とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~

第27話 インシデント24:騎士団団長との対面

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エステール伯爵家セルジオ騎士団団長居室前に一行は到着した。
先導していた第一隊長ジグランが居室扉を叩く。

トンットンットンッ

「入れっ!」

居室扉の向こうからどっしりとした声が聞えた。

バコンッ!

居室扉が両側へ開いた。
ジグランが歩みを進める。

「セルジオ様!ただ今、サフェス湖湖畔より戻りましてございます」

ジグランはセルジオ騎士団団長居室へ入ると居室中央でかしづき戻りの一報を入れた。その後をバルド、エリオス、オスカーが続き、ジグランの後ろでかしづく。

「よう戻った。ジグラン・・・!
バルド!それにオスカーではないか!久しいの!」

騎士団団長は長椅子から立ち上がり、バルドとオスカーに微笑みを向ける。

「お久しゅうございます!セルジオ様!
この度はジグラン様にお助け頂きました事、感謝申します」

バルドとオスカーはかしづいたまま挨拶する。

「なに、私が向かった時には既に事は終わっておりました」

ジグランは嬉しそうにかつての配下らを称賛しょうさんした。

「ほう、2人とも腕はなまってはおらなんだか!」

「それ以上にございます。
こやつらときたら剣と短剣でまみえた挙句あげく
3人のマディラの刺客を始末しておりました。
到着した時にはサフェス湖湖畔にてセルジオ様とエリオス殿を介抱かいほうしておりました」

「そうか!
しかし、因縁の対決もこれで仕舞しまいになるとよいのだがな・・・・
マディラは・・・永い因縁だからな。そう易々やすやすとはいかぬであろうな」

騎士団団長は思案気しあんげにバルドへ視線を向ける。

「バルド!そなたのあるじはいずこにおるのだ。
姿が見えぬ様だが・・・・うむ?そのふところは・・・」

「はっ!左様にございます」

バルドは肩から括り付けているセルジオを下し、マントを開くとセルジオの顔を見せた。

「ほう・・・・この者が伝説の騎士『青き血が流れるコマンドール』か!」

騎士団団長はセルジオの姿をまじまじと視る。

「ジグラン、そなたどう視る?初代の生まれ変わりと思うか?
眼を閉じている故、瞳の色は解らぬが・・・・」

「はっ!瞳の色は深く濃い青色にございます。
戦いになりますとその御身から『青白き炎』を湧き立たせられます」

バルドが付け加える。

「ふむ。伝説の騎士そのものですな・・・・」

ジグランが言う。

「このたびのマディラの刺客との戦闘せんとう
セルジオ様とエリオス様のお働きにて難を逃れました」

バルドは事の次第を騎士団団長とジグランにありのまま伝えた。

ジグランは驚き感嘆かんたんの声を上げた。

「なんとっ!それで気を失っておいでなのかっ!
恐ろしさで正気を失ったと思っていたぞ」

バルドは騎士団団長へ懇願こんがんする様な目を向け願い出た。

「セルジオ様っ!お願いがございます。我が主は身体中に傷を負っております。
傷がえるまで、いえ、お目ざめになるまで、
こちらにて部屋をお借りできませんでしょうか?」

「その旨、既に準備はできておるぞ」

背後から聞覚えのある声がする。

「ポルデュラ様っっ!」

バルドとオスカーは顔を見合わせる。

「使い魔を同行させると申したであろう?ベアトレスも来ておる。
まぁ、団長はハインリヒ様の手前もあろうかと思うてな、
ジグラン様の部屋を一室借りておる」

「エリオス様の治療もいたそう程に。
セルジオ様の傷よりエリオス様の『心の傷』の方が深手ふかでを負っておる。
オスカー、よく正気でエリオス様をここまで連れられたな。
大した者だ。バルドとオスカーには驚かされる事ばかりじゃ」

ポルデュラは嬉しそうに2人へ微笑みを向けた。

騎士団団長はオスカーの左斜め前でかしづくエリオスへ目を向ける。

「エリオス殿、よう我が姪のめいこたえてくれた。
礼を申すぞ。同行者がそなたでなければ今頃は、ここに4体の躯が並ぶ所であったわ」

団長の言葉に第一隊長ジグランがすかさず反論した。

「そうはなりますまい!バルドとオスカーですぞ!セルジオ様。
我が配下の者ですぞ。第一隊長ジグランに仕えた者が易々やすやす
刺客ごときにやられる事はございますまい!のう、バルド、オスカー」

団長はやれやれと言った仕草をする。

「いやいや、これは悪かった。物の例えの話だ。
わかっているぞ。わかっている!
ジグラン配下の者達は皆、セルジオ騎士団きっての強者つわものぞろいであった!
失礼をした」

騎士団団長はわははっと高らかに笑った。

第一隊長ジグランは当然と言わんばかりの顔を団長へ向けると自身のおいであるエリオスへ顔を向けた。

「お解り頂ければ・・・・されど危うい所であったな。
エリオス殿、我が甥として鼻が高いぞ」

ジグランはにっこり笑うと身体の震えが止まらず、かしづくエリオスの頭をなでた。
団長へ向き直りエリオスを紹介する。

「話に夢中になり、失礼を致しました。
セルジオ様、我が甥のエリオス・ド・ローライドにございます。
お見知りおきを下さいませ」

「来年には入団にございます。
先程、バルドとオスカーには引続き騎士団にて
護衛ごえいと教育係の件、申し伝えてあります。
さっ、エリオス殿、セルジオ騎士団団長へご挨拶できますかな?」

ジグランがエリオスに挨拶をうながす。
エリオスは震える手をぐっと握ると一歩前へ出る。騎士団団長の前にかしずいた。

「お初にお目にかかります。
ローライド准男爵家第二子、エリオス・ド・ローライドにございます。
この度はご尊顔そんがんを拝します事、この上なき喜びにて感謝申します」

エリオスは全身が小刻みに震えながらも騎士の挨拶をした。

「ほう。立派な挨拶だ。エリオス殿・・・・
ようまいられた。今一度感謝申すぞ。我が姪に力添えを感謝申す」

騎士団団長はエリオスの挨拶に返答すると満面の笑みをオスカーへ向けた。

「オスカーよ。なつかしいのう。
そなたが丁度、今のエリオス殿より2つ程年長の時であったな。
丁度、この場所にて・・・姿が重なるな」

騎士団団長は嬉しそうに目を閉じ、思いをせた。

オスカーが呼応する。

「はっ!あの時より私は生まれ変わりましてございます。
新たないのちを団長より頂き、これよりも
身命しんめいして我が主にお仕え致します」

オスカーは騎士団団長へかしづいた。

一通りの挨拶が終わった事を見て取るとポルデュラが手当の催促をする。

「さっ、挨拶も終わったようだの。そろそろ参ろうかの。
エリオス様は限界だぞ。直ぐに手当をほどこす!
他の話はその後でよいかの。セルジオ様、ジグラン様」

ジグランはポルデュラを待たせていたことにはっとし呼応する。

「はっ!ポルデュラ様。お待たせを致しました」

ポルデュラはうなずくとバルドとオスカーへ指示を出す。

「そうか。では参ろう。
バルド、オスカー、セルジオ様とエリオス様を連れてまいれ」

「はっ!承知致しました」

バルドとオスカーは団長とジグランに頭を下げるとポルデュラの後に続き騎士団団長の居室を退しりぞいた。

バタンッ!

一行が部屋を出るのを見届けると騎士団団長はジグランへ向き直る。

「ジグラン、そなたどう思う?我が兄上ハインリヒ様はこのこと・・・・
マディラの刺客の始末を快くは思わぬであろうな」

騎士団団長は思案気に左手であごを触る。

「左様にございますな。
早々にバルドをエステール伯爵家へ向かわせましょう。
事の次第の報告をさせねばなりますまい。
仕掛けてきたのはマデュラであって、当方は身を守ったまでのことと・・・・」

「そうだな。それが一番よいな。我らが仲に入るより・・・・
まぁ、いざという時は私がセルジオのたてとなろうぞ」

「あの者、正真正銘しょうしんしょうめい、初代の生まれ変わりだ!
年端としはもいかず4歳手前であったか?
バルドとオスカーがいたとはいえ・・・・
刺客が子供とあなどったとしてもだ、
3人の刺客を始末まで・・・・手助けができようとは・・・・」

「両目を短剣で貫く等、伝説の騎士でもなければできはすまい。
兄上もその事解っておいでだからこそ、案じているのだ。
兄上と我らとでは守る者も守る事も異なれば致し方あるまい」

「左様にございますな。致し方ありませんな。
光と影、正と悪、福とわざわい等、いつの世であっても表裏一体ひょうりいったいにて。
過ぎればいかようにも逆転致します・・・・」

ジグランは一行が出ていった扉を見つめ呟く様にセルジオ騎士団団長へ呼応するのだった。
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