【本編完結】変わりモノ乙女ゲームの中で塩対応したのに、超難易度キャラに執着されました

楓乃めーぷる

文字の大きさ
14 / 119
第三章 地道なお手伝いで金貨を稼ごう

12.悪夢からの休日

しおりを挟む
 目覚めると汗をぐっしょりかいていた。
 着ていた服を投げ捨て、慌てて汗を流しにいく。

「なんだったんだ……あの夢……」

 この顔と体も一応俺であって別人ではないはずなのに、記憶だけ別人のものが入ってきたみたいだ。
 すごく……気持ち悪い。

 シャワーで全て流れてしまえばいいけど、不快さは簡単に流れてはくれない。
 本当は今日も金貨を稼ぎに行きたかったけど、どうしてもそんな気になれなかった。
 一通り汗を流したあと、部屋着に着替えてベッドの上へ転がる。
 食欲もないので朝ごはんも食べずにいると、コンコンと窓が叩かれる音がした。

 怠い身体を起こし窓を開けると、先日見た青い鳥がバサバサと遠慮がちに部屋へ入ってきた。
 この子は確か、風の下級精霊だったな。
 
「お邪魔します。もしかして具合が優れませんか?」
「少し疲れてしまっただけなので、お気になさらず」
「そうでしたか。でも、食事は召し上がった方がいいですよ」
「分かりました」

 俺が答えると、お大事にという言葉と共に青い鳥は窓から出て行った。
 食事は一応置いていくって言ってくれたけど……正直食べる気がしない。

「申し訳ないけど、今日は休ませてもらおう」

 ゲームでも休日にするというコマンドは用意されていたはずだから、行動自体は自由にしていいはずだ。
 精霊たちと距離を取っているせいで失礼な態度かもしれないのに……体調を誰かに気遣ってもらうだなんて、いつ以来だろう?

「情けないけど、仕方ないか。休日は休日だ」

 俺はもう一度ベッドへ横になって、無理やり目を閉じた。

 +++

「ん……」

 どうやらひと眠りできたらしい。昨晩のような嫌な夢も見なかった。
 この世界のライバルに何があったのかは分からないが、家の中で冷遇されてたみたいだし彼の状況は少しは理解できる気がする。
 けど……だからと言って周りに当たり散らしたりするのは幼稚だよな。

「慣れちゃえば別に。そんなもんだなって思うだけだからな。と言っても俺はあそこまで酷くはないか」

 俺に対して、ウチの両親は罵声を浴びせてくることはない。
 ただ、俺への扱いが適当なだけな気がする。だから、俺も適当に流せばいいだけだ。
 ぼんやり考えながら身体を起こすと、扉がトントンとリズミカルに叩かれた。

「誰だろう?」

 窓の外はもう日が暮れているから、俺は半日以上眠っていたみたいだ。
 扉を開けると、ひょこっと顔が飛び出してくる。

「うわ!」
「ん? あ、起きてた。大丈夫?」

 爽やかなブルーの髪と何を考えているかよく分からない表情。
 深い青の瞳が、俺の全身を軽く見回してくるのが分かる。

「ウィンドライ……様。どうも」
「うん。今日一日何も食べてないって聞いたから、一応様子見に来た」

 ここに住んでる精霊様は暇なのか?
 この前もわざわざ見に来てくれた気がするけど……ゲームの中にそんなイベントがあった記憶がない。

「ご心配をおかけしたみたいですが、少し気分が優れなかったので寝てただけです」
「そう? そういわれると……確かに少し顔色が悪いかも」

 無遠慮にずいっと顔を覗き込まれる。
 額にも手が伸ばされ、熱があるかどうかを確認されてしまった。

「ウィン、待ってください。あなたは走るのが速いのですから……」
「あ。兄さんごめん。ハル、熱はないらしい」

 ウィンドライの手はパッと離され、俺が後ろを見るとまた一人部屋の中に入ってきたのが見えた。
 ウィンドライに兄さんと呼ばれるのは、水の精霊のリバイアリスだ。

 彼もどこか申し訳なさそうな表情で俺の側へ近寄ってくる。

「やはり無理をしていたのですね。ユニコからハルがお手伝いをしてくれたと聞いていたのですが……」
「こちらが勝手にやったことですから。リバイアリス様が気にする必要は一切ありません」

 俺が端的に述べると、リバイアリスはそうですか……とまた悲しそうな顔をしてしまった。
 もしかして心配してくれていたのだろうか? でも、俺が今日休んでいたことと手伝いをしたことは関係ないのに。
 穏やかなだけでなく、とても気遣いのできる人みたいだ。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...