いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

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芸術は俺の人生に必要ない

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 周囲の噂で、ウェリタスが学院にいないことを知った。
 どうやらこの間の一件で学院に居づらくなって、実家で引き篭っているらしい。実家に逃げたとしても、そこでも肩身が狭い思いはしているだろうけど。自業自得だとしか言いようがないので、特に思う事はない。伯爵家では父親が絶対権力ではあったけれど、それでも父親の影響が少ない学院での振る舞い方を変えれば、少なくとも居場所を失うことはなかったはずだ。多少でも周囲の声に耳を傾ける力があれば、伯爵の評判が良くない事だってわかったはずだしね。
 伯爵夫人はちょっと魔力が高い子爵家に生まれたってだけで、オルドリッジ伯爵家に嫁ぐ事になったある意味被害者だと思う。魔力の高い子供を産む、ただそれだけの存在として望まれたのに魔力無しの子供を産んでしまって肩身も狭かっただろうさ。そんな夫人の立場を悪くした俺が、拠り所である優秀な嫡男の邪魔をしたんだから、文句の一つも言いたくなったんだろう。だからと言って、いい大人が子供に文句を言いに来るのは如何なものかとは思うけど。大体あんな事を言いにきて、俺にどうして欲しかったんだろう。俺が悪かったとでも言わせたかったのか。例えそうだとしても、そんなこと絶対に言ってやらないけど。
 あんな一家の中にあって、公爵家のお茶会で俺に頭を下げたアクィラは、伯爵家唯一の良心かもしれない。学園に入学したら、できれば実家とは距離をおいた方がいいと思う。このまま伯爵家と繋がっていてもいい事は一つも無い。どうするかは本人次第だけど。

 そんなあれこれも含め、短期間で色々あり過ぎてなかなか平穏な学院生活とはいかないまま、俺は到達度試験を乗り切った。今日はその結果が張り出される。外国語、算術、歴史はあまり心配していない。魔法に関しては向かうところ敵無しだ。唯一にして最大の弱点芸術だが、パーシヴァルの援護も虚しくその結果は散々だった。俺の頭は芸術を受け入れるつもりは全くないらしい。生きてゆく上であまり必要と感じない、と言うのもある。芸術を否定するつもりはないけれど、押し付けられてもうんざりするだけだ。今後、学院に平民を受け入れるなら、芸術は試験の対象から外すべきだと強く主張するぞ。
 芸術という不安の種を抱えてはいるけれど、あとは長期休暇を待つばかり。
 年越しとヨール祭のある休暇は特別だ。家によっては大きなパーティを開いたりもするらしい。貴族というのは何かと大変だ。
 前世の俺は、ただ飲んで食べて仲間と連日大騒ぎをしていた。バイロンは底の抜けた樽のように酒を飲みまくっていて、ヨール祭の為に一年稼いでいるようなものだった。この時ばかりは、ウルラもエヴァンも、飲み過ぎだとバイロンに小言を言うような事はない。ヨール祭が開かれる時期はそれだけ特別なんだ。いろいろな土地で新年を迎えたけれど、ヴァンダーウォールで迎える新年は初めてだ。
 気分はとっくに長期休暇で、少しわくわくしながら成績が張り出されている掲示板まで行けば、既に人が集まっていて成績表を見上げながら一喜一憂している。
 1位はやっぱりアウローラだ。誰にも首位を譲らない勢いだな。そして、次点はなんとパーシヴァルだった。前回2位だったなんとかオールビーと言うやつの名前を探したが、10位を過ぎても見つからず、それよりも先に俺の名前が見つかった。今回も安定の20位以内。芸術はというと、あと1点取れなければ追試のところで踏みとどまっていた。すんでのところで逃げ切った形だ。遺跡攻略もそうだけど、ぎりぎりのところを攻めるのが俺のやり方だ。
 ……ということにしておこう。
 到達度試験も二度目になれば、みんな自分に合った勉強の仕方を見つけ出す。前回までは家での学習の余力がものを言ったが、新たに知識を積み重ねてゆく段階で大きく差が出た、というところか。結局は慢心が敗北を招いたんだ。散々アウローラを貶めるような事を言っていたが、好敵手にすらならない男だったな。

 「サフィラス、来ていたのか」

 「あ、パーシヴァル! すごいな、2位だなんて!」

 「いや、今回も1位を譲らなかったアウローラ嬢の方がすごいだろう」

 「うん、アウローラ嬢は本当に才女だよな。並大抵の努力じゃ首位は維持できないよ」

 「サフィラス様、パーシヴァル様、ごきげんよう」

 噂をすれば才女の登場だ。その場に立っているだけで、周囲が明るくなる気がするな。

 「アウローラ嬢、今回も1位独占だね。おめでとう」

 「まぁ、ありがとうございます。サフィラス様は、芸術がぎりぎりでしたわね」

 「ぎりぎりでも逃げ切ったんだから大丈夫! 問題ないよ!」

 俺が自信を持ってそういえば、さすがのアウローラ嬢も苦笑いを隠さなかった。

 「サフィラス様には敵いませんわね。ところで、間も無く始まる長期休暇ですけれど、サフィラス様はヴァンダーウォールに行かれるのですよね」

 「うん、そうだけど」

 「今回の長期休暇こそは我がブルームフィールド公爵家の別荘にご招待したかったのですけれど、アデライン様に先手を打たれてしまいましたのよ」

 「母が?」

 パーシヴァルが怪訝そうな表情を浮かべる。パーシヴァルの知らないところで、公爵家と辺境伯家との間で何かが起きているらしい。

 「ええ、先日馬車2台分のヴァンダーウォール領の特産物と珍しい魔獣の素材が我が家に届きましたの。丁寧なご挨拶状付きで」

 「それは……申し訳ない」

 「いいえ、いいんですのよ。さすが国を堅固するヴァンダーウォールの辺境伯夫人だと、父も母もすっかり感服しておりましたわ」

 「え? え? どういうこと?」

 会話の意味がわからず、俺は2人の間で首を捻る。

 「わたくしがサフィラス様をお誘いするよりも先に、ヨールの休暇にサフィラス様をヴァンダーウォールに招待して申し訳ありません、という内容のお手紙をお詫びの品付きで頂きましたの」

 え? アデライン夫人はなんでそんな事を?

 「前回、サフィラスはアウローラ嬢の誘いを断っているだろう? だから、今回誘われたら彼女の顔を立てようとするだろうと考えた母が、先んじて詫び状を送ったんだ」

 おお、なるほど。確かに前の長期休暇はアウローラの誘いを断っているから、今回誘われたら公爵閣下の顔を立てなきゃなと考えたかもしれない。前半は公爵家、後半はヴァンダーウォールにと考えただろう。転移ができる俺にとって、どっちにもお邪魔することは不可能じゃないから。

 「その代わり、春のお茶会にはお二人揃って参加してくださるとも書いてありましたわ。離れた地におられても中央の情報はしっかりと抑えていらっしゃる。さすが、社交界の華と謳われたアデライン様ですわ」

 春の茶会? 
 わざわざ春と指定しているということは、もしかしてその席でアウローラは王太子殿下の婚約者になったことを発表するのかな。薄々感じとっている人はいるだろうけど、正式な発表はまだだからな。離れた地に居ながらも、そういった情報をほとんど時間差なく手に入れているということは、アデライン夫人にはそれだけの人脈があるんだろう。
 それにしても、やっぱり若い頃は社交界で話題の人だったんだ。綺麗だし、頼りになるし憧れる人は多かっただろう。

 「凜としていらっしゃるでしょう。それでいて、優雅に振る舞われる。面倒見の良い方でもいらっしゃったらしくて、デビューしたばかりの方々は随分アデライン様に助けて頂いたとか。わたくしの母も、そんなアデライン様に憧れている1人ですのよ」

 あの、女神もかくやと言わんばかりの公爵夫人でさえ憧れるのか。そんな女性がパーシヴァルのお母さん。
 ちらっとパーシヴァルに視線を向ける。顔はアデライン夫人に似ていて、性格は実直な辺境伯に似ている。剣の腕は立つし、魔獣と戦えるだけの魔法も使えるし、頭だって良い。
 ……こんな完璧な男っているんだな。
 しかも三男だから、何処にでも婿入りできる。家を継がなければならないご令嬢がいる家からしたら、優秀な跡取りを望める相手だ。当然、次男三男の伴侶としても申し分ない。

 「どうした?」

 俺の視線に気がついたパーシヴァルが、小首を傾げる。
 うわ、急に可愛い仕草を見せてきたぞ。普段格好良いだけに、そういう普段との差を見せられて、よろめいたりもするんだろうな。
 こんな魅力的な男の側にいつもくっついているんだから、そりゃぁ嫉妬もされるはずだ。だけど、俺はパーシヴァルの仲間だからな。一緒にいるのは仕方がない。許せ。

 「パーシヴァルってモテる要素しかないなって思って」

 「……は?」

 俺の思考の流れが分からないパーシヴァルは、アデライン夫人の話からいきなり自分に話を振られて困惑した表情を浮かべる。

 「パーシヴァル様のご苦労が偲ばれますわね……」

 アウローラが扇子で口元を隠しながら、ポツリとつぶやく。

 「ね! モテる男は大変だよな」

 「……いいえ、そういうことではありませんのよ、サフィラス様」

 「?」

 じゃぁ、どういうこと?
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