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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第150話 西の屋敷への帰還
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カコッカコッカコッ・・・・
カコッカコッカコッ・・・・
2頭の馬がゆっくりした歩調で街道を北へ進んでいた。
小川に掛かる石橋が見えてくるとバルドはセルジオに耳打ちする。
「セルジオ様、橋を渡った先に西の森が見えてきます。西の森を越えればセルジオ騎士団城塞西の屋敷です」
「承知した」
「オスカー殿、川辺で休憩と致しましょう」
バルドは後ろから同じようにゆったりと馬に揺られるオスカーに声を掛けた。
「承知致しました」
オスカーは呼応すると川辺へと続く街道脇の小道に入ったバルドの後に続いた。
茶褐色の絨毯が敷き詰められた小道はひんやりとした空気が漂い、季節が既に冬を迎えていると実感させられる。
昨年の10月24日にセルジオ騎士団城塞西の屋敷を出立してから14ヵ月、予定より2ヵ月遅れてセルジオ達一行は西の屋敷へ帰還する後一歩の所まできていた。
ブルルルル・・・・
小川で馬に水を与え馬留をするバルドとオスカーから離れ、セルジオとエリオスは大樹の下で昼食の準備をしていた。
最後の訪問先であるシャリシャス騎士団が治める村を出発する際に手渡された胡桃を練り込んだライ麦パンと干し肉が入った包を広げる。
「セルジオ様、水筒にブドウの果汁を入れて下さいました。杯をご用意頂けますか?」
「承知した」
2人がいそいそと昼食の準備をする姿にバルドとオスカーは微笑み合った。
「お二人とも、心身共にご成長されましたね。団長、ジグラン様もさぞ驚かれる事でしょう」
オスカーが目を潤ませながらポツリと呟いた。
「左様にて」
バルドは4人揃って無事に西の屋敷へ帰還できるこの状況を言葉にできない程の喜びと感じていた。
マデュラ騎士団で青と赤の因縁の終わりの始まりを宣誓後、残す5貴族騎士団の巡回に約半年を要した。
ポルデュラ、アロイス、2人の立会いの元宣誓された青と赤の因縁の終わりの始まりは瞬く間にシュタイン王国全土に広がった。
いや、王命により王国内外へ即刻通達することで、水面下で暗躍するセルジオ暗殺を企む輩を牽制したのだ。
その中にはセルジオの実父エステール伯爵現当主ハインリヒも含まれていた。
王命通達がなされたとはいえ思いの外、王国に張り巡らされている黒魔女の魔手がどう出るかは計り知れない。
当然、アロイスはラドフォール騎士団、影部隊に目を配らせたが、表立った護衛ができるわけではない。
その為、バルドとオスカーはできる限り影部隊の隠れ蓑であるラルフ商会が辿る道を後追いできるよう慎重に慎重を重ねた巡回行程に組み直した。
貴族騎士団城塞での滞在期間と目的はそのままに組み直されたこの策はバルドとオスカーの考え以上に思わぬ効果をもたらした。
マデュラ騎士団までの行程は騎士団城塞を中心にその近隣にある街や村に立ち寄る程度の他は道中の宿泊地としての滞在だった。
ラルフ商会は王国内外に商館を構えているから陸路と航路を使って各貴族領を隈なく行き来する。
季節によって使う街道を変え、運ぶ商品に合わせて街道を選ぶ等、王国の主要街道以外の各貴族所領の独自街道や農夫や人夫が使う農道や小道までを辿る事ができた。
街道の設置状況から所領の治め方、運営方法、領主と領民、騎士団との関係性までも垣間見ることができたのだ。
これらはバルドとオスカーがセルジオとエリオスに直に触れさる機会をできるだけ多く持ちたいと考えていた事だった。
他者の言動を観察する機会が増えた事でセルジオとエリオスは飛躍的に成長していった。
バルドとオスカーの言動を見て、自らのその時々の役割を判断する能力が格段に上がったのだ。
「オスカー殿、我らは幸せにございますね」
バルドはセルジオとエリオスの姿をじっと見つめながら呟いた。
「いついかなる時も主と共に歩め、成長を肌で感じ、我ら自身も成長できる。負傷し騎士団退団を余儀なくされた時、訓練施設同行従士に任ぜられた時、この様な喜びを感じる日がこようとは夢にも思いませんでした。オスカー殿、我らは幸せにございますね」
オスカーに向けられたバルドの表情は今まで目にしたことがない程、穏やかなものだった。
オスカーはバルドへ微笑みを向ける。
「はい、左様にて。我らは騎士や従士ではたどり着けぬ程の幸せ者にございます」
「「ふふふふ・・・・」」
バルドとオスカーは微笑み合った。
「バルド殿、オスカー、昼食の準備が整いましたよ。セルジオ様がお腹を空かせておられます。昼食に致しましょう」
エリオスが両手を挙げてバルドとオスカーを呼ぶ。
「「はい、ただ今」」
バルドとオスカーは呼応するとセルジオとエリオスの元へ小走りで向かった。
「エリオス、このライ麦パンはクルミが入っていて美味いな」
干し肉を挟んだライ麦パンを頬張りむしゃむしゃと大きく口を動かしながら食べるセルジオは近頃、食欲旺盛だ。
元々食が細い上に食事の選好みが激しかったセルジオはオーロラに解毒の浄化を受けてから一変した。
選好みせずによく食べ、よく眠る様になった。
ひょろひょろとした細身の身体は、みるみる肉付きがよくなり今では健康そのものに見える。
「西の屋敷に戻りましたら料理長のオットー殿に作って頂きましょう」
大樹を背にしたエリオスがセルジオの食べる姿をニコニコ顔で眺めながら呼応した。
サアァァァァ・・・・
川面から風が舞い上がり、やっと肩までのびたエリオスの金色の髪を揺らした。
『セルジオ様・・・・私はいつも、いつまでも、あなた様のお傍におります故、ご案じなさいますな・・・・我が・・・・あ・・・・』
セルジオの耳に初代セルジオの時代のエリオスの最期の言葉が木魂した。
セルジオは食むのを止めてじっとエリオスを見つめる。
初代セルジオが鎮ずかな眠りにつく前の様な胸の底から溢れ出る濃紺の塊を感じない事を確かめた。
「セルジオ様?いかがなさいましたか?」
エリオスが動きを止めたセルジオに不思議そうに問いかけるとバルドとオスカーはセルジオの様子を注視した。
セルジオは3人の様子に「ふっ」と一つ息を吐く。
「大事ない。案ずるな。暴れ出したりはせぬ。風がエリオスの髪を揺らすのを見たら・・・・ジェイド子爵領で目にした初代様の時代のエリオスの声が聞こえた気がしただけだ。それだけだ・・・・何も起こらぬ。バルドもオスカーも案ずるな」
「・・・・」
バルドとオスカーはセルジオの言葉に胸を撫で下ろす一方でエリオスへ目を向けた。
初代セルジオの時代、野盗に扮したマデュラ騎士団に襲撃されたセルジオの身代わりとなり絶命したその時代のエリオスの碑がジェイド子爵領に建てられていた。
初代セルジオが追憶の中で見せた情景のままに大樹の周りに白ユリが群生しているエンジェラ河河岸のその場所は、王国を黒魔女の魔手から救った青き血が流れるコマンドールの守護の騎士エリオスが絶命した場所として語り継がれていた。
エリオスはその場所で「セルジオ様と共にエステールの城に帰りたかった」と叫び声を上げ号泣し気を失った。
目覚めた時、エリオスはその時の記憶を失っていた。
オスカーは感情を残したままこの場に100有余年、留まり続けたかつてのエリオスの最期の望みだったのではないかとエリオスを抱き締めた。
「・・・・そう・・・・ですか・・・・」
エリオスは呟く様にセルジオに呼応する。
「私はその場での事が思い出せなく・・・・」
セルジオの話しに同調できない事を申し訳なさそうに呟いた。
「よいのだ。エリオスには不要の記憶なのだ。今の我らは今の我らのままでよいのだ」
意気消沈するエリオスにセルジオは己に言い聞かせる様に力強く告げた。
オスカーはそんな2人に微笑みを向ける。
「セルジオ様、エリオス様、過去を共に辿り、過去を清め、過去を忘れて、我らは今を生かされているのです。我らはこの1年で100有余年前の出来事を垣間見、伝わる因縁の終わりの始まりを見届けたのです。これよりは今この時を存分に懸命に生きましょう。初代様もその時代のエリオス様もその様にお望みかと思います。過去に囚われるなと」
オスカーは目を潤ませた。
「オスカー殿の申される通りにございます。さっ、これよりはまず、西の屋敷への帰還です。団長、ジグラン様が首を長くしてお待ちにございますよ」
バルドは立ち上がり、パンパンっと衣服を整えた。
セルジオはバルドに倣い勢いよく立ち上がる。
「そうだなっ!今宵は西の屋敷でオットーの焼き菓子が食せるなっ!バルド、急ごう」
「はっ!」
急に行動を起こした2人をエリオスは唖然と見つめていた。
「エリオス様、後れを取ってしまわれますよ。さっ、片付けましょう」
オスカーはエリオスの肩にそっと手を添える。
「わかった・・・・オスカー、セルジオ様は・・・・その、何というか、大きくなられたな」
オスカーに驚いた顔を向けエリオスは呟いた。
「ふふふ・・・・左様にございますね。ご安心下さい。エリオス様もセルジオ様に劣らぬ程に大きくなられましたよ」
敷物をサッサと器用に畳み、麻袋に仕舞うとあっいう間にバルドに抱えられ馬に跨るセルジオを見つめるエリオスにオスカーは呼応した。
「エリオス、オスカー、出発するぞ」
セルジオが大声を上げる。
「エリオス様、さぁ我らも参りましょう」
「承知した」
「セルジオ様、バルド殿、ただ今参ります」
エリオスは呼応するとオスカーと共に馬に跨り、セルジオとバルドの後を追った。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
「とある騎士の遠い記憶」第3章最終話となりました。
ここまでお付き合い頂きました事、御礼申し上げます。ありがとうございます。
セルジオ騎士団城塞、西の屋敷への帰還一歩手前での成長した4人の姿の回でした。
この14ヵ月の旅路は4人にとって忘れられない時間で、この先二度と訪れない共に過ごせる時間でもありました。
どんな過酷な宿命を背負おうとも決して諦めない強さを持ちたいと改めて思います。
次回のエピローグで第3章完結となります。
次回もどうぞ、よろしくお願い致します。
カコッカコッカコッ・・・・
2頭の馬がゆっくりした歩調で街道を北へ進んでいた。
小川に掛かる石橋が見えてくるとバルドはセルジオに耳打ちする。
「セルジオ様、橋を渡った先に西の森が見えてきます。西の森を越えればセルジオ騎士団城塞西の屋敷です」
「承知した」
「オスカー殿、川辺で休憩と致しましょう」
バルドは後ろから同じようにゆったりと馬に揺られるオスカーに声を掛けた。
「承知致しました」
オスカーは呼応すると川辺へと続く街道脇の小道に入ったバルドの後に続いた。
茶褐色の絨毯が敷き詰められた小道はひんやりとした空気が漂い、季節が既に冬を迎えていると実感させられる。
昨年の10月24日にセルジオ騎士団城塞西の屋敷を出立してから14ヵ月、予定より2ヵ月遅れてセルジオ達一行は西の屋敷へ帰還する後一歩の所まできていた。
ブルルルル・・・・
小川で馬に水を与え馬留をするバルドとオスカーから離れ、セルジオとエリオスは大樹の下で昼食の準備をしていた。
最後の訪問先であるシャリシャス騎士団が治める村を出発する際に手渡された胡桃を練り込んだライ麦パンと干し肉が入った包を広げる。
「セルジオ様、水筒にブドウの果汁を入れて下さいました。杯をご用意頂けますか?」
「承知した」
2人がいそいそと昼食の準備をする姿にバルドとオスカーは微笑み合った。
「お二人とも、心身共にご成長されましたね。団長、ジグラン様もさぞ驚かれる事でしょう」
オスカーが目を潤ませながらポツリと呟いた。
「左様にて」
バルドは4人揃って無事に西の屋敷へ帰還できるこの状況を言葉にできない程の喜びと感じていた。
マデュラ騎士団で青と赤の因縁の終わりの始まりを宣誓後、残す5貴族騎士団の巡回に約半年を要した。
ポルデュラ、アロイス、2人の立会いの元宣誓された青と赤の因縁の終わりの始まりは瞬く間にシュタイン王国全土に広がった。
いや、王命により王国内外へ即刻通達することで、水面下で暗躍するセルジオ暗殺を企む輩を牽制したのだ。
その中にはセルジオの実父エステール伯爵現当主ハインリヒも含まれていた。
王命通達がなされたとはいえ思いの外、王国に張り巡らされている黒魔女の魔手がどう出るかは計り知れない。
当然、アロイスはラドフォール騎士団、影部隊に目を配らせたが、表立った護衛ができるわけではない。
その為、バルドとオスカーはできる限り影部隊の隠れ蓑であるラルフ商会が辿る道を後追いできるよう慎重に慎重を重ねた巡回行程に組み直した。
貴族騎士団城塞での滞在期間と目的はそのままに組み直されたこの策はバルドとオスカーの考え以上に思わぬ効果をもたらした。
マデュラ騎士団までの行程は騎士団城塞を中心にその近隣にある街や村に立ち寄る程度の他は道中の宿泊地としての滞在だった。
ラルフ商会は王国内外に商館を構えているから陸路と航路を使って各貴族領を隈なく行き来する。
季節によって使う街道を変え、運ぶ商品に合わせて街道を選ぶ等、王国の主要街道以外の各貴族所領の独自街道や農夫や人夫が使う農道や小道までを辿る事ができた。
街道の設置状況から所領の治め方、運営方法、領主と領民、騎士団との関係性までも垣間見ることができたのだ。
これらはバルドとオスカーがセルジオとエリオスに直に触れさる機会をできるだけ多く持ちたいと考えていた事だった。
他者の言動を観察する機会が増えた事でセルジオとエリオスは飛躍的に成長していった。
バルドとオスカーの言動を見て、自らのその時々の役割を判断する能力が格段に上がったのだ。
「オスカー殿、我らは幸せにございますね」
バルドはセルジオとエリオスの姿をじっと見つめながら呟いた。
「いついかなる時も主と共に歩め、成長を肌で感じ、我ら自身も成長できる。負傷し騎士団退団を余儀なくされた時、訓練施設同行従士に任ぜられた時、この様な喜びを感じる日がこようとは夢にも思いませんでした。オスカー殿、我らは幸せにございますね」
オスカーに向けられたバルドの表情は今まで目にしたことがない程、穏やかなものだった。
オスカーはバルドへ微笑みを向ける。
「はい、左様にて。我らは騎士や従士ではたどり着けぬ程の幸せ者にございます」
「「ふふふふ・・・・」」
バルドとオスカーは微笑み合った。
「バルド殿、オスカー、昼食の準備が整いましたよ。セルジオ様がお腹を空かせておられます。昼食に致しましょう」
エリオスが両手を挙げてバルドとオスカーを呼ぶ。
「「はい、ただ今」」
バルドとオスカーは呼応するとセルジオとエリオスの元へ小走りで向かった。
「エリオス、このライ麦パンはクルミが入っていて美味いな」
干し肉を挟んだライ麦パンを頬張りむしゃむしゃと大きく口を動かしながら食べるセルジオは近頃、食欲旺盛だ。
元々食が細い上に食事の選好みが激しかったセルジオはオーロラに解毒の浄化を受けてから一変した。
選好みせずによく食べ、よく眠る様になった。
ひょろひょろとした細身の身体は、みるみる肉付きがよくなり今では健康そのものに見える。
「西の屋敷に戻りましたら料理長のオットー殿に作って頂きましょう」
大樹を背にしたエリオスがセルジオの食べる姿をニコニコ顔で眺めながら呼応した。
サアァァァァ・・・・
川面から風が舞い上がり、やっと肩までのびたエリオスの金色の髪を揺らした。
『セルジオ様・・・・私はいつも、いつまでも、あなた様のお傍におります故、ご案じなさいますな・・・・我が・・・・あ・・・・』
セルジオの耳に初代セルジオの時代のエリオスの最期の言葉が木魂した。
セルジオは食むのを止めてじっとエリオスを見つめる。
初代セルジオが鎮ずかな眠りにつく前の様な胸の底から溢れ出る濃紺の塊を感じない事を確かめた。
「セルジオ様?いかがなさいましたか?」
エリオスが動きを止めたセルジオに不思議そうに問いかけるとバルドとオスカーはセルジオの様子を注視した。
セルジオは3人の様子に「ふっ」と一つ息を吐く。
「大事ない。案ずるな。暴れ出したりはせぬ。風がエリオスの髪を揺らすのを見たら・・・・ジェイド子爵領で目にした初代様の時代のエリオスの声が聞こえた気がしただけだ。それだけだ・・・・何も起こらぬ。バルドもオスカーも案ずるな」
「・・・・」
バルドとオスカーはセルジオの言葉に胸を撫で下ろす一方でエリオスへ目を向けた。
初代セルジオの時代、野盗に扮したマデュラ騎士団に襲撃されたセルジオの身代わりとなり絶命したその時代のエリオスの碑がジェイド子爵領に建てられていた。
初代セルジオが追憶の中で見せた情景のままに大樹の周りに白ユリが群生しているエンジェラ河河岸のその場所は、王国を黒魔女の魔手から救った青き血が流れるコマンドールの守護の騎士エリオスが絶命した場所として語り継がれていた。
エリオスはその場所で「セルジオ様と共にエステールの城に帰りたかった」と叫び声を上げ号泣し気を失った。
目覚めた時、エリオスはその時の記憶を失っていた。
オスカーは感情を残したままこの場に100有余年、留まり続けたかつてのエリオスの最期の望みだったのではないかとエリオスを抱き締めた。
「・・・・そう・・・・ですか・・・・」
エリオスは呟く様にセルジオに呼応する。
「私はその場での事が思い出せなく・・・・」
セルジオの話しに同調できない事を申し訳なさそうに呟いた。
「よいのだ。エリオスには不要の記憶なのだ。今の我らは今の我らのままでよいのだ」
意気消沈するエリオスにセルジオは己に言い聞かせる様に力強く告げた。
オスカーはそんな2人に微笑みを向ける。
「セルジオ様、エリオス様、過去を共に辿り、過去を清め、過去を忘れて、我らは今を生かされているのです。我らはこの1年で100有余年前の出来事を垣間見、伝わる因縁の終わりの始まりを見届けたのです。これよりは今この時を存分に懸命に生きましょう。初代様もその時代のエリオス様もその様にお望みかと思います。過去に囚われるなと」
オスカーは目を潤ませた。
「オスカー殿の申される通りにございます。さっ、これよりはまず、西の屋敷への帰還です。団長、ジグラン様が首を長くしてお待ちにございますよ」
バルドは立ち上がり、パンパンっと衣服を整えた。
セルジオはバルドに倣い勢いよく立ち上がる。
「そうだなっ!今宵は西の屋敷でオットーの焼き菓子が食せるなっ!バルド、急ごう」
「はっ!」
急に行動を起こした2人をエリオスは唖然と見つめていた。
「エリオス様、後れを取ってしまわれますよ。さっ、片付けましょう」
オスカーはエリオスの肩にそっと手を添える。
「わかった・・・・オスカー、セルジオ様は・・・・その、何というか、大きくなられたな」
オスカーに驚いた顔を向けエリオスは呟いた。
「ふふふ・・・・左様にございますね。ご安心下さい。エリオス様もセルジオ様に劣らぬ程に大きくなられましたよ」
敷物をサッサと器用に畳み、麻袋に仕舞うとあっいう間にバルドに抱えられ馬に跨るセルジオを見つめるエリオスにオスカーは呼応した。
「エリオス、オスカー、出発するぞ」
セルジオが大声を上げる。
「エリオス様、さぁ我らも参りましょう」
「承知した」
「セルジオ様、バルド殿、ただ今参ります」
エリオスは呼応するとオスカーと共に馬に跨り、セルジオとバルドの後を追った。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
「とある騎士の遠い記憶」第3章最終話となりました。
ここまでお付き合い頂きました事、御礼申し上げます。ありがとうございます。
セルジオ騎士団城塞、西の屋敷への帰還一歩手前での成長した4人の姿の回でした。
この14ヵ月の旅路は4人にとって忘れられない時間で、この先二度と訪れない共に過ごせる時間でもありました。
どんな過酷な宿命を背負おうとも決して諦めない強さを持ちたいと改めて思います。
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