とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第140話 ラドフォールの王都私邸

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「それでは、明後日の早朝より我が城塞をご案内します」

「毒気の始末もある中での案内、感謝申します」

滞在と城塞見聞の話はエリオスとブレンが中心となり組み立てられ、マデュラ騎士団には予定通り二週間の滞在とされた。

「セルジオ様が回復されるまで一週間は要すると思います。その間、私とオスカーは日常の訓練と合わせて商船への荷積み、荷下ろしも同道させて頂きたくお頼み申します」

エリオスが初めて他貴族騎士団団長と組み立てた滞在予定は見事なものだった。

これまでの騎士団滞在時でのバルドとオスカーの言動を漏らすことなく聴いていたのだろう。

バルドとオスカーはできる限り口を挟まずブレンと話を進めるエリオスを見守っていた。

「セルジオ様の毒気が抜けぬのがいささか案じられます」

滞在予定の調整が終わりを見せる頃、ブレンはセルジオが寝かされている南窓辺のベッドへ目を向けた。

実際にはオスカーのマントで包んだ荷物だ。エリオスは努めて平静にブレンの目線をセルジオから遠ざけた。

「セルジオ様は毒の耐性訓練を受けておられません。ポルデュラ様から賜りました解毒の丸薬がこれに・・・」

オスカーに目配せしポルデュラ特製の丸薬をテーブル上に置かせた。

薬草に造詣が深いブレンは目線をセルジオからテーブル上に移した。

「ほう・・・・これがラドフォールの解毒丸ですか。触れてもよろしゅうございますか?」

興味津々と言った目をブレンはエリオスに向けた。

「はい、差支えございません。ただ、お渡しする事はできかねますので、ご了承下さい」

ブレンは頷き丸薬を手に取った。

エリオスはブレンに悟られない様に「ふぅ」と一つ息を吐くと南窓の外に広がる紺碧の夜空に目を移した。

『セルジオ様、どうか、どうか、ご無事で』

セルジオの無事を祈る様に心の中で呟いた。


ブレンが滞在部屋を訪れる少し前、商船が停泊する船着き場から一艘のゴンドラが音も立てずに王都へと向かった。

明かりを灯さず、波しぶきを立てることなく水面を滑る様に進んでいく。

黒のマントを纏ったポルデュラが船首に立ち、左手二指を唇にあて、ふぅと大きく息を吐くとゴンドラの速度が増した。

暫くすると後ろを振り返る。

マントに包れたセルジオが青い月明かりに照らされていた。

「ベアトレス、大事ないか?」

水面を滑る様に進んでいるから揺れはないが、受ける風は相当に強い。

ポルデュラはセルジオを必死に抱えるベアトレスを気遣った。

「ポルデュラ様、私は大事ございません。速度を上げられる様でしたら私へのご配慮は無用に存じます」

解毒ができないセルジオを一刻も早く王都のラドフォール私邸まで連れて行かなければならない。

全身に毒が回るのを遅らせるためにアロイスはセルジオの体温を生存可能な所まで下げた。

ギュッ!!!

マントに包んでいても冷たさが伝わるセルジオの身体をベアトレスは抱き締めた。

ポルデュラはベアトレスの姿に「わかった」と呟くと再び左手二指を唇にあてた。

マデュラ子爵領から王都までは陸路で7日、早がけでも3日は要する。

風の力を借りた船であれば明朝には王都に着けると考えたポルデュラは商船長のイヴォナにゴンドラを用意させた。

びゅーびゅーと耳元でうなっていた冷たい風の音が緩むと一気に身体が温かく感じられた。

目を開くと辺りは夜明け前の薄紫色に染まっていた。

ベアトレスが顔を上げた先に王都城壁の水門が現れた。

「ベアトレス、もうすぐじゃ」

朝日に照らされたポルデュラの微笑みが女神の様に輝いて見えた。

ゴンドラが近づくと水門が自然に開かれた。普段は厳重に警備され、通行証がなければ容易く通る事はできない。

不思議そうな顔を向けるベアトレスにポルデュラは悪戯っぽく笑い船首に掲げられた紋章旗を指さした。

8頭立ての狼が荷馬車を引く紋章旗、ラルフ商会の紋章旗だ。

「この紋章であれば王城の水門も易々と通れるぞ」

ベアトレスに微笑みを向けたポルデュラはセルジオに目を向けた。

まるで蝋人形の様に青白い顔をマントから覗かせるセルジオを目にするとポルデュラは「急がねばな」と呟いた。

朝市で賑わう王都中心の商業地区を避け、18貴族の私邸が建ち並ぶ水路を北へ進んだ。

ひと際大きな城門が見えてくると水路は地下へと進む。

石造りの水門が開かれゴンドラは着岸した。

「ポルデュラ様、お久しゅうございます」

右手を胸に当て侍従と思しき人物がポルデュラとベアトレスを出迎えた。

「イーノ、久しいの。急に造作をかけた。して、オーロラ様はお越しになっているか?」

マデュラ領船着き場を出航する前にポルデュラは使い魔を王都へ遣わしていた。

「はい。早朝の星読み祭事後からこちらに」

セルジオの解毒には光の魔導士であるシュタイン王国第14王女オーロラの力が必要だったからだ。

「わかった。暫し、西の部屋を借りるぞ」

ラドフォール王都私邸の西側の部屋はポルデュラの居室だった。

「解毒と浄化に必要な物の準備できております。他にご入用のものがあればお申し付けください」

侍従の言葉にポルデュラは満足そうに呼応した。

「うむ」

普段の気さくなポルデュラからは想像もできない貴族らしい言動にベアトレスは呆然としていた。

「イーノ、紹介しておくぞ。ベアトレスじゃ。セルジオ様の乳母であった者じゃが、今は私の手伝いをしてくれている。目をかけてやってくれ」

「はっ!承知致しました」

イーノは右手を胸にあて頭を下げた。

「ベアトレス、この者はラドフォール王都私邸の侍従長じゃ。私が小さき頃より少しも変わらぬ、いや、我が祖父が小さき頃より変わらぬ生き字引の様な者じゃ。分らぬ事は何なりと聞け」

ポルデュラはふふふっと笑った。

「ベアトレス様、お初にお目に掛かります。
ラドフォール公爵家王都私邸での奥向きを100有余年預かっておりますイーノにございます。
以後お見知りおきを」

ポルデュラとイーノのやり取りと遠巻きに見ていたベアトレスは慌てて姿勢を整える。

「結構なご挨拶、痛み入ります。ポルデュラ様の身の回りのお世話をさせて頂いておりますベアトレスでございます。よろしくお願い致します」

大事そうにセルジオを抱え、ベアトレスは深々と頭を下げた。

ベアトレスの様子にイーノは目を細め微笑みを向ける。

「どうじゃ、イーノ。そなたにもベアトレスの珠が見えるじゃろう?綺麗な虹色の珠じゃ」

「はい、左様にて。橋渡しの役目を担うお方でございますね」

ベアトレスは顔を上げイーノと瞳を合わせた。

優しい微笑みを向けるイーノの耳がやけに大きく尖っている事にこの時初めて気が付いた。

「さぁ、では、まいろうかの。セルジオ様の解毒を急ごう」

ポルデュラの言葉にベアトレスはイーノに会釈するとポルデュラ後に続き地下の船着き場を後にした。



【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

ブレンにセルジオ不在を悟られない様にポルデュラお手製の丸薬で注意を逸らしたエリオス。

セルジオが回復し戻ってくるまで何とか隠し通して欲しいと願うばかりです。

一方、セルジオの解毒の為に王都へ向かったポルデュラとベアトレスはラドフォール公爵家王都私邸に到着しました。

出迎えた侍従長イーノは100有余年前から仕えるかなり長命の人物で・・・・お察しの通りエルフ族の方です。

四大精霊の加護を受け、魔導士を多く輩出しているラドフォール公爵家は妖精とも親しい間柄です。

さて、次回はセルジオの解毒となります。

お久しぶりにシュタイン王国第14王女オーロラの登場です。

次回もよろしくお願い致します。

シュタイン王国第14王女オーロラとポルデュラの共闘のシーンは

第2章第37話 インシデント34
光と炎の魔導士

から

第2章第39話 インシデント36
ラドフォールの共闘

をご覧ください。

ポルデュラとオーロラの戦いぶりがご覧いただけます。
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