彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第二章 バディになった二人の奇妙な関係

11.初めて見た表情

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「もしかして……本当に経験がなかった、とか? リューの初めてを貰っちゃった?」
「どうとでも言え。言っただろう? 煩わしいし興味がない」
「僕としては考えられないけどな。快楽に興味がないだなんて。今までどうやって生きてきた訳?」
「そんな話が聞きたいのか?」

 リューはゆっくりと目を開けると、僕の心を見透かすように瞬きもせずに視線で射抜く。

 分かりづらいが、あまり話したくはないのかもしれない。
 僕が動きを止めると今度こそ身体を起こして、僕のことも力ずくで退かしてしまった。

 そのまま立ち上がろうとしたところで、耳元に口を寄せられる。

「聞いたところで不愉快になるだけだ。これ以上――俺に深入りするな」

 耳に飛び込んできた言葉は突き放す内容だと言うのに、リューの低音が僕の耳朶を擽り捉えてくる。
 無意識だろうが、凄い脅し文句だ。

 背筋がブルリと震えてゾクゾクする。

 (そう言われて、はい、そうですか。と言うほど素直じゃないんだよね。こっちは)

 立ち上がり、服を着ようと手に取ったリューを見ながらその背に声をかける。

「残念だけど、勝手にしていいと言ったのはリューだから。だから……リューのことをもっと知りたい」

 嫌そうに振り返ったところに飛び込んで、ギュッと抱きしめた。

 無邪気さが効いたのか無理矢理引き剥がそうとしてこない。
 手に持っていたシャツがパサリと床へと落ちる。

「言いたくないことは今すぐ言わなくていい。リューが言いたくなったらでいいから。だけど、もっと色々なリューを見たいから。これからもよろしく」

 ニッコリと笑いかけて、ちょんと唇に触れるだけのキスをする。
 リューは一度だけ瞬きをしていつも通りに睨んでくると思っていたのに――

 (え……? 笑ってる?)

「……お前は、本当に変な奴だな」

 リューは僕を見ながら目元を和らげていた。
 今まで見た中で一番人間らしい表情で、こっちは隙あらばもう一回戦しようと企んでいたのに。

 あまりに穏やかな表情だったので、する気が失せてしまった。

「リュー、今。笑って……」
「……俺は疲れたから一眠りする。お前は好きにしろ、アルヴァーノ」

 呆然としてしまった僕を置いて、リューはシャツを拾い直すとそのまま何事もなかったように踵を返してベッドルームへと消えてしまった。

「何で今、名前呼んで……リュー? 言い逃げしないでちゃんと説明して?」

 僕は裸のまま、リューの背中を追いかける。リューが何を考えているのかまだ何も分からないけれど。

 (やっぱり嫌われてはいないみたいだし、今度こそ――)

 決意を新たに、今日は僕も素直に休むことにした。
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