いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

文字の大きさ
175 / 175
連載

芸術は奥が深い

「なかなか個性的な歌ですね」
 俺の歌を聴いた音楽教師はそう言ってにこやかに微笑んだが、クラスメイトたちはみんな手で耳を塞いでいた。
 失礼な。

「個性的だって? あれを個性と呼べるなんて、さすが芸術を教える教師は違うな……」
 芸術の試験はどうだったかと聞かれたので、教師から言われた感想を伝えれば、赤髪が真剣な顔でそう言った。
 うん、俺もそう思う。
 記憶を失っていた間は、どういうわけか天使の歌声だった俺も、記憶が戻れば赤髪いわくの呪歌しか歌えない。なんだか理不尽な思いを抱えながら、結局俺は至って真面目に呪歌で試験に挑んだのだ。
 そして冒頭の、教師の言葉である。
 今日はクラウィスとリベラ、それから赤髪とカフェテリアで放課後を過ごしている。パーシヴァルとはこの後合流する予定だ。エディタの件があってから、元々心配性の気があったパーシヴァルはますます心配性になってしまった。できるだけ一人にならないでくれと、懇願に近い様子で言われてしまえば大丈夫だからとは言いにくい。俺も記憶を失ったり、魔法が使えなくなったりして、パーシヴァルに散々心配をかけた自覚があるからな。これ以上、心労を増やさないようにしないと。

 試験が終わった学院は、長期休暇を前にどことなく浮足立っている。後は結果を待つだけだが、そもそも俺は、記憶を無くした上に命を狙われていたから試験どころではなかった。それでも、やれるだけのことはやったつもりだ。
 いろいろなことがあったものの、ようやく学生らしい時間を迎えることができると思ったのにな。もう半年もしないうちに卒業だ。正直なことを言うと、もっと学生生活をに謳歌したかったよなぁ……
 そんなことを考えながら、クラウィスたちに試験の首尾を聞いてみる。
「ところで、クラウィスたちは試験どうだった?」
「まぁまぁだと思うが……結果が出てみないことにはなんとも言えないな。リベラはどうだ?」
「私もそれなりに手応えはあったのではないかとは思いますが」
 なんて謙虚なことを言っている二人だが、きっと上位に食い込んでくるのではなかろうか。ここにはいないが、フィンレーとシャーロットもなんら問題なく試験を乗り切ったことだろう。
 俺は、まぁ、奨学生として問題ない結果であればそれでいい。なので、音楽教師の「なかなか個性的な歌ですね」の感想がどういう意味だったのか、気になっているところだ。

 ところで、俺が呪歌で試験に挑まなければならない原因を作ったエディタがどうなったかを少し語ろう。
 あの後、芋虫になっていたエディタは速やかに騎士に連行された。学院への不法侵入に火付け。そして度重なる俺に対する殺人未遂。ここまでやってしまったら、もはや取り繕いようもない。
 騎士団での取り調べの際のエディタは、始終俺への怨嗟で全くまともな話ができなかったらしい。これには取り調べをした騎士も呆れていたとか。
 とにかく、これまでの行動と反省する様子が全くないことから、エディタは危険人物と判断され、一ヶ月間牢に入れられたのちパルウム山麓での労役刑が課せられることになった。
 元々実家から見放されて神殿へと送られるところだったエディタだが、その途中で逃げ出してこれだけの事件を引き起こしたのだから、彼女の実家は完全にエディタを見限った。牢に入っている彼女に、家族からの面会も差し入れも一切ないそうだ。
 これから彼女は厳しい監視の元、無期限で過酷な労働をすることになる。やらかした者がパルウム山に送られるのは割とよくあることだが、反省を促すために送られるのと犯罪労働者として送られるのとでは、その待遇に雲泥の差がある。エディタはきっと、おとなしく神殿へ行っていたほうが良かったと後悔するだろう。それとも、後悔も反省もなく、日々俺を恨みながら過ごすのか。
 ……うん、どう考えても後者だろうなぁ。
 だけど、今度は逃げられないように護送用の馬車に乗せられてパルウム山に運ばれるってことだし、どんなに俺を恨もうとも今後彼女と会うことは二度とないだろう。
 全ては自業自得なので、俺としては同情の余地はない。

 他愛もない話を交わしながら四人でお茶を飲んでいると、パーシヴァルと側近候補の二人もカフェテリアにやってきた。
 フィンレーたちは隣のテーブルに座り、パーシヴァルは俺の隣に座ったけど、ちょっと距離が近いような気がする。椅子が狭いのかと思って赤髪の方に少し移動しようとしたら、パーシヴァルの腕が俺の腰に回された。
「大丈夫だ。狭くはない」
「そう?」
 狭いわけじゃないなら別にいいか。
 ふと視線を感じると、パーシヴァルと反対隣に座っている赤髪が何かいいたげにじっとこちらを見ていた。
「何?」
「……いや、なんでもない」
「?」
 なんだか煮え切らない返事だが、なんでもないならこれ以上は突っ込んで聞く必要はないか。赤髪のことだ。どうせくだらないことだろうし。
 それよりも、試験が終われば待っているのは長期休暇だ。
 「クラウィスたちは、長期休暇はどうするんだ?」
 一国の王太子が移動するとなると、それなりに大掛かりな旅になる。当然人手もお金もかかるので、長期の休みとはいえお気軽に帰省するのは難しいだろう。
「休暇の間は王城に招待されているんだ」
「そうなんだ」
「はい! 王城に滞在できるなんて、今からとても楽しみです!」
 相変わらずフィンレーは前向きだな。普通、そこは緊張するところだぞ。でも、なんでも楽しもうというその心意気やよし。
「二人はヴァンダーウォールに帰るのか?」
「ああ、その予定だ」
「今回はギルドで冒険者登録をするんだ」
 そう。いよいよ俺は冒険者登録する。あれほど待ち望んでいた冒険者登録だったけど、去年はつい休暇を満喫しすぎてギルドに行きそびれてしまったのだ。少なくともあと一年は学院に在籍するわけだし、そう急ぐこともないかと呑気に構えていた。
「サフィラスは本当に冒険者になるんだな……」
 赤髪がポツリとつぶやく。
「俺は前からずっとそう言っていたけど?」
「……サフィラスなら魔法師団長も夢じゃないだろ。ソルモンターナの魔法師団長ともなれば、大陸中の魔法使いの憧れと言っても過言じゃない。それなのに、やっぱり冒険者の道を選ぶんだな」
「ギデオン、望む将来は人それぞれだ。確かにサフィラスならば、魔法師団長を目指すこともできるだろう。しかし、それはサフィラスが選ぶ場所ではなかったということだ。それに、俺は魔法師団長を務めているサフィラスの姿が想像できない」
 クラウィスに言われて、赤髪は少し考えるように腕を組む。
「……確かにそうだな。サフィラスが魔法師団長になったら、部下たちが苦労しそうだ」
「おい」
 それは一体どういうことだ。赤髪を睨みつけると、肘で脇を突く。
「もしかして、ギデオンはサフィラスが国を離れてしまうことを寂しく思っているのではないか?」
「ちっ、違うぞ! 寂しいだなんて……そんなこと……」
 リベラの言葉を否定しようとしていたギデオンだったが、途中でその勢いは萎んでしまった。
 え? 本当に寂しかったのかよ。仕方がない奴だな。
「俺は転移が使えるんだから、戻ってこようと思えばいつだって戻ってこられる。ずっと戻ってこないわけじゃないよ」
「ほ、本当か!?」
「あ、ああ……」
 途端に赤髪が元気を取り戻す。本当に単純だなぁ……
 でも、帰りを待っていてくれる人がいるってのは悪くないな。
 


 「……いや、まさか。嘘だろ?」
 俺は張り出された到達度試験の結果を前に、思わず呟いた。
 一体どういうことか、俺の芸術の成績は優となっていた。そんな馬鹿な。呪歌だぞ? クラス全員が耳を塞いでいたあの歌が優だなんて。これもフォルティーナの強運のなせる技だろうか。
 俺は見間違いじゃないかと張り出された成績表を何度も見直して目をこする。
「サフィラス」
「あ、パーシヴァル。なぁ、見てくれよ。俺の芸術の評価が優だって。信じられるか?」
「……そう不思議なことでもないだろう。あの歌も、一つの自由な芸術の表現だ」
「そう……かな?」
 でもパーシヴァルがそう言うならそうなんだろう。音楽教師の「個性的」という感想は褒め言葉だったんだ。芸術は奥が深い。奥が深すぎてちょっと理解ができないが、ともかく無事に到達度試験は乗り越えた。これで心置きなく長期休暇を迎えることができるぞ。
 そしてついに念願の冒険者ギルドへの登録だ!
感想 929

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(929件)

にゃ王さくら
2026.04.06 にゃ王さくら

褒め言葉だったんだ…。
懐が広いな。

もう二度と会うことはないだろう←フラグ?

解除
KA
2026.04.05 KA

続きをずっと楽しみにしていました!
無事で本当に良かったです。何かしらの危機に瀕する事、がポイントなんですね。それを乗り越えて進んで行く、という事がとても好きな話です。
これからも楽しみにしていますので、どうぞ御自愛下さい。

解除
ねこの
2026.04.02 ねこの

更新ありがとうございます!
サフィラス記憶戻ってよかったぁ😄
エディタのざまぁを期待しつつ、早くパーシヴァルとのラブラブを🤭💞

早速、最新刊を予約してきました✨
こちらも到着が楽しみです!

解除

あなたにおすすめの小説

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまうリリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、悪役令嬢として断罪された少女が、「誰かの物語の脇役」ではなく、自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。