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二章
27 逃す気のない番い
しおりを挟むヴァルクスは、イリスの手を取ると、バルコニーを後にした。もはや賢者と謳われる冷静さはなく、ただ一人の女を求める雄としての、燃えるような情熱だけが宿っていた。
会場に戻ると、全ての王侯貴族が見守る中、ヴァルクスはイリスの前にすっと片膝をついた。
そして、目の前の手を取ると、その甲に、恭しく唇を寄せる。
「イリス・クライアントン。…ようやく伝える事が出来る」
彼の声は、前世の時に感じたあの冷徹さなど嘘のように、甘く、熱を帯びていた。
「どうか、今度こそ、私にお前を愛させて欲しい。…生涯許さなくて構わない……それでも、私は償いと共に、お前に死ぬまでの愛を誓う」
彼は、顔を上げて、真っ直ぐにイリスの瞳を見つめた。そのアースアイには、千年以上の後悔と、狂おしいほどの愛情、そして、二度と逃がさないという、底知れない執着の色が渦巻いていた。
「…私の、ただ一人の番い。私と、結婚してほしい」
それは、生涯贖罪し続けるという誓いと共に、イリスが前世で夢にまで見た求婚の言葉だった。
イリスが涙を堪えていると、背後から母であるクライアントン子爵夫人が駆け寄り、イリスの背中を強く押した。
「イリス!何をぼさっとしているの!お受けするのよ!ヴァルクス様からの、身に余る光栄だわ!」
国王も、満足げに頷いている。
「うむ。竜族との友好の証として、これ以上の縁談はない。クライアントン嬢、賢明な判断を期待しているぞ」
前世は周り全てがイリスの気持ちを否定していた。けれど少なくとも今は、誰にも非難されず、周りに許されていると感じる。そして、目の前で跪く、美しい捕食者の、逃がさないという強い意志を宿した瞳。
何もかもが前世とは違う。
「……はい、ヴァルクス様、私も生涯あなたを愛します」
かろうじて絞り出した喜びの涙に滲む声。ヴァルクスは、その返事を聞くと、感極まったようにイリスの手の甲に額を押し付けた。そして、暫くそうしたあと、ヴァルクスは優雅に立ち上がる。
「…王よ、御前失礼する…、さあ、行こうイリス」
彼は、有無を言わさずイリスを抱き上げると、呆然とする人々を後に、夜会の会場から悠然と退場する。
イリスは、ヴァルクスのたくましい腕の中で、これから、自分はどうなってしまうのだろうと、甘い悩みに震える。竜の番いに対する愛情の深さは自分自身が一番よく知っている。美しい籠の中に囚われた鳥のように、もう二度と、自由は得られないのかもしれない。
それでもいい、翼は無くなったが、もとより飛び去るつもりなどなかったのだから。
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