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56.フェニックスを止めなくちゃ!

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 ルナちゃんに腕をつかまれた瞬間、僕の頭の上を炎が飛んでいくのが見えた。
 少しでも勢いよく飛び出ていたら、炎で焼かれちゃったかもしれない。

「でも、どうしたらいいの?」
「少し頭を冷やしてもらうしかないでしょ! 水でもぶっかける?」

 ルナちゃんはつえを取り出すと、ぶつぶつと呪文のようなものを唱えていく。
 すると、つえの先に水のかたまりが現れてどんどんふくらんで洞窟どうくついっぱいに広がった。

「ルナ、まずは一発頼んだぞ!」
「分かってるわよっ!」

 飛んでくる炎をかわしながら、ラグお姉さんが振り返って叫ぶ。
 ルナちゃんも答えて、大きな水のかたまりをフェニックスの飛んでいるところへシュっと飛ばした。

「キュゥアアアアッ!」

 フェニックスもよけようとしたけど、水のかたまりは身体より大きかったからよけきれなかったみたい。
 ジュウっという音と一緒に羽の辺りが水にぶつかって、グラっと身体が傾いた。

「死なない程度に叩き落すぞ!」
「分かった」

 今度はラグお姉さんとオルお兄さんが、フラフラ飛んでいるフェニックスに向かって走っていきながら剣と腕を振る。
 ラグお姉さんは剣から、オルお兄さんはナックルの先から目に見えないものを飛ばしたみたいだ。
 その攻撃が当たると、フェニックスはゆらりと地面へとおりてきた。

 フェニックスはじっと僕たちを見ながら、こわい声でうなり始めた。

「……違う! 僕たちはフェニックスさんを倒しにきたんじゃない! 話をしに来たんだ」

 フェニックスは、倒されてたまるか子どもを返せってそればっかり繰り返してる。
 
「お願い、話を聞いて! 悪い人を探して子どもを返しに来るから、カステロッシのみんなを……全てをなくしてしまうだなんて……そんなこと言わないで!」
「そんな……我々は決してあなた様にそんなことは致しません! どうか、信じてください!」

 人間なんてみんな死んでしまえばいいだなんて……。
 フェニックスは、カステロッシの城や街も全部壊して人間をかたっぱしから殺してしまうって叫んでる。
 確かに悪い人もいるけど、カステロッシの人たちはフェニックスさんを大切に思っているはずだ。
 だから、みんなを殺してしまうだなんてそんな怖いこと言わないで欲しい。

「キュウゥゥゥっ……」
「数的にはこちらが有利だが、この場所で暴れられると熱で蒸し焼きにされてしまうだろうな」
「確かに。今見えるのはこの一体だけだが、まだ他にもいるのだろう?」

 ラグお姉さんの言う通り、まだ洞窟の中は蒸し暑い。
 オルお兄さんが奥のほうをじっと見ていると、ルイーツさんがはい、と返事をする。
 
「フェニックスはこの一体だけではありません。毎年子育てのためにこの洞窟どうくつにやってきますが、他のフェニックスたちは普段異世界に住んでいると言われています。昔、王の祖先はたくさんのフェニックスと出会ったと伝えられているのです」
「そんな不思議な生き物なの? 異世界って……まあ確かに私もこの目で見たのは初めてだけど」
「ですから、彼らがその気になれば多くのフェニックスがやってきてあっという間に国は滅ぼされてしまうでしょう」

 異世界っていうのは別の世界ってことだよね。
 もしたくさんのフェニックスがきて、いっぱい炎を吐いたりしたら……大変なことになっちゃう!
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