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第五章 漸くモノにした魔塔主と少し素直になれた弟子
110.ひと足お先に
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「誰か美味い酒の作り方を教えてくれねぇかな。安酒じゃなくてよ」
「もしいたら、真っ先に箝口令を敷きますね。陛下に直談判します」
「ひでぇ奴。まぁ、いいや。しっかし、この体勢でお前も淡々と作るわな」
「とても動きづらいですけど、離してくれないなら仕方ないでしょう? まぁ、ずっと邪魔しているだけじゃなくて、手伝ってくれてますし」
レイヴンは鍋が温まったところでバターを入れ、順に具材を炒めていく。
次第に良い香りがしてくると、腹が減ってきた。
抱きつきながら、後ろから鍋を覗き込む。
「これは腹減る匂いだな。炒めたら暫くは時間がかかるんだよな」
「そうですね。そろそろ座って晩酌を始めたらどうですか? 俺も煮込むところまで来たら一旦座りますから」
「珍しく親切だな。じゃあそうするか。なぁ、アテは何かあるんだよな?」
「それこそ、チーズくらいしかないですけど。あ、頂いたパンに乗せたら美味しいかもしれない……師匠、パンを切るので軽く焼いといてください」
結局俺を便利使いしようとするじゃねぇか。
言い返そうとも思ったが、張り切る様子が微笑ましいからまぁ、いいか。
「しょうがねぇなぁ」
レイヴンが楽しそうだと言い返せねぇの分かってやってんのか?
だとしたら、なかなか小悪魔ちゃんじゃねぇか。
「女神様パンですって。カリッとしているパンだから、食べやすそうです。シチューの時の分もあるので、お酒と一緒に全部食べちゃダメですよ」
「分かった分かった。そんなに最初から飛ばして飲んだり食ったりしねぇよ」
薄くスライスされたパンが皿の上に並ぶと、魔法で火力を調整してさっと炙る。
いい具合に焼かれたパンの上にレイヴンがチーズを乗せていく。
「簡単だけど、別々に食べるより美味しいと思いますよ? どうぞ、先に食べてください」
「よくありそうだが、いちいち焼くのが面倒だから酒場では出ない代物だな」
レイヴンが鍋の前に戻ると酒をグラスに注ぎ、ひょいと摘んでトーストを口に運ぶ。
「お、これは結構イケる。酒が進むなァ」
「メインを食べる前に飲み過ぎないでくださいね。こっちも、仕上げまではもう少しかかるので……」
鍋に蓋をして俺の側まで戻ってくると、レイヴンも一旦椅子へと腰掛ける。
「お前も食ってみろよ、ほら」
「食べますけど……自分で食べられ……」
まぁ食べさせるから言われても無駄なんだが、諦めたレイヴンが差し出したトーストをパクリと食べる。
「ん……やっぱり美味しい。単純ですけど、食が進みそう。お腹減っちゃいそうです」
「お前は色気より食い気か? まぁ、お子様はそれくらいで丁度いいだろ」
「別に色気を求めてないのでいいです。それより、師匠が飲んでるのってあまり見たことないお酒ですね」
「コレか? コレは葡萄酒だな。この辺りはビールばっかりだからあんまり出回ってねぇかもな。隣国から取り寄せた取っておきのヤツだ」
レイヴンは俺がマグではなく、グラスで飲んでいるのに気づくと、興味深そうにグラスの中で揺れる赤色を覗き込んできた。
「お前には刺激が強すぎるから、後でちょっとだけ飲ませてやるが……飯食ってからの方がいいだろ?」
「別に飲みたい訳じゃないですから。ただ、色も赤くて綺麗だなって思っただけです」
飽きもせずグラスを見つめるレイヴンの頬に手を伸ばし、引き寄せると軽く口付ける。
直前まで葡萄酒を飲んでたし、ほんのりとだが香りと味が唇を通して伝わったかもしれねぇな。
「……不意打ちのつもりですか? 別にキスしなくてもいいのに……何か、少し酸味がある感じ……?」
「葡萄酒の特徴みたいなもんだな。今はそれくらいにしておけよ。お前はホントにすーぐ酔っ払うからな」
レイヴンにニヤと意地悪な笑みだけ向けて、ゆっくりとグラスを傾ける。
「もしいたら、真っ先に箝口令を敷きますね。陛下に直談判します」
「ひでぇ奴。まぁ、いいや。しっかし、この体勢でお前も淡々と作るわな」
「とても動きづらいですけど、離してくれないなら仕方ないでしょう? まぁ、ずっと邪魔しているだけじゃなくて、手伝ってくれてますし」
レイヴンは鍋が温まったところでバターを入れ、順に具材を炒めていく。
次第に良い香りがしてくると、腹が減ってきた。
抱きつきながら、後ろから鍋を覗き込む。
「これは腹減る匂いだな。炒めたら暫くは時間がかかるんだよな」
「そうですね。そろそろ座って晩酌を始めたらどうですか? 俺も煮込むところまで来たら一旦座りますから」
「珍しく親切だな。じゃあそうするか。なぁ、アテは何かあるんだよな?」
「それこそ、チーズくらいしかないですけど。あ、頂いたパンに乗せたら美味しいかもしれない……師匠、パンを切るので軽く焼いといてください」
結局俺を便利使いしようとするじゃねぇか。
言い返そうとも思ったが、張り切る様子が微笑ましいからまぁ、いいか。
「しょうがねぇなぁ」
レイヴンが楽しそうだと言い返せねぇの分かってやってんのか?
だとしたら、なかなか小悪魔ちゃんじゃねぇか。
「女神様パンですって。カリッとしているパンだから、食べやすそうです。シチューの時の分もあるので、お酒と一緒に全部食べちゃダメですよ」
「分かった分かった。そんなに最初から飛ばして飲んだり食ったりしねぇよ」
薄くスライスされたパンが皿の上に並ぶと、魔法で火力を調整してさっと炙る。
いい具合に焼かれたパンの上にレイヴンがチーズを乗せていく。
「簡単だけど、別々に食べるより美味しいと思いますよ? どうぞ、先に食べてください」
「よくありそうだが、いちいち焼くのが面倒だから酒場では出ない代物だな」
レイヴンが鍋の前に戻ると酒をグラスに注ぎ、ひょいと摘んでトーストを口に運ぶ。
「お、これは結構イケる。酒が進むなァ」
「メインを食べる前に飲み過ぎないでくださいね。こっちも、仕上げまではもう少しかかるので……」
鍋に蓋をして俺の側まで戻ってくると、レイヴンも一旦椅子へと腰掛ける。
「お前も食ってみろよ、ほら」
「食べますけど……自分で食べられ……」
まぁ食べさせるから言われても無駄なんだが、諦めたレイヴンが差し出したトーストをパクリと食べる。
「ん……やっぱり美味しい。単純ですけど、食が進みそう。お腹減っちゃいそうです」
「お前は色気より食い気か? まぁ、お子様はそれくらいで丁度いいだろ」
「別に色気を求めてないのでいいです。それより、師匠が飲んでるのってあまり見たことないお酒ですね」
「コレか? コレは葡萄酒だな。この辺りはビールばっかりだからあんまり出回ってねぇかもな。隣国から取り寄せた取っておきのヤツだ」
レイヴンは俺がマグではなく、グラスで飲んでいるのに気づくと、興味深そうにグラスの中で揺れる赤色を覗き込んできた。
「お前には刺激が強すぎるから、後でちょっとだけ飲ませてやるが……飯食ってからの方がいいだろ?」
「別に飲みたい訳じゃないですから。ただ、色も赤くて綺麗だなって思っただけです」
飽きもせずグラスを見つめるレイヴンの頬に手を伸ばし、引き寄せると軽く口付ける。
直前まで葡萄酒を飲んでたし、ほんのりとだが香りと味が唇を通して伝わったかもしれねぇな。
「……不意打ちのつもりですか? 別にキスしなくてもいいのに……何か、少し酸味がある感じ……?」
「葡萄酒の特徴みたいなもんだな。今はそれくらいにしておけよ。お前はホントにすーぐ酔っ払うからな」
レイヴンにニヤと意地悪な笑みだけ向けて、ゆっくりとグラスを傾ける。
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