異世界推し生活のすすめ

2章 最高に推せる騎士との出会い

11

「フィレリア、帰りを急かしてすまないな。お前を呼んだのは重要な話があるからだ」

　父のベルナデット伯爵は書斎で彼女を迎えた。母も隣に座っている。

「何でしょうか、お父様」

「ヴェスタール公爵家からの申し出があった。公爵家の三男のクラウス殿が、お前に求婚の意志を示されたそうだ」

　フィレリアの胸が締め付けられる思いだった。

（うわ、マジか…エレノアの言った通りね、いきなり話を持ってこられなくて良かったわ、動揺してたら即断りの文句を言ってたわよ。…はぁ…これって典型的な「望まない政略結婚」パターン。乙女ゲーあるある…）

「婚約なんて…まだ心の準備ができていません」

「もちろん、すぐに返事をする必要はない」
　伯爵は微笑んだ。
「しかし、これは非常に名誉なことだ。公爵家との縁組みは我が家にとっても大きな利益となる」

　母も嬉しそうに付け加えた。

「クラウス様は王国随一の美男子と評判ですし、性格も申し分ないそうよ」

（この世界の「美男子」なんて、モブ顔の平面くんばっかりじゃん！そんなのより筋肉イケメン騎士様の方が百倍素敵よ！）

　フィレリアは黙っていた。父は彼女の様子を心配そうに見た。

「どうした、フィレリア？喜ばしいことではないか？」

「ごめんなさい、お父様。少し考える時間をいただけませんか」

　伯爵は少し不思議そうな表情を浮かべたが、優しく頷いた。

「もちろんだ。急ぐ必要はない。ただ、来週の夜会ではクラウス殿のエスコートを受ける事を約束してほしい」

「……分かりました」

　フィレリアは重い足取りで部屋を後にした。


（まさに王道の展開…！このままだと「身分違いの恋愛」と「政略結婚からの脱出」の二正面作戦になるじゃん！大変すぎるでしょ…）