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番外編(本編終了後の話を含みます。ご注意ください)
【藤帆目線】1.好きになった理由
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オレが栞川さんを好きになったきっかけは単純だ。
ずっと自分に自信が持てなかったオレは、苦手な面接で何とか拾ってもらった会社に居残ろうと必死だった。
だけど、入社してからも緊張しすぎて仕事は失敗続き。
オレに仕事を教えてくれていた先輩とも馬が合わなくて、精神的にも限界だった。
「はあ……もう辞めた方がいいのかな……」
今日期限の仕事を前にパソコン画面の前でため息を吐いていると、静かな足音が聞こえてきた。
見回りの警備員さんかと思い、ゆっくりと振り返った。
「あ、すみません。もう少ししたら出ます」
「ん? ああ。悪い。通りがかったら声が聞こえてきて。聞くつもりはなかったんだが……」
知らない人だった。多分別部署の人なんだろう。
少し怖そうな見た目の人だ。一体何の用なのかと見上げると急に缶コーヒーが差し出された。
「え?」
「やるよ。ブラック派だったら悪いな。でも、疲れた時には甘いものがいいって言うだろ?」
「はあ……」
オレが素直にカフェオレを受け取ると、その人は急に身体を屈めてオレの顔をじっくり覗いてきた。
突然のことで怖さと緊張感もあって……よく分からないまま固まってしまう。
だけど、目の前の男の人は特に気にもせずオレの頭にポンと手を置いてきた。
「お前、整った顔してるんだな。そんな暗い顔してないで笑ってたらいいことありそうだよな。俺は見た目のせいで損することが多いが、笑ってたらいいことあるって」
「オレが……?」
「あ、悪い。男に言われても微妙だよな。でも、メガネ取って髪とかちょっといじったらさ。別人みたいになって仕事もできるようになるかもな」
強面だと思っていたのに、その人の声色は優しかった。
その人の瞳は一度見たら忘れられない強さを秘めている気がして……オレは一瞬にして捕らわれてしまった。
「なんてな。適当なこと言って悪かったな。無理しないで早く帰れよ。俺も帰るところだし」
ニッと笑いかけてくれた表情からも目が離せない。
何気ない一言だったけど、嘘偽りない励ましを感じて目頭が熱くなってくる。
「あの、ありがとうございました!」
「おう。じゃあな」
片手をあげて去っていく姿すら、オレにとってはカッコイイ以外の何者でもなかった。
この時からオレはこの人にいつか恩返しがしたいと思うようになった。
+++
まずは自分に自信を持つことから始めようと、イメチェンしてみることにした。
自分では全く気付いていなかったけど、髪を少し染めてメガネをコンタクトにしただけで急に周りからの評価が良くなった。
あの人の言った通りだ。
少しずつ認められるようになってきてからは、落ち着いて仕事できるようにもなったし円滑にコミュニケーションをとれるようになった。
まさか、見た目を変えただけでここまで変わるなんてと内心驚いていたけど……あの人の助言がなかったら今のオレはいなかっただろう。
「藤帆くんのおかげで得意先からも褒められたよ」
「いえ、そんなことは。皆さんの支えがあってこそです」
「そうか。藤帆くんの力をぜひ発揮してもらいたい部署があってな。急な話だが君に異動の話が来ている」
こうしてオレは新人としては異例の異動になって、新しい部署へ配属になった。
「藤帆さん、よく来てくれたな。君に教えられるのは……手があいているのはアイツしかいないか。仕方ない。見た目はアレだが……おい、栞川くん」
「はい」
座っていた人が振り返ったその時、オレは驚いた。
あの時、オレを励ましてくれた人だ!
名前も聞けなかったしずっとお礼がしたかったけど、この広い社内で偶然会っただけの人を探し出すのは無理だと思っていた。
「栞川くん、今日からウチで働いてくれる藤帆さんだ。いいか、怖がらせるなよ」
「いや、だったら他のヤツに頼んだ方が……」
「栞川くんしか手があいていないから仕方ないだろう? それに君は人と接して表情を柔らかくした方がいい。私は理解しているつもりだが、初対面の人には感じが悪いと誤解されやすいしな」
栞川さんが渋々といった表情をすると、確かに感じの悪さが目立ってしまう気もする。
あんなに優しい人なのに、誤解されるのは勿体ない。
だけど……あの優しさを他の人が知ってしまうのも嫌だと思う気持ちもあった。
ずっと自分に自信が持てなかったオレは、苦手な面接で何とか拾ってもらった会社に居残ろうと必死だった。
だけど、入社してからも緊張しすぎて仕事は失敗続き。
オレに仕事を教えてくれていた先輩とも馬が合わなくて、精神的にも限界だった。
「はあ……もう辞めた方がいいのかな……」
今日期限の仕事を前にパソコン画面の前でため息を吐いていると、静かな足音が聞こえてきた。
見回りの警備員さんかと思い、ゆっくりと振り返った。
「あ、すみません。もう少ししたら出ます」
「ん? ああ。悪い。通りがかったら声が聞こえてきて。聞くつもりはなかったんだが……」
知らない人だった。多分別部署の人なんだろう。
少し怖そうな見た目の人だ。一体何の用なのかと見上げると急に缶コーヒーが差し出された。
「え?」
「やるよ。ブラック派だったら悪いな。でも、疲れた時には甘いものがいいって言うだろ?」
「はあ……」
オレが素直にカフェオレを受け取ると、その人は急に身体を屈めてオレの顔をじっくり覗いてきた。
突然のことで怖さと緊張感もあって……よく分からないまま固まってしまう。
だけど、目の前の男の人は特に気にもせずオレの頭にポンと手を置いてきた。
「お前、整った顔してるんだな。そんな暗い顔してないで笑ってたらいいことありそうだよな。俺は見た目のせいで損することが多いが、笑ってたらいいことあるって」
「オレが……?」
「あ、悪い。男に言われても微妙だよな。でも、メガネ取って髪とかちょっといじったらさ。別人みたいになって仕事もできるようになるかもな」
強面だと思っていたのに、その人の声色は優しかった。
その人の瞳は一度見たら忘れられない強さを秘めている気がして……オレは一瞬にして捕らわれてしまった。
「なんてな。適当なこと言って悪かったな。無理しないで早く帰れよ。俺も帰るところだし」
ニッと笑いかけてくれた表情からも目が離せない。
何気ない一言だったけど、嘘偽りない励ましを感じて目頭が熱くなってくる。
「あの、ありがとうございました!」
「おう。じゃあな」
片手をあげて去っていく姿すら、オレにとってはカッコイイ以外の何者でもなかった。
この時からオレはこの人にいつか恩返しがしたいと思うようになった。
+++
まずは自分に自信を持つことから始めようと、イメチェンしてみることにした。
自分では全く気付いていなかったけど、髪を少し染めてメガネをコンタクトにしただけで急に周りからの評価が良くなった。
あの人の言った通りだ。
少しずつ認められるようになってきてからは、落ち着いて仕事できるようにもなったし円滑にコミュニケーションをとれるようになった。
まさか、見た目を変えただけでここまで変わるなんてと内心驚いていたけど……あの人の助言がなかったら今のオレはいなかっただろう。
「藤帆くんのおかげで得意先からも褒められたよ」
「いえ、そんなことは。皆さんの支えがあってこそです」
「そうか。藤帆くんの力をぜひ発揮してもらいたい部署があってな。急な話だが君に異動の話が来ている」
こうしてオレは新人としては異例の異動になって、新しい部署へ配属になった。
「藤帆さん、よく来てくれたな。君に教えられるのは……手があいているのはアイツしかいないか。仕方ない。見た目はアレだが……おい、栞川くん」
「はい」
座っていた人が振り返ったその時、オレは驚いた。
あの時、オレを励ましてくれた人だ!
名前も聞けなかったしずっとお礼がしたかったけど、この広い社内で偶然会っただけの人を探し出すのは無理だと思っていた。
「栞川くん、今日からウチで働いてくれる藤帆さんだ。いいか、怖がらせるなよ」
「いや、だったら他のヤツに頼んだ方が……」
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栞川さんが渋々といった表情をすると、確かに感じの悪さが目立ってしまう気もする。
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だけど……あの優しさを他の人が知ってしまうのも嫌だと思う気持ちもあった。
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