【本編完結】変わりモノ乙女ゲームの中で塩対応したのに、超難易度キャラに執着されました

楓乃めーぷる

文字の大きさ
6 / 119
第二章 ラブスピの世界へようこそ?

5.記憶喪失

しおりを挟む
 俺はパジャマ的な姿のままだ。
 パジャマと言っていいのかよく分からないが、ゆるっとした麻っぽいシャツとズボンをはいているからそう思っただけでデザインはファンタジー世界っぽい気もする。
 カティはその恰好を見てまだ着替えてないの? と驚いた表情を浮かべて俺に近づいてきた。

「ねえ、どうしたの? さっきから変だよ?」
「いや……その、記憶が……なくて。だから、混乱中」

 必死に捻りだした答えは、記憶喪失だった。
 俺は何故か自分の名前まんまのハルと呼ばれているし、このゲーム内で俺はどの登場人物なんだろう?
 
 今、カティに言われたことを整理してみる。
 俺はラブスピのゲームの中にいて、種の成長を報告しなければならないらしい。
 そして、カティと共に種を成長させているポジションといえば……一人しかいない。

 つまり、主人公のライバル。要はゲームの悪役側だ。
 確か主人公は平民だけど、ライバルは貴族だった気がするからいわゆる悪役令息ってヤツか。
 あのゲームでもほぼいないような扱いだったから、詳細もほとんど覚えていないけど……いつも主人公に嫌がらせをするせいで精霊からも嫌われているキャラだよな。

「記憶がないって……それって、ボクのことも覚えていないってこと? ええー!」

 カティは大げさな声をあげて、俺の両肩を掴んで揺さぶってくる。
 とても無遠慮な感じで……正直苦手なタイプだ。
 緊急事態じゃなかったら、俺のことはそっとしておいてほしい。

「悪いけど、本当に何も覚えていないんだ。だから、精霊様に俺のことを伝えてくれ。それまでに着替えておく」
「え、うん。分かった! よく分からないけど、記憶がないんだもんね? 待ってて!」

 カティは明るい声で言うと、くるっと回って扉から出て行った。
 見ていてすごくせわしないヤツだ。一緒にいるとドッと疲れる。

「あれが可愛いって言うのなら、腐女子の感覚は理解できない……」

 一気に疲れたが、これからどうするかを考えないといけない。
 俺はまず着替えようと、部屋の片隅に置いてあるクローゼットを開く。
 すると、カティが着ていたものと似たような服がかかっていた。
 
 濃い灰をベースにしたブレザーに青と白のストライプのネクタイ。白のワイシャツにパンツは灰と白のチェック。
 私立高校の制服みたいだけど、カティが着ていたのは茶色ベースの制服だったな。
 靴は……ローファーみたいな黒の革靴か。

「待て。俺、成人したのに制服か……」

 自分でツッコミを入れてしまうが、俺はもう二十だ。
 カティは十九だったような気もするが……この歳になって制服を着る羽目になるとは思わなかった。
 正直、ゲーム内のライバルはモブすぎて顔のイラストもあったかどうか覚えていない。
 ただ、黒髪で地味な感じではあったからある意味俺と似ているとか?
 だから、主人公ではなくライバルとして転生したのかもしれない。

「にしても、ライバルって最後どうなるんだっけ……家に帰されるんだったか?」

 ライバルのことは記憶にない。
 それに……この状況が異世界転生だとしたら、俺は元居た場所に帰れないのだろうか?
 元の世界に未練があるってほどじゃないけど、ゲームができないのは辛い。
 この世界には娯楽ってものはないだろうしな。
 家族は……俺がいなくなったくらいじゃ気にしないだろうな。妹じゃなくて良かったと安心してるはずだ。

「とりあえず……着替えはできた。ただ、これからどうすればいいのか……」

 俺が適当に身支度を済ませると同時に、また扉が叩かれる。
 今度は自ら扉を開けて、出迎えた。

「記憶喪失だと聞いたが、どういうことだ」

 目の前に立っていたのは、険しい銀の瞳を持つ全身も銀色のカッチリと西洋の貴族のような服を着こなした青年だ。
 銀のポニーテールも美しい男性は、精霊の一人だったと思うが……名前がややこしくて思い出せない。

「もしや、我のことも分からないのか?」

 この仰々ぎょうぎょうしい喋り方の精霊は……確か光の精霊だったとは思うけど。
 全員名前が長すぎて、ゲームをしてた時から覚えてなかった。
 俺が考え込んでいると、はぁとため息を吐かれてしまう。

「嘘にしては手が込みすぎているな。まあいい。どちらにせよ一緒に来てもらう」
「はい」

 俺は緊張しながら、家を出て光の精霊の後をついていく。
 目の前に広がる光景はやっぱり見たこともない場所だった。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...