とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

文字の大きさ
140 / 216
第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第77話 奴隷の城館3

しおりを挟む
ガサッ・・・・
ガサッガサッ・・・・

カチャリ・・・・
チャリン・・・・

『・・・・うっ・・・・なんの・・・・音・・・・だ・・・・』

頭も身体もやけに重たく感じる。
どうやらベッドの上にいるようだ。

エリオスはゆっくりとまばたきを繰り返すとガサゴソと音のする方へ目を向けた。

ガサッ・・・・
ガサッガサッ・・・・

赤茶色の髪をした細身の男が目に入った。

両手で大事そうに真っ白な布に包まれた何かを抱えている。

エリオスは瞬きを繰り返し、ぼやける視界で目を凝らした。

トサッ・・・・

布に包まれた何かはエリオスの右横にそっと置かれた。

サラリ・・・・
フワリ・・・・

赤茶色の髪の男は包んでいた布を丁寧に開いた。

『・・・・なんだ・・・・この・・・・白の・・・・!!!』

ガシッ!!!

エリオスは重い身体を反転させ、左手で赤茶色の髪の男の右腕を掴んだ。

必死に声を出す。

「やっ・・・・ゴホッ!!!やめろっ!!ゴホッゴホッ!!!セッ・・・・セルジオ様・・・・ゴホッゴホッ!!!・・・・手を・・・・離せっ!!!ゴホッゴホッ!!!ガハッ!!」

包まれた真っ白な布の中から現れたのは一糸まとわない姿のセルジオだった。

金色の髪が萌黄色に染められている。

赤茶色の髪の男は無言でエリオスを一瞥する。

そのまま何もなかったかのようにセルジオを包んでいた布をファサリと床に落とした。

傍らに用意していた白いシャツを着せる。
セルジオが着せられている服装は貴族の子弟が身に付けるものだった。

エリオスはぐっと左手に力を入れ、赤茶色の髪の男の右腕を掴む。

「はっ・・・・離せっ!!ゴホッ!!セルジオ様からっ・・・・手を・・・・」

バシッ!!!

赤茶色の髪の男はエリオスの左手を事もなげに振り払った。

ギロリとエリオスを睨み付けると再びセルジオの衣服を整えていった。

エリオスはなすすべもなく、重たい頭と身体を起こそうと全身に力を入れる。

しかし、己の思う様に身体が動かすことができないと察すると動きを止めてセルジオの衣服を整える男の顔をじっと見つめた。

「・・・・諦めたか。今は、そのまま動かずじっとしていろ」

男は口元をほとんど動かさずに小声で指示をした。

「お前は今、何の役にも立たない。己の身すら守ることができない。その様な時の対処法も心得ているようだな」

男はひとり言の様にぼそぼそと呟いている。

「・・・・」

ぼんやりしていた視界がやっと色を帯びてきた。

エリオスは己の身体に目を向ける。

セルジオと同じ様に貴族の子弟が身に付ける服装だった。

男はエリオスの様子を感じ取っている様だった。

セルジオの衣服を整えるとフワリと優しく抱き上げ、エリオスの手の届く右横に寝かせた。

エリオスを無表情で見下みおろす。

黒に近い茶色の瞳が鈍い光を放っていた。

「お前、毒の耐性訓練を受けているのか?気付の薬を使う前に目覚めたな。こいつは未だ目覚めぬというに・・・・まぁ・・・・当然か・・・・」

最後の方は聞えない程の小声だった。

「・・・・」

エリオスは横になったまま無言で男を見上げる。

真っ直ぐに見返すエリオスに男は一瞬に口元を歪めた。

「小一時間程すれば、こいつも目覚める。お前の身体も自由に動く様になる。安心しろ・・・・まぁ、この部屋の中だけの話だがな」

男は今度はエリオスにハッキリ解る様にニヤリと口元を歪めた。

「こいつとお前を天がどう観ているか、楽しみだ」

男は顎をしゃくってセルジオを指した。

「こいつが目覚める頃に食事を運ぶ。この部屋から出る事はできないが、ここでは自由だ。何をしていても構わない。ただ、逃げ出す算段をしても無駄だぞ。お前の事だ、扉の外に気配を感じているのだろう?大人しくしているのが身の為だ。こいつを大切に思うのであれば、まずはお前がこいつを大人しくさせることだな。わかったな」

男は再びニヤリと口元を歪めるとセルジオへ視線を向けた。

穏やかな表情で眠っているセルジオを確認すると静かに扉を開けて出て行った。

パタンッ・・・・

扉が完全に閉じる音を聞くとエリオスは大きく息を吐いた。

「・・・・ここは、どこなのだ?屋敷のようだが・・・・」

訓練施設や騎士団城塞ではあり得ない大きなガラス窓から青空が見える。

掌に力を込めると少しづつ自由が戻ってきていた。

左手が動く事を確認するとそっとセルジオの頬へ手を伸ばした。

「・・・・温かい・・・・よかった・・・・眠られているだけだな・・・・」

つい先ごろ娼館街で己の金色の髪を短剣で切った時よりも更に短く刈られ、萌黄色に染められたセルジオの髪を優しくなでる。

「セルジオ様・・・・私は諦めません。どの様な状況であっても我らはセルジオ騎士団西の屋敷に生きて戻るのです。私は諦めません」

力強く、己に言い聞かせる様に言葉を発するとエリオスは再び大きく息を吐いた。




【春華のひとり言】

今日もお読み下さり、ありがとうございます。

囚われの身のセルジオとエリオス。
髪を刈られ、染められて、服装も変えられて、一見してセルジオとエリオスだと解らない姿にされました。

二人は一体、何をされるのか・・・・
バルトとオスカーは二人を助け出すことができるのか・・・・

主人公なので・・・・ご安心下さい。

次回もよろしくお願い致します。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

偽りの婚姻

迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。 終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。 夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。 パーシヴァルは妻を探す。 妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。 だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。 婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...