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5章 推しが積極的になる時
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しおりを挟む「クラウス様!知らせてくれてありがとう!アシュフォード伯爵が来ているって…?」
クラウスは冷静に頷いた。
「はい、彼は明らかにあなたを探しています。…監視でも付けているのかもしれませんね、よっぽど子息との結婚を捩じ込みたいようですね」
「どうしよう…」
「落ち着いてください」
クラウスは静かに言った。
「私たちはまだ『婚約中』です。何の問題もありません」
フィレリアは深呼吸をして落ち着こうとした。
(ここで変に怪しまれたら全てパー…冷静になろう)
間もなく、執務室のドアがノックされ、アシュフォード伯爵が現れた。
「クラウス様、お邪魔します…おや、フィレリア嬢もいらしたのですね」
「はい、婚約者に会いに来ました」
白々しいアシュフォード伯爵の言葉にフィレリアも平静を装った。
「そうでしたか」
伯爵は微笑んだが、その目は二人を観察していた。
「実は私も王宮での用事の後、あなたにお会いしたいと思っていました」
「私に?」
「ええ、息子のエドワードがあなたに送りたいと言っていた花束を持ってきたのです」
伯爵は付き人に合図し、豪華な花束が運び込まれた。バラとユリが優美に組み合わされ、見事な芸術品のようだった。とても婚約者の前で送るような代物ではない。
(うわぁ…これは婚約者のいる令嬢に贈るやつじゃなくない?性格悪すぎでしょ…!)
「ご丁寧に…ありがとうございます」
フィレリアが礼儀正しく受け取ったあと、クラウスは部屋にいた侍従に後でベルナデット邸に運ぶよう申しつけた。まるでこんな事では諍いなど起こらない信頼しあった婚約者同時の姿を見せつけるように。アシュフォード伯爵はそんなクラウスの方に向き直った。
「クラウス様、お二人の婚約については…」
「順調です」
クラウスは迅速に答えた。
「もちろん、私達は若いカップルですから意見の相違もありますが」
「そうですか…」
伯爵は意味ありげな表情を浮かべた。
「社交界には少し違う噂も聞こえてきますが」
気まずい沈黙が流れた。フィレリアは咄嗟に演技力を発揮した。
「誤解です」
彼女は微笑んだ。
「私たちは時々意見が合わないことがありますが、それは互いを理解するための過程だと思っています」
彼女はクラウスの腕に手を置き、恋人らしい親密さを演出した。クラウスも上手く対応し、彼女の手に自分の手を重ねた。
「おっしゃる通りです。むしろ、私たちの関係はより深まっています」
アシュフォード伯爵は少し失望したような表情を浮かべたが、すぐに取り繕った。
「素晴らしい。では、私はこれで失礼します」
伯爵が去った後、二人は安堵のため息をついた。
「危なかった…」
フィレリアは花束を見下ろした。
「彼は簡単には諦めそうにないですね」
クラウスは冷静に分析した。
「伯爵はあなたの家との縁組みに大きな政治的利益を見出しているのもありますが、子息がよっぽどあなたを望んでいるのでしょう。あなたは無頓着ですが国で指折りの美しい令嬢ですから」
「私は自分のことを美しいなんて思った事はないわ、…私の未来はゼファルドのためにあるの」
「もちろんです」
クラウスは微笑んだ。
「あなたの騎士の様子はいかがでしたか?」
「騎士の仕事には問題ないみたいだわ、ちゃんと回復するそうよ。それに…」
フィレリアは小声で続けた。
「彼が下級貴族の位を得る可能性が高いみたい」
「それは朗報です」
クラウスは嬉しそうに言った。
「では、私たちの『破局』の計画を加速させるべきでしょうね」
フィレリアは頷いた。
「ええ、でもアシュフォード家の動きが気になるわ」
「彼らには別の対策が必要ですね。一度あなたのお父上と話し合ってみます」
二人は更なる計画を練り始めた。
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