ゼロ距離からはじまる二人の夜

楓乃めーぷる

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番外編(本編終了後の話を含みます。ご注意ください)

【翌日会社編】1.翌日

 翌日、俺が目を覚ますと隣にはスヤスヤと寝息を立てている藤帆ふじほがいた。
 眠っていても、綺麗だなと素直に感心した。

「あー……頭いてぇ……」

 全て明確に覚えているってほどじゃないが、アホなことをした記憶はある。
 しかも、会社の同僚で後輩の藤帆とだ。
 俺としてはヤるのは問題ないが、求めているのは後腐れのない関係。
 欲だけ満たして後はさよならの関係がベストだった。そもそも、カミングアウトをしている訳でもないし俺自身モテる訳でもなんでもない。

「はあ。帰るか」

 見慣れない部屋は綺麗に整えられていて、俺自身の身体も綺麗にされていた。
 藤帆は想像以上に世話好きなのかもしれない。
 俺が脱ぎ散らかしたであろうスーツもハンガーにかけられていたし、ワイシャツも椅子の上に畳まれて置いてあった。
 ついでに下着まで。

「マジか……」

 身体の相性だけ言えば文句なく気持ち良かった。
 コイツにあえて言うつもりもないが、行為の最中は藤帆を煽ったし俺の様子を見てたらバレバレだろう。
 ベッドサイドに置かれていた俺のスマホを開くと、時計はもうすぐ五時になるところだった。
 静かに服を着て、さっさと室内を出ようとするとメモ書きが置いてあった。

 『帰るなら、鍵はそのままで』

 俺が起きて帰ることまで計算済みか?
 鍵はそのままで。
 って……まあ、いいか。
 俺は気にせず静かに部屋を出た。

 +++

 頭痛は酷いが、今日も出勤しなければならない。
 藤帆はマンションに住んでいたが、親が金持ちとか?
 部屋もやけに広いなと思っていたが……二十二歳って聞いたはずだし、家の会社の給料では住めそうにない高級マンションにビビりながら俺の自宅であるボロアパートに急いで帰った。

 で、一応シャワーを浴びて着替えてから慌てて出勤した訳だが……藤帆は俺抜きで得意先へ行かされてしまい、俺は藤帆に顔を合わせることなく社内で一人仕事をしていた。
 黙々とやっていたはずなのに、ふいに画面に影が差して遮られる。

栞川しおりかわ、また飲みすぎたのか」
「ほっとけ」
「その人に噛みつきそうな顔はやめろって。まーた怖いって言われるぞ」

 朝から絡んでくるのは、同期のおせっかい野郎の篠並しのなみだ。
 用もなく絡んでくるのはコイツと藤帆くらいで、他は仕事の用で仕方なく話しかけてくるだけだ。

「あー……煙草吸ってくる」

 篠並を無視して席を立ちオフィスを出ようとしたところで、腕が引っ張られて引き寄せられる。
 篠並は俺の耳の口を寄せて小声で呟いてくる。

「……キスマーク付けたまま出勤するとは。昨日も激しかったらしいな。ほどほどにしておけよ」

 俺が慌てて首筋に手を当てると、篠並はおかしそうに笑って俺から離れた。
 コイツは唯一俺の性癖を知っているヤツだったのを忘れていた。
 残念ながら、藤帆にもバレていたことが発覚した訳だが。

「ほっとけ。お前には頼まないから安心しろ」

 言い放ってからオフィスを出たところで、今度は誰かにぶつかった。
 謝罪しようと顔を上げると、今一番会いたくない人物と目が合ってしまった。

「……悪い」

 俺が謝ったってのに、目の前の後輩君は分かりやすく不機嫌そうな表情をしている。
 どうやらちょうど得意先から戻ってきたところだったようだ。
 にしても、タイミング悪いな。
 一刻も早く気分転換したかったのに。

栞川しおりかわさん、どこへ行くんですか?」
「なんでお前に言わなくちゃ……」

 藤帆の目は俺を見逃してくれそうにない。
 ため息を吐き、仕方なく煙草を吸う仕草をしてみせるといきなり腕を掴まれて引っ張られた。
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