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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第149話 青と赤の宣誓
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「皆の者っ!!!!」
バッ!!!
ブレンの声に騎士と従士は中二階を仰ぎ見た。
セルジオを右腕に乗せ、ブレンは眼下に控える騎士と従士一人一人の顔を見渡す。
セルジオがブレンの胸に右手を添えるとブレンはふっと微笑みセルジオの左頬に口づけをした。
ザワッ!!!
騎士同士で他者の身体に触れる事は死を意味する。
ブレンの行動に騎士と従士はザワついた。
「皆の者っ!!!この光景を目に焼き付けよっ!我が行いに当代の青き血が流れるコマンドールは微塵も疑念を抱いてはおられぬっ!御身を預け、我が口づけを受入れ、間近で瞳と瞳を合わせておられるっ!!」
ブレンはセルジオへ微笑みを向けた。
「どうだっ!!!皆の者っ!!真に信を置かぬ者にこの行いができようかっ!!いやっ!できぬっ!!些細な疑念すら抱かぬ真の信があればこその行いだっ!!!そうだっ!!我らマデュラの家族と言わしめるマデュラ騎士団団員と等しく我らに真の信を置いておられるのが、当代の青き血が流れるコマンドールだっ!!」
ブレンはここでセルジオを右肩に乗せた。
「我らマデュラ騎士団はシュタイン王国王都騎士団総長より任を賜りし貴族騎士団だっ!!だがっ!これまでのマデュラ騎士団のあり様は他貴族騎士団に受入れられるものではなかったっ!!それは我が意を汲みし皆の者の落ち度ではないっ!!全てこのブレン・ド・マデュラの行いこそが他貴族騎士団を寄せ付けぬ壁を築いていたのだっ!!!」
ブレンはここで右肩に乗せたセルジオを仰ぎ見た。
「我が行いを省みる目を与えしは当代の青き血が流れるコマンドールとその守護の騎士達であったっ!!!皆の者っ!!!今一度告げるっ!!この光景を目に焼き付けよっ!!そしてっ!!永遠に忘れぬ時としてその身に刻めっ!!!ブレン・ド・マデュラはセルジオ・ド・エステール、当代の青き血が流れるコマンドールと共に古より伝わる禍根、青と赤の因縁の終わりの始まりをここに宣言するっ!!!」
ドワアァァァァァ!!!!
ビリビリと地響きが一帯を覆う様な凄まじい雄叫びが轟いた。
ドワアァァァァァ!!!!
セルジオを仰ぎ見るブレンの目から涙が溢れ出ていた。
「静まれっ!!!」
ブレンの声に雄叫びはピタリッと止んだ。
「セルジオ殿、私と共に宣誓をお願いできますか?」
右肩に乗るセルジオに優しく語り掛ける。
「はい、承知・・・・」
「お待ちくださいっ」
セルジオがブレンに呼応する所で階下中央に控えるコーエンが声を上げた。
ザワッ・・・・
場が一気に不穏な空気に包まれる。コーエンは申し訳なさそうに口を開いた。
「ブレン様、言上のお許しを賜りたく存じます」
コーエンの言葉に永く苦しめられてきた因縁の終わりがやっと始まると高揚していた場が凍り付く。
しかし、ブレンはコーエンの申出を咎めるでもなく言上の機会を与えた。
「コーエン、そなたがこの時を誰よりも待ち望んでいたことは私が一番に理解している。遠慮はいらぬ、申してみよ」
ブレンの言葉に凍り付いた場の空気は安堵のそれに変わった。
「はっ!!感謝申します」
コーエンは跪き、ブレンを仰ぎ見た。
「当代の青き血が流れるコマンドール、守護の騎士様、そして我らマデュラ騎士団の者は青と赤の因縁の当事者にございます」
コーエンの物言いに食堂はザワめいた。
「何が言いたい」
ブレンはザワつきを制する様にコーエンの次の言葉を誘う。
「当事者同士での宣誓は・・・・その、効力がございません」
本来、騎士の誓いは儀式が必要となる。
国王、正妃、騎士団総長、王家直属星読み、他家貴族騎士団団長、訓練施設責任者、王都聖堂司祭が会する場で宣誓が行われ誓いと成す。当事者同士での宣誓は口約束に過ぎないとされていた。
コーエンの言上にブレンは今更ながら己の浅はかさを思い知った。
「・・・・そうであった・・・・」
やっとの思いでたどり着いた祝賀の空気は一気に冷める。
ブレンの落胆した表情は仰ぎ見る騎士と従士に失望を感じさせた。
すすり泣く声、悔しさを滲ませたうめき声がそこかしこから上がる。
興醒めした空気が見る見る広がり出した時、セルジオが口を開いた。
「その様に、皆様の思いはその様に冷めてしまわれる程、簡単なものなのですか?」
責めるでもなく、ただ問いかける様な声音で不思議そうにブレンの顔を見つめている。
「ブレン様、あれだけの熱き想いがおありなのでしょう?神は意志ある所に道をお与えになると聞きました。この場におられる方々全ての意志を聞き届けられぬとは思えません」
揺るぎない信念が宿るセルジオの深く青い瞳をブレンは唖然と見つめた。
この場でどうにもできない事が今、目の前で起こっているにも関わらずセルジオは諦めてはいない。
むしろこの状況を打開するための策を講じぬのが不思議でならないと言わんばかりにブレンをじっと見つめている。
ブレンは己とセルジオの置かれた立場の違いを見せつけられた気がした。
「少し、道を開けてはくれぬかの?」
そこに紫色のローブを纏ったポルデュラが現れた。
「「ポルデュラ様っ!!」」
ブレンとセルジオは同時に声を上げた。
コツコツと開けられた道を静かに進むポルデュラの後ろを黒いフードを目深に被った人物が付き従っている。
ブレンはポルデュラの出現に夢でも見ているかの様な面持ちだった。
階段を上り中二階のブレンの前に歩み寄るポルデュラを目で追いブレンは呟いた。
「・・・・ポルデュラ様・・・・なぜ・・・・」
「ブレン殿、お忘れか?セルジオ様とお互いのお考えを詳らかにし分かり合う事ができたなら私は存分に力を貸すと申したはずじゃがな」
ポルデュラは少し悪戯っぽく微笑んだ。
「宣誓の立会が必要なのじゃろう?ならば我らが立ち会おう。のう、アロイス殿」
ポルデュラの後ろから付き従っていた人物が目深に被った黒いフードをゆっくりと捲った。
銀色の長い髪、深い緑色の瞳でアロイスがゆったりとした微笑みを向けていた。
「・・・・なっ・・・・なんと・・・・アロイス様・・・・うぅ・・・・ううぅ・・・・」
ブレンはセルジオを右肩から下ろし抱き抱えたまま両膝をついた。
胸に込み上げた熱いものが吹き出すのを隠そうともせずポルデュラとアロイスの前で涙を流した。
「ブレン殿、国王、正妃、王都騎士団総長、王家直属星読み、王都聖堂司祭の連名念書を預かっております。この場に訓練施設責任者であるポルデュラ様と他家貴族騎士団団長の総意を預かる私が立ち会えば略式ではありますがこれは真の宣誓となります。今こそ、そのご意志をシュタイン王国全土にそして国外に示されませ」
両膝をつきポルデュラとアロイスを見上げるブレンにアロイスは手にした念書を開いて見せた。
ブレンと階下で集う騎士と従士は夢にまで描いた青と赤の因縁の終わりの始まりを告げる宣誓が今まさに叶うと知らされ言葉を失う。
セルジオは動きが固まったブレンの腕からそっと下りるとブレンの左横で跪いた。
「アロイス様、ポルデュラ様、感謝もうします」
セルジオの声に我に返ったブレンは同じように姿勢を正した。
「アロイス様っ!ポルデュラ様っ!ブレン・ド・マデュラ、マデュラ騎士団団長として、お力添えに感謝申します」
ブレンは左手を胸に置き深々と頭を下げた。
シャンッ!!!
アロイスが腰に携えた剣を抜いた。
ザッ!!!
階下に控える騎士と従士は一斉に跪いた。
場の空気が整ったのを見て取るとアロイスは剣を胸の前で垂直に立て声を発した。
「ラドフォール騎士団団長、アロイス・ド・ラドフォール、訓練施設責任者ポルデュラ・ド・ラドフォール、宣誓されし言の葉の証人となり誓いの儀式を執り行う」
アロイスが儀式の開始を告げると食堂は厳かな雰囲気に一変した。
静寂に包まれた食堂にアロイスの声が響き渡る。
「ブレン・ド・マデュラ、前へ」
「はっ!!!」
ブレンは一歩前へ出てアロイスの前で跪いた。
「セルジオ・ド・エステール、前へ」
「はっ!!!」
セルジオはふらつきを必死に抑え、ブレンの左横で跪いた。
ブレンはセルジオが跪くと声を上げた。
「古より続く青と赤の因縁を今この時を持ちて、永久に葬る終わりの始まりを誓う。我、ブレン・ド・マデュラ、セルジオ・ド・エステール、神の御名において、真の心をもちて宣誓する」
静まり返った食堂にブレンの力強い声が響いた。
カシャンッ!!!
アロイスが剣の切先をブレンの左肩に乗せる。
「ブレン・ド・マデュラ、その方の誓い、この剣において宣誓とす」
カシャンッ!!!
アロイスは次にセルジオの小さな左肩に剣を乗せた。
「セルジオ・ド・エステール、この剣においてブレン・ド・マデュラと共に宣誓とす」
シャンッ!!!
アロイスは胸の前に垂直に剣を戻すと声を上げた。
「今ここに、両名の宣誓、成し得た事と証する」
シャンッ!!!
アロイスが剣を高々と掲げた。
うおぉぉぉぉ!!!
うおぉぉぉぉ!!!
静まり返った食堂と食堂の外に集う者達が一斉に歓声を上げた。
うおぉぉぉぉ!!!
うおぉぉぉぉ!!!
感極まり左手を額に当て両肩を震わせ涙を流すブレンにポルデュラがそっと近づく。
「ブレン殿、これまでよう堪えましたな。青と赤の因縁の始まりの地で発した宣誓はこの先語り継がれる事じゃろう。じゃが、これからが大変じゃぞ。そなたの行い如何で今日のこの歓喜が悲嘆へと変わる。王国全土へマデュラの心意気を知らしめる事ができたその時、そなたは青と赤の因縁を終わらせたシュタイン王国の英雄となろう。そう言わしめるためには己が独りと思わず、皆の力を借りるのじゃ。我らラドフォールはそなたへの助力を惜しみはせぬ。よいな」
ブレンは微笑みを向けるポルデュラを仰ぎ見ると左手を胸に置いた。
「はっ!!!」
胸が詰まり言葉を発する事ができないブレンはしっかりとした呼応で返した。
アロイスは剣を鞘に収めるとブレンにセルジオを抱え、皆の歓喜に応える様、指示する。
ブレンは左隣で跪き、ブレンの顔を見上げるセルジオへ左手を差し出した。
「当代の青き血が流れるコマンドールに感謝を」
ブレンの言葉にセルジオは微笑みを向け呼応する。
「ブレン様、感謝もうします」
セルジオがブレンの首に両手を巻き付けるとブレンはすくっと立ち上がった。
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
その姿に歓声は大きさを増す。
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
ビリビリと建物を震わす程の歓声は商船入港を知らせる鐘の音が鳴るまで続いていた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
先週も更新を遅延し大変失礼を致しました。
青と赤の因縁の終わりの始まりを告げるブレン団長とセルジオの宣誓の回をポルデュラとアロイス揃っての立会でお送りしました。
当事者同士の単なる諍いでは済まされない古より伝わる因縁は、始まりの地で終わりの始まりを告げる事が何より効果的だとポルデュラは考えていたようです。
ラドフォール公爵家が全面的にバックアップする事で王国内に広がるマデュラへのバッシングを抑える狙いもあって、アロイスを同行させたポルデュラ。
読みの深さと水面下での根回しに惚れ惚れしました。
次回はいよいよ、本編最終話となります。
(その後のエピローグまでお付き合い頂けますと幸いです)
次回もよろしくお願い致します。
バッ!!!
ブレンの声に騎士と従士は中二階を仰ぎ見た。
セルジオを右腕に乗せ、ブレンは眼下に控える騎士と従士一人一人の顔を見渡す。
セルジオがブレンの胸に右手を添えるとブレンはふっと微笑みセルジオの左頬に口づけをした。
ザワッ!!!
騎士同士で他者の身体に触れる事は死を意味する。
ブレンの行動に騎士と従士はザワついた。
「皆の者っ!!!この光景を目に焼き付けよっ!我が行いに当代の青き血が流れるコマンドールは微塵も疑念を抱いてはおられぬっ!御身を預け、我が口づけを受入れ、間近で瞳と瞳を合わせておられるっ!!」
ブレンはセルジオへ微笑みを向けた。
「どうだっ!!!皆の者っ!!真に信を置かぬ者にこの行いができようかっ!!いやっ!できぬっ!!些細な疑念すら抱かぬ真の信があればこその行いだっ!!!そうだっ!!我らマデュラの家族と言わしめるマデュラ騎士団団員と等しく我らに真の信を置いておられるのが、当代の青き血が流れるコマンドールだっ!!」
ブレンはここでセルジオを右肩に乗せた。
「我らマデュラ騎士団はシュタイン王国王都騎士団総長より任を賜りし貴族騎士団だっ!!だがっ!これまでのマデュラ騎士団のあり様は他貴族騎士団に受入れられるものではなかったっ!!それは我が意を汲みし皆の者の落ち度ではないっ!!全てこのブレン・ド・マデュラの行いこそが他貴族騎士団を寄せ付けぬ壁を築いていたのだっ!!!」
ブレンはここで右肩に乗せたセルジオを仰ぎ見た。
「我が行いを省みる目を与えしは当代の青き血が流れるコマンドールとその守護の騎士達であったっ!!!皆の者っ!!!今一度告げるっ!!この光景を目に焼き付けよっ!!そしてっ!!永遠に忘れぬ時としてその身に刻めっ!!!ブレン・ド・マデュラはセルジオ・ド・エステール、当代の青き血が流れるコマンドールと共に古より伝わる禍根、青と赤の因縁の終わりの始まりをここに宣言するっ!!!」
ドワアァァァァァ!!!!
ビリビリと地響きが一帯を覆う様な凄まじい雄叫びが轟いた。
ドワアァァァァァ!!!!
セルジオを仰ぎ見るブレンの目から涙が溢れ出ていた。
「静まれっ!!!」
ブレンの声に雄叫びはピタリッと止んだ。
「セルジオ殿、私と共に宣誓をお願いできますか?」
右肩に乗るセルジオに優しく語り掛ける。
「はい、承知・・・・」
「お待ちくださいっ」
セルジオがブレンに呼応する所で階下中央に控えるコーエンが声を上げた。
ザワッ・・・・
場が一気に不穏な空気に包まれる。コーエンは申し訳なさそうに口を開いた。
「ブレン様、言上のお許しを賜りたく存じます」
コーエンの言葉に永く苦しめられてきた因縁の終わりがやっと始まると高揚していた場が凍り付く。
しかし、ブレンはコーエンの申出を咎めるでもなく言上の機会を与えた。
「コーエン、そなたがこの時を誰よりも待ち望んでいたことは私が一番に理解している。遠慮はいらぬ、申してみよ」
ブレンの言葉に凍り付いた場の空気は安堵のそれに変わった。
「はっ!!感謝申します」
コーエンは跪き、ブレンを仰ぎ見た。
「当代の青き血が流れるコマンドール、守護の騎士様、そして我らマデュラ騎士団の者は青と赤の因縁の当事者にございます」
コーエンの物言いに食堂はザワめいた。
「何が言いたい」
ブレンはザワつきを制する様にコーエンの次の言葉を誘う。
「当事者同士での宣誓は・・・・その、効力がございません」
本来、騎士の誓いは儀式が必要となる。
国王、正妃、騎士団総長、王家直属星読み、他家貴族騎士団団長、訓練施設責任者、王都聖堂司祭が会する場で宣誓が行われ誓いと成す。当事者同士での宣誓は口約束に過ぎないとされていた。
コーエンの言上にブレンは今更ながら己の浅はかさを思い知った。
「・・・・そうであった・・・・」
やっとの思いでたどり着いた祝賀の空気は一気に冷める。
ブレンの落胆した表情は仰ぎ見る騎士と従士に失望を感じさせた。
すすり泣く声、悔しさを滲ませたうめき声がそこかしこから上がる。
興醒めした空気が見る見る広がり出した時、セルジオが口を開いた。
「その様に、皆様の思いはその様に冷めてしまわれる程、簡単なものなのですか?」
責めるでもなく、ただ問いかける様な声音で不思議そうにブレンの顔を見つめている。
「ブレン様、あれだけの熱き想いがおありなのでしょう?神は意志ある所に道をお与えになると聞きました。この場におられる方々全ての意志を聞き届けられぬとは思えません」
揺るぎない信念が宿るセルジオの深く青い瞳をブレンは唖然と見つめた。
この場でどうにもできない事が今、目の前で起こっているにも関わらずセルジオは諦めてはいない。
むしろこの状況を打開するための策を講じぬのが不思議でならないと言わんばかりにブレンをじっと見つめている。
ブレンは己とセルジオの置かれた立場の違いを見せつけられた気がした。
「少し、道を開けてはくれぬかの?」
そこに紫色のローブを纏ったポルデュラが現れた。
「「ポルデュラ様っ!!」」
ブレンとセルジオは同時に声を上げた。
コツコツと開けられた道を静かに進むポルデュラの後ろを黒いフードを目深に被った人物が付き従っている。
ブレンはポルデュラの出現に夢でも見ているかの様な面持ちだった。
階段を上り中二階のブレンの前に歩み寄るポルデュラを目で追いブレンは呟いた。
「・・・・ポルデュラ様・・・・なぜ・・・・」
「ブレン殿、お忘れか?セルジオ様とお互いのお考えを詳らかにし分かり合う事ができたなら私は存分に力を貸すと申したはずじゃがな」
ポルデュラは少し悪戯っぽく微笑んだ。
「宣誓の立会が必要なのじゃろう?ならば我らが立ち会おう。のう、アロイス殿」
ポルデュラの後ろから付き従っていた人物が目深に被った黒いフードをゆっくりと捲った。
銀色の長い髪、深い緑色の瞳でアロイスがゆったりとした微笑みを向けていた。
「・・・・なっ・・・・なんと・・・・アロイス様・・・・うぅ・・・・ううぅ・・・・」
ブレンはセルジオを右肩から下ろし抱き抱えたまま両膝をついた。
胸に込み上げた熱いものが吹き出すのを隠そうともせずポルデュラとアロイスの前で涙を流した。
「ブレン殿、国王、正妃、王都騎士団総長、王家直属星読み、王都聖堂司祭の連名念書を預かっております。この場に訓練施設責任者であるポルデュラ様と他家貴族騎士団団長の総意を預かる私が立ち会えば略式ではありますがこれは真の宣誓となります。今こそ、そのご意志をシュタイン王国全土にそして国外に示されませ」
両膝をつきポルデュラとアロイスを見上げるブレンにアロイスは手にした念書を開いて見せた。
ブレンと階下で集う騎士と従士は夢にまで描いた青と赤の因縁の終わりの始まりを告げる宣誓が今まさに叶うと知らされ言葉を失う。
セルジオは動きが固まったブレンの腕からそっと下りるとブレンの左横で跪いた。
「アロイス様、ポルデュラ様、感謝もうします」
セルジオの声に我に返ったブレンは同じように姿勢を正した。
「アロイス様っ!ポルデュラ様っ!ブレン・ド・マデュラ、マデュラ騎士団団長として、お力添えに感謝申します」
ブレンは左手を胸に置き深々と頭を下げた。
シャンッ!!!
アロイスが腰に携えた剣を抜いた。
ザッ!!!
階下に控える騎士と従士は一斉に跪いた。
場の空気が整ったのを見て取るとアロイスは剣を胸の前で垂直に立て声を発した。
「ラドフォール騎士団団長、アロイス・ド・ラドフォール、訓練施設責任者ポルデュラ・ド・ラドフォール、宣誓されし言の葉の証人となり誓いの儀式を執り行う」
アロイスが儀式の開始を告げると食堂は厳かな雰囲気に一変した。
静寂に包まれた食堂にアロイスの声が響き渡る。
「ブレン・ド・マデュラ、前へ」
「はっ!!!」
ブレンは一歩前へ出てアロイスの前で跪いた。
「セルジオ・ド・エステール、前へ」
「はっ!!!」
セルジオはふらつきを必死に抑え、ブレンの左横で跪いた。
ブレンはセルジオが跪くと声を上げた。
「古より続く青と赤の因縁を今この時を持ちて、永久に葬る終わりの始まりを誓う。我、ブレン・ド・マデュラ、セルジオ・ド・エステール、神の御名において、真の心をもちて宣誓する」
静まり返った食堂にブレンの力強い声が響いた。
カシャンッ!!!
アロイスが剣の切先をブレンの左肩に乗せる。
「ブレン・ド・マデュラ、その方の誓い、この剣において宣誓とす」
カシャンッ!!!
アロイスは次にセルジオの小さな左肩に剣を乗せた。
「セルジオ・ド・エステール、この剣においてブレン・ド・マデュラと共に宣誓とす」
シャンッ!!!
アロイスは胸の前に垂直に剣を戻すと声を上げた。
「今ここに、両名の宣誓、成し得た事と証する」
シャンッ!!!
アロイスが剣を高々と掲げた。
うおぉぉぉぉ!!!
うおぉぉぉぉ!!!
静まり返った食堂と食堂の外に集う者達が一斉に歓声を上げた。
うおぉぉぉぉ!!!
うおぉぉぉぉ!!!
感極まり左手を額に当て両肩を震わせ涙を流すブレンにポルデュラがそっと近づく。
「ブレン殿、これまでよう堪えましたな。青と赤の因縁の始まりの地で発した宣誓はこの先語り継がれる事じゃろう。じゃが、これからが大変じゃぞ。そなたの行い如何で今日のこの歓喜が悲嘆へと変わる。王国全土へマデュラの心意気を知らしめる事ができたその時、そなたは青と赤の因縁を終わらせたシュタイン王国の英雄となろう。そう言わしめるためには己が独りと思わず、皆の力を借りるのじゃ。我らラドフォールはそなたへの助力を惜しみはせぬ。よいな」
ブレンは微笑みを向けるポルデュラを仰ぎ見ると左手を胸に置いた。
「はっ!!!」
胸が詰まり言葉を発する事ができないブレンはしっかりとした呼応で返した。
アロイスは剣を鞘に収めるとブレンにセルジオを抱え、皆の歓喜に応える様、指示する。
ブレンは左隣で跪き、ブレンの顔を見上げるセルジオへ左手を差し出した。
「当代の青き血が流れるコマンドールに感謝を」
ブレンの言葉にセルジオは微笑みを向け呼応する。
「ブレン様、感謝もうします」
セルジオがブレンの首に両手を巻き付けるとブレンはすくっと立ち上がった。
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
その姿に歓声は大きさを増す。
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
ビリビリと建物を震わす程の歓声は商船入港を知らせる鐘の音が鳴るまで続いていた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
先週も更新を遅延し大変失礼を致しました。
青と赤の因縁の終わりの始まりを告げるブレン団長とセルジオの宣誓の回をポルデュラとアロイス揃っての立会でお送りしました。
当事者同士の単なる諍いでは済まされない古より伝わる因縁は、始まりの地で終わりの始まりを告げる事が何より効果的だとポルデュラは考えていたようです。
ラドフォール公爵家が全面的にバックアップする事で王国内に広がるマデュラへのバッシングを抑える狙いもあって、アロイスを同行させたポルデュラ。
読みの深さと水面下での根回しに惚れ惚れしました。
次回はいよいよ、本編最終話となります。
(その後のエピローグまでお付き合い頂けますと幸いです)
次回もよろしくお願い致します。
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