いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

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魔法演技の時期がやってまいりました

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 知りたくはなかったけど俺の体がちょっとした不能であることが判明したり、騒動付きではあったもののテオドールさんの結婚式があったりと盛りだくさんだったヴァンダーウォールでの休暇を終えて、俺たちは王都に戻ってきた。
 いつもの学院生活が始まって、また厄介ごとが次から次へと起こるんじゃないかと身構えていたけれど、女神もさすがに飽きたのか、いたって平穏な毎日だ。
 変な奴に絡まれることなく、魔獣の大群が襲ってきたりもしない。そう、俺はこう言う学生生活を望んでいたんだよ!
 ようやく訪れた平穏な日々をしみじみと噛み締めていれば、毎年恒例の魔法演技の時期がもう目の前に迫っていた。

「今年はもっと派手にするか?」
 うん、派手なのは嫌いじゃないぞ。
「でも、派手にすればいいってものではないと思うの」
 それも正論だな。
「だけどさ、そろそろイメージだけでも固めないと、演技に間に合わないよ」
 確かに。そろそろ練習を始めないとね。
「サフィラスはどう考えてる?」
「うーん……」
 このテーブルに集まっているのは、クラスのまとめ役ライリーと去年演技をしたメンバー。それから今年演技を披露するメンバーとおまけの俺。去年演技をした三人は、今年は指導する側に回る。ちなみに、父親が杖否定派だったベハティ嬢だが、今ではすっかり杖を握る魔法使いとなっている。学園内で杖が流行ったこともあるけれど、魔力調整がいかに大事かってことをわかってくれたんだって。杖使いの俺としては実に嬉しいことだ。
 俺たちは去年と同じく魅せる魔法演技をする予定だけど、魔法師団長が攻撃魔法ばかりではなく、人を楽しませるための魔法に注目したことと、俺が隣国で魔法を披露したことが話題になったので、今年はCクラスと同じような魔法演技を見せようとしているクラスが多い。それはとてもいいことだけど、そうなってくると去年と同じ演技をしていては、Cクラスの手が星に届くことはないわけだ。
 俺としては楽しく演技ができれば星の獲得は二の次でいいと思っているけど、どうせなら目標があったほうががんばれる。そんなわけで今年も星を狙うべく、クラスのみんなで出し合ったテーマのまとめをしているところだ。
 舞台に立って演技をするのは三人だけど、クラス対抗である以上はCクラスみんなで演技を作り上げる。その考えは去年からちゃんと引き継がれていた。
「話し合いの最中に失礼する」
 熱の入った話し合いの中に、落ち着いた声が割って入る。
「あ、パーシヴァル」
「サフィラス、カフェテリアが閉まる時間だ。そろそろ寮に戻ろう」
「あれ、もうそんな時間?」
 周囲を見回すと、カフェテリアに残っているのは俺たちCクラスの面々だけだった。
「サフィラスの騎士様が迎えにきたようだし、続きは明日だな」
ちょっと待て。俺の騎士ってさらっと言ったな。
「そうね。それではみなさん、遅くまでお疲れ様でした」
「お疲れ様」
 みんな広げていた資料を片付けて席を立つと、それぞれ寮の部屋に戻ってゆく。
「魔法演技の準備は順調に進んでいるのか?」
「ううん、難航してる。今年は去年のようにはいかないだろうからさ」
「サフィラスの魔法がかなり話題になっているからな」
「魅せる魔法がみんなに受け入れられて嬉しいけどさ、Cクラスの一員としてはちょっと複雑だよ。パーシヴァルのクラスはどう?」
「Bクラスは例年通り、攻撃魔法を中心とした演技だ。様式美を追求すると意気込んでいる」
「なるほど、真っ向勝負ってことか」
 Bクラス以外にも、従来通りの魔法演技で勝負するクラスは当然あるだろう。魅せる魔法に対抗して、かなり作り込んだ攻撃魔法を披露するはず。何かしらの意外さを仕込まないと、みんなを驚かせることは難しそうだ。
 何だか今年は面白い魔法演技になりそうだけど、またみんなの注目を集めるような演技ができたらいいな。
 そんなことを考えていれば、パーシヴァルが俺の部屋の前で足を止めた。
「サフィラス、演技を考えるのは結構だがしっかりと寝てほしい」
「大丈夫、大丈夫! どうせ考えている途中ですぐに寝落ちするからさ。鍛錬のために朝早起きしているパーシヴァルよりも、間違いなくたくさん寝ているよ」
「それならいいが……」
 パーシヴァルがじっと見つめるので、察した俺は少しだけ顔をあげて目を閉じた。間も無くパーシヴァルの唇が俺の唇と重なってすぐに離れてゆく。
「また明日迎えにくる、おやすみ」
「うん、おやすみ」
 パーシヴァルの背中を少しだけ見送ってから部屋に入る。
「……物足りない」
 俺は思わず呟いていた。前はあんなに恥ずかしかった口付けだけど、最近は何だか物足りないんだよ! そりゃ、触れるだけの口付けだって悪くはないさ。だけど、あの唇を深く重ねる口付けを知っちゃうとさー!
 じわっと痺れるように体の力抜けて腹の奥がぞくぞくする感じを思い出してしまった俺は、思い切り首を振った。
「いや、いや、駄目だろ! パーシヴァルも俺もまだ学生なんだぞ! 不純だ! 不純!」
 このまま起きていても、きっとろくなことは考えられなそうだ。パーシヴァルの言う通りにとっとと寝よう。制服を脱いで夜着に着替えた俺は、早々に寝台に潜り込んだのだった。



 「は? なんだって?」
 夕食後のカフェテリアで魔法演技対策部隊のみんなと話し合いをしているところに、数人の令息がやってきた。
「だから、サフィラス殿にはCクラスの指導から外れてもらいたい」
「それは一体どう言うことかな?」
 ライリーが勢いよく立ち上がったので、袖を引いて席に戻す。
 顔見知りでもない彼らの意味のわからない要望にみんなも困惑しているが、当然俺も困惑だ。だが、とりあえず話だけは聞く。
「なんで?」
「だって、君はトルンクス国王の前で魔法を披露したんだろう? そんな人物が指導をしているだなんてフェアじゃない」
 フェアじゃないだなんて、彼らは一体何を言っているんだろうな。
「……あのさ、俺に演技に出るのをやめてくれって言うのならなまだわかる。だけど、指導をやめろって言うのは違うんじゃないかな?」
「だって特別な魔法の使い方を心得ている君がいるクラスは、圧倒的にステッラに近い位置にいる。そんなのは対等ではないだろう?」
「何か勘違いしているようだけど、俺は特別な魔法なんて使ってないよ。もし特別って言うのなら、なんでCクラスの代表がその魔法を使えるんだって話になるだろ。それに、そもそも俺たちは対等なんかじゃないよね。魔力の量だって人それぞれだし、入学前に魔法使いを招いて魔法の使い方を学んでくる学生だっているじゃないか。まぁ、五歳からずっと魔力なしって言われてた俺がこうして魔法を使っているんだから、そういう意味では確かに特別かもしれないけど?」
 と、言いつつも俺の魔力はみんなと違うみたいだけど。でも、それについては俺が演技をするわけじゃないから全く関係ないよな。
「だ、だが! 国の代表として魔法を披露した君の指導を受けるCクラスが優位なのは間違いないだろう!」
「えー……」
 別に俺は国を代表して魔法を披露しに行ったわけじゃない。アウローラに頼まれたから、個人的に引き受けただけだ。
 それにしても面倒臭い絡み方してくるなぁ。星が欲しいのはわかるけど、俺に絡んでいる暇があるなら、クラスメイトとどんな演技をすればみんなを驚かせることができるのか考える方がよっぽど前向きで良くない?
 俺が教えたくらいで、星の行方なんてそう大きく変わらないだろ。だって去年は従来通りの魔法演技をしたBクラスだって星を獲っているし。
「ちょっといいかな」
 近くの席に座っていた令息が席を立ち俺たちの会話に割って入ってきた。やっぱり俺の知らない顔だ。
 なんだ、なんだ? こいつらの助っ人か?
「話が聞こえてきたのでちょっと口を挟ませてもらうけど、彼に指導をやめろと言うのはお門違いな話じゃないかな?」
「は?」
 俺たちに味方する令息の言葉に、指導をやめろと言ってきた連中が戸惑っている。
 なんと、彼はこちらの味方だったか。
「サフィラス殿の言う通り、僕たちは皆能力に差がある。それをどう補って演技をするのかも、審査の内なのではないか?」 
「そ、それは……」
 俺に指導をやめろと言いにきた令息たちは、困惑したように顔を見合わせる。
「去年Cクラスが星を獲得できたのは、誰もが今までやろうとしなかった魔法の表現を提案したことと、それを実現した魔力操作が評価されたからだ。そこには確かにサフィラス殿の指導があったかもしれないが、彼の持つ皆と違う視点や発想は我々学院生全員に求められているものではないかと僕は思うけどね」
 いいこと言うなぁ……
 勝てそうにないからって、自分達と同じラインに並んでくれって相手に頼むのはお門違いってもんだ。
「し、失礼する」
 何も言い返せなくなった令息たちは、そそくさと去ってゆく。
 はん。ようやく自分たちの主張の身勝手さがわかったようだな。
「ありがとう。俺やCクラスのみんなが言っても、彼らは引き下がらなかっただろうから、本当に助かったよ」
 俺は立ち上がると、仲裁をしてくれた令息にお礼を言う。
「いいや、俺は当たり前のことを言っただけさ。それに、君が困っているのに助けなかったらベリサリオに睨まれるからね」
「え?」
 令息は俺の顔を見て何故かすくっと笑う。
「魔法演技ではお互いにいい演技をしよう。それじゃ」
 カップの乗ったトレイを片付けてカフェテリアを出てゆく令息を見送っていれば、俺の背後でクラスメイトたちが一斉に口を開く。
「……彼って、Bクラスの人よね」
「ああ、間違いない」
「本当にサフィラスの騎士様は抜かりがないよな」
「ん? 抜かりがないってどう言うこと?」
 振り返って尋ねれば、みんなが呆れたような視線を俺に向けた。
 え? 本当にどう言うこと? 俺にもわかるように説明して。
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