92 / 173
連載
この時期の池の水はまだ冷たい
しおりを挟む
椅子の上に小さく折り畳んだ紙が置いてある。
なんだろうと手に取って広げてみると、そこには「放課後学園庭園の水蓮池まで来てください」と書いてあった。一体誰だ? と思って周囲に視線を走らせると、隣の席の大人しい彼が俯きながらもチラッとこちらに視線を投げた。些か顔色が悪く、どこかおどおどとしている。
どうやらこのメモは彼が置いたものらしい。直接話せないからメモで伝えようとしたんだろう。俺は視線で了解の意を伝える。なんの話をしたいのかわからないけど、特に断る理由はないし。もしもすっぽかされたとしても、庭を楽しめばいいや。
なにしろ庭園はこの学園の自慢だそうだからな。よく手入れされていて季節ごとに色々な花が咲くらしいが、まだ行ったことはない。今日行ってみて、よかったら次はパーシヴァルと行こう。
いつものように淡々と授業を受けて、昼は読書をしながらランチ……と思っていたけど、またしてもケレなんとかがやってきた。昨日遠回しに構わないでくれオーラを出したから今日は来ないかと思ったけど、どうやら懲りない男らしい。引き際を見極められないやつはモテないぞ。
ケレなんとかは、学園には慣れたか? だとか、友人はできたか? だとか聞いてくるが、わざわざ聞かないでもわかるようなことを聞いてどうする。友人が一人もいないことは一目見ればわかるだろう。御為ごかしではなくもっと面白い話をするなら聞いてもやるが、面倒なので適当な相槌を打ってやり過ごした。
厄介なことに、この男は学園で人気がある令息らしい。彼といると、嫉妬や妬みの籠った視線がビシバシと飛んでくる。こいつに関わっているとなんだか面倒なことになりそうなので、俺は早々にランチを腹に収めて席を立つと遑を告げた。引き留める声が聞こえたけれど、最近の俺は耳が遠いのだ。わっはっは。
そういえば、彼が何者なのかパーシヴァルに聞くのを忘れていた。今後の対策の為にも、今日こそ忘れずに聞かなくちゃ。
そして放課後。
特に時間は指定されていなかったので、適当に庭園に向かった。とりあえず待ってればくるだろうし、すっぽかしならそれでもいい。
それにしても、噂には聞いていたけれど確かに綺麗な庭だなぁ。ちらほらと散策する学生も見える。指定された睡蓮池は庭園の一番奥にあるらしいので、見事に整えられた庭を眺めながら奥に向かう。昼寝ができそうなベンチや東屋もある。夏場は涼しそうで、居心地も良さそうだ。
奥に進むほど学生は少なくなって、しまいには誰もいなくなった。それにしても、随分と広いなぁ。
「……お、あれが睡蓮池かな?」
まもなく、きらきらと光る水面が見えた。思ったより大きな池は睡蓮池と言うだけあって、綺麗な睡蓮がたくさん咲いている。池の水は澄んでいて深さもそれほどではなさそうだ。魚もいるのかな? 気になって池を覗き込むと、突然背中に衝撃を受けた。
「は?」
と思った時には、俺は顔面から睡蓮池に突っ込んでいた。派手な水飛沫を上げて水没する。睡蓮池の底は泥土だ。水深はそれほどではないが、泥に足を取られるし、生地がしっかりとした制服は水を吸うととてつもなく重い。ひ弱な俺の体にはかなりの負担だ。それに水の冷たさが徐々に身に沁みてくる。俺が漸く立ち上がれば、いくつもの笑い声が降ってきた。
「まぁ、皆様ご覧になって! びしょ濡れですわ!」
池の辺りには数人の学生が立っていて、池の中の俺を見下ろし高々と笑っている。あの面々は初日に本を落とした奴らだ。それから……笑っている奴らの後ろで、青ざめた顔をして震えている隣の席の少年。
彼はこいつらに巻き込まれたんだろうな。家のこともあるだろうし、断るに断れなかったんだろう。貴族の家に生まれれば、学生とはいえいろいろな柵もあるだろうさ。とはいえ、普通の良識ある貴族だったら、こんなくだらない方法で他者を虐げるような教育はしないだろうけど。
「身の程もわきまえずにケレイブ様に近づいたりするからだよ。これに懲りたら、二度と彼の方に近づくなよ」
はぁ? 誰だそれは? そんな奴は知らん。一体どこのどいつだ。俺は誰にも近づいてなんかいないだろう。
そう思いかけて、ふとある人物の顔が脳裏を過ぎる。……ん? いや、ちょっと待て。
はっ! あいつか! 確か相席卿(仮)がケレイブなんとかって名乗っていた!
ケレイブなんとかは俺から近づいたんじゃなくて、向こうが勝手に来たんだ。むしろこちらは迷惑していたんだぞ。そう言う事は俺にじゃなくて、ケレイブとやらに直接言ってくれ。
関わったら面倒なことになるんじゃないかと思っていたけど、案の定面倒なことになったじゃないか。
くっそー……
「まぁ、君はそれくらい汚れている方がお似合いだよ」
「そもそも、我が校の制服は家名も持たないような輩が着ていいものではない。品位が下がる」
へぇー。自分より立場の低いものを虐げては喜んでいるんだから、それはそれは随分とご立派な品位をお持ちだな。俺には到底持ちえないものだ。俺の知る品位と大きく違うが、敢えて黙ったまま奴等の言葉を聞いていた。
下賤だとか賤しいだとかそれぞれ言いたいことを言い尽くすと、品位ある貴族のご令息ご令嬢たちは腰まで水に浸かっている俺を残し去っていった。隣の席の少年は俺を気にして振り返っていたけれど、彼らに小突かれるようにして連れて行かれた。あいつらに酷いことをされなければいいけどな。
おそらく、品位ある方々の計画はこれで終わりではない。泥水でずぶ濡れの俺が惨めに寮へ戻って行くところを人前で嘲笑するまでがセットだろう。人目につきやすい庭園の入り口か、学舎のどこかで待ち伏せているはずだ。
「だけど、俺は転移ができちゃうんだよねぇ」
俺がやって来るのをまだかまだかと待っているあいつらを思うと、ちょっと笑える。気が済むまで、存分に待ってもらおうじゃないか。
部屋の浴室に転移をした俺は、魔法具でバスタブにお湯を張る。濡れて脱ぎにくくなっている制服を悪戦苦闘しながら脱ぎ捨てて、お湯に飛び込んだ。季節は春の終わりでだいぶ暖かいとはいえ、水はまだ冷たかった。
「はぁー……あったかーい!」
服を脱ぐのに手間取ってだいぶ体が冷えてしまったから、お湯の温かさが染みる。何年も離れで放置されてても病気だけはしなかったから、こんなことぐらいで風邪なんか引かないと思うけど。万が一体調でも崩したら癪だからな。
それにしても、今世での俺の死因もやっぱりくだらない事なんじゃないかと心配になってきた。こんな幼稚な騙し討ちに遭うなんて。ただの池だからよかったものの、落とされた先が竜の巣だったり火の山の釜だったりしたら一巻の終わりだ。危ない、危ない。これからは気をつけよう。
泥のついた髪の毛と制服を洗って、体も十分温まったのでさぁ出るかと思ったところで気がついた。池から直接転移してきたから、体を拭くタオルも着替えも持ってきていない。
「ま、いっか」
床は後で拭けばいいよなと全裸で浴室を出ると、ちょうど部屋に戻ってきたパーシヴァルと鉢合わせした。
「あ、パーシヴァルおかえり!」
「……サフィラス!」
俺と目があったパーシヴァルは真顔のまますごい早さで向かってくると、制服の上着を脱いで俺を包んだ。ええっ、そんなことをしたら制服が濡れちゃうだろ。
「え? な、何? 床ならちゃんと拭くよ?」
「そんなことは気にしていない。少しそこで待っていてくれ」
困惑している間に、チェストから俺の下履きと大きなタオルを持って戻ってきたパーシヴァルは、手早く丁寧に水が滴る髪を拭ってくれた。
「……何か事情があってのことだとは思うが、せめて下履きは身につけてから浴室から出てきてくれ」
「ごめん。浴室に直接転移したから、着替えもタオルも無くてさ」
制服の代わりにタオルを被せてもらった俺は、いそいそと下履きを履く。
俺の裸なんて今更だと思うけど。ヴァンダーウォールの湖でも見てたはずだし。下履き一つ履いていないくらい、たいして変わらないと思うけどなぁ。ついてるものは一緒なんだから。そんなことを考えながら、自分の薄っぺらな体に視線を落とす。だいぶ肉がついたとはいえ、相変わらず肋が目立つ。
……いや、前言撤回。ついているものは似て非なるものかもしれない気がしてきた。
「こんなに早い時間に入浴しているなんて珍しいな」
まだ夕食前だしね。そう思うのも当然だ。隠すようなことでもないので、庭園で池に突き落とされた事を話す。ついでに、庭園はなかなかだったことも付け加えておく。
「思った以上に素敵な庭園だったから、今度一緒にって……え? ちょっと待って、パーシヴァル? どこに行くんだよ!」
俺の話を聞いていたパーシヴァルが突然部屋を飛び出てゆこうとしたので、慌ててシャツを掴んで引き留める。
「学園長に抗議する。池に突き落とすなど言語道断だ。これはもはや看過できる状況ではない」
「まぁ、まぁ、パーシヴァル。ちょっと落ち着こう」
器用にも冷静に怒っているパーシヴァルの胸をポンポンと叩いて、なんとか怒りをおさめてもらう。
「水はちょっと冷たかったけど、大したことないよ。睡蓮もなかなかに綺麗だったしね。それに俺はこの状況を結構楽しんでるんだ」
「俺はサフィラスがこのような目に遭わされて、非常に不愉快だが」
「それは……ごめん。だけど、もうすぐ魔法実技の授業も始まるだろ。これも仕込みの一環みたいなものだから」
落差は大きい方が面白いじゃない? そう言って笑って見せれば、パーシヴァルは小さくため息をついて肩の力を抜いた。
「その顔をされてしまうと弱いな……だが、要らぬ我慢だけはしないでくれ」
うん? その顔ってどの顔?
「もちろん! 俺はそんなに辛抱強くないから!」
なんだろうと手に取って広げてみると、そこには「放課後学園庭園の水蓮池まで来てください」と書いてあった。一体誰だ? と思って周囲に視線を走らせると、隣の席の大人しい彼が俯きながらもチラッとこちらに視線を投げた。些か顔色が悪く、どこかおどおどとしている。
どうやらこのメモは彼が置いたものらしい。直接話せないからメモで伝えようとしたんだろう。俺は視線で了解の意を伝える。なんの話をしたいのかわからないけど、特に断る理由はないし。もしもすっぽかされたとしても、庭を楽しめばいいや。
なにしろ庭園はこの学園の自慢だそうだからな。よく手入れされていて季節ごとに色々な花が咲くらしいが、まだ行ったことはない。今日行ってみて、よかったら次はパーシヴァルと行こう。
いつものように淡々と授業を受けて、昼は読書をしながらランチ……と思っていたけど、またしてもケレなんとかがやってきた。昨日遠回しに構わないでくれオーラを出したから今日は来ないかと思ったけど、どうやら懲りない男らしい。引き際を見極められないやつはモテないぞ。
ケレなんとかは、学園には慣れたか? だとか、友人はできたか? だとか聞いてくるが、わざわざ聞かないでもわかるようなことを聞いてどうする。友人が一人もいないことは一目見ればわかるだろう。御為ごかしではなくもっと面白い話をするなら聞いてもやるが、面倒なので適当な相槌を打ってやり過ごした。
厄介なことに、この男は学園で人気がある令息らしい。彼といると、嫉妬や妬みの籠った視線がビシバシと飛んでくる。こいつに関わっているとなんだか面倒なことになりそうなので、俺は早々にランチを腹に収めて席を立つと遑を告げた。引き留める声が聞こえたけれど、最近の俺は耳が遠いのだ。わっはっは。
そういえば、彼が何者なのかパーシヴァルに聞くのを忘れていた。今後の対策の為にも、今日こそ忘れずに聞かなくちゃ。
そして放課後。
特に時間は指定されていなかったので、適当に庭園に向かった。とりあえず待ってればくるだろうし、すっぽかしならそれでもいい。
それにしても、噂には聞いていたけれど確かに綺麗な庭だなぁ。ちらほらと散策する学生も見える。指定された睡蓮池は庭園の一番奥にあるらしいので、見事に整えられた庭を眺めながら奥に向かう。昼寝ができそうなベンチや東屋もある。夏場は涼しそうで、居心地も良さそうだ。
奥に進むほど学生は少なくなって、しまいには誰もいなくなった。それにしても、随分と広いなぁ。
「……お、あれが睡蓮池かな?」
まもなく、きらきらと光る水面が見えた。思ったより大きな池は睡蓮池と言うだけあって、綺麗な睡蓮がたくさん咲いている。池の水は澄んでいて深さもそれほどではなさそうだ。魚もいるのかな? 気になって池を覗き込むと、突然背中に衝撃を受けた。
「は?」
と思った時には、俺は顔面から睡蓮池に突っ込んでいた。派手な水飛沫を上げて水没する。睡蓮池の底は泥土だ。水深はそれほどではないが、泥に足を取られるし、生地がしっかりとした制服は水を吸うととてつもなく重い。ひ弱な俺の体にはかなりの負担だ。それに水の冷たさが徐々に身に沁みてくる。俺が漸く立ち上がれば、いくつもの笑い声が降ってきた。
「まぁ、皆様ご覧になって! びしょ濡れですわ!」
池の辺りには数人の学生が立っていて、池の中の俺を見下ろし高々と笑っている。あの面々は初日に本を落とした奴らだ。それから……笑っている奴らの後ろで、青ざめた顔をして震えている隣の席の少年。
彼はこいつらに巻き込まれたんだろうな。家のこともあるだろうし、断るに断れなかったんだろう。貴族の家に生まれれば、学生とはいえいろいろな柵もあるだろうさ。とはいえ、普通の良識ある貴族だったら、こんなくだらない方法で他者を虐げるような教育はしないだろうけど。
「身の程もわきまえずにケレイブ様に近づいたりするからだよ。これに懲りたら、二度と彼の方に近づくなよ」
はぁ? 誰だそれは? そんな奴は知らん。一体どこのどいつだ。俺は誰にも近づいてなんかいないだろう。
そう思いかけて、ふとある人物の顔が脳裏を過ぎる。……ん? いや、ちょっと待て。
はっ! あいつか! 確か相席卿(仮)がケレイブなんとかって名乗っていた!
ケレイブなんとかは俺から近づいたんじゃなくて、向こうが勝手に来たんだ。むしろこちらは迷惑していたんだぞ。そう言う事は俺にじゃなくて、ケレイブとやらに直接言ってくれ。
関わったら面倒なことになるんじゃないかと思っていたけど、案の定面倒なことになったじゃないか。
くっそー……
「まぁ、君はそれくらい汚れている方がお似合いだよ」
「そもそも、我が校の制服は家名も持たないような輩が着ていいものではない。品位が下がる」
へぇー。自分より立場の低いものを虐げては喜んでいるんだから、それはそれは随分とご立派な品位をお持ちだな。俺には到底持ちえないものだ。俺の知る品位と大きく違うが、敢えて黙ったまま奴等の言葉を聞いていた。
下賤だとか賤しいだとかそれぞれ言いたいことを言い尽くすと、品位ある貴族のご令息ご令嬢たちは腰まで水に浸かっている俺を残し去っていった。隣の席の少年は俺を気にして振り返っていたけれど、彼らに小突かれるようにして連れて行かれた。あいつらに酷いことをされなければいいけどな。
おそらく、品位ある方々の計画はこれで終わりではない。泥水でずぶ濡れの俺が惨めに寮へ戻って行くところを人前で嘲笑するまでがセットだろう。人目につきやすい庭園の入り口か、学舎のどこかで待ち伏せているはずだ。
「だけど、俺は転移ができちゃうんだよねぇ」
俺がやって来るのをまだかまだかと待っているあいつらを思うと、ちょっと笑える。気が済むまで、存分に待ってもらおうじゃないか。
部屋の浴室に転移をした俺は、魔法具でバスタブにお湯を張る。濡れて脱ぎにくくなっている制服を悪戦苦闘しながら脱ぎ捨てて、お湯に飛び込んだ。季節は春の終わりでだいぶ暖かいとはいえ、水はまだ冷たかった。
「はぁー……あったかーい!」
服を脱ぐのに手間取ってだいぶ体が冷えてしまったから、お湯の温かさが染みる。何年も離れで放置されてても病気だけはしなかったから、こんなことぐらいで風邪なんか引かないと思うけど。万が一体調でも崩したら癪だからな。
それにしても、今世での俺の死因もやっぱりくだらない事なんじゃないかと心配になってきた。こんな幼稚な騙し討ちに遭うなんて。ただの池だからよかったものの、落とされた先が竜の巣だったり火の山の釜だったりしたら一巻の終わりだ。危ない、危ない。これからは気をつけよう。
泥のついた髪の毛と制服を洗って、体も十分温まったのでさぁ出るかと思ったところで気がついた。池から直接転移してきたから、体を拭くタオルも着替えも持ってきていない。
「ま、いっか」
床は後で拭けばいいよなと全裸で浴室を出ると、ちょうど部屋に戻ってきたパーシヴァルと鉢合わせした。
「あ、パーシヴァルおかえり!」
「……サフィラス!」
俺と目があったパーシヴァルは真顔のまますごい早さで向かってくると、制服の上着を脱いで俺を包んだ。ええっ、そんなことをしたら制服が濡れちゃうだろ。
「え? な、何? 床ならちゃんと拭くよ?」
「そんなことは気にしていない。少しそこで待っていてくれ」
困惑している間に、チェストから俺の下履きと大きなタオルを持って戻ってきたパーシヴァルは、手早く丁寧に水が滴る髪を拭ってくれた。
「……何か事情があってのことだとは思うが、せめて下履きは身につけてから浴室から出てきてくれ」
「ごめん。浴室に直接転移したから、着替えもタオルも無くてさ」
制服の代わりにタオルを被せてもらった俺は、いそいそと下履きを履く。
俺の裸なんて今更だと思うけど。ヴァンダーウォールの湖でも見てたはずだし。下履き一つ履いていないくらい、たいして変わらないと思うけどなぁ。ついてるものは一緒なんだから。そんなことを考えながら、自分の薄っぺらな体に視線を落とす。だいぶ肉がついたとはいえ、相変わらず肋が目立つ。
……いや、前言撤回。ついているものは似て非なるものかもしれない気がしてきた。
「こんなに早い時間に入浴しているなんて珍しいな」
まだ夕食前だしね。そう思うのも当然だ。隠すようなことでもないので、庭園で池に突き落とされた事を話す。ついでに、庭園はなかなかだったことも付け加えておく。
「思った以上に素敵な庭園だったから、今度一緒にって……え? ちょっと待って、パーシヴァル? どこに行くんだよ!」
俺の話を聞いていたパーシヴァルが突然部屋を飛び出てゆこうとしたので、慌ててシャツを掴んで引き留める。
「学園長に抗議する。池に突き落とすなど言語道断だ。これはもはや看過できる状況ではない」
「まぁ、まぁ、パーシヴァル。ちょっと落ち着こう」
器用にも冷静に怒っているパーシヴァルの胸をポンポンと叩いて、なんとか怒りをおさめてもらう。
「水はちょっと冷たかったけど、大したことないよ。睡蓮もなかなかに綺麗だったしね。それに俺はこの状況を結構楽しんでるんだ」
「俺はサフィラスがこのような目に遭わされて、非常に不愉快だが」
「それは……ごめん。だけど、もうすぐ魔法実技の授業も始まるだろ。これも仕込みの一環みたいなものだから」
落差は大きい方が面白いじゃない? そう言って笑って見せれば、パーシヴァルは小さくため息をついて肩の力を抜いた。
「その顔をされてしまうと弱いな……だが、要らぬ我慢だけはしないでくれ」
うん? その顔ってどの顔?
「もちろん! 俺はそんなに辛抱強くないから!」
1,975
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。