とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第1章:前世の記憶の入口~西の砦の攻防とサファイアの剣の継承~

第5話:山小屋の戦い

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セルジオは西の森入口へ到着すると愛馬アリオンから降りた。
『アリオン』はいにしえの神話の神馬の名であり、セルジオがつけた名だった。

アリオンの顔へ手をやり、優しく語りかける。

「アリオン、手綱は止めぬ。このままにしておく。
山小屋から火が出る様であれば兄上の城へ戻れ」

アリオンは耳をそばだてながらセルジオの深く青い瞳を覗きこんでいた。

ブルルルルッ!

灰色の美しいたてがみを振るわせ、セルジオのほほに鼻を寄せる。
セルジオは愛おしそうにアリオンの鼻をさすった。

「どうした?アリオン。大事ないぞ!
直ぐに戻ってくる。案ずるな」

アリオンの灰色のたてがみを今一度微笑みながらなでるとセルジオは静かに西の森へ入っていった。
アリオンはセルジオの後ろ姿をその場から動かずじっと見つめていた。

西の森に足を踏み入れると秋の装いに色づいた少しひんやりとした空気に包まれる。湿った赤茶色の落ち葉の絨毯じゅうたんを進む。

セルジオは足音を忍ばせ山小屋へ近づいていく。道なりに進めば五百歩程で山小屋へ到着するが既に敵方の先鋒隊が到達している事を考え、山小屋の裏手側へ向かう獣道けものみちを進んだ。

『間に合うか!』

戦う者は独特の気配を醸し出している。殺気と血を浴びた臭い『血香けっか』と呼んでいた。山小屋の辺りからその独特の気配が漂ってくる。セルジオは自らの気配を消し山小屋裏手へ静かに近づいていった。

『見えた!遅かったか!』

山小屋の前に5人の騎士が見えた。山小屋の表扉が空いているのが見て取れる。

『先鋒隊本隊は到着しておらぬな』

セルジオは目を閉じ辺りの様子を感じ取る。

『山小屋の辺りに8人・・・・のみ・・・・か・・・・』

感じ取るやいなや最後尾にいる一人に向けて風を切った。


セルジオは対峙する8人の騎士と間合いを取りながら山小屋入口からヤギンスらを引き離す方向へ足を進める。

セルジオの挑発にのったかのように見えていたヤギンスがセルジオの動きにニヤリと笑った。

「セルジオ殿、一度お会いしたいと思っていましたぞ。
あなた様のお名前をお聞きして恐れぬ者はおりませぬぞ!」

ヤギンスは平静を取り戻したかのように先程までセルジオに向けていた怒りで煮えたぎる目つきを消し去っている。
セルジオはヤギンスのこぶしを見る。わなわなと震えている。

『平静を取り戻してはいないな!ただ・・・・』

セルジオはヤギンスの思惑を探るためにあえて素知らぬ素振りで返答をした。

「それは褒め言葉か?それとも・・・・」

セルジオが山小屋入口への道を確保するために間合いを取るのと同じ様にヤギンスはセルジオを山小屋入口へ誘導・・する動きを取っていた。

セルジオは自身の思惑とヤギンスの思惑が目的は異なれど一致していると読んだ。
ヤギンスもまた時間稼ぎをしている。

『先鋒隊が到着するまでとめ置き、
私を捕虜にでもするつもりか・・・・
先鋒隊本隊が到着する前に山小屋へ入るほか道はないな!』

セルジオは策を巡らしならがらもメアリと2人の女児が西門から助けに向かったシュバイルとサントに出会えた事を願った。

ブルルルルッ

ザッザッザッ!

複数の馬の鼻息と大勢の足音が近づいてくる。
先鋒隊本隊が間近まで迫っていた。

『時間がないなっ!』

思った瞬間だった。

シュッシュッ!

矢がセルジオの右頬をかすめる。咄嗟に左へ身体をそらす。セルジオの右頬に赤い線が浮き上がった。

『きたかっ!』

スキャラル国先鋒弓隊が射程距離まで到着した合図だった。

シュッシュッシュッ!

カカカッカッ!!

弓隊から放たれた矢が連続でセルジオを狙う。
セルジオがかわすと矢は木々の幹へ突き刺さる。

セルジオは降り注ぐ矢を身を翻しかわす。体勢を低くすると山小屋入口目掛けて足から滑りこんだ。

バカンッ!

足で山小屋の扉を開ける。そのまま転がり体勢を立て直す。

バタンッ!

山小屋の扉へ右肩から飛びかかり扉を閉めた。

カカカッカッ!!

扉に矢が刺さる。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・
ふぅ、何とか山小屋へは入れたがっ!しかし・・・・」

分厚い扉に背中を預け外の気配を探る。

「・・・・先鋒本隊が到着したか・・・・
このままこの場に留まらせねば!」

弓矢と槍を避け、スキャラル国先鋒隊をこの場に留めるには山小屋の中で時を待つしかない。
セルジオは尚も外の様子を分厚い扉越しに探っていた。

ヤギンスは自身の思惑通りにセルジオが山小屋へ入ったとしたり顔でいた。
到着した先鋒隊に号令をかける。

「弓隊はそのまま山小屋を包囲。待機せよ」

「いくぞっ!」

ヤギンス含めた8人の騎士はセルジオが入った山小屋の中へ剣を手に進んだ。

セルジオは山小屋の中へと歩みを進め、建ちあがるまでの事を思い返していた。

「オーロラ、かま石窯いしがまは東西へそれぞれつくるぞ」

セルジオが山小屋を見張り小屋と兼ねるつもりだと察してオーロラは微笑んだ。

「セルジオのお好きな様に。
ここが戦場になると考えると・・・・油桶あぶらおけも必要ね」

光と炎の魔術の使い手はセルジオの思惑を読み、いたずらっぽく言う。

「ふっ、オーロラにはかなわぬな」

セルジオは優しく愛おしそうな眼差しをオーロラへ向ける。

酒樽さかだると思わせて、油樽あぶらおけを用意しましょう!
山小屋の屋根が吹き飛ぶ程となると・・・・6つかしら?」

オーロラは真剣に考えていた。自らも戦場へ赴く魔導士だからこそ、セルジオの『万が一の備え』には人一倍敏感びんかんだった。

「セルジオ、隠し扉も必要ね。
裏手から逃れられる様にしておけば・・・・」

「そうだな。裏手から屋敷へ通じる隠し道も用意しよう」

戦場と仮定した『山小屋の役割』を2人は徐々につめていった。

セルジオは独り言ちする。

「ふっ、オーロラ・・・
あの時の話が現実のものになったぞ」

セルジオは北戦域にいるオーロラへ想いを馳せながら山小屋の役割を思い返していた。

山小屋奥へ進むと酒樽さかだると見せかけた6つの油樽あぶらおけの栓を抜く。油が少しづつ床を満たしていった。

ゴッゴッゴーーーーッ

セルジオはメアリ達が逃れ出た裏手口を木の棚を移動させ隠した。
セルジオは再び外の気配を感じ取る。

『山小屋は弓隊に包囲されたか・・・・裏手には回ってはいないな』

山小屋の裏手は隠し扉と隠し道を隠す為に樹木がうっそうと茂っている。
セルジオが裏手の気配を感じ取った瞬間、ヤギンス含めた騎士8人が山小屋の表扉を勢いよく開けた。

バンッ!!

ドカッドカッ!

8人の騎士はヤギンスを先頭に山小屋の中へ入る。ヤギンスがしたり顔のまま声高に言う。

「セルジオ殿っ!
『青き血が流れるコマンドール』であっても
お独りでは我らにかないますまい」

ヤギンスは含み笑いを浮かべる。慇懃いんぎんな態度でセルジオへ言い放った。

「お怪我をなさる前に我が隊へ御身を預けられよっ!」

ヤギンスの言葉を合図に2人の騎士が剣を手にセルジオへ歩みを進めた。

サッ!

ヤギンスは頬に一筋の風を感じた。

『なんだ?この風は・・・・』

と思った瞬間、セルジオに歩み寄った2人の騎士の首がヤギンスの足元に転がる。一瞬の出来事に呆然としたヤギンスは我に返る。

立ち尽くしている5人の騎士へヤギンスは怒鳴った。

「引けっ!」

剣先についた血を振り払うセルジオの深く青い瞳が鋭く光り、その身体からは『青白い炎』が燃え上がっている。

「この身をそなたに預けろと申すか?」

セルジオの言葉にヤギンスは背中に寒気を感じる。身体が強張こわばるのがわかる。

『これが『青き血が流れるコマンドール』か!』

ヤギンスは後ずさりながら感じた事のない恐怖を覚えた。頭の中にいにしえの伝説の騎士の言い伝えがこだまする。

『その者、青白き炎をたずさえ、剣を振るう。
剣は青き光を放ち一撃にて一団を切り裂く。
黄金に輝く髪、深く青い瞳、透き通る肌には青き血が流れる。
その名を持って国を守り、その名を持って国に安寧をもたらす』

ヤギンスは言い伝えと眼の前にいるセルジオの姿が重なり身震いをした。

セルジオは双剣の構えを見せ更に『青白き炎』を湧き立たせる。手にするサファイヤの剣が青白く光を発している。
セルジオは立ち尽くすヤギンスへ向け更に深まった青い瞳を見開いた。

「そなたらに預ける身などないっ!」

ザッザザッ!!

セルジオはヤギンスの両隣りにいる騎士へ剣を振るった。

シュシュシュッ!

同時に表扉から矢がセルジオに向かう。

カッカッカッ!

セルジオが剣でかわした矢が木の床に刺さる。
ヤギンスはセルジオを目で捕え、大声で号令をかけた。

「一斉に射よっ!」

弓隊が山小屋の中へ射程を定める。ヤギンスら6人は扉の両脇へ退いた。

シュシュシュッ!
シュシュシュッ!

カンッカンッカンッ!

カコッカコッ!

グサッ!グザッ!

かわしきることのできない矢がセルジオの右肩を貫いた。

『ぐっふっ!!・・・・この距離ではかわしきれぬかっ』

セルジオは体勢を立て直す。

「かかれっ!」

一瞬の隙も逃さぬ勢いでヤギンスが騎士へ号令する。5人の騎士は一斉にセルジオへ剣を振るった。

カンッカンッカンッ!

ザッザッ!

『流石に先鋒隊だな』

戦闘の中、セルジオは時を計っていた。

『あのまま行けばメアリらはシュバイルとサントに出会っている頃。
堤が切れるまで持つかっ!』

セルジオが山小屋へ入って直ぐに栓を抜いた油桶あぶらおけの油が足元に漂い始めていた。
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