい、魔法を操ってきた俺だが、現代日本の部活動となると勝手が違う。
「うちのクラス、結構みんな仮入部とか動き出してるよ。サッカー部とかバスケ部とか、あと吹奏楽に行くってやつもいたし」
「俺は帰宅部がいいかなー」なんて声も上がる。
別の女子が笑いながら言った。
「でもさ、確かに部活は決めなきゃでしょ。せっかくの高校生だもん」
「おい暁月。お前さ、体育でけっこう目立ってたし運動部向きなんじゃね?」
男子の何気ない一言に、周囲が「たしかに」と頷く。
だが俺は苦笑いを浮かべて首を振る。
「……いや、俺は目立つのは性に合わないんだ。静かにやれるところがいい」
その言葉に、何人かが「わかるわかる」と相槌を打った。どうやら俺と同じように、目立つのを避けたいクラスメイトもいるらしい。
「じゃあ、文化系の無難なところにしとくとか?」
「えー、暁月くんは絶対運動系がいいと思うけどなあ」
「でも、好きなものをやるほうがよくないか?」
わいわいとしたやりとりの中で、俺はふと皓月さんに目をやった。
皓月さんは窓の外を眺めながら、静かに会話を聞いているようだった。
小声で尋ねる。
「皓月さんは、部活とかどうするんだ?」
彼女はゆっくりと視線を戻し、少し考えたあとで答えた。
「……まだ、決めてない。無理に入らなくてもいいかなって」
「同感だな。俺もそう思ってる」
「ふふ……同じだね」
その笑顔は、どこかほっとしたようにも見えた。
俺たちの高校生活の日常は少しずつ形を作り始めていく。
この教室で皆と同じ時間を過ごすだけで、不思議と未来が少し明るく見えてしまうのだった。
昨日のことを思い返しながら、俺はまたぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られている。
3日目にもなると、初日の通学の楽しさも無くなった。押し合いへし合いする波に飲まれるのは想像以上に体力を削る。
異世界で魔物の群れに突っ込んでいたときの方が、まだ気楽だったかもしれない。
ということは、この電車で通勤通学する人はみんな異世界に行ってもなんとかなるんじゃないか?そんな馬鹿なことを考えていると、視界の先に2日前に電車で見送った後ろ姿があった。
すっきりと結んだ黒髪が、車内の喧騒の中でひときわ映えていた。皓月さんだ。
「おはよう」
声をかけると、彼女は少し驚いたようにこちらを振り返った。
「あ、暁月くん。おはようございます」
ほんの少し間を置いて、柔らかく笑みを浮かべる。
その表情は、どこか儚げな雰囲気を醸し出しているように見えた。
俺はふと、昨日の欠席を思い出した。
「そういえば……昨日は学校、休んでたよな。具合でも悪かったのか?」
皓月はわずかに目を泳がせてから、首を横に振る。
「ううん。ちょっと急用ができて休んじゃったの。心配かけたならごめん」
その言い方は、なんだか言葉を選んでいる気配がした。
俺はそれ以上踏み込むのはやめた。理由を話したくないのなら、無理に聞き出すのは野暮だろう。
「そっか。まあ、元気そうならよかった」
「うん、ありがとう」
短いやりとりの中に、妙な感情が芽生える。
彼女の言葉には隠された事情が何かある気がするが、いずれ話してくれる日が来るのを待つしかないか。
電車が揺れ、ふたりは自然と近い距離で立ち続ける。
会話はそこで途切れたけれど、沈黙もなんだか心地よい気がした。むしろ、不思議な安心感が漂っていた。
教室に入ると、ホームルーム前のざわめきが耳に飛び込んでくる。
入学式や昨日の授業が終わり、クラスメイトたちは少しずつ打ち解け始めていた。
「なあなあ、暁月。部活とか入る?」
近くの男子が声をかけてきた。
「部活……か」
その言葉に思わず考え込む。異世界では剣を振るい、魔法を操ってきた俺だが、現代日本の部活動となると勝手が違う。
「うちのクラス、結構みんな仮入部とか動き出してるよ。サッカー部とかバスケ部とか、あと吹奏楽に行くってやつもいたし」
「俺は帰宅部がいいかなー」なんて声も上がる。
別の女子が笑いながら言った。
「でもさ、確かに部活は決めなきゃでしょ。せっかくの高校生だもん」
「おい暁月。お前さ、体育でけっこう目立ってたし運動部向きなんじゃね?」
男子の何気ない一言に、周囲が「たしかに」と頷く。
だが俺は苦笑いを浮かべて首を振る。
「……いや、俺は目立つのは性に合わないんだ。静かにやれるところがいい」
その言葉に、何人かが「わかるわかる」と相槌を打った。どうやら俺と同じように、目立つのを避けたいクラスメイトもいるらしい。
「じゃあ、文化系の無難なところにしとくとか?」
「えー、暁月くんは絶対運動系がいいと思うけどなあ」
「でも、好きなものをやるほうがよくないか?」
わいわいとしたやりとりの中で、俺はふと皓月さんに目をやった。
皓月さんは窓の外を眺めながら、静かに会話を聞いているようだった。
小声で尋ねる。
「皓月さんは、部活とかどうするんだ?」
彼女はゆっくりと視線を戻し、少し考えたあとで答えた。
「……まだ、決めてない。無理に入らなくてもいいかなって」
「同感だな。俺もそう思ってる」
「ふふ……同じだね」
その笑顔は、どこかほっとしたようにも見えた。
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この教室で皆と同じ時間を過ごすだけで、不思議と未来が少し明るく見えてしまうのだった。
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