いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

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ああ、長期休暇!

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 追試をなんとか免れた俺だったが、廊下でばったり会った芸術の教師に呼び止められ、せめてもう少し芸術に興味を持ってくれないか? と懇願された。あまりにも他の教科との差がありすぎて、教師としては何故? という気持ちにでもなったのだろう。だが、どんなにお願いされたところで、俺と芸術は相容れない相手同士。

 「それは、申し訳ありません。できる限り努力しますので」

 まだ何か言いたげな教師を残し、そそくさとその場を逃げ出す。あれはなんだかよくわからない図録を押し付けられそうな雰囲気だった。
 そういえば、公爵閣下も芸術の成績には非常に残念そうな顔をしていたな。アウローラには「お父様にあのようなお顔をさせたのは、サフィラス様が初めてですわ」などと言われてしまった。人には向き不向きがあるんだから、それは仕方がない。俺と芸術の道が交わる事はない。芸術の試験がある限り、公爵閣下には残念な顔をさせてしまうだろう。

 そして!
 いよいよ待望の長期休暇だ!

 「サフィラス様、よきヨールをお迎えくださいませ。それでは、ごきげんよう」

 「うん、ごきげんよう」

 「サフィラス! また、来年な!」

 「おう、また来年な!」

 故郷に帰るクラスメイト達が次々と挨拶にやってくる。領土が遠い友人達は、休み前最後の授業が終わると同時に学院を離れてゆく。中にはかなり遠くから来ている人もいるからな。
 パーシヴァルと俺は、明日王都で色々と買い込んだらヴァンダーウォールに向かう。今回は夏の休暇の時のようにマテオに乗って行くのではなく、転移でパパッと移動する。この時期は道中雪が降るかもしれないので、無理はせず楽に帰ろうという事になった。転移なら王都で流行りの日持ちのしないお菓子だって買える。アウローラにおすすめのお土産リストを作ってもらったので、その点も抜かりない。
 そして、今回は伯爵家から持ってきた古びた服ではなく、アデライン夫人が俺のためにわざわざ用意してくれた服で荷造りをする。嘗てローブ1枚で全ての服事情を解決していた俺ではないのだ。
 


 翌日、パーシヴァルと王都に買い物に出かけた。王都も年越しと新年を控えて、いつもよりも活気付いている。どのお店もヨールの飾り付けをしていて華やかだ。並んで手に入れた流行りのお菓子もヨール祭風になっていた。王都ラエトゥスも少しずつ、新年を迎える準備が進んでいるようだ。
 街を見ながらあちらこちらで買い物をしてからマテオを迎えに行って、俺たちがヴァンダーウォールに向かったのはもう夕方に差し掛かろうかという頃合いだった。
 マテオに少しの荷物とお土産を乗せて城の正面玄関前に転移をすれば、すぐにジェイコブさんに迎えられ、城の中に案内される。ホールではアデライン夫人とサンドリオンさん、それにクリステラさんまで揃って、俺たちを迎えてくれた。

 「お帰りなさい、2人とも。まずは、みんなでお茶でも頂きましょう」

 晩餐までには少し時間があるので軽食も用意してあると、サロンに案内してもらった。

 「なぁ、パーシヴァル。アデライン夫人は、俺たちが到着する時間がよくわかったね」

 こそりとパーシヴァルに話しかければ、くすくすと笑いながらクリステラさんがそっと教えてくれた。

 「アデライン様は、朝からずっとお二人が到着するのを今か今かと待ち構えていらっしゃったのよ。お二人が到着したらすぐわかるよう、使用人に見張らせていたの」

 なんだ、そうだったのか。そうとわかっていたら、王都での買い物はほどほどにして、すぐにこっちにきたのにな。
 折角なので、並んで手に入れてきた王都の名物菓子をみんなで頂く。ヨールの飾りで彩られたお菓子は、サンドリオンさんとクリステラさんが特に喜んでくれた。

 「来週にはヨールのお祭りが本格的に始まります。ここのヨールは王都とはまた違った趣を楽しめるはずよ。案内はパーシィにしてもらうといいわ。それまでサフィラスさんはのんびりしていてちょうだい」

 「はい、ありがとうございます」

 お茶やお菓子を頂きながら、この休暇の予定をアデライン夫人から教えてもらう。
この辺境伯家も他の貴族達と同じように、ヨール祭のあるこの休暇にはパーティーを開くんだとか。そのパーティは数日、新年を迎えるまで続くんだそうだ。初日だけは貴族の集まりだけれど、翌日からは親しい者達が中心のパーティで、新年を迎える頃には無礼講になっている事も珍しくないんだとか。俺は小さなサンドウィッチを食べながら、夫人の話を聞く。今夜はステーキが振る舞われるそうなので、ここでお腹を満たさないようにしないとな。甘いものはお腹に溜まってしまうので、あまり食べないように気をつける。

 「初日のパーティはこの間の身内だけのお茶会と違って、我が家にゆかりのあるお家のお客様も来られるの。無理強いはしないけれど、折角だからサフィラスさんも参加してくださると嬉しいわ」

 ヴァンダーウォール辺境伯家ともなると、そのお付き合いは相当広いものだろうし、高位貴族だって当然参加するんだろう。でも俺は平民だし、マナーだって殆どできていない。部屋で大人しく寝ている方がいいだろうな。参加するなら2日目からでいい。

 「えっと、俺はその……」

 ……部屋で大人しく、寝ている、方が……
 ……部屋で、大人しく……
 アデライン夫人の目力が凄いぞ。こ、断り辛い。いや、だけど本当に俺なんか居たら場違いも甚だしいだろう。

 「母上、無理強いはしないで下さい。そういう約束でしたよね」

 「そうね、そうだったわね……」

 アデライン夫人は見るからにがっかりした表情を浮かべた。なんなら、少し萎んでしまったようにも感じる。パーシヴァルが助け舟を出してくれたけれど、そこまでがっかりされてしまうと、休み中はお世話になるのだし、パーティくらいは参加した方がいいのかな、なんて思えてきた。どうせ俺なんか会場の賑やかしの1人だろうし、壁側で料理だけ頂いてなるべく目立たないようにしていれば、マナー云々を言ってくるような人はいないだろう。

 「えっと、俺はマナーが全然できていないんですけど。それでも問題ないのでしたら、参加させて頂ければ……」

 「ええ! ええ! 全く問題ないわ! 大丈夫よ! サフィラスさん自身に品があるのだから、マナーの心配はいらないわ。安心してちょうだい。よかった! 実は、もうお衣装を用意してしまっていたのよ!」

 さっきまで小さく見えたアデライン夫人が、パッと雰囲気を変えた。なんなら、光を放ったようにさえ見えたぞ。
 ええぇ? さっきまであんなに落ち込んでいたのに?
 まさか、あの萎れた様子は演技だったのか? 女優だ……女優が此処に居る。それに、もう衣装を用意しているってどういうこと?

 「今度は雰囲気だけではなく、ちゃんとパーシィと対になるよう仕立てたのよ。最後の仕上げはサフィラスさんが来てからと思って、明日の午後にお針子さんが来る予定になっていたの。お断りする事にならなくてよかったわ。うふふ、明日が楽しみね!」

 朗らかに笑うアデライン夫人に、俺はこの人には絶対に敵わないんだろうなと思った。

 「……すまない、サフィラス」

 パーシヴァルが心底申し訳なそうに眉を下げる。さっきの会話から、パーティの件は今日に至るまでやんわりと断ってくれていたんだろう。

 「いや、大丈夫。お世話になっているんだし、パーティくらい参加するよ」

 だけど、パーシヴァルと対の衣装?
 そんな明らかに人の目を引きそうな服で、壁際で目立たないようになんてしていられるかな?
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