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第三章 地道なお手伝いで金貨を稼ごう
12.悪夢からの休日
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目覚めると汗をぐっしょりかいていた。
着ていた服を投げ捨て、慌てて汗を流しにいく。
「なんだったんだ……あの夢……」
この顔と体も一応俺であって別人ではないはずなのに、記憶だけ別人のものが入ってきたみたいだ。
すごく……気持ち悪い。
シャワーで全て流れてしまえばいいけど、不快さは簡単に流れてはくれない。
本当は今日も金貨を稼ぎに行きたかったけど、どうしてもそんな気になれなかった。
一通り汗を流したあと、部屋着に着替えてベッドの上へ転がる。
食欲もないので朝ごはんも食べずにいると、コンコンと窓が叩かれる音がした。
怠い身体を起こし窓を開けると、先日見た青い鳥がバサバサと遠慮がちに部屋へ入ってきた。
この子は確か、風の下級精霊だったな。
「お邪魔します。もしかして具合が優れませんか?」
「少し疲れてしまっただけなので、お気になさらず」
「そうでしたか。でも、食事は召し上がった方がいいですよ」
「分かりました」
俺が答えると、お大事にという言葉と共に青い鳥は窓から出て行った。
食事は一応置いていくって言ってくれたけど……正直食べる気がしない。
「申し訳ないけど、今日は休ませてもらおう」
ゲームでも休日にするというコマンドは用意されていたはずだから、行動自体は自由にしていいはずだ。
精霊たちと距離を取っているせいで失礼な態度かもしれないのに……体調を誰かに気遣ってもらうだなんて、いつ以来だろう?
「情けないけど、仕方ないか。休日は休日だ」
俺はもう一度ベッドへ横になって、無理やり目を閉じた。
+++
「ん……」
どうやらひと眠りできたらしい。昨晩のような嫌な夢も見なかった。
この世界のライバルに何があったのかは分からないが、家の中で冷遇されてたみたいだし彼の状況は少しは理解できる気がする。
けど……だからと言って周りに当たり散らしたりするのは幼稚だよな。
「慣れちゃえば別に。そんなもんだなって思うだけだからな。と言っても俺はあそこまで酷くはないか」
俺に対して、ウチの両親は罵声を浴びせてくることはない。
ただ、俺への扱いが適当なだけな気がする。だから、俺も適当に流せばいいだけだ。
ぼんやり考えながら身体を起こすと、扉がトントンとリズミカルに叩かれた。
「誰だろう?」
窓の外はもう日が暮れているから、俺は半日以上眠っていたみたいだ。
扉を開けると、ひょこっと顔が飛び出してくる。
「うわ!」
「ん? あ、起きてた。大丈夫?」
爽やかなブルーの髪と何を考えているかよく分からない表情。
深い青の瞳が、俺の全身を軽く見回してくるのが分かる。
「ウィンドライ……様。どうも」
「うん。今日一日何も食べてないって聞いたから、一応様子見に来た」
ここに住んでる精霊様は暇なのか?
この前もわざわざ見に来てくれた気がするけど……ゲームの中にそんなイベントがあった記憶がない。
「ご心配をおかけしたみたいですが、少し気分が優れなかったので寝てただけです」
「そう? そういわれると……確かに少し顔色が悪いかも」
無遠慮にずいっと顔を覗き込まれる。
額にも手が伸ばされ、熱があるかどうかを確認されてしまった。
「ウィン、待ってください。あなたは走るのが速いのですから……」
「あ。兄さんごめん。ハル、熱はないらしい」
ウィンドライの手はパッと離され、俺が後ろを見るとまた一人部屋の中に入ってきたのが見えた。
ウィンドライに兄さんと呼ばれるのは、水の精霊のリバイアリスだ。
彼もどこか申し訳なさそうな表情で俺の側へ近寄ってくる。
「やはり無理をしていたのですね。ユニコからハルがお手伝いをしてくれたと聞いていたのですが……」
「こちらが勝手にやったことですから。リバイアリス様が気にする必要は一切ありません」
俺が端的に述べると、リバイアリスはそうですか……とまた悲しそうな顔をしてしまった。
もしかして心配してくれていたのだろうか? でも、俺が今日休んでいたことと手伝いをしたことは関係ないのに。
穏やかなだけでなく、とても気遣いのできる人みたいだ。
着ていた服を投げ捨て、慌てて汗を流しにいく。
「なんだったんだ……あの夢……」
この顔と体も一応俺であって別人ではないはずなのに、記憶だけ別人のものが入ってきたみたいだ。
すごく……気持ち悪い。
シャワーで全て流れてしまえばいいけど、不快さは簡単に流れてはくれない。
本当は今日も金貨を稼ぎに行きたかったけど、どうしてもそんな気になれなかった。
一通り汗を流したあと、部屋着に着替えてベッドの上へ転がる。
食欲もないので朝ごはんも食べずにいると、コンコンと窓が叩かれる音がした。
怠い身体を起こし窓を開けると、先日見た青い鳥がバサバサと遠慮がちに部屋へ入ってきた。
この子は確か、風の下級精霊だったな。
「お邪魔します。もしかして具合が優れませんか?」
「少し疲れてしまっただけなので、お気になさらず」
「そうでしたか。でも、食事は召し上がった方がいいですよ」
「分かりました」
俺が答えると、お大事にという言葉と共に青い鳥は窓から出て行った。
食事は一応置いていくって言ってくれたけど……正直食べる気がしない。
「申し訳ないけど、今日は休ませてもらおう」
ゲームでも休日にするというコマンドは用意されていたはずだから、行動自体は自由にしていいはずだ。
精霊たちと距離を取っているせいで失礼な態度かもしれないのに……体調を誰かに気遣ってもらうだなんて、いつ以来だろう?
「情けないけど、仕方ないか。休日は休日だ」
俺はもう一度ベッドへ横になって、無理やり目を閉じた。
+++
「ん……」
どうやらひと眠りできたらしい。昨晩のような嫌な夢も見なかった。
この世界のライバルに何があったのかは分からないが、家の中で冷遇されてたみたいだし彼の状況は少しは理解できる気がする。
けど……だからと言って周りに当たり散らしたりするのは幼稚だよな。
「慣れちゃえば別に。そんなもんだなって思うだけだからな。と言っても俺はあそこまで酷くはないか」
俺に対して、ウチの両親は罵声を浴びせてくることはない。
ただ、俺への扱いが適当なだけな気がする。だから、俺も適当に流せばいいだけだ。
ぼんやり考えながら身体を起こすと、扉がトントンとリズミカルに叩かれた。
「誰だろう?」
窓の外はもう日が暮れているから、俺は半日以上眠っていたみたいだ。
扉を開けると、ひょこっと顔が飛び出してくる。
「うわ!」
「ん? あ、起きてた。大丈夫?」
爽やかなブルーの髪と何を考えているかよく分からない表情。
深い青の瞳が、俺の全身を軽く見回してくるのが分かる。
「ウィンドライ……様。どうも」
「うん。今日一日何も食べてないって聞いたから、一応様子見に来た」
ここに住んでる精霊様は暇なのか?
この前もわざわざ見に来てくれた気がするけど……ゲームの中にそんなイベントがあった記憶がない。
「ご心配をおかけしたみたいですが、少し気分が優れなかったので寝てただけです」
「そう? そういわれると……確かに少し顔色が悪いかも」
無遠慮にずいっと顔を覗き込まれる。
額にも手が伸ばされ、熱があるかどうかを確認されてしまった。
「ウィン、待ってください。あなたは走るのが速いのですから……」
「あ。兄さんごめん。ハル、熱はないらしい」
ウィンドライの手はパッと離され、俺が後ろを見るとまた一人部屋の中に入ってきたのが見えた。
ウィンドライに兄さんと呼ばれるのは、水の精霊のリバイアリスだ。
彼もどこか申し訳なさそうな表情で俺の側へ近寄ってくる。
「やはり無理をしていたのですね。ユニコからハルがお手伝いをしてくれたと聞いていたのですが……」
「こちらが勝手にやったことですから。リバイアリス様が気にする必要は一切ありません」
俺が端的に述べると、リバイアリスはそうですか……とまた悲しそうな顔をしてしまった。
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穏やかなだけでなく、とても気遣いのできる人みたいだ。
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