とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第49話 深淵のセルジオ

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初代セルジオが青き血の暴走を食い止める姿を見たセルジオは胸の苦しさに堪えられず草の上に倒れた。

セルジオは濃紺の冷たい空間で目覚める。

「ここは・・・・どこだ?」

濃紺の空間の中で己の周りだけが青白い光に包まれていた。

濃紺の空間だけが広がり、他には何もなく空間だけがどこまでも続いている様に見えた。

「初代様、おられますか?」

シーーーーン

初代セルジオを呼んでみるが、濃紺の空間に声が吸い込まれていくかの様で響きもしない。

そう言えば薄れゆく意識の中で初代セルジオが深淵に落ちるぞと叫んでいた事を思い出した。

「・・・・ここが、初代様が叫んでいた深淵なのか?
・・・・深淵とは何なのだ?」

ポツリと呟き上を向いてみる。明かりなど全くない濃紺の空が広がる。

「誰もいない。何もない・・・・
私だけがいる所が深淵なのだろうか?」

寒さも暖かさも感じない。恐ろしさを感じてもよいその空間はなぜかとても居心地がいいとセルジオは感じていた。

しかし、このまま留まってよいのか?初代セルジオを探し歩いた方がよいのか?左斜め上を見上げ思案する。

セルジオは訓練の際にバルドから何度もさとされた言葉をを思い出した。

「セルジオ様、もしもの話を致します。よくよくお聞き下さい。
貴族騎士団巡回の折に私やオスカー殿の同行を拒む騎士団もございます。
騎士と従士の立ち入れる場所を制限している騎士団です」

「特にクリソプ男爵家は従士は騎士団城塞城壁外側に居住区を置いています。
私とオスカー殿は守護の騎士と言えど従士であることに変わりありません。
セルジオ様とエリオス様だけでクリソプ騎士団城塞に入られることとなりましょう」

「その際に今いる己の場所がどこかが
解らなくなったならその場を動いてはなりません。
誰ぞ通りかかるまでその場に留まるのです。
知らない場所、まして騎士団城塞です。
ウロウロとしていれば内情を調べているのではと疑われ、
捕える口実を作ることになりかねません」

「その場に留まり膝を抱え腰を下し、誰ぞ通りかかるのを待つのです。
道に迷った時、己の知識や力だけではどうしようもない時は、
一旦その場に留まる事も一つの策にございます。
よいですか?膝を抱え腰を下しその場に留まるのです」

セルジオはバルドに何度も念を押されたことを思い出した。

「己の知識、力だけではどうしようもない時、
膝を抱え腰を下し、その場に留まることも一つの策だったな・・・・」

セルジオは再び濃紺の空を見上げるとそのまま静かに腰を下した。

バルドに言われた様に膝を抱える。膝頭に顎を乗せて足先を見つめた。

「このままこの場に留まり、時が来れば出られるのだろうか?」

何もない濃紺の空間に言葉が吸い込まれる。

目の前に物心ついた時からの出来事が浮かんでくる。

「そう言えば、どうして胸が苦しくなったのだろう?
息もできない程の痛みがあったのはなぜなのだろう?」

初代セルジオが己の為に青き血の暴走を食い止めている姿を目にして胸が苦しくなったことに思い至る。

「そうだ。初代様がお独りで私の為に
青き血を抑えて下さっていたのを目にしたからだ・・・・」

セルジオは、順を追って己の今までを振り返る事にした。

火焔の城塞では青白き炎の制御が少しづつであるができる様になってきた。

「うん、バルドもその様に申していた。
カルラ様も後は数をこなすことだと申されていた」

膝頭に乗せていた顎を上げると膝を抱えていた両手を結び胸にあててみる。

痛みも苦しみも感じられなかった。

火焔の城塞に入る前の道程を思い返す。

ズキリッ!

「うっ!痛い・・・・胸が痛い・・・・」

両手で拳を握ると痛みの走る胸に抱え込んだ。

「痛みがあったのは・・・・ヨシュカの言葉だ・・・・」

ラドフォール騎士団影部隊シャッテンの一人であるヨシュカとの別れ際に怒声をあびせられた。

「お前の事が嫌いだ。
声も聞きたくない、顔も見たくないと言われたのだったな・・・・うっうっ!」

ヨシュカに言われた言葉を思い出すと胸の痛みが増した。

バルドの顔がふっと目の前に浮かんだ。

セルジオの両頬を両手で包みバルドの涙がポタポタと頬に落ちてきた。

グッ!!

セルジオは息がつまった。

「ぐぐっ!・・・・うぅぅ・・・・苦しい!胸が苦しい!バルドっ!」

バルドに助けを求める様に両手拳を胸に強く抱える。

「はっ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・苦しい・・・・」

エリオスが口から血を吐き、己の膝の間に倒れてきた水の城塞での青き血に目覚めた時の光景が目に浮かんだ。

己の膝の間に倒れ込んだエリオスの背中には数本の矢が刺さっていた。

ズッキーーン!!

「うぅぅ!!がはっ!」

セルジオは強烈な痛みが胸に走り、痛みと同時に黒々とした塊が胸から喉へ上がってくる様に感じると口からその塊を吐き出した。

バシャッ!!

立てた両膝の間に吐き出した塊が弾けた。
濃紺の液体だった。

「な・・・・なんだ?これは・・・・ぐっ!がはっ!!」

バシャッ!

また一つ胸から上がってきた黒々とした塊を吐き出す。濃紺の液体が両足の間に水たまりを作った。

エリオスが背中に矢を受けた時、初代セルジオが悔恨を残した光景を目にした事を思い出す。

「初代様の・・・・あぁ・・・・初代様の悔恨の・・・・色?」

両足の間にできた濃紺に水たまりが初代セルジオが残した悔恨の色ではないかとセルジオは思った。

「あぁ・・・・そうだ・・・・西の屋敷でも・・・・がはっ!!!」

バシャッ!

濃紺の液体が作る水たまりは少しづつ大きくなっていく。

「調理場の・・・・西の屋敷の調理場の十字の木枠・・・・がはっ!!」

あの時は、バルドの喉元に短剣を突き付けた己が許せず、バルドの前から姿を消し去りたいと強く思ったことを思い出した。

「・・・・初代様の悔恨と己の・・・・
周りにいる者たちを傷つけるのが・・・・がはっ!!!」

バシャバシャ!!

セルジオは何度も吐き出す黒々とした塊とその塊が弾けて広がる濃紺の液体が作り出した水たまりを避けようと体勢を変えた。

膝をつき、身体を起こすと胸の前で両手を結び祈りの姿勢になった。

黒々とした塊を何度か吐き出したからなのか、胸の辺りが少し軽く感じられる。

「己の力のなさを受け止める勇気と覚悟を持つのだったなバルド!」

セルジオは目を閉じ、結んだ両手をくちびるにあてた。

「初代様の悔恨と己でなにもできないことが苦しいのだな・・・・
でも、答えが見つからない・・・・だから苦しさが増すのだな・・・・
バルドやエリオス、オスカーを傷つけることが苦しくなるのだな・・・・」

「どうだ?セルジオ。そなたは弱いのだぞ・・・・
何もできぬのだぞ・・・・
今は、そのままでよいとバルドが言っていたではないか。
それでも・・・・」

「いつか私のために命を散らすのではないかと思うと
どうしてよいか解らなくなる・・・・のだな。
どうすればよいのだろう?うっうっうっ・・・・
バルド・・・・胸が苦しい・・・・」

セルジオは目を閉じ、祈るようにバルドの名を呼んだ。

「こちらにお出ででしたかっ!探しましたぞ、セルジオ様っ!!」

あまりに突然にそして鮮明にバルドの声が濃紺の空間で聞えた。

セルジオは「えっ!」と小さな声を発するとバルドの声が聞えた自身の左側を見る。

バルドに助けを求めた思いがバルドの声を運んできたのかと思ったのだ。

「セルジオ様、何を祈っていらしたのですか?
この濃紺の水たまりは何でございますか?」

「・・・・」

己の左側に間違いなくバルドの姿が見える。バルドの声が聞える。

「バ・・・・ルト・・・・?」

「はい、バルドにございます。
セルジオ様、遅くなりました。お迎えにまいりました」

バルドは優しい微笑みをセルジオへ向けると膝をつき左手を差し出した。

ガバッ!!!

「バルドっ!!!バルドだっ!バルドが迎えにきてくれたっ!」

セルジオは両手を広げ、飛ぶようにバルドに抱きついた。

「おっと!セルジオ様、危のうございます!その様に抱きつかれて・・・・」

ギュッ!!!
チュッ!

言葉とは裏腹にバルドは飛びついてきたセルジオをギュッと抱きしめると愛おしそうに頭に口づけをした。

「さっ、セルジオ様、戻りましょう。皆様、お待ちにございます。
セルジオ様のお元気なお姿を見たいと皆が願っております。
さっ、戻りましょう」

バルドはセルジオを抱きしめたままゆっくりと言葉を繋いだ。






【春華のひとり言】

今日もお読み頂き、ありがとうございます。

自らの深淵に落ちたセルジオ。

4歳少し手前とは到底思えない程、自身を省みることに挑戦する姿にいじらしさを感じます。

それでも宿命は変えられない。
少し切なくも感じます。

セルジオの深淵にバルドが迎えにきました。探し出せて本当によかった。

明日もよろしくお願い致します。
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