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第16話 ハイノの誓い
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トクットクットクッ・・・・
トクットクットクッ・・・・
ハイノは赤黒くうずめく人形の影から赤黒く伸びてきた剣の様な靄に切り裂かれた己の両足首へ眼をやった。
真っ赤な血液がトクトクと鼓動と共に流れ出てはいるが痛みはほとんど感じられない。
流れ出る血液で八芒星の魔法陣が徐々に色濃く縁取られていく。
暫くすると流れ出る血液を八芒星の魔法陣が吸い込む様な音が響いた。
ズッズッズッ!!!
ズッズッズッ!!!
身体がゆらゆらと揺れ瞼が重たく感じる。
「ハイノっ!・・・・」
バチッ!!
マルギットの叫び声に顔を上げた。
マルギットが左手を伸ばし駆け寄ろうとして何かに弾き飛ばされているのが目に入った。
(!!マルギット!!!)
マルギットの名を呼ぶがもはや声にはならなかった。
目の前でマルギットが赤黒い影に羽交い絞めにされている。
助けたい一心で身体を動かそうとするが力が入らず自由もきかない。
マルギットの姿が徐々に薄れていく。
『あぁ、マルギット・・・・・助けてやれずにすまぬ。また、私はそなたの傍にいながら何もしてやれぬ・・・・マルギット・・・・マルギット・・・・』
声にならない声でマルギットの名を何度も何度も呼んだ。
薄れゆく意識の中でハイノの眼に初めてマルギットと会った日の事がありありと蘇った。
『・・・・マル・・・・ギッ・・・・ト・・・・』
ホンギャー
ホンギャー
その日はハイノが9歳の誕生日を迎えて一月後の良く晴れた夏の日だった。
ハイノが5歳の誕生日を迎えて直ぐに王家星読みにより縁が結ばれた。
5年の後にマデュラ子爵家に生まれる第一子と伴侶となることが決まった。
トリフェン子爵家第三子として生を受けたハイノは7歳を迎えるとマデュラ子爵家に居を移した。
この先2年後に生まれてくる次期当主の伴侶となるためマデュラ子爵家で教育を受け、その家名になじむ様にまた、当主の伴侶として相応しく育てられるためだ。
ハイノはブロンズ色の髪に灰色の瞳、端正な顔立ちの利発そうな男子であった。
マデュラ子爵家当主と夫人はハイノを大層気に入り、まるで我が子の様に接した。
マデュラ子爵家に居を移し2年が経つころ、王家星読みの予見通り、第一子が生まれた。
次期当主となる第一子が生まれるとどこの家名も盛大な宴が催されるのが常だった。
だが、マデュラ子爵家は普段より豪華な品が並ぶだけで家名の者だけの静かな晩餐だった。
しかも、なかなか生まれた次期当主のお披露目がされない。
王家星読みによって縁が結ばれた婚約者のハイノでさえも生まれて一月も経つというのにまだ一度も会わせてはもらえなかった。
子供ながらにハイノは違和感を覚えていた。
『人目を憚る何かがあるのだろうか・・・・』
思い当たるとすればマデュラ子爵家の家名についてまわる逸話だった。
「罪人の家名」「裏切り者の家名」・・・・
かつて100有余年前、マデュラ子爵家に黒魔術を操る当主がいた。
赤い髪、緋色の瞳が妖しく光り、その妖艶さは多くの者の心を惑わせたそうだ。
名はマルギット。そして、その名はマデュラ家名が起こりし時から引き継がれているものだった。
赤い髪、緋色の瞳を持つ女子が生まれたならば名を『マルギット』とすること。
そして、シュタイン王国の成り立ちと歴史を学ぶ際に必ず伝えられる逸話がある。
マデュラ子爵家騎士団団長ギャロットとエステール伯爵家騎士団団長初代セルジオの確執だった。
マデュラ子爵家がシュタイン王国の滅亡を目論み、その行いを防いだのがエステール伯爵家の騎士団団長だったという逸話だ。
正義と悪がぶつかり合う、おとぎ話の様な逸話はシュタイン王国内で知らぬ者がなかった。
ハイノは第一子が生まれても盛大な宴が催されないこと、当主と夫人、夫人付の女官のみしかその姿を見る事が許されないことから生まれた子は赤い髪、緋色の瞳であったのではと推察していた。
「生まれながらにして罪人の家名の血を色濃く引き継いだと言われてしまうのだろうな・・・・逸話は逸話であるのに・・・・」
語り継がれる逸話を思い返しハイノはポツリと呟いた。
「それでも私は婚約者だ。そして、この先伴侶となるのだ。何があろうと私が守って差し上げねばならぬっ!」
ハイノは非常に穏やかな性質だった。
穏やか過ぎることからマデュラ子爵家家名の中には次期当主の伴侶として役目を担う事ができるのかと懸念する声もあるほどだった。
しかし、マデュラ子爵家当主と夫人は表面上は穏やかであっても意志を貫く強さを持ち合わせていると家名から上がる懸念の声を払拭しものともしなかった。
マデュラ子爵家第一子が生まれて3ヶ月が経った頃、ハイノは当主から執務室へくる様、言われた。
トンットンットンッ
執務室の扉を叩くと用向きを述べる。
「ハイノにございます。ご当主様よりお声がかかりまかり越しました」
執務室に呼ばれた際は義父上とは呼ばない、当主と言うのだと教わっていた。
「入りなさい」
ギイィィィ
マデュラ子爵家当主フリッツの声と共に内側から扉が開かれた。
「失礼を致します」
ハイノは入口で一礼すると執務室へ足を踏み入れた。
「ハイノ、呼び立てしてすまぬな。授業中であったろう?」
義父フリッツは優しい微笑みと共にハイノを招き入れた。
「いえ、丁度、終わる時間でもありましたので大事ございません」
ハイノは歯切れよく呼応した。
「そうか。それならばよかった」
義父フリッツはハイノへ歩み寄るとそっと背中から左肩に手をかけ、執務室の隣室へと誘った。
「ルル、入るぞ」
ガチャ
義父フリッツは一言声を掛けると隣室の扉を開けた。
隣室の中央に小さなベッドが置かれていた。
ベッドの横に置かれた長椅子に腰かけるマデュラ子爵夫人、義母のルルがハイノを目にすると微笑みを向けた。
「ハイノ、お待たせしたわね。やっとこの日を迎える事ができたわ」
にこやかに微笑みを向ける義母ルルの眼はどことなく哀し気に見えた。
フリッツがハイノの背中を押し、共にベッドへ歩み寄る。
「ハイノ、そなたの婚約者マルギットだ。さっ、近くで顔を見せてやってくれ」
「・・・・はい・・・・」
小さな声で呼応するとハイノはベッドへ歩み寄った。
ルルが長椅子から立ち上がり「こちらへ」と腰かけていた場所を薦める。
ハイノはそろりとベッドへ近づいた。
「・・・・あぁぁ・・・・あぶぅ・・・・」
ベッドへ近づくと真っ白な衣に身を包んだ赤い髪、緋色の瞳をした小さな小さな赤子がハイノへ両手を伸ばしてきた。
「あぶぅ・・・・」
そろりそろりと小さな赤子に近づき、伸ばされた両手にそっと左手を差し出した。
ギュッ!!!!
小さな両手が差し出した左手の人差し指を握った。
小さな小さな手でギュッと握られた左手の人差し指が温かく感じる。
「あぶぅ・・・・きゃはっ・・・・」
左手の人差し指を握ったまま小さな赤子は満面の笑みをハイノに向けた。
ドキリッ!!!!
ハイノは鼓動が大きく波打つのを感じた。
ドキッドキッドキッ・・・・
己の左手人差し指を離さずにじっと見つめ、何やらひとり言を発している。
ドキッドキッドキッ・・・・
その姿があまりに愛らしく自然に頬がほころんだ。
フリッツとルルは目を細め、ハイノとマルギットと見つめていた。
ハイノはそのままの体勢で義父と義母へ顔を向ける。
「義父様、義母様、マルギットに触れてもよいですか?」
フリッツとルルはハイノに微笑みを向けると呼応した。
「もちろん、構わないわ」
ハイノは義両親の許しを得ると赤い髪の頭にそっと右手で触れた。
「柔らかい・・・・」
ハイノの左手人差し指と戯れていたマルギットは頭を触られると上目遣いで右手を見る。
左手人差し指を離し、頭に置かれた右手首を小さな両手で掴んだ。
「あぶぶぅ・・・・きゃはっ・・・・」
また一つ愛らしく笑う。
ハイノは右手をそっと頭から左頬へはわせると緋色の瞳をじっと見つめた。
「はじめまして、マルギット。私はハイノ・ド・マデュラです。将来の伴侶です。はじめて会いましたが初めてではない気がしています。とても、とても愛らしいお姿に一瞬で虜になりました。私はここで誓います。マルギット、いついかなる時も何があろうとも私はマルギットと共にあります。この身が滅びようともこの命がつきようともこの先マルギットの傍を離れることはありません。どんな困難が待ち受けようとも一緒に受け入れ、乗り越えていきましょう。そして、この身が滅びるまで、共に眠り、共に目覚め、手を取り合い、領地を治め、喜びと悲しみを分かち合い、見つめ合いながら生きていくことを誓います。マルギット、私ハイノ・ド・マデュラはここに誓います。マルギットを未来永劫愛する事を誓います」
ハイノは誓いの言葉を述べると小さなマルギットの額にそっと口づけをした。
「あぶぅぅ・・・・あふぅぅ・・・・」
小さなマルギットはハイノの誓いに呼応している様だった。
ズッズッズッ!!!
ズッズッズッ!!!
八芒星の魔法陣に身体の全てが吸い込まれていくような感覚だった。
フワリッ・・・・・
突然に身体が軽く感じられた。
マルギットを見ると八芒星の魔法陣の中央で倒れ込んでいた。
マルギットの助けを呼ぶ声が聞えた。
「うっ!!!痛いっ!!!ハイノっ!!ハイノっ!!!助けて!!!」
ハイノは横たわるマルギットの身体に吸い寄せられる様に左手を伸ばした。
赤黒い闇の中でマルギットがもがき苦しんでいるのが見えた。
軽い身体を赤黒い闇の中で泳がせマルギットへ近づく。
耳元でそっと名前を呼んだ。
「マルギット・・・・」
「ハっハイノっ!!生きていたの?ハイノっ!!」
伸ばされたマルギットの両手を取り、そっと抱き寄せる。
静かにゆっくりと赤黒い闇の底へ落ちていく。
「マルギット、約束したであろう?この身が滅びようとも命がつきようとも私はそなたの傍にいると」
初めて会ったあの日に誓った言葉をもう一度伝えるとマルギットを抱きしめ共に深淵へと落ちていく。
抱きしめたマルギットが愛おしくてたまらない。
「マルギット、愛おしいマルギット、今一度ここで誓うぞ。この身が滅びようともこの命がつきようともこの先マルギットの傍を離れはしない。どんな困難が待ち受けようとも共に受け入れ、乗り越える。この身が滅びようと、共に眠り、共に目覚め、手を取り合い、喜びと悲しみを分かち合い、見つめ合いながら生きていく。たとえそれがどこであっても。マルギット、未来永劫そなたを愛する事を誓うぞ」
緑色の光と赤い光が2人を包み込む。
ハイノは己の誓いとマルギットと共にマルギットの深淵深くへ落ちていくのだった。
トクットクットクッ・・・・
ハイノは赤黒くうずめく人形の影から赤黒く伸びてきた剣の様な靄に切り裂かれた己の両足首へ眼をやった。
真っ赤な血液がトクトクと鼓動と共に流れ出てはいるが痛みはほとんど感じられない。
流れ出る血液で八芒星の魔法陣が徐々に色濃く縁取られていく。
暫くすると流れ出る血液を八芒星の魔法陣が吸い込む様な音が響いた。
ズッズッズッ!!!
ズッズッズッ!!!
身体がゆらゆらと揺れ瞼が重たく感じる。
「ハイノっ!・・・・」
バチッ!!
マルギットの叫び声に顔を上げた。
マルギットが左手を伸ばし駆け寄ろうとして何かに弾き飛ばされているのが目に入った。
(!!マルギット!!!)
マルギットの名を呼ぶがもはや声にはならなかった。
目の前でマルギットが赤黒い影に羽交い絞めにされている。
助けたい一心で身体を動かそうとするが力が入らず自由もきかない。
マルギットの姿が徐々に薄れていく。
『あぁ、マルギット・・・・・助けてやれずにすまぬ。また、私はそなたの傍にいながら何もしてやれぬ・・・・マルギット・・・・マルギット・・・・』
声にならない声でマルギットの名を何度も何度も呼んだ。
薄れゆく意識の中でハイノの眼に初めてマルギットと会った日の事がありありと蘇った。
『・・・・マル・・・・ギッ・・・・ト・・・・』
ホンギャー
ホンギャー
その日はハイノが9歳の誕生日を迎えて一月後の良く晴れた夏の日だった。
ハイノが5歳の誕生日を迎えて直ぐに王家星読みにより縁が結ばれた。
5年の後にマデュラ子爵家に生まれる第一子と伴侶となることが決まった。
トリフェン子爵家第三子として生を受けたハイノは7歳を迎えるとマデュラ子爵家に居を移した。
この先2年後に生まれてくる次期当主の伴侶となるためマデュラ子爵家で教育を受け、その家名になじむ様にまた、当主の伴侶として相応しく育てられるためだ。
ハイノはブロンズ色の髪に灰色の瞳、端正な顔立ちの利発そうな男子であった。
マデュラ子爵家当主と夫人はハイノを大層気に入り、まるで我が子の様に接した。
マデュラ子爵家に居を移し2年が経つころ、王家星読みの予見通り、第一子が生まれた。
次期当主となる第一子が生まれるとどこの家名も盛大な宴が催されるのが常だった。
だが、マデュラ子爵家は普段より豪華な品が並ぶだけで家名の者だけの静かな晩餐だった。
しかも、なかなか生まれた次期当主のお披露目がされない。
王家星読みによって縁が結ばれた婚約者のハイノでさえも生まれて一月も経つというのにまだ一度も会わせてはもらえなかった。
子供ながらにハイノは違和感を覚えていた。
『人目を憚る何かがあるのだろうか・・・・』
思い当たるとすればマデュラ子爵家の家名についてまわる逸話だった。
「罪人の家名」「裏切り者の家名」・・・・
かつて100有余年前、マデュラ子爵家に黒魔術を操る当主がいた。
赤い髪、緋色の瞳が妖しく光り、その妖艶さは多くの者の心を惑わせたそうだ。
名はマルギット。そして、その名はマデュラ家名が起こりし時から引き継がれているものだった。
赤い髪、緋色の瞳を持つ女子が生まれたならば名を『マルギット』とすること。
そして、シュタイン王国の成り立ちと歴史を学ぶ際に必ず伝えられる逸話がある。
マデュラ子爵家騎士団団長ギャロットとエステール伯爵家騎士団団長初代セルジオの確執だった。
マデュラ子爵家がシュタイン王国の滅亡を目論み、その行いを防いだのがエステール伯爵家の騎士団団長だったという逸話だ。
正義と悪がぶつかり合う、おとぎ話の様な逸話はシュタイン王国内で知らぬ者がなかった。
ハイノは第一子が生まれても盛大な宴が催されないこと、当主と夫人、夫人付の女官のみしかその姿を見る事が許されないことから生まれた子は赤い髪、緋色の瞳であったのではと推察していた。
「生まれながらにして罪人の家名の血を色濃く引き継いだと言われてしまうのだろうな・・・・逸話は逸話であるのに・・・・」
語り継がれる逸話を思い返しハイノはポツリと呟いた。
「それでも私は婚約者だ。そして、この先伴侶となるのだ。何があろうと私が守って差し上げねばならぬっ!」
ハイノは非常に穏やかな性質だった。
穏やか過ぎることからマデュラ子爵家家名の中には次期当主の伴侶として役目を担う事ができるのかと懸念する声もあるほどだった。
しかし、マデュラ子爵家当主と夫人は表面上は穏やかであっても意志を貫く強さを持ち合わせていると家名から上がる懸念の声を払拭しものともしなかった。
マデュラ子爵家第一子が生まれて3ヶ月が経った頃、ハイノは当主から執務室へくる様、言われた。
トンットンットンッ
執務室の扉を叩くと用向きを述べる。
「ハイノにございます。ご当主様よりお声がかかりまかり越しました」
執務室に呼ばれた際は義父上とは呼ばない、当主と言うのだと教わっていた。
「入りなさい」
ギイィィィ
マデュラ子爵家当主フリッツの声と共に内側から扉が開かれた。
「失礼を致します」
ハイノは入口で一礼すると執務室へ足を踏み入れた。
「ハイノ、呼び立てしてすまぬな。授業中であったろう?」
義父フリッツは優しい微笑みと共にハイノを招き入れた。
「いえ、丁度、終わる時間でもありましたので大事ございません」
ハイノは歯切れよく呼応した。
「そうか。それならばよかった」
義父フリッツはハイノへ歩み寄るとそっと背中から左肩に手をかけ、執務室の隣室へと誘った。
「ルル、入るぞ」
ガチャ
義父フリッツは一言声を掛けると隣室の扉を開けた。
隣室の中央に小さなベッドが置かれていた。
ベッドの横に置かれた長椅子に腰かけるマデュラ子爵夫人、義母のルルがハイノを目にすると微笑みを向けた。
「ハイノ、お待たせしたわね。やっとこの日を迎える事ができたわ」
にこやかに微笑みを向ける義母ルルの眼はどことなく哀し気に見えた。
フリッツがハイノの背中を押し、共にベッドへ歩み寄る。
「ハイノ、そなたの婚約者マルギットだ。さっ、近くで顔を見せてやってくれ」
「・・・・はい・・・・」
小さな声で呼応するとハイノはベッドへ歩み寄った。
ルルが長椅子から立ち上がり「こちらへ」と腰かけていた場所を薦める。
ハイノはそろりとベッドへ近づいた。
「・・・・あぁぁ・・・・あぶぅ・・・・」
ベッドへ近づくと真っ白な衣に身を包んだ赤い髪、緋色の瞳をした小さな小さな赤子がハイノへ両手を伸ばしてきた。
「あぶぅ・・・・」
そろりそろりと小さな赤子に近づき、伸ばされた両手にそっと左手を差し出した。
ギュッ!!!!
小さな両手が差し出した左手の人差し指を握った。
小さな小さな手でギュッと握られた左手の人差し指が温かく感じる。
「あぶぅ・・・・きゃはっ・・・・」
左手の人差し指を握ったまま小さな赤子は満面の笑みをハイノに向けた。
ドキリッ!!!!
ハイノは鼓動が大きく波打つのを感じた。
ドキッドキッドキッ・・・・
己の左手人差し指を離さずにじっと見つめ、何やらひとり言を発している。
ドキッドキッドキッ・・・・
その姿があまりに愛らしく自然に頬がほころんだ。
フリッツとルルは目を細め、ハイノとマルギットと見つめていた。
ハイノはそのままの体勢で義父と義母へ顔を向ける。
「義父様、義母様、マルギットに触れてもよいですか?」
フリッツとルルはハイノに微笑みを向けると呼応した。
「もちろん、構わないわ」
ハイノは義両親の許しを得ると赤い髪の頭にそっと右手で触れた。
「柔らかい・・・・」
ハイノの左手人差し指と戯れていたマルギットは頭を触られると上目遣いで右手を見る。
左手人差し指を離し、頭に置かれた右手首を小さな両手で掴んだ。
「あぶぶぅ・・・・きゃはっ・・・・」
また一つ愛らしく笑う。
ハイノは右手をそっと頭から左頬へはわせると緋色の瞳をじっと見つめた。
「はじめまして、マルギット。私はハイノ・ド・マデュラです。将来の伴侶です。はじめて会いましたが初めてではない気がしています。とても、とても愛らしいお姿に一瞬で虜になりました。私はここで誓います。マルギット、いついかなる時も何があろうとも私はマルギットと共にあります。この身が滅びようともこの命がつきようともこの先マルギットの傍を離れることはありません。どんな困難が待ち受けようとも一緒に受け入れ、乗り越えていきましょう。そして、この身が滅びるまで、共に眠り、共に目覚め、手を取り合い、領地を治め、喜びと悲しみを分かち合い、見つめ合いながら生きていくことを誓います。マルギット、私ハイノ・ド・マデュラはここに誓います。マルギットを未来永劫愛する事を誓います」
ハイノは誓いの言葉を述べると小さなマルギットの額にそっと口づけをした。
「あぶぅぅ・・・・あふぅぅ・・・・」
小さなマルギットはハイノの誓いに呼応している様だった。
ズッズッズッ!!!
ズッズッズッ!!!
八芒星の魔法陣に身体の全てが吸い込まれていくような感覚だった。
フワリッ・・・・・
突然に身体が軽く感じられた。
マルギットを見ると八芒星の魔法陣の中央で倒れ込んでいた。
マルギットの助けを呼ぶ声が聞えた。
「うっ!!!痛いっ!!!ハイノっ!!ハイノっ!!!助けて!!!」
ハイノは横たわるマルギットの身体に吸い寄せられる様に左手を伸ばした。
赤黒い闇の中でマルギットがもがき苦しんでいるのが見えた。
軽い身体を赤黒い闇の中で泳がせマルギットへ近づく。
耳元でそっと名前を呼んだ。
「マルギット・・・・」
「ハっハイノっ!!生きていたの?ハイノっ!!」
伸ばされたマルギットの両手を取り、そっと抱き寄せる。
静かにゆっくりと赤黒い闇の底へ落ちていく。
「マルギット、約束したであろう?この身が滅びようとも命がつきようとも私はそなたの傍にいると」
初めて会ったあの日に誓った言葉をもう一度伝えるとマルギットを抱きしめ共に深淵へと落ちていく。
抱きしめたマルギットが愛おしくてたまらない。
「マルギット、愛おしいマルギット、今一度ここで誓うぞ。この身が滅びようともこの命がつきようともこの先マルギットの傍を離れはしない。どんな困難が待ち受けようとも共に受け入れ、乗り越える。この身が滅びようと、共に眠り、共に目覚め、手を取り合い、喜びと悲しみを分かち合い、見つめ合いながら生きていく。たとえそれがどこであっても。マルギット、未来永劫そなたを愛する事を誓うぞ」
緑色の光と赤い光が2人を包み込む。
ハイノは己の誓いとマルギットと共にマルギットの深淵深くへ落ちていくのだった。
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