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5:フヨウ

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 広いベッドで躰の大きなリアムが小柄なフヨウの躰を組み敷き、固い掌がフヨウの躰を確かめるように撫でる。

 「いい子だ、フヨウ……」

 耳元でそう言ったリアムが首筋に唇を寄せて、強く吸った。小さな痛みを感じて身を竦める。
 躰を滑っていた手が次第に下に降りてゆくと、揶うように下腹部を撫で性器を掴んだ。
 これからまたあの痛みに耐えなければいけない。辛い目に合ってるときはその時間が早く過ぎればいいと思うけれど、我慢しなければならない時間ほど長く余計に辛かった。
 握られた性器を扱かれて、その言い様のない感触に唇を噛みしめる。

 「……っ……」

 今夜はオイルのようなものを性器に塗られている。先を執拗に捏ねられ、くちくちと湿った音をたてている。フヨウには、その音がとても恥ずかしい音に聞こえた。
 目を閉じて何も見ないようにできるように、耳も聞きたくない音は聞こえないようになればいいと思う。
性器を扱かれているうちに、フヨウのそれは次第に熱を帯び芯を持ち始める。
 リアムは親指の腹で性器の先端を撫で回して握り込むと、先走りで濡れ始めた慎ましやかな割れ目に爪を立てた。

 「んぅ…!」

 敏感な其所に、乱暴をされて悲鳴を上げそうになる。

 「此処はもう大丈夫か?」

 性器を弄んでいた手が、後ろに延ばされフヨウの体液で濡れた指が孔に触れた。ぴりりと走った痛みに、フヨウは思わず躰を強張らせる。
 最初の夜に挿入れられたときの傷は完全に癒えたわけでは無い。痛みが残っているだけに、挿入れられる時の辛さが容易に想像できて怖い。
 暫くゆるゆると孔を弄っていた再びリアムはオイルの瓶を手に取ると、惜しげも無く下肢に溢す。生ぬるい液体が茂みのない下腹部を流れ、尻までを濡らした。多分間違いなく指は入ってくる。目を閉じて、微かに躰を震わせて入れば、指がぬっと体内に入る。背筋を走り抜けた痛みに、逃げ出したくなる躰をなんとか宥めた。
 押し上げられるような感覚と異物感。抜き差しされる指に、増して行く痛み。熱を持っていた幼い性器はすっかり萎えてしまったが、腹の中を探っていたリアムの指が在る場所を強く刺激した瞬間、フヨウの喉がひゅっと鳴った。

 「……!?」

 全身から力を奪われるような衝撃が躰を走り抜けて、まぶたの裏で白い光が弾ける。

 「っやぁっ……!!!」

 下半身から突き抜けるような衝撃が頭に抜けて、躰が勝手に跳ね上がった。

 「どうだ? フヨウ、感じるか……?」

 声に喜色を滲ませたリアムは、一度だけではなく幾度もその場所を押し上げた。与えられるその刺激に、萎え掛けていたフヨウの性器がが再び熱を帯び始める。

 「ゃっ……ぁぁっ!!ぅっ!!」

 痛みでは無い、まるで知らない未知の感覚に頭の中も躰も混乱する。リアムの腕から逃れようと必死に身を捩るけれど、それは小さな身動ぎにしかならない。ぞくぞくと躰を支配する訳のわからない感覚に翻弄され、痛みも異物感も何もかもぐちゃぐちゃだ。


 躰の中を弄っていた指が抜けると、熱くて太いリアムの性器が孔に押し当てられた。慌てて腰を引くが、それは容赦なく後孔を押し広げて行く。裂けるような痛みが走り、フヨウは声にならない悲鳴を上げる。
 けれど、痛みを感じていたのはわずかの間だった。躰の中に入り込んだリアムの堅い肉杭の先が、腹の最奥を強く突き上げ一瞬意識が遠ざかる。

 「っ……!!」

 四肢を強張らせ震える躰を乱暴に揺さぶられ、フヨウはまるで岸に打ち上げられた魚のように跳ね上がった。
 リアムが荒い息を付きながら、時折苦し気にフヨウの名を呼ぶ。痛みのせいで敏感になってしまった肌は、寝具に擦れる刺激にさえも過敏に感じ入り、異物を追い出そうとする腹が、中のリアムを締めつけてしまってそれが余計に辛かった。
 酸素が足りないのか頭の中がぼんやりと霞む。目蓋の裏でちかちかとしている光を感じながら、フヨウはもう何も考えられなくなっていた。
 頭の芯が焼き切れてしまうのではないかと思ったその時、リアムがフヨウの首筋に噛み付いた。鋭い痛みを覚えるのと同時に、躰の奥に熱が吐き出されたのを感じた。リアムが腹の中でびくりびくりと脈を打つ。迸る熱をその身で受け止めながら、フヨウの未熟な性器からもとろりと白いものが零れ落ちた。





 仰向けに転がったまま、フヨウはぼんやりと天蓋を眺める。
 腕を持ち上げるのさえ億劫なほどに怠く、躰の中をぐちゃぐちゃにされた感覚もまだ消えない。リアムが噛み付いた首筋がずきずきと痛む。
 けれど、消耗した体は次第に睡魔に誘われてゆく。体はリアムが綺麗にしてくれた。抱いている時の荒々しさとは打って変わり、後始末をするときのリアムは酷く優しい。まるで、大事なものを扱うようにフヨウの躰に触れるのだ。けれど、抱かれている時はやはり怖いと思う。
 フヨウが夢と現の間で漂っていると、突然頭の中で甲高い女性の声が響いた。

 _ ああ! 本当に鬱陶しい! あんたのせいでこんなに苦労してるんだよ! 本当はあんたなんて産みたくなかった! 流れちゃえばよかったのに! _ 

 その声にハッとしたフヨウは、一気に現実の世界に引き戻される。
 胃の底が冷えるような感覚に、躰が震え、指先が冷たくなってゆく。

 「……なんで僕は、生まれて来ちゃったんだろう?」




 フヨウの家は母子家庭だった。
 フヨウの母親泉美いずみは家庭に恵まれず、家族との縁が薄い人だった。義父と反りが合わず、早くから家を飛び出し享楽的に暮らしていたのだ。フヨウを身籠ったのは、その時だ。当時泉美と同棲していたフヨウの父にあたる男は、泉美が妊娠したことを知ると、逃げるようにアパートを出て行ってしまい、二度と戻ってこなかったという。
 泉美は妊娠に関わる知識に乏しく、また相談できる人もいなかった。気が付いた時には、堕胎もできない時期に入っていたのだ。仕方なく子供を産んだ泉美は、子供にフヨウ(不用)という名前をつけた。望んでできた子供ではない。泉美は子供の名前に、己の不満を込めた。
 何より、生まれて来たフヨウは、日本人ではありえない青緑の目の色をしていた。泉美はそれを気味悪がった。今までに関係を持った相手に、そんな要素をもつ男はいなかったからだ。
 それでも、乳幼児期のフヨウの面倒を見ていたのは、泉美に僅かにでも芽生えた母性の成せる技だったのか、あるいは、ひとり親家庭に支給される支援金が目的だったのかもしれない。
 けれど母子二人の生活は、元より奔放な泉美の負担でしかなかった。
 次第にフヨウは放置されるようになり、たまに男を連れて戻って来る。そんな日は、泉美の連れて来た男が帰るまで、フヨウは押入れの中でじっとしているよう言いつけられた。部屋で泉美と男が何をしているのかはわからない。聞こえてくるのは泉美の嬌声と男の荒い息遣い。フヨウはそれが怖くて、真っ暗な押入れの隅で小さくなり耳を塞いで過ごした。
 幼いながらに、自分の置かれている立場を感じ取っていたフヨウは、泣いたり我儘を言ったりしない子に育った。泉美の手を煩わせなければ、気まぐれにでも可愛がってくれる。
 顔立ちの整った美しい泉美に似たフヨウは、親子でいればしばしば他人から可愛いと褒められた。そんな時は、泉美の機嫌は良くなり、優しい母親の顔を見せる。フヨウを可愛がり、抱きしめてもくれる。けれど、それも一時のことだ。泉美はすぐにフヨウのことなど、どうでもよくなる。時にはアパートの外に追い出され、夜遅くまで公園で泉美が迎えに来るまで待たされることもあった。
 そんな親子の様子に、ネグレクトを疑った近所の誰かが通報したことによって、児童相談所の人間が訪問するようになると、泉美はそれを鬱陶しがり一層の苛立ちをフヨウにぶつけた。
 
 「あー、ヤダヤダ。いちいち煩いんだよ。こっちだって好きで産んだわけじゃないのに。どうして流れなかったんだろう」
 
 苛立った泉美は、ことあるごとに、フヨウをいらない子だと言った。泉美が投げつける暴言から、フヨウは自分の名前の意味を理解するようになった。いらない子だから、不用なのだと。
 小学校に上がる頃、フヨウは児童養護施設に預けられることになった。泉美のネグレクトが顕著なものになったからだ。
 長い間、フヨウの世界には母親の泉美しかいなかったせいで、知らない子供や大人ばかりが沢山いる施設に、フヨウが馴染むことは難しかった。ただ、言われたことには大人しく従い、施設のルールは守る。他の子供たちと諍いを起こすわけでも、問題行動をとったりもしない。そのせいで、施設の大人たちは、フヨウは施設で落ち着いているものだと思い込んでいる。
 フヨウはいつか泉美が迎えに来てくれるのだと、心の何処かで期待していた。あんな母親でも、フヨウにとってはたった一人の家族だ。いらない子だと言っても、優しくしてくれる時もある。
 けれど、泉美はいつまでたってもフヨウの様子を見に来ることも、迎えに来ることもなかった。
 フヨウが小学校の高学年に進級する頃だ。突然フヨウへのいじめが始まった。大人しいフヨウはクラスでも目立たず、印象に残らない子だった。いてもいなくてもわからない、幽霊のような子供だったが、そんなフヨウに目をつけた男子児童達がいた。目の色が変わっていると揶揄いだしたのだ。養護施設から学校に通っていることも、フヨウを攻撃する材料の一つになった。
 最初は教科書を隠すような些細な悪戯だったが、それが上履きや体操服のようなものになり、隠す場所も焼却炉やトイレのような場所にエスカレートして行った。時には暴力を振るわれるようなこともあったが、フヨウはそれを誰かに訴えることすらせず、いつもじっと耐えていた。こんなことはいつまでも続かないと、知っていたからだ。
 泉美に押入れに閉じ込められても、翌日には出してくれる。公園で待たされても、そのうちに迎えに来てくれる。罵声を浴びせかけても、食事を抜かれても、毎日は続かない。
 けれど、フヨウのいじめは中学に上がっても続いていた。
 この頃になると、泉美に見捨てられた現実を、フヨウは漸く受け入れられるようになっていた。本当に自分は不用の子だったのだ。
 自由になった泉美は、今頃どこかで身軽に暮らしている。自分を捨てた母を想い、フヨウは施設の物置の隅に隠れて一度だけ泣いた。誰にも見つからないように、声を殺して。

 フヨウはいつも居場所の無さを感じていた。施設にも、学校にも不用の子供の居場所はない。この遣瀬なさを、フヨウは誰にも打ち明けることができず、ただ何も感じないように、心を無にして過ごすしかなかった。
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