10 / 216
第1章:前世の記憶の入口~西の砦の攻防とサファイアの剣の継承~
第9話:サファイヤの剣の継承
しおりを挟む
エリオスは隊を率いて西の砦に向かった。西の砦はセルジオ騎士団が守護するエステール伯爵領の最西に位置し、シュタイン王国の最西でもあった。
西の砦に近づくと樹木と水と土砂の混ざった独特に臭いが辺り一面に漂っていた。砦の外側は樹木がなぎ倒され、土砂とまじりあっている。
ザワッザワッ・・・・
堤を切った惨状を目にすると隊が騒めいた。
『流石に・・・だな。
三つの堤を切れば致し方あるまい・・・・』
騒めく隊にエリオスは号令する。
「皆!静まれっ!
これより我が隊はなぎ倒された樹木と土砂を一掃する。
根の残る樹木はそのままにせよ。
躯があればその場にて留め置けっ!」
エリオスは号令をかけながらセルジオの躯がない事を願っていた。
左手を胸に置く。
『月の雫よ!
どうかっ!どうかっ!セルジオ様がご無事でありますようにっ!』
西の砦の惨状を目にすれば山小屋のある西の森の状況は大方想像がつく。
それでもエリオスはセルジオが無事であることを強く願わずにはいられなかった。
エリオスの命を受け、西の森へ向かっていたシュバイルとサントは山小屋があった付近をくまなく捜索していた。
そこはまるで森がなかったかの様にクルミの樹から崖まで、何も残っていない。
山小屋があった場所も定かではない程、広々とした空間に所々残る草が水滴をつけキラキラと陽の光を反射していた。
『セルジオ様、ご無事でっ!』
シュバイルとサントは心の中で何度もセルジオに語りかけていた。
2人はクルミの樹に近づく。山小屋はクルミの大樹の近くに建てられていたからだ。
クルミの樹に近づくと幹の部分から光りが瞬いているのが見えた。シュバイルとサントは顔を見合わせる。
もしや、セルジオの金色の髪が輝いているのではと思った2人は瞬く光へ駆け寄った。
クルミの幹へ向けて小声で呼びかける。
「セルジオ様?そちらにおいでですか?」
クルミの木の中ほどの幹で光は揺れている。見るとセルジオの剣が幹にぶら下がり、鞘の金細工が陽の光を受けて瞬き揺れていた。
「これは・・・・!
セルジオ様の剣・・・・!なぜ?この様な所に!」
シュバイルは言いながら胸が詰まった。
『戻られぬのか・・・』
サントも同じ思いでいる事は明らかだった。
呆然と幹で揺れる剣を見上げるシュバイルにサントが言う。
「シュバイル、剣を幹から降ろそう。
エリオス様が隊を率いてこちらへ到着する前に
我らでセルジオ様の剣を回収し、
西の屋敷のセルジオ様のお部屋へお戻しいたそう。
エリオス様からはセルジオ様の所在は内密にと申しつかったであろう?」
「・・・・」
シュバイルはサントの声が耳に入っていないかのように幹で揺れる剣を見つめたまま微動だにしない。
サントがシュバイルの左肩に手をかけた。
「シュバイルっ!しっかりいたせっ!
セルジオ様の剣が見つかっただけだっ!
セルジオ様の躯が見つかったのではないっ!
我らの役目を忘れたかっ!
セルジオ様の安否を隊の皆に気取られぬ様にすることだぞっ!
セルジオ様のお姿がなく、セルジオ様の剣だけが見つかったのだっ!
剣から疑念が湧くことを防ぐことが今すべきことだっ!
シュバイルっ!しっかりいたせっ!」
サントはシュバイルの左肩を強く揺らした。
シュバイルは何とも言えない表情をサントへ向ける。
「・・・・サント・・・・私は・・・・」
シュバイルはうつむき、サントの右肩に左手を置くとその上に額をのせた。
シュバイルの肩は震えていた。
サントはしばらくシュバイルのさせたいように黙っていた。
シュバイルが顔を上げる。
「すまぬっ!サントっ!大事ないっ!
セルジオ様の剣を降ろし、西の屋敷へ我らの手で運ぶっ」
シュバイルはサントの策に同道した。
2人はセルジオの剣がぶら下がるクルミの幹の下でサントが両手を組み、シュバイルがその上に足をかけセルジオの剣を降ろす。
カシャンッ!
シュバイルはセルジオの剣を抱きしめた。
フルフルと身体を震わせている。
サントはシュバイルの肩に手を置き、ぽんっぽんっとなだめた。
ガサッガザッ!
ザッザッ!
クルミの樹の東側から人の気配と足音がした。
シュバイルとサントは腰の剣に手をかける。
ガザッ!
「シュバイル?サントか?ミハエルだ!」
エステール伯爵家南門より行軍していたミハエルだった。
セルジオの愛馬アリオンが戻ってきた所に出くわしたミハエルは行軍をアドルフへ任せ、独り先に西の森に向かったのだ。
「ミハエル様っ!」
シュバイルとサントは手をかけた腰の剣を離すとセルジオの剣を差し出した。
「ミハエル様・・・これに・・・」
差し出されたセルジオの剣を手に取りミハエルはシュバイルに問うた。
「お姿は?セルジオ様のお姿はあったか?」
ミハエルの問いに声も出ないシュバイルに変わりサントが答える。
「・・・・いいえ、剣のみクルミの樹の幹で揺れておりました」
「そうか・・・・解った。剣は私が預かる。
西の屋敷へ戻り次第エリオス様へお渡しする。
そなたらはエリオス様へその旨伝えてはくれぬか?」
ミハエルはセルジオの愛馬アリオンが単独で戻ってきたこと、セルジオの剣がクルミの樹の幹で発見されたことでセルジオの死を確信する。
ミハエルもまたセルジオの安否を多くの者に気取られないことが最優先事項だと考えていた。
サントが応える。
「承知致しました」
ただちに立ち去ろうとするシュバイルとサントをミハエルは呼び止めた。
「待てっ。シュバイル、サント、
今はまだセルジオ様の安否は解らぬ。
この事はエリオス様と我ら3人の知る所に留めたい。
よいかっ!」
『エリオス様直属配下の2人は口が堅い。
ここで留め置けば心配あるまい』
ミハエルは2人に口外しない旨を申しつけた。
サントが答える。
「承知しております。
エリオス様からも西の森へセルジオ様の探索へ向かう事は
我らのみ知る所と申し付かっております。ご安心ください」
ミハエルはセルジオの剣を自身の腰に装着するとセルジオ騎士団の金糸で縁取られた蒼いマントで隠した。
「頼んだぞ、我ら隊はこのまま西の砦へ向かう。
残党あらば始末をする故、ご案じ召さぬ様エリオス様へ伝えよ」
普段通りの言動を崩さぬ様にあえて強い口調で言い放ち、ミハエルは2人を見送った。
「そうか・・・見つからなんだか・・・・」
エリオスはエステール伯爵家当主フリードリヒへの報告の為、王都にほど近いエステール伯爵家居城へ独り赴いていた。
エリオスはミハエルから渡されたセルジオの剣をセルジオの実兄フリードリヒ・ド・エステール伯爵に渡す。
「エステール伯爵家の騎士に継承される剣だけ残しおって・・・
自らの身は残さなんだか・・・あれらしいな・・・・」
フリードリヒの声がかすれる。
エリオスはセルジオより2つ年長のフリードリヒと同じ年であった。
エリオスは幼少の頃から騎士訓練施設で共に育ち、7歳のセルジオが騎士団に入団した10歳からセルジオの守護の騎士として、第一隊長として仕えていた。
フリードリヒの姿に初めて会いまみえた時を思い出す。
セルジオ騎士団西の屋敷に滞在した狩りの後、人懐っこいフリードリヒに挨拶をすると手を取られ、セルジオの守護を頼まれた。
あの頃からフリードリヒがどれだけセルジオを大切に想っているかを理解していた。
フリードリヒはしばらくサファイヤの剣を眺め何かを語りかけている様だった。
エリオスは黙ってその様子を見守っていた。
フリードリヒはセルジオの兄からエステール伯爵家当主の顔に戻ると尋ねる。
「隊の皆はどうしておる?」
「はっ!今は西の砦の一掃後で落ち着いております。
スキャラル国先鋒隊と戦闘をすることなく、
せん滅できたことで安んじてはいるようです」
「セルジオのことは・・・・
セルジオの剣のみ残った事はどうなっているのだ?」
「はっ!私、ミハエル、シュバイル、サントの
4名以外はセルジオ様の安否は存じませぬ。
皆へは西の屋敷へ密かに戻り、
団長居室にて傷を癒している事になっております」
エリオスはセルジオの死を隠していた。
『青い血が流れるコマンドール』の名は国内外で轟いている。その『死』が公になれば奇襲をかけてきたスキャラル国を勢いつかせる事になりかねないと考えていたからだった。
「そうか。ではエリオス、
そなたがセルジオの影になってはくれぬか?」
フリードリヒがエリオスへ強く視線を向けた。
「影?と申しますとセルジオ様を演じよと申しますか?」
エリオスがフリードリヒを見上げながら言う。
「そうだ、その通りだ。
兼ねてよりセルジオに万が一のことあらば
後はエリオスを影にしたいと申していた。
我が第二の息子はまだ幼い。訓練施設を出て、
セルジオ騎士団へ入団し騎士叙任を迎えるまで
エリオスがセルジオとして生きてはくれぬか?」
「これはセルジオが望んだことだ。
そなたもそのこと存じておろう?
その姿をセルジオと酷似させてきたのはそのためであろう?」
フリードリヒもまたセルジオと同じ様にエリオスを信頼していた。
セルジオ騎士団の第一隊長としての役割とセルジオの影武者となる役割の為、エリオスの姿はセルジオと酷似させていた。
金色の髪の長さ、瞳の色、身に付ける物、仕草までセルジオを知る者でさえ、見紛う程であった。
エリオスはフリードリヒにかしづき呼応する。
「はっっ!
次期セルジオ騎士団団長セルジオ様が
叙任を迎えるその日まで、セルジオ様の影としての役目、
身命を賭してまっとういたします」
「エリオスっ!感謝申すぞっ!
セルジオとの約束が果たせる。
エリオス、これを」
フリードリヒは手にしていたエステール伯爵家騎士団団長へ引き継がれてきたセルジオの剣、サファイヤの剣をエリオスへ授けた。
「はっ!」
エリオスはサファイヤの剣をかしづく頭上に両手をかかげ受け取る。
胸にサファイヤの剣を抱きこむとフリードリヒにセルジオとして策を講じた。
「兄上様に申し上げます。
我が身は山小屋の炎に包まれ、
顔に火傷を負いました。
この傷を隠す為、目元に仮面を着けることをお許し下さい」
「また、エリオスの処遇でございますが、
守護の騎士としての役目不十分にて
我が身に傷をつけた罪にて一生涯その身を
エステール伯爵家西塔への幽閉致します」
「西の屋敷ではエリオスを加護する者もありましょう。
また、団長に傷を負わせる事での罰が
いかようなものとなるかの示しともなりましょう。
ご承知おき下さいっ!」
エリオスのセルジオの影となる覚悟だった。
セルジオとして生きるにはエリオス自身を消し去らなければならない。その手段として『万が一』に備えての策であった。
フリードリヒはかすれる声で呼応する。
「エリオスよ・・・・
いや、セルジオっ!あいわかったっ!
そなたの思う通りにいたせ」
エリオスは顔を上げる。
フリードリヒの頬を涙がつたっていた。
エリオスは優しい微笑みを向ける。
「兄上様っ!感謝申します。
これより西の屋敷へ戻り万端整えます」
エリオスは立ち上がるとサファイヤの剣を腰へおさめた。
深々とフリードリヒに頭を下げると部屋を後にした。
エリオスは左胸に手を置き、心の中でセルジオに向けて言葉を贈った。
『セルジオ様・・・万が一になってしました。
それでも、私はっ!私はっ!
セルジオ様の愛しまれたセルジオ騎士団を
シュタイン王国を身命を賭してお守り致します。
天より見守って下さいっ!』
胸に下がる月の雫の首飾りと腰につけるサファイヤの剣が呼応しているように感じるのだった。
西の砦に近づくと樹木と水と土砂の混ざった独特に臭いが辺り一面に漂っていた。砦の外側は樹木がなぎ倒され、土砂とまじりあっている。
ザワッザワッ・・・・
堤を切った惨状を目にすると隊が騒めいた。
『流石に・・・だな。
三つの堤を切れば致し方あるまい・・・・』
騒めく隊にエリオスは号令する。
「皆!静まれっ!
これより我が隊はなぎ倒された樹木と土砂を一掃する。
根の残る樹木はそのままにせよ。
躯があればその場にて留め置けっ!」
エリオスは号令をかけながらセルジオの躯がない事を願っていた。
左手を胸に置く。
『月の雫よ!
どうかっ!どうかっ!セルジオ様がご無事でありますようにっ!』
西の砦の惨状を目にすれば山小屋のある西の森の状況は大方想像がつく。
それでもエリオスはセルジオが無事であることを強く願わずにはいられなかった。
エリオスの命を受け、西の森へ向かっていたシュバイルとサントは山小屋があった付近をくまなく捜索していた。
そこはまるで森がなかったかの様にクルミの樹から崖まで、何も残っていない。
山小屋があった場所も定かではない程、広々とした空間に所々残る草が水滴をつけキラキラと陽の光を反射していた。
『セルジオ様、ご無事でっ!』
シュバイルとサントは心の中で何度もセルジオに語りかけていた。
2人はクルミの樹に近づく。山小屋はクルミの大樹の近くに建てられていたからだ。
クルミの樹に近づくと幹の部分から光りが瞬いているのが見えた。シュバイルとサントは顔を見合わせる。
もしや、セルジオの金色の髪が輝いているのではと思った2人は瞬く光へ駆け寄った。
クルミの幹へ向けて小声で呼びかける。
「セルジオ様?そちらにおいでですか?」
クルミの木の中ほどの幹で光は揺れている。見るとセルジオの剣が幹にぶら下がり、鞘の金細工が陽の光を受けて瞬き揺れていた。
「これは・・・・!
セルジオ様の剣・・・・!なぜ?この様な所に!」
シュバイルは言いながら胸が詰まった。
『戻られぬのか・・・』
サントも同じ思いでいる事は明らかだった。
呆然と幹で揺れる剣を見上げるシュバイルにサントが言う。
「シュバイル、剣を幹から降ろそう。
エリオス様が隊を率いてこちらへ到着する前に
我らでセルジオ様の剣を回収し、
西の屋敷のセルジオ様のお部屋へお戻しいたそう。
エリオス様からはセルジオ様の所在は内密にと申しつかったであろう?」
「・・・・」
シュバイルはサントの声が耳に入っていないかのように幹で揺れる剣を見つめたまま微動だにしない。
サントがシュバイルの左肩に手をかけた。
「シュバイルっ!しっかりいたせっ!
セルジオ様の剣が見つかっただけだっ!
セルジオ様の躯が見つかったのではないっ!
我らの役目を忘れたかっ!
セルジオ様の安否を隊の皆に気取られぬ様にすることだぞっ!
セルジオ様のお姿がなく、セルジオ様の剣だけが見つかったのだっ!
剣から疑念が湧くことを防ぐことが今すべきことだっ!
シュバイルっ!しっかりいたせっ!」
サントはシュバイルの左肩を強く揺らした。
シュバイルは何とも言えない表情をサントへ向ける。
「・・・・サント・・・・私は・・・・」
シュバイルはうつむき、サントの右肩に左手を置くとその上に額をのせた。
シュバイルの肩は震えていた。
サントはしばらくシュバイルのさせたいように黙っていた。
シュバイルが顔を上げる。
「すまぬっ!サントっ!大事ないっ!
セルジオ様の剣を降ろし、西の屋敷へ我らの手で運ぶっ」
シュバイルはサントの策に同道した。
2人はセルジオの剣がぶら下がるクルミの幹の下でサントが両手を組み、シュバイルがその上に足をかけセルジオの剣を降ろす。
カシャンッ!
シュバイルはセルジオの剣を抱きしめた。
フルフルと身体を震わせている。
サントはシュバイルの肩に手を置き、ぽんっぽんっとなだめた。
ガサッガザッ!
ザッザッ!
クルミの樹の東側から人の気配と足音がした。
シュバイルとサントは腰の剣に手をかける。
ガザッ!
「シュバイル?サントか?ミハエルだ!」
エステール伯爵家南門より行軍していたミハエルだった。
セルジオの愛馬アリオンが戻ってきた所に出くわしたミハエルは行軍をアドルフへ任せ、独り先に西の森に向かったのだ。
「ミハエル様っ!」
シュバイルとサントは手をかけた腰の剣を離すとセルジオの剣を差し出した。
「ミハエル様・・・これに・・・」
差し出されたセルジオの剣を手に取りミハエルはシュバイルに問うた。
「お姿は?セルジオ様のお姿はあったか?」
ミハエルの問いに声も出ないシュバイルに変わりサントが答える。
「・・・・いいえ、剣のみクルミの樹の幹で揺れておりました」
「そうか・・・・解った。剣は私が預かる。
西の屋敷へ戻り次第エリオス様へお渡しする。
そなたらはエリオス様へその旨伝えてはくれぬか?」
ミハエルはセルジオの愛馬アリオンが単独で戻ってきたこと、セルジオの剣がクルミの樹の幹で発見されたことでセルジオの死を確信する。
ミハエルもまたセルジオの安否を多くの者に気取られないことが最優先事項だと考えていた。
サントが応える。
「承知致しました」
ただちに立ち去ろうとするシュバイルとサントをミハエルは呼び止めた。
「待てっ。シュバイル、サント、
今はまだセルジオ様の安否は解らぬ。
この事はエリオス様と我ら3人の知る所に留めたい。
よいかっ!」
『エリオス様直属配下の2人は口が堅い。
ここで留め置けば心配あるまい』
ミハエルは2人に口外しない旨を申しつけた。
サントが答える。
「承知しております。
エリオス様からも西の森へセルジオ様の探索へ向かう事は
我らのみ知る所と申し付かっております。ご安心ください」
ミハエルはセルジオの剣を自身の腰に装着するとセルジオ騎士団の金糸で縁取られた蒼いマントで隠した。
「頼んだぞ、我ら隊はこのまま西の砦へ向かう。
残党あらば始末をする故、ご案じ召さぬ様エリオス様へ伝えよ」
普段通りの言動を崩さぬ様にあえて強い口調で言い放ち、ミハエルは2人を見送った。
「そうか・・・見つからなんだか・・・・」
エリオスはエステール伯爵家当主フリードリヒへの報告の為、王都にほど近いエステール伯爵家居城へ独り赴いていた。
エリオスはミハエルから渡されたセルジオの剣をセルジオの実兄フリードリヒ・ド・エステール伯爵に渡す。
「エステール伯爵家の騎士に継承される剣だけ残しおって・・・
自らの身は残さなんだか・・・あれらしいな・・・・」
フリードリヒの声がかすれる。
エリオスはセルジオより2つ年長のフリードリヒと同じ年であった。
エリオスは幼少の頃から騎士訓練施設で共に育ち、7歳のセルジオが騎士団に入団した10歳からセルジオの守護の騎士として、第一隊長として仕えていた。
フリードリヒの姿に初めて会いまみえた時を思い出す。
セルジオ騎士団西の屋敷に滞在した狩りの後、人懐っこいフリードリヒに挨拶をすると手を取られ、セルジオの守護を頼まれた。
あの頃からフリードリヒがどれだけセルジオを大切に想っているかを理解していた。
フリードリヒはしばらくサファイヤの剣を眺め何かを語りかけている様だった。
エリオスは黙ってその様子を見守っていた。
フリードリヒはセルジオの兄からエステール伯爵家当主の顔に戻ると尋ねる。
「隊の皆はどうしておる?」
「はっ!今は西の砦の一掃後で落ち着いております。
スキャラル国先鋒隊と戦闘をすることなく、
せん滅できたことで安んじてはいるようです」
「セルジオのことは・・・・
セルジオの剣のみ残った事はどうなっているのだ?」
「はっ!私、ミハエル、シュバイル、サントの
4名以外はセルジオ様の安否は存じませぬ。
皆へは西の屋敷へ密かに戻り、
団長居室にて傷を癒している事になっております」
エリオスはセルジオの死を隠していた。
『青い血が流れるコマンドール』の名は国内外で轟いている。その『死』が公になれば奇襲をかけてきたスキャラル国を勢いつかせる事になりかねないと考えていたからだった。
「そうか。ではエリオス、
そなたがセルジオの影になってはくれぬか?」
フリードリヒがエリオスへ強く視線を向けた。
「影?と申しますとセルジオ様を演じよと申しますか?」
エリオスがフリードリヒを見上げながら言う。
「そうだ、その通りだ。
兼ねてよりセルジオに万が一のことあらば
後はエリオスを影にしたいと申していた。
我が第二の息子はまだ幼い。訓練施設を出て、
セルジオ騎士団へ入団し騎士叙任を迎えるまで
エリオスがセルジオとして生きてはくれぬか?」
「これはセルジオが望んだことだ。
そなたもそのこと存じておろう?
その姿をセルジオと酷似させてきたのはそのためであろう?」
フリードリヒもまたセルジオと同じ様にエリオスを信頼していた。
セルジオ騎士団の第一隊長としての役割とセルジオの影武者となる役割の為、エリオスの姿はセルジオと酷似させていた。
金色の髪の長さ、瞳の色、身に付ける物、仕草までセルジオを知る者でさえ、見紛う程であった。
エリオスはフリードリヒにかしづき呼応する。
「はっっ!
次期セルジオ騎士団団長セルジオ様が
叙任を迎えるその日まで、セルジオ様の影としての役目、
身命を賭してまっとういたします」
「エリオスっ!感謝申すぞっ!
セルジオとの約束が果たせる。
エリオス、これを」
フリードリヒは手にしていたエステール伯爵家騎士団団長へ引き継がれてきたセルジオの剣、サファイヤの剣をエリオスへ授けた。
「はっ!」
エリオスはサファイヤの剣をかしづく頭上に両手をかかげ受け取る。
胸にサファイヤの剣を抱きこむとフリードリヒにセルジオとして策を講じた。
「兄上様に申し上げます。
我が身は山小屋の炎に包まれ、
顔に火傷を負いました。
この傷を隠す為、目元に仮面を着けることをお許し下さい」
「また、エリオスの処遇でございますが、
守護の騎士としての役目不十分にて
我が身に傷をつけた罪にて一生涯その身を
エステール伯爵家西塔への幽閉致します」
「西の屋敷ではエリオスを加護する者もありましょう。
また、団長に傷を負わせる事での罰が
いかようなものとなるかの示しともなりましょう。
ご承知おき下さいっ!」
エリオスのセルジオの影となる覚悟だった。
セルジオとして生きるにはエリオス自身を消し去らなければならない。その手段として『万が一』に備えての策であった。
フリードリヒはかすれる声で呼応する。
「エリオスよ・・・・
いや、セルジオっ!あいわかったっ!
そなたの思う通りにいたせ」
エリオスは顔を上げる。
フリードリヒの頬を涙がつたっていた。
エリオスは優しい微笑みを向ける。
「兄上様っ!感謝申します。
これより西の屋敷へ戻り万端整えます」
エリオスは立ち上がるとサファイヤの剣を腰へおさめた。
深々とフリードリヒに頭を下げると部屋を後にした。
エリオスは左胸に手を置き、心の中でセルジオに向けて言葉を贈った。
『セルジオ様・・・万が一になってしました。
それでも、私はっ!私はっ!
セルジオ様の愛しまれたセルジオ騎士団を
シュタイン王国を身命を賭してお守り致します。
天より見守って下さいっ!』
胸に下がる月の雫の首飾りと腰につけるサファイヤの剣が呼応しているように感じるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる