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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第8話 北の森の番人
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オスカーはマントにくるみ抱える2人の体温が徐々に上がってくるのを感じていた。
『これならば熱を出される事はあるまい』
ホッとしているとセルジオがマントの中からひょっこりと顔を出した。
「オスカー、エリオスが眠ってしまった・・・・」
エリオスを起こさない様にオスカーへ小声で伝える。
「今朝は、日の出前に起きられましたから
暖かくなり眠ってしまわれたのですね。
セルジオ様もバルド殿が戻られるまで、お休み下さい」
マントから出たセルジオの頬をそっと触る。氷の様に冷え切っていた頬は暖かさを取り戻していた。
「オスカー、
私は眠れないのだ。夜も眠れぬ。
まして日がある時は眠たくなることもないのだ・・・・」
他者と比べることを覚えたセルジオは時折哀し気な表情を見せる。
「左様にございましたね。
では、バルド殿が戻られるまで・・・・
これから向かいます北の森の番人の話しを致しましょう」
ファサッ
オスカーはマントから顔を覗かせるセルジオの身体がマントから出ない様に抱き直す。
「!!!北の森には番人がいるのか!オスカー、聞きたい!話してくれ!」
セルジオは目を輝かせた。
「承知致しました。
バルド殿が戻られるまででございますが、よろしいですか?」
「わかった。頼む!」
オスカーはセルジオへ優しい微笑みを向けるとバルドが駆けていった北の森の入口へ目をやると話し始めた。
エステール伯爵家領内、直轄管理地の一つ北の森。ラドフォール公爵家領シュピリトゥスの森とエステール伯爵領外の城壁で隔たれた地続きの森だ。
エルテール伯爵家領の北側を囲む外の城壁はサフェス湖から王都へ水を引き込む水路となっている。城壁最上部を水が通り王都までの各准男爵家管理地への水の供給も兼ねていた。
ラドフォール公爵家の西側に位置するエステール伯爵領との境は通常ある城壁は構えていない。シュピリトゥスの森自体が城壁の役目を担っていたからだった。
ラドフォール公爵領、西方に位置するシュピリトゥスの森への入口がエステール伯爵家領北の森の最奥に位置する北門になる。
北の森の木材はエステール伯爵家領の薪や木炭などの燃料全てを賄う重要管理地であった。
その為、内紛や奪い合いが起こる火種とならないようエステール伯爵家の直轄管理としていた。
セルジオ騎士団城塞西の屋敷と通じる西の砦、西の森を直轄管理地としていたのも同様の理由からだった。
西の森は騎士団城塞西の屋敷にほど近いためセルジオ騎士団が西の砦と合わせて管理も担っている。
北の森は西の森のおよそ3倍の広さがあり、『番人』と呼ばれる木こりと炭焼きを担う2家族が管理をしていた。
オスカーはエステール伯爵家の所領と直轄管理の理由、北の森の恵みと恵みから生まれる産業の話をセルジオへ聞かせていた。
「北の森も西の森と同様に恵み多き森にございます。
木材を切り出し、薪や木炭などの燃料になります。
燃料の他にも柵や家具、車輪や船などの材料にもなります」
「セルジオ様も西の屋敷の食堂棟や調理場の
大きなテーブルや厩舎の柵をご覧になられたでしょう?
エステール伯爵領で使われております木材のほとんどが
北の森から切り出されたものにございます」
「その様に木材を切り出す役目を担っておりますのが
『木こり』ヴァルディ一家、『木の番人』でございます」
「薪を加工し木炭にする役目を担っておりますのが
『炭焼き』ヴィリー一家、『炭の番人』でございます。
木の番人と炭の番人を『北の森の番人』と呼んでおります」
ここまで話すとオスカーは再び北の森の入口へ目をやった。バルドの姿がない事を見てとるとマントからひょっこりと出ているセルジオの顔をみる。
セルジオは目を輝かせオスカーの話を聴いていた。その姿にニコリと微笑むとオスカーは再び話しを続けた。
「北の森の番人の役目は木こりと炭焼きの担い手でありますが、
同時に北門の開閉ができる門番でもあります」
「ヴァルディの妻ユリカとヴィリーの妻トラウテが北門の門番です」
「北門は通常の門の扉とは異なり、
シュピリトゥスの森の木枝がそのまま扉となります。
扉も鍵も蝶番もございません」
「ユリカとトラウテが唱える呪文のみが
北門を開くことができる鍵となります」
オスカーは驚くセルジオの顔を見る。
「セルジオ様、驚かれましたか?」
「少し驚いた。
ポルデュラ様から北門の鍵は呪文だと聴いていたが、
呪文を唱えるのは魔導士ではないのだな。
魔導士でなければ呪文は唱えられぬものだと思っていた」
「左様にございますね。
森の番人は精霊の声を聴く者。
魔導士ではございませんから魔術は使えません。
されど精霊の声を聴き、妖精と話し、森を守っております」
「伐採する樹木も精霊が教えてくれるそうです。
そして、森の生き物が増えすぎず、減り過ぎず、
頃合いを保つために1年に1度『巻狩り』を行います」
「巻狩りは、精霊から許された時、
狩場で獲物となる森の住まう動物を囲い込み
四方から追いつめ射止める騎士団の訓練としての
催しでもありますが、神聖な森の祭典の一つでもあります」
「巻狩りを取り仕切る者も北門の門番ユリカとトラウテです。
そうして精霊と約束した森の理守る事で
森は我らに恵みをもたらしてくれるのです」
オスカーは優しく微笑む。セルジオはオスカーの微笑む顔が好きだった。バルドの微笑みは強さを感じる。オスカーの微笑みは暖かさを感じると思っていた。オスカーの微笑む顔を深く青い瞳でじっと見つめるとセルジオは感じたままを無意識の内に口にしていた。
「・・・・エリオスの微笑みはオスカーの微笑みと似ている。
胸がじんわりと暖かくなる・・・・!!
すまぬ、話と関係ない事を口にした!オスカーすまぬ!」
オスカーが話す北の森のことと何ら関係のないことを口走りセルジオは慌てる。
「いいえ、構いません。嬉しゅうございます。
そうですか、エリオス様の微笑みは私と似ていますか」
オスカーは優しくセルジオに答えた。
「うむ。よく似ている。オスカー、すまぬ。話しを続けてくれ!」
セルジオはバツが悪そうにオスカーのマントの中で両肩を少し上げてみせた。
オスカーは話しを続けようと先程まで話していた内容を思い返す。
「承知しました。森の恵みまでお話しました。
次は番人の子供達の話を・・・・」
ヒィヒィィィン!
馬の嘶きが聞えた。
バルドが戻ってきたのだ。
セルジオとオスカーは顔を見合わせる。
「セルジオ様・・・・バルド殿が戻ってまいりました。
北の森の番人の子供らはこれよりお会いできるかと存じます。
話はここまでと致しましょ。エリオス様を起こして下さいませ」
「そうか。オスカー、
北の森の話を聴かせてくれ感謝申す。また、ひとつ学べた」
セルジオは嬉しそうにオスカーへ微笑んだ。
「セルジオ様、今もまた微笑まれました。ようございました。
自然に感じられたままを表に出すことができるようにおなりですね」
セルジオはオスカーの言葉に目を輝かせ眠っているエリオスを両手で揺さぶった。
「そうか!オスカー、感謝申す。
エリオス!エリオス!起きてくれ!私はまた微笑みむことができたぞ!」
エリオスの手を取り何度も揺さぶる。
「うっ!・・・・私は眠っておりましたか・・・・」
エリオスは目をこすりふらふらと立ち上がった。
「そうなのだ。エリオスは眠ってしまったのだ。
その間にオスカーに北の森の番人の話を聴いていたのだ。
そして、私はまた微笑んだのだぞ」
セルジオは目覚めたばかりのエリオスに息せき切って話しをした。
「さっ・・・・左様にございましたか!
セルジオ様、眠ってしまい申し訳ありません」
エリオスはぎこちなく答える。
「・・・・大事ない。すまぬ・・・・
少し胸が熱くなったのだ。起き抜けにすまぬ」
セルジオは拳を握る。
『まただ・・・・一方向だけに、己のことだけになってしまった・・・・
微笑むことができたことだけになってしまった・・・・』
フワッ
独り反省しているとオスカーがそっとセルジオを抱き寄せた。
「セルジオ様、よろしいのです。今のあり様でよろしいのです。
セルジオ様が感じられたことをそのまま表に出される事が
今のお役目にございます。
我らはその様なセルジオ様のお姿を多く拝見したいのです。
ご存分に表に出されませ」
セルジオはオスカーの言葉に握った拳をほどく。
「わかった。オスカー感謝申す。
己のことが己でどうしてよいかわからなくなるのだ。感謝申す」
セルジオはオスカーの右肩に顔をうずめた。
「そうです。その様になさればよいのです。
さっ、セルジオ様、バルド殿が戻られました」
オスカーはセルジオを自身のマントから出すとバルドが向かってくる方へ身体を向けさせた。
パカッ!パカッ!
カツッカツッ!
「どうっ、どうっ」
ブルルルッゥゥ・・・・
バルドは馬をとめると馬上よりヒラリと下りセルジオへ歩み寄った。
「オスカー殿、感謝申します。
やはり、ヴァルディの息子ロルフとヴィリーの娘ウーシーでした。
北門まで案内してくれるそうです。
北の森の街道が落ち葉で埋まり行く手が解らなくなるだろうとの気づかいでした」
「少し、街道を進んでみましたが、
我らだけでは方向すらわからなくなります。
いや、オットー殿に礼を申さねばなりますまい」
バルドは視てきた様子をオスカーへ伝える。
「それと、ポルデュラ様が道案内をしてくれる様にと
カイに文を持たせて下さったそうです。
ポルデュラ様特製のバラの茶が一緒に届いたと
ヴァルディが恐縮していたとのことでした」
「いやいや、ヴァルディの息子ロルフは騎士団でも
充分に役目を果たせる逸材でした。
『銀のオオカミ』と呼び名がつくのも頷けます」
バルドは珍しく少し興奮気味に一気に話した。
「左様でしたか。これより会うのが楽しみです。
ロルフはオオカミと言葉を交わすことができると聞き及んでおります。
ウーシーはラドフォール領シュピリトゥスの森の声も聞こえるそうです。
その姿が森に溶け込み見えなくなる不思議な力を持っているとか・・・・
ウーシーはいかがでしたか?」
オスカーはエリオスを馬に跨らせながらバルドの話に呼応した。
「それが・・・・ウーシーの姿が見えなかったのです。
ロルフからは北門までの道を我らが通ることを
北の森の精霊に許しを得るために先に行き、道を整えていると言われました」
「それで合点がいきました。
ポルデュラ様からの文の道案内は北の森の精霊への
許しにございますね。さすがは北の森の番人です」
オスカーは自身も馬に跨り、エリオスとの身体を革のベルトで固定した。
「なるほど!北の森の精霊への許しでしたか。
我らだけでは北の森を通り北門までは行きつけませんでしたね」
バルドはオスカーとの話の先が見えてくるとセルジオを抱き上げた。
「セルジオ様、寒くはございませんでしたか?」
そのまま馬に跨らせる。
「大事ない。オスカーがマントの中に入れてくれたのだ。
バルドと同じくらい暖かかった・・・・バルド!!」
「はい、どうなさいましたか?」
いつになく力強い声音でセルジオはバルドの名を呼んだ。
「・・・・バルド!!
北の森の番人の話をオスカーから聞いていたのだ。
子供らの話になった所でバルドが戻ってきた。
今の話で益々会うのが楽しみとなったぞ!」
嬉しそうに馬上で姿勢を正す。
「左様にございましたか。それはよろしゅうございました。
セルジオ様、エリオス様は訓練施設と騎士団におります子ら以外と
お会いになるのは初めてですね。
話しをする時はございませんが、2人の様子をじっくりとご覧下さい。
騎士や従士とは異なる気を感じ取ることができます」
カチャリッ
バルドはセルジオとの身体を革のベルトで固定した。
「オスカー殿、ご準備よろしいですか?」
「はい、準備整いました」
「では、セルジオ様、北の森の番人に会いにいきますぞ!ハァッ!」
バルドはたった今、戻ってきた道を北の森入口に向けて馬を駆けさせた。
「ハァッ!!」
オスカーが後に続く。
パカラッ!パカラッ!
パカラッ!パカラッ!
セルジオは胸に高鳴りを感じていた。
『なんだ?この胸が熱く感じるのは・・・・
北の森の番人に会うからなのか?
己のことが己でわからないとは・・・・これでよいのだろうか・・・・』
馬上で冷たい風を受けながら北の森入口へ目をやる。
北の森の入口の奥から緑色の光が波紋の様に広がっているのが見えた。
『北の森の番人・・・・緑色の光を放つのか?』
緑色の光は森の入口に近づくにつれ、その輝きを増していた。
『これならば熱を出される事はあるまい』
ホッとしているとセルジオがマントの中からひょっこりと顔を出した。
「オスカー、エリオスが眠ってしまった・・・・」
エリオスを起こさない様にオスカーへ小声で伝える。
「今朝は、日の出前に起きられましたから
暖かくなり眠ってしまわれたのですね。
セルジオ様もバルド殿が戻られるまで、お休み下さい」
マントから出たセルジオの頬をそっと触る。氷の様に冷え切っていた頬は暖かさを取り戻していた。
「オスカー、
私は眠れないのだ。夜も眠れぬ。
まして日がある時は眠たくなることもないのだ・・・・」
他者と比べることを覚えたセルジオは時折哀し気な表情を見せる。
「左様にございましたね。
では、バルド殿が戻られるまで・・・・
これから向かいます北の森の番人の話しを致しましょう」
ファサッ
オスカーはマントから顔を覗かせるセルジオの身体がマントから出ない様に抱き直す。
「!!!北の森には番人がいるのか!オスカー、聞きたい!話してくれ!」
セルジオは目を輝かせた。
「承知致しました。
バルド殿が戻られるまででございますが、よろしいですか?」
「わかった。頼む!」
オスカーはセルジオへ優しい微笑みを向けるとバルドが駆けていった北の森の入口へ目をやると話し始めた。
エステール伯爵家領内、直轄管理地の一つ北の森。ラドフォール公爵家領シュピリトゥスの森とエステール伯爵領外の城壁で隔たれた地続きの森だ。
エルテール伯爵家領の北側を囲む外の城壁はサフェス湖から王都へ水を引き込む水路となっている。城壁最上部を水が通り王都までの各准男爵家管理地への水の供給も兼ねていた。
ラドフォール公爵家の西側に位置するエステール伯爵領との境は通常ある城壁は構えていない。シュピリトゥスの森自体が城壁の役目を担っていたからだった。
ラドフォール公爵領、西方に位置するシュピリトゥスの森への入口がエステール伯爵家領北の森の最奥に位置する北門になる。
北の森の木材はエステール伯爵家領の薪や木炭などの燃料全てを賄う重要管理地であった。
その為、内紛や奪い合いが起こる火種とならないようエステール伯爵家の直轄管理としていた。
セルジオ騎士団城塞西の屋敷と通じる西の砦、西の森を直轄管理地としていたのも同様の理由からだった。
西の森は騎士団城塞西の屋敷にほど近いためセルジオ騎士団が西の砦と合わせて管理も担っている。
北の森は西の森のおよそ3倍の広さがあり、『番人』と呼ばれる木こりと炭焼きを担う2家族が管理をしていた。
オスカーはエステール伯爵家の所領と直轄管理の理由、北の森の恵みと恵みから生まれる産業の話をセルジオへ聞かせていた。
「北の森も西の森と同様に恵み多き森にございます。
木材を切り出し、薪や木炭などの燃料になります。
燃料の他にも柵や家具、車輪や船などの材料にもなります」
「セルジオ様も西の屋敷の食堂棟や調理場の
大きなテーブルや厩舎の柵をご覧になられたでしょう?
エステール伯爵領で使われております木材のほとんどが
北の森から切り出されたものにございます」
「その様に木材を切り出す役目を担っておりますのが
『木こり』ヴァルディ一家、『木の番人』でございます」
「薪を加工し木炭にする役目を担っておりますのが
『炭焼き』ヴィリー一家、『炭の番人』でございます。
木の番人と炭の番人を『北の森の番人』と呼んでおります」
ここまで話すとオスカーは再び北の森の入口へ目をやった。バルドの姿がない事を見てとるとマントからひょっこりと出ているセルジオの顔をみる。
セルジオは目を輝かせオスカーの話を聴いていた。その姿にニコリと微笑むとオスカーは再び話しを続けた。
「北の森の番人の役目は木こりと炭焼きの担い手でありますが、
同時に北門の開閉ができる門番でもあります」
「ヴァルディの妻ユリカとヴィリーの妻トラウテが北門の門番です」
「北門は通常の門の扉とは異なり、
シュピリトゥスの森の木枝がそのまま扉となります。
扉も鍵も蝶番もございません」
「ユリカとトラウテが唱える呪文のみが
北門を開くことができる鍵となります」
オスカーは驚くセルジオの顔を見る。
「セルジオ様、驚かれましたか?」
「少し驚いた。
ポルデュラ様から北門の鍵は呪文だと聴いていたが、
呪文を唱えるのは魔導士ではないのだな。
魔導士でなければ呪文は唱えられぬものだと思っていた」
「左様にございますね。
森の番人は精霊の声を聴く者。
魔導士ではございませんから魔術は使えません。
されど精霊の声を聴き、妖精と話し、森を守っております」
「伐採する樹木も精霊が教えてくれるそうです。
そして、森の生き物が増えすぎず、減り過ぎず、
頃合いを保つために1年に1度『巻狩り』を行います」
「巻狩りは、精霊から許された時、
狩場で獲物となる森の住まう動物を囲い込み
四方から追いつめ射止める騎士団の訓練としての
催しでもありますが、神聖な森の祭典の一つでもあります」
「巻狩りを取り仕切る者も北門の門番ユリカとトラウテです。
そうして精霊と約束した森の理守る事で
森は我らに恵みをもたらしてくれるのです」
オスカーは優しく微笑む。セルジオはオスカーの微笑む顔が好きだった。バルドの微笑みは強さを感じる。オスカーの微笑みは暖かさを感じると思っていた。オスカーの微笑む顔を深く青い瞳でじっと見つめるとセルジオは感じたままを無意識の内に口にしていた。
「・・・・エリオスの微笑みはオスカーの微笑みと似ている。
胸がじんわりと暖かくなる・・・・!!
すまぬ、話と関係ない事を口にした!オスカーすまぬ!」
オスカーが話す北の森のことと何ら関係のないことを口走りセルジオは慌てる。
「いいえ、構いません。嬉しゅうございます。
そうですか、エリオス様の微笑みは私と似ていますか」
オスカーは優しくセルジオに答えた。
「うむ。よく似ている。オスカー、すまぬ。話しを続けてくれ!」
セルジオはバツが悪そうにオスカーのマントの中で両肩を少し上げてみせた。
オスカーは話しを続けようと先程まで話していた内容を思い返す。
「承知しました。森の恵みまでお話しました。
次は番人の子供達の話を・・・・」
ヒィヒィィィン!
馬の嘶きが聞えた。
バルドが戻ってきたのだ。
セルジオとオスカーは顔を見合わせる。
「セルジオ様・・・・バルド殿が戻ってまいりました。
北の森の番人の子供らはこれよりお会いできるかと存じます。
話はここまでと致しましょ。エリオス様を起こして下さいませ」
「そうか。オスカー、
北の森の話を聴かせてくれ感謝申す。また、ひとつ学べた」
セルジオは嬉しそうにオスカーへ微笑んだ。
「セルジオ様、今もまた微笑まれました。ようございました。
自然に感じられたままを表に出すことができるようにおなりですね」
セルジオはオスカーの言葉に目を輝かせ眠っているエリオスを両手で揺さぶった。
「そうか!オスカー、感謝申す。
エリオス!エリオス!起きてくれ!私はまた微笑みむことができたぞ!」
エリオスの手を取り何度も揺さぶる。
「うっ!・・・・私は眠っておりましたか・・・・」
エリオスは目をこすりふらふらと立ち上がった。
「そうなのだ。エリオスは眠ってしまったのだ。
その間にオスカーに北の森の番人の話を聴いていたのだ。
そして、私はまた微笑んだのだぞ」
セルジオは目覚めたばかりのエリオスに息せき切って話しをした。
「さっ・・・・左様にございましたか!
セルジオ様、眠ってしまい申し訳ありません」
エリオスはぎこちなく答える。
「・・・・大事ない。すまぬ・・・・
少し胸が熱くなったのだ。起き抜けにすまぬ」
セルジオは拳を握る。
『まただ・・・・一方向だけに、己のことだけになってしまった・・・・
微笑むことができたことだけになってしまった・・・・』
フワッ
独り反省しているとオスカーがそっとセルジオを抱き寄せた。
「セルジオ様、よろしいのです。今のあり様でよろしいのです。
セルジオ様が感じられたことをそのまま表に出される事が
今のお役目にございます。
我らはその様なセルジオ様のお姿を多く拝見したいのです。
ご存分に表に出されませ」
セルジオはオスカーの言葉に握った拳をほどく。
「わかった。オスカー感謝申す。
己のことが己でどうしてよいかわからなくなるのだ。感謝申す」
セルジオはオスカーの右肩に顔をうずめた。
「そうです。その様になさればよいのです。
さっ、セルジオ様、バルド殿が戻られました」
オスカーはセルジオを自身のマントから出すとバルドが向かってくる方へ身体を向けさせた。
パカッ!パカッ!
カツッカツッ!
「どうっ、どうっ」
ブルルルッゥゥ・・・・
バルドは馬をとめると馬上よりヒラリと下りセルジオへ歩み寄った。
「オスカー殿、感謝申します。
やはり、ヴァルディの息子ロルフとヴィリーの娘ウーシーでした。
北門まで案内してくれるそうです。
北の森の街道が落ち葉で埋まり行く手が解らなくなるだろうとの気づかいでした」
「少し、街道を進んでみましたが、
我らだけでは方向すらわからなくなります。
いや、オットー殿に礼を申さねばなりますまい」
バルドは視てきた様子をオスカーへ伝える。
「それと、ポルデュラ様が道案内をしてくれる様にと
カイに文を持たせて下さったそうです。
ポルデュラ様特製のバラの茶が一緒に届いたと
ヴァルディが恐縮していたとのことでした」
「いやいや、ヴァルディの息子ロルフは騎士団でも
充分に役目を果たせる逸材でした。
『銀のオオカミ』と呼び名がつくのも頷けます」
バルドは珍しく少し興奮気味に一気に話した。
「左様でしたか。これより会うのが楽しみです。
ロルフはオオカミと言葉を交わすことができると聞き及んでおります。
ウーシーはラドフォール領シュピリトゥスの森の声も聞こえるそうです。
その姿が森に溶け込み見えなくなる不思議な力を持っているとか・・・・
ウーシーはいかがでしたか?」
オスカーはエリオスを馬に跨らせながらバルドの話に呼応した。
「それが・・・・ウーシーの姿が見えなかったのです。
ロルフからは北門までの道を我らが通ることを
北の森の精霊に許しを得るために先に行き、道を整えていると言われました」
「それで合点がいきました。
ポルデュラ様からの文の道案内は北の森の精霊への
許しにございますね。さすがは北の森の番人です」
オスカーは自身も馬に跨り、エリオスとの身体を革のベルトで固定した。
「なるほど!北の森の精霊への許しでしたか。
我らだけでは北の森を通り北門までは行きつけませんでしたね」
バルドはオスカーとの話の先が見えてくるとセルジオを抱き上げた。
「セルジオ様、寒くはございませんでしたか?」
そのまま馬に跨らせる。
「大事ない。オスカーがマントの中に入れてくれたのだ。
バルドと同じくらい暖かかった・・・・バルド!!」
「はい、どうなさいましたか?」
いつになく力強い声音でセルジオはバルドの名を呼んだ。
「・・・・バルド!!
北の森の番人の話をオスカーから聞いていたのだ。
子供らの話になった所でバルドが戻ってきた。
今の話で益々会うのが楽しみとなったぞ!」
嬉しそうに馬上で姿勢を正す。
「左様にございましたか。それはよろしゅうございました。
セルジオ様、エリオス様は訓練施設と騎士団におります子ら以外と
お会いになるのは初めてですね。
話しをする時はございませんが、2人の様子をじっくりとご覧下さい。
騎士や従士とは異なる気を感じ取ることができます」
カチャリッ
バルドはセルジオとの身体を革のベルトで固定した。
「オスカー殿、ご準備よろしいですか?」
「はい、準備整いました」
「では、セルジオ様、北の森の番人に会いにいきますぞ!ハァッ!」
バルドはたった今、戻ってきた道を北の森入口に向けて馬を駆けさせた。
「ハァッ!!」
オスカーが後に続く。
パカラッ!パカラッ!
パカラッ!パカラッ!
セルジオは胸に高鳴りを感じていた。
『なんだ?この胸が熱く感じるのは・・・・
北の森の番人に会うからなのか?
己のことが己でわからないとは・・・・これでよいのだろうか・・・・』
馬上で冷たい風を受けながら北の森入口へ目をやる。
北の森の入口の奥から緑色の光が波紋の様に広がっているのが見えた。
『北の森の番人・・・・緑色の光を放つのか?』
緑色の光は森の入口に近づくにつれ、その輝きを増していた。
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わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
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