【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

楓乃めーぷる

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第十章 たまには真面目な魔塔主といつも真面目な弟子

272.森の中にあったのは<ウルガー・ディートリッヒ視点>

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 今朝方に、近くの森で魔物に襲われたという被害届が出たと訴えがあったらしい。
 まずは俺たち王国騎士団が調査のために派遣された。
 この森は城下町からも近いから、被害が拡大する前に事態を鎮静化する必要がある。
 という建前で動くのは俺ばっかりなんだけどな。

 副団長は一人じゃなくて複数人いる。
 なかでも色々と役割があって、大まかに言うと、警護担当、王族や貴族への剣術指導担当、外回りってところだ。
 外回りはこの前みたいな国外への派遣もそうだし、今じゃしてないけど戦争を行う場合は団長と別の隊を持ち、率先して指揮をとることもある。
 俺は一番面倒な外回り担当だから、町の外の調査も勿論行かされる訳だ。

「副団長、町民が言っていた場所はこの辺りです」
「分かった。十分警戒し調査に当たる。今のところ魔物の気配はしていないが、いつどこから現れるか分からない。気を抜くな」

 のらりくらりとできれば楽だけど、さすがにそうもいかないか。
 緊張した面持ちで、一応任務に当たる姿を見せておかないとな。
 
 連れてきた騎士たちが散開してから首筋を手でさすり、そっと力を抜いた。

「ここまで近づいてきたのだとしたら、随分見せつけてくれるよな。俺らのことおちょくってんのかな。だとしたら、相手が悪いからやめたほうがいいぞー」

 誰に聞かせる訳でもなく、森の中で独り言を呟きながら付近を捜索する。
 歩いていると、ふいに足元で違和感を感じる。
 嫌な予感に先に身体が反応し、瞬時に飛び退いた。

「あっぶな! これって、例の? ……だとしたら、このままじゃマズい」

 自分の足元に分かるように魔道具を置いて目印とし、一度合流地点へと戻る。
 他の騎士たちからは魔物と思われる足跡についての報告があったが、自分が見つけたものは一番よろしくないものだ。
 自然と険しくなった顔で一旦帰還する、と、騎士たちに告げた。

 +++

 ウルガーと騎士たちが早々に引き上げてきた。
 この早さは何か問題があったに違いない。
 俺の執務室まで報告のためにやってきたウルガーは、珍しく神妙な顔つきをしていた。

 事の重大さに関して瞬時に対応できる能力を持つウルガーは、俺がが右腕として信頼している理由の一つだ。

「何、魔法陣?」
「はい。俺では種類は判別できませんが、テオドール様に見てもらい破壊して頂く類のものだと判断したので」
「召喚陣というヤツか。急ぎ報告しにいかねばな」
「アレをすぐに破壊できる方と言えばテオドール様くらいですからね。魔物は姿を消したようですが、俺たちも出撃準備だけはしておきましょう」

 事の次第を陛下へと伝えにいくと、すぐに検討し使いを出すとのことだった。
 ウルガーと共に戻り、執務室で待っていると、思っていたよりも早く使いがやってくる。
 すぐに魔塔へも知らせることになり、魔塔主自らが魔法陣の確認へと向かうようにと王命が下ったと返事がきた。

 テオドールでなければ解決できないとなれば、ウルガーの判断は正しかったということになる。
 自身で出来ないことは深入りせず、別の方法をその場で捻り出す発想力は、力づくで正面突破してしまう俺には持ち得ない力だ。
 小賢しいなどという者もいるが、騎士団長さえこき使う図々しさこそ、ウルガーの良いところでもある。

「……団長、ニヤニヤしてどうしたんですか。気持ち悪いですよ?」
「いや、何でもない。お前らしいなと思ってな」
「そうですか? しかし、城の近くまで出張ってくるなんて……何を考えているんだか」
「何にせよ、最近テオドールも真面目に何かをしていたみたいだからな。俺たちも負ける訳にはいかないだろう」

 珍しくテオドールが引きこもったまま、レイヴンにも内緒にして何かをしていると聞いていた。
 アイツが真面目になるということは、努力して何かに打ち込んでいる時だけだ。
 昔から、努力する姿を誰にも見られたくないと思っていることは知っていた。
 だが、いざという時のためには全力を出すことを惜しまないヤツだからこそ、普段の素行も多めにみているようなものだ。

 こうしてはいられない。
 俺も更に力をつけなくては。
 嫌そうな顔をして溜め息と共に額を抑えるウルガーの背を叩き、稽古の相手をさせることにしよう。
 
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