いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

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連載

サフィラスは自覚がない

「久々の学院だなぁ……」
 中庭に立った俺は、しみじみとつぶやいた。
 インサニアメトゥスを倒してから、随分とのんびり過ごしていた俺だったけど、ようやく学院に戻ってきた。
 魔獣が侵入し荒らされた王都も、今ではすっかり元の美しいラエトゥスだ。

 ヴァンダーウォール卿が風隼を王城に飛ばしてから数日後、登城して直接説明をせよと国王から呼び出しがあった。本来なら滅多なことで領地を離れることのない卿だけれど、起きたことを考えれば一度王都に赴いた方が良かろう、ということになったのだ。速やかな報告は大事だよな。
 それならばと、俺たちも一緒に王都に戻ってきた。俺の転移なら一瞬だしね。それから、公爵家とお披露目の打ち合わせをするというアデライン夫人も一緒に王都に来ている。

 色々起きたその後の事だが、インサニアメトゥスの復活については、周辺国がそれに気がついた様子はないそうだ。実際、インサニアメトゥスを目にしたのは復活に関わっていた連中だけだし、復活してすぐに俺が倒しちゃったからな。うっかり目撃しちゃった人がいたとしても、インサニアメトゥスは跡形もなく燃え尽きたので鱗ひとつ残っていない。厄災竜を見たと騒ぎ立てたところで、夢でも見たんだろうって笑われるだけだ。
 さすがにエト・ケテラでは、国内で何かとんでもないことが起きているのではないか? とちょっとざわついて森を調査している最中らしい。あれだけ森が荒らされていたら不審に思って当然だ。とはいえ、そのとんでもないことはとっくに片づいちゃっているんだけどね。
 後はシュテルンクルストだが、不気味なくらい静かだという。王太子が国に戻った様子はないそうで、生死は不明だとか。あの男は悪運が強そうなので、なんとなくどこかで生きているんじゃないかって気はしている。
 俺とパーシヴァルの留学は、王都が魔獣に襲われて混乱していることを理由に、急遽帰国したことにしたそうだ。別にそんなの放っておいていいんじゃないのって思ったけど、国同士の交流だった手前、手続きっていうのは大事らしい。
 ともあれ、ソルモンターナとしては、インサニアメトゥス? 150年前に討伐された竜ですよね、で通すことにしたそうだ。なにしろ、自国の貴族が世界に災いをもたらす竜の復活に手を貸してしまったわけで。下手に関わると、周辺国から何かしらの責任を問われる可能性もある。
 幸いにも一部を除き甚大な被害が出たわけじゃないし、ここは素知らぬ顔をしているのが最良だろう。俺もそれには賛成だ。
 そして、問題を引き起こしたウェリタスだけど、いまだに魔法がろくに使えない。彼の処遇について希望を聞かれたが、全く興味がないのでお任せすると言ったら、パルウム山の麓に送られることになった。魔法が使えない彼は、下働きとして生涯そこで働くことになる。とはいえ、あいつが魔法以外で労働力になるのか甚だ疑問だが。
 そして、オルドリッジ伯爵家はアクィラが成人するまで、王家預かりとなった。当主と嫡男のやらかしを考えると、オルドリッジが無くなっても不思議じゃないけど、やっぱり救国の魔法使いの名前を無くすわけにはいかないようだ。それには俺もちょっと関わっているらしいが、詳しい事情はよくわからん。
 伯爵は魔法師団相談役を引退という名の魔法界からの追放。それなりには魔法が使えるので、危険人物として僻地に送られその地で幽閉だそうだ。そして夫人は離縁して実家に戻った。伯爵と縁を切ったところで、実家では相当肩身の狭い思いをすることだろう。
 そうして1人になってしまったアクィラを引き受けてくれたのはなんと、魔法師団長のガブリエルさんだった。魔法の指導も含めて、アクィラが独り立ちするまで面倒を見てくれるとのこと。ガブリエルさんが後見人になってくれるなら安心だ。よかったな、アクィラ。
 色々あったものの、ようやく日常が戻ってきた。
 ちなみに、間も無く到達度試験の時期だが、騒動があったことで今季は無くなった。万々歳である。

「それじゃ、心置きなく新技開発に勤しみますか」
 杖を抜いた俺は、腕慣らしに軽く杖を回す。このトライコーンの杖はそこそこの重さがあるので、回すのには丁度いい。
「…………」
 それにしても、さっきからやたらと視線を感じて落ち着かないな。
 危険な感じはないから放っておいているけど、やっぱり気になるのでこっそりと背後を伺えば、数人のご令嬢が俺を見ながら何やらひそひそと話をしている。
 第一学年のお嬢さん達かな。中庭で1人、ひたすら杖を回しているんだから怪しい人物に見えても仕方がないか。俺は杖をホルダーに戻すと、場所を変えるべくその場を早々に退散した。
 真に格好良い魔法使いは、努力しているところを人には見せないものさ。そして、ここぞという時に見事な技を披露して、みんなをあっといわせるんだ。



 俺がひっそりと、しかし大胆に杖を回している間に、お披露目はひと月後に決まった。
 多くの貴族を招待する(!)そうで、最短でも準備にはそれだけの期間が必要らしい。国王陛下に報告を終えたヴァンダーウォール卿は、公爵閣下とお披露目についての何某かを話し合った後、一旦領地に戻った。お披露目にはまた王都に出てくるそうなので、その時は俺が迎えにゆく。
 アデライン夫人は王都に残って、お披露目の準備を進めている。今日はアデライン夫人のご実家であるギディングス侯爵家で、衣装を決めているところだ。
「パーシィは三男ですからあまり派手にはできないけれど、誰に侮られることのない会にいたしますからね」
 アデライン夫人は腕まくりでもしそうな勢いで張り切っている。
「……気合いが入りすぎていて、ちょっと怖い」
 今度はどんなお高い衣装が出来上がるんだ? もう何着も作ってもらっているし、それを着回せばいいんじゃないだろうかと、根っからの庶民な俺はついついそう思ってしまう。
「王都において、今やサフィラスは有名人だ。手を抜くわけにはいかないから、母上も気合を入れているんだろう」
「え? 有名人? なんで?」
「王都を襲った魔獣の群れを、たった1人で一掃した魔法使いだからな。誰もがサフィラスに注目している。だからこそ、オルドリッジを残すことになったんだ」
 なるほど、そういうことだったのか。籍から外されたとはいえ、不本意ながらも俺にはペルフェクティオの血が流れている。再び訪れた王国の危機を救った魔法使いの実家を潰すのは、救国の魔法使いオルドリッジの実態を知らない民への外聞が良くなかったんだろう。だけど、俺がオルドリッジの人間だなんて、貴族以外にはわからないと思うけど。
「強力な魔法を自在に操り、巨大な召喚獣を同時に何体も召喚よび出せる。そんな魔法使いは、王国魔法師団にもいない。おそらく、大陸どこを探してもサフィラスほどの魔法使いはいないだろう」
「いやぁ、それほどでも……」
 パーシヴァルから褒められると悪い気はしない。俺がヘラヘラと照れていれば、パーシヴァルは何故か難しい顔をした。
「……その自覚のなさが心配なんだ」
「大丈夫、大丈夫。心配しなくても、俺は魔法を悪いことに使ったりしないって!」
 俺は自分が規格外の魔法使いだってことをわかっている。そして、俺の魔法は俺だけのものだ。誰かのいいように使われたりしない。
 世の為人の為に使おうってほど善人じゃないけど、常識的な魔法使いのつもりだ。
「そんなことは心配していない」
 違うの? じゃあ、パーシヴァルはいったい何を心配してるんだ?
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