274 / 488
第十章 たまには真面目な魔塔主といつも真面目な弟子
272.森の中にあったのは<ウルガー・ディートリッヒ視点>
しおりを挟む
今朝方に、近くの森で魔物に襲われたという被害届が出たと訴えがあったらしい。
まずは俺たち王国騎士団が調査のために派遣された。
この森は城下町からも近いから、被害が拡大する前に事態を鎮静化する必要がある。
という建前で動くのは俺ばっかりなんだけどな。
副団長は一人じゃなくて複数人いる。
なかでも色々と役割があって、大まかに言うと、警護担当、王族や貴族への剣術指導担当、外回りってところだ。
外回りはこの前みたいな国外への派遣もそうだし、今じゃしてないけど戦争を行う場合は団長と別の隊を持ち、率先して指揮をとることもある。
俺は一番面倒な外回り担当だから、町の外の調査も勿論行かされる訳だ。
「副団長、町民が言っていた場所はこの辺りです」
「分かった。十分警戒し調査に当たる。今のところ魔物の気配はしていないが、いつどこから現れるか分からない。気を抜くな」
のらりくらりとできれば楽だけど、さすがにそうもいかないか。
緊張した面持ちで、一応任務に当たる姿を見せておかないとな。
連れてきた騎士たちが散開してから首筋を手でさすり、そっと力を抜いた。
「ここまで近づいてきたのだとしたら、随分見せつけてくれるよな。俺らのことおちょくってんのかな。だとしたら、相手が悪いからやめたほうがいいぞー」
誰に聞かせる訳でもなく、森の中で独り言を呟きながら付近を捜索する。
歩いていると、ふいに足元で違和感を感じる。
嫌な予感に先に身体が反応し、瞬時に飛び退いた。
「あっぶな! これって、例の? ……だとしたら、このままじゃマズい」
自分の足元に分かるように魔道具を置いて目印とし、一度合流地点へと戻る。
他の騎士たちからは魔物と思われる足跡についての報告があったが、自分が見つけたものは一番よろしくないものだ。
自然と険しくなった顔で一旦帰還する、と、騎士たちに告げた。
+++
ウルガーと騎士たちが早々に引き上げてきた。
この早さは何か問題があったに違いない。
俺の執務室まで報告のためにやってきたウルガーは、珍しく神妙な顔つきをしていた。
事の重大さに関して瞬時に対応できる能力を持つウルガーは、俺がが右腕として信頼している理由の一つだ。
「何、魔法陣?」
「はい。俺では種類は判別できませんが、テオドール様に見てもらい破壊して頂く類のものだと判断したので」
「召喚陣というヤツか。急ぎ報告しにいかねばな」
「アレをすぐに破壊できる方と言えばテオドール様くらいですからね。魔物は姿を消したようですが、俺たちも出撃準備だけはしておきましょう」
事の次第を陛下へと伝えにいくと、すぐに検討し使いを出すとのことだった。
ウルガーと共に戻り、執務室で待っていると、思っていたよりも早く使いがやってくる。
すぐに魔塔へも知らせることになり、魔塔主自らが魔法陣の確認へと向かうようにと王命が下ったと返事がきた。
テオドールでなければ解決できないとなれば、ウルガーの判断は正しかったということになる。
自身で出来ないことは深入りせず、別の方法をその場で捻り出す発想力は、力づくで正面突破してしまう俺には持ち得ない力だ。
小賢しいなどという者もいるが、騎士団長さえこき使う図々しさこそ、ウルガーの良いところでもある。
「……団長、ニヤニヤしてどうしたんですか。気持ち悪いですよ?」
「いや、何でもない。お前らしいなと思ってな」
「そうですか? しかし、城の近くまで出張ってくるなんて……何を考えているんだか」
「何にせよ、最近テオドールも真面目に何かをしていたみたいだからな。俺たちも負ける訳にはいかないだろう」
珍しくテオドールが引きこもったまま、レイヴンにも内緒にして何かをしていると聞いていた。
アイツが真面目になるということは、努力して何かに打ち込んでいる時だけだ。
昔から、努力する姿を誰にも見られたくないと思っていることは知っていた。
だが、いざという時のためには全力を出すことを惜しまないヤツだからこそ、普段の素行も多めにみているようなものだ。
こうしてはいられない。
俺も更に力をつけなくては。
嫌そうな顔をして溜め息と共に額を抑えるウルガーの背を叩き、稽古の相手をさせることにしよう。
まずは俺たち王国騎士団が調査のために派遣された。
この森は城下町からも近いから、被害が拡大する前に事態を鎮静化する必要がある。
という建前で動くのは俺ばっかりなんだけどな。
副団長は一人じゃなくて複数人いる。
なかでも色々と役割があって、大まかに言うと、警護担当、王族や貴族への剣術指導担当、外回りってところだ。
外回りはこの前みたいな国外への派遣もそうだし、今じゃしてないけど戦争を行う場合は団長と別の隊を持ち、率先して指揮をとることもある。
俺は一番面倒な外回り担当だから、町の外の調査も勿論行かされる訳だ。
「副団長、町民が言っていた場所はこの辺りです」
「分かった。十分警戒し調査に当たる。今のところ魔物の気配はしていないが、いつどこから現れるか分からない。気を抜くな」
のらりくらりとできれば楽だけど、さすがにそうもいかないか。
緊張した面持ちで、一応任務に当たる姿を見せておかないとな。
連れてきた騎士たちが散開してから首筋を手でさすり、そっと力を抜いた。
「ここまで近づいてきたのだとしたら、随分見せつけてくれるよな。俺らのことおちょくってんのかな。だとしたら、相手が悪いからやめたほうがいいぞー」
誰に聞かせる訳でもなく、森の中で独り言を呟きながら付近を捜索する。
歩いていると、ふいに足元で違和感を感じる。
嫌な予感に先に身体が反応し、瞬時に飛び退いた。
「あっぶな! これって、例の? ……だとしたら、このままじゃマズい」
自分の足元に分かるように魔道具を置いて目印とし、一度合流地点へと戻る。
他の騎士たちからは魔物と思われる足跡についての報告があったが、自分が見つけたものは一番よろしくないものだ。
自然と険しくなった顔で一旦帰還する、と、騎士たちに告げた。
+++
ウルガーと騎士たちが早々に引き上げてきた。
この早さは何か問題があったに違いない。
俺の執務室まで報告のためにやってきたウルガーは、珍しく神妙な顔つきをしていた。
事の重大さに関して瞬時に対応できる能力を持つウルガーは、俺がが右腕として信頼している理由の一つだ。
「何、魔法陣?」
「はい。俺では種類は判別できませんが、テオドール様に見てもらい破壊して頂く類のものだと判断したので」
「召喚陣というヤツか。急ぎ報告しにいかねばな」
「アレをすぐに破壊できる方と言えばテオドール様くらいですからね。魔物は姿を消したようですが、俺たちも出撃準備だけはしておきましょう」
事の次第を陛下へと伝えにいくと、すぐに検討し使いを出すとのことだった。
ウルガーと共に戻り、執務室で待っていると、思っていたよりも早く使いがやってくる。
すぐに魔塔へも知らせることになり、魔塔主自らが魔法陣の確認へと向かうようにと王命が下ったと返事がきた。
テオドールでなければ解決できないとなれば、ウルガーの判断は正しかったということになる。
自身で出来ないことは深入りせず、別の方法をその場で捻り出す発想力は、力づくで正面突破してしまう俺には持ち得ない力だ。
小賢しいなどという者もいるが、騎士団長さえこき使う図々しさこそ、ウルガーの良いところでもある。
「……団長、ニヤニヤしてどうしたんですか。気持ち悪いですよ?」
「いや、何でもない。お前らしいなと思ってな」
「そうですか? しかし、城の近くまで出張ってくるなんて……何を考えているんだか」
「何にせよ、最近テオドールも真面目に何かをしていたみたいだからな。俺たちも負ける訳にはいかないだろう」
珍しくテオドールが引きこもったまま、レイヴンにも内緒にして何かをしていると聞いていた。
アイツが真面目になるということは、努力して何かに打ち込んでいる時だけだ。
昔から、努力する姿を誰にも見られたくないと思っていることは知っていた。
だが、いざという時のためには全力を出すことを惜しまないヤツだからこそ、普段の素行も多めにみているようなものだ。
こうしてはいられない。
俺も更に力をつけなくては。
嫌そうな顔をして溜め息と共に額を抑えるウルガーの背を叩き、稽古の相手をさせることにしよう。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる