いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

文字の大きさ
81 / 153
連載

俺だって素直にパーシヴァルの言うことを聞くんです

 昨日の決闘から周囲の態度はだいぶ変わったけれど、状況的には変わらない。
 相変わらず遠巻きにはされてはいるが、俺を蔑むような視線は感じなくなった。むしろ、怯えたような、伺うような眼差しを向けられている。
 それから、リアムの席がポツンと空いている。どうやら欠席しているようだ。ちょっとやりすぎちゃったかもしれないが、俺は反省も後悔もしていない。かといってザマァ見ろと思っているわけではないので、いつも通りといえよう。
 彼の取り巻きはすっかり大人しくなっていて、目を合わせようともしない。俺が勝ったらちょっかいを出すなって誓約だったしね。
 それからもう一人。
「あんな凄い実力があるなら、最初からその魔法を見せていればよかったんだ……君は卑怯だよ」
 隣の彼、ロニー・ブラウンはそう言った。(今更だけど、ようやく彼の名前を知ることができたのだ。なんでも男爵家の嫡男らしい。)
「はぁ……」
 彼に対して俺が言えるのはこれだけだ。
 それにしても、これは相当拗らせている。別に感謝して欲しくて彼のことを誓約に含めたわけじゃないから、彼からどう思われようと全く構わない。だけどさすがに卑怯は言い過ぎじゃなかろうか。そもそも、俺が魔法を披露する場は、昨日の魔法実技の授業くらいしかなかった。用もないのに凄い魔法を披露しまくっていたら、力を自慢する鼻持ちならない変な奴にしかならないだろう。
 それにどこで本気を出すかっていうのは、戦略の一つでもある。最初から敵に手の内全てを見せるわけがない。とはいえ、学生のうちは正々堂々としたフェアな精神が尊ばれるんだろう。でも、今のところフェアだと思われる学生に、俺は出会っていないけどな!
「君がどう思うと構わないけど、初対面から相手を見下し侮辱するような奴らよりはずっとマシだと思ってるけどね」
 俺がそういえばロニーは押し黙ってしまった。でもさ、これからはリアム一派に煩わされることはないだろうから、俺のことなんか気にせず、家のために学業に専念したらいい。
 
 なんとも微妙な空気が漂う中、午前中の授業が終わったので急いで机を片付けていれば、不意にクラスがざわついた。
「サフィラス」
「パーシヴァル!」
 教室の入り口にパーシヴァルが立っていた。もしかして、何かあったのかな?
 クラスのみんなが注目しているので、俺は急いでパーシヴァルに駆け寄ると小声で尋ねる。
「どうしたの? 寮で待ち合わせじゃなかった?」
「迎えに来た。行こう」
 そういうとパーシヴァルは、さりげなく俺の腰に手を添えて歩き出す。
「ん? ん?」
 何これ? ちょっと普段の距離にしては近くない?
「サフィラスは俺の伴侶となるんだ。これくらいはあたりまえだから気にするな」
 おっと、パーシヴァルは凄いな。俺の考えていることがわかるのか? これはうっかりしたことを考えられないぞ。
 それにしても、周囲の視線が凄いな。これまで俺とパーシヴァルが一緒にいることがなかったし、不思議な組み合わせなんだろう。なにしろ同じ国から来た留学生なのに校内ではほとんど接触していなかったから、主にパーシヴァルのクラスの生徒の間では、パーシヴァルは俺を嫌っているとさえ囁かれていた。パーシヴァルもそれに関しては、特に否定も肯定もしなかった。この学院にきた初日から俺たちを引き離そうとしているようだし、あえて放置しておいたんだけどね。おかげで、ケレイブみたいなやつが近づいてきたり、リアムが絡んできたりしたんだけど。
 何処までがこの国の意図かはわからないけど、なんとか魔法使いの俺を取り込もうとしているんだろうなってことはわかる。だけど、俺はただの十五歳の少年じゃない。中身は大人で冒険者だからねぇ……子供を丸め込むようにはいかないんだよ。
 そんなことはともかく、今日こそはクレアーレのカフェテリアに行くんだ!
 俺とパーシヴァルは人目のつかないところまで行くと、そのまま転移した。



「あれ? サフィラス?」
「やぁ、久しぶり」
 ランチのトレイを受けとる為に並んでいれば、ライリーに声をかけられた。
「留学してたんじゃなかった?」
「そうだよ。だけど、ここのランチが恋しくなったから食べにきたんだ」
「……サフィラスの魔法は相変わらず規格外に便利だな」
 ライリーが呆れたように笑う。そのうちに俺たちがいることに気がついた友人たちが集まってきたので、雑談に花を咲かせていれば、騒ぎを聞きつけたのかアウローラもやってきた。
「サフィラス様、パーシヴァル様、お久しぶりですわね」
「アウローラ嬢、それにリリアナ嬢」
 彼女たちと会うのも久しぶりだ。あっちに行ってから、アウローラには近況報告として一回だけ手紙を書いた。あまり筆まめではない俺は、それっきりになっていたんだけど。
「お元気そうで何よりですわ。もしよろしければ、お昼をご一緒にいかがですか?」
 ここのカフェは誰でも利用できるけれど、一角だけ王族や高位貴族のみが利用できるスペースになっている。広々として椅子もちょっと高級なのが置かれていて、衝立で仕切られているので静かに食事ができるのだ。
「うん、是非。実は聞きたいことがあったんだ」
 俺とパーシヴァルはランチのプレートを受け取ると、アウローラと一緒に衝立で仕切られたスペースに向かった。
 さすが王族も使う場所だけあって、テーブルは広いし花なんか飾られている。アウローラとリリアナが席につくと、給仕がサンドウィッチを運んできた。
 彼女たちと俺たちのランチと並べると、その見た目の差が凄い。最近の俺はパーシヴァルほどではないけれど、だいぶ食べられるようになったからね!
「お二人ともお元気そうですわね。あちらの学園はいかがですか?」
 隠すこともないので、昨日の決闘に至るまでの出来事を包み隠さず話せば、食事をするアウローラの手が完全に止まってしまった。しかも、綺麗な眉をわずかに寄せている。
「それは本当ですの?」
「ああ。昨日のうちにヴァンダーウォールへ風隼を飛ばした。おそらく明日にでもブルームフィールド公爵閣下の元へ鳥が行くと思う」
「へ?」
 いや、いや! 一体いつの間に!? 決闘の後、パーシヴァルはずっと俺と一緒にいた気がするんだけど……? それに何処から風隼を飛ばしたんだ?
 思わずパーシヴァルをまじまじと見つめていたら、どうした? とばかりに首を傾げられた。顔が良いのはもう十分わかっているけど、何気ない仕草すらも決まっているんだから、ほんとどうなっているんだパーシヴァル!
「それはそうとさ、アウローラ嬢。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 パーシヴァルの良い男ぶりも気になるけれど、俺には他にも気になっていることがある。
「なんでしょう?」
「実はさ、昨日ケルサスでウェリタスらしい人物を見かけたんだけど、オルドリッジ伯爵家って今どうなってるのかな?」
「ウェリタス様を……?」
 アウローラは少し考えるような仕草を見せてから口を開く。
「当主でいらしたオルドリッジ伯爵は魔法師団相談役を解任され、謹慎中ですわ。その上で、現在の伯爵家は、王家預かりになっております。救国の魔法使いの名はやはり重いですから、そう簡単にどうにかできるものではありませんので……それから、ウェリタス様も学院を退学され、王都のお屋敷におられるはずなのですが……」
 それはいわゆる軟禁というやつだな。だけど、ケルサスで見たのは間違いなくウェリタスだ。ファガーソン侯爵の失踪もある。これは転移ができる魔法使いが間違いなく絡んでるだろう。
「サフィラス様のお話、念の為に父に伝えておきますわ」
「うん。……なんかこうなってくると、あの騒ぎにはあの国も関わってる線が濃厚だな」
「……サフィラス様、一度こちらに戻って来られては?」
 アウローラの綺麗なアメジストの瞳には不安が揺れている。わかるよ。あの国には奴隷制度もあるし、王族は揃って野心家って噂もある。隣国なのに得体が知れないもんな。
「大丈夫。引き際は心得てる。危なくなったら、こうやってすぐに戻ってくるよ」
「ですが……」
「いざとなれば、俺がサフィラスを抱えてでもあの国を出る。なので、しばらくは様子を見てほしい」
「パーシヴァル……」
 昨日あんなことがあったばかりだし、パーシヴァルも帰国した方がいいって言うかと思ったけど。まさか俺の味方をしてくれるなんて!
「無理に戻ってきて、隠れてあちらに行かれる方が困る。よほどの事がなければ俺も止めるつもりはないが、黙って行動することだけはしないでくれ。俺の知らないところでサフィラスに何かあったら、俺は自分を許せなくなる」
「うっ……」
 俺の信用がすっかり地に落ちている。
 確かに前世の記憶があるせいで、俺はついつい一人で走りがちだ。かつての仲間たちも、俺と似たような性格だったからそんなものだと思っていたし。だけど、魔法だって万能じゃない。特に、俺にはうっかりの呪いがあるようだし。何より、俺を大事に思ってくれているパーシヴァルの気持ちの上に胡座をかくつもりはないからな。
「大丈夫、そんなことは絶対にしない」
「うふふ……サフィラス様もようやくパーシヴァル様のお気持ちを慮れるようになりましたのね」
 アウローラが綻ぶように笑う。素敵な笑顔だけど、その言い方だと今まで俺がパーシヴァルの気持ちを蔑ろにしていたみたいじゃないか。
 ……いや、うん。していたかもしれない。ごめんな、パーシヴァル。
感想 938

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

公爵家令息の想い人

なこ
BL
公爵家の次男リュシエルは、婚約者である王太子ランスロットに全てを捧げていた。 それは目に見える形の献身ではなく、陰日向に尽くす甲斐甲斐しいものだ。 学園にいる間は多くの者と交流を図りたいと言うランスロットの申し出でさえも、リュシエルは素直に受け入れた。 ランスロットは側近候補の宰相令息と騎士家系の令息、そして平民から伯爵家に養子縁組されたリオルに囲まれ、学園生活を満喫している。 彼等はいつも一緒だ。 笑いに溢れ、仲睦まじく、他者が入り込める隙間はない。 リュシエルは何度もランスロットに苦言を呈した。 もっと多くの者と交流を持つべきだと。初めにそう告げてきたのは、ランスロットではないかと。 だが、その苦言が彼等に届くことのないまま、時は流れ卒園を迎える。 学園の卒業と共に、リュシエルは本格的に王宮へと入り、間も無く婚姻がなされる予定だった。 卒業の式典が終わり、学生たちが初めて迎える公式な社交の場、卒業生やその親族達が集う中、リュシエルは誰にもエスコートされることなく、一人ポツンと彼等と対峙していた。 「リュシエル、其方との婚約解消を陛下も公爵家も、既に了承済みだ。」 ランスロットの言葉に、これまで一度も毅然とした態度を崩すことのなかったリュシエルは、信じられないと膝から崩れ落ちた。 思い付きで書き上げました。 全3話 他の連載途絶えている方も、ぼちぼち書き始める予定です 書くことに億劫になり、リハビリ的に思いつくまま書いたので、矛盾とか色々スルーして頂けるとありがたいです

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
本編完結しました! その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます