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しおりを挟む清秋閣での生活は静かに始まった。沐梅は自分の体調を回復させながら、太子府の状況を見守っていた。彼女の変化は府中の話題となり、特に慕容煜は頻繁に訪れるようになった。
「太子妃様、お加減はいかがですか?」
ある日、慕容煜は湖畔の東屋で読書をしている沐梅を見つけた。
「慕容将軍、いつもご心配いただき感謝します」
沐梅は微笑んだ。
「おかげさまで、だいぶ良くなりました」
「それは何よりです」
彼は彼女の隣に座った。
「読んでいるのは医書ですか?」
「はい、体調管理のために勉強しています」
慕容煜は彼女をじっと見つめた。
「本当に変わりましたね。以前のあなたは読書さえ…」
「以前の私を知っているのですか?」
沐梅は驚いた表情を浮かべた。
「ええ、太子と私は幼なじみですから。あなたが嫁いでくる前から、よく太子府に来ていました」
彼は懐かしそうに言った。
「最初のあなたは遠目にも、華やかで活気に満ちていた。しかし、太子府に入ってからは、日に日に萎れていくようだった」
沐梅は黙って彼の言葉を聞いた。この体の持ち主の過去を客観的に知ることができる貴重な機会だった。
「何があったのか、私には分かりませんでしたが…」
慕容煜は続けた。
「今のあなたは、初めて会った頃の輝きを取り戻したようです。いや、それ以上に強く、美しく」
「ありがとうございます」
沐梅は微笑んだ。
「慕容将軍は正直な方ですね」
「煜と呼んでください。将軍などと呼ばれると堅苦しい」
「では、煜」
彼らは穏やかな時間を過ごした。話題は文学から医学、さらには軍事戦略にまで及んだ。沐梅の博識に、慕容煜は何度も驚きの表情を見せた。
「太子妃様、また明日お訪ねしても?」
別れ際、彼は尋ねた。
「ぜひ。そして、私のことは沐梅と呼んでください」
彼女の言葉に、慕容煜の顔に喜びの色が浮かんだ。
*
その夜、沐梅は思いがけない訪問者を迎えた。
「太子様…」
慕容瑾は彼女の部屋の前に立っていた。彼の表情は複雑で、目には決意の色が宿っていた。
「話がある」
沐梅は彼を中に招き入れた。清秋閣の彼女の部屋は、太子府の主殿とは違い、質素ながらも彼女の趣味が反映された落ち着いた空間だった。壁には彼女自身が描いた絵が飾られ、書棚には医学書や文学書が並んでいた。
「美しい部屋だ」
慕容瑾はぎこちなく言った。
「ありがとうございます」
沐梅は淡々と答えた。
「何のご用件ですか?」
慕容瑾は彼女をじっと見つめた。
「本当に変わったな…」
「そうでしょうか?」
「ああ」
彼はため息をついた。
「前のお前は、私の顔を見るだけで震えていた。言葉も詰まり、いつも怯えていた」
「それは当然です」
沐梅は冷静に答えた。
「毎日毒を盛られ、周囲から虐げられていたのですから」
慕容瑾の表情が苦しそうになった。
「衛妍を追放した」
「知っています」
「母上とも話した。彼女は全てを否定したが…」
「当然でしょう」
沐梅は微笑んだ。
「しかし、太子様、証拠はすでに揃っています。貴方が動くか動かないかだけです」
慕容瑾は彼女に近づき、突然跪いた。
「許してほしい」
沐梅は驚きを隠せなかった。雲瑞国の太子が、一人の女性の前に跪くとは。
「太子様、何をなさるのですか?」
「私は愚かだった」
彼の声は震えていた。
「お前を守れなかった。信じてやれなかった。私はお前に値しない夫だ」
沐梅はしばらく黙っていた。彼の悔恨は本物のようだ。しかし…
「立ってください、太子様」
彼女はようやく口を開いた。
「あなたの後悔は理解しました。しかし、私の気持ちはまだ整理できていません」
慕容瑾はゆっくりと立ち上がった。
「時間が必要なら、いくらでも待つ。しかし、太子府に戻ってきてほしい」
「それはできません」
沐梅はきっぱりと言った。
「あの場所には、まだ私を害しようとする人がいます」
「母上のことか?」
「はい」
慕容瑾の表情が硬くなった。
「証拠があるなら見せてほしい。私は真実を知りたい」
沐梅は書棚から一冊の帳簿を取り出した。
「これは、太妃・李様が購入した薬草の記録です。毒草も含まれています」
慕容瑾は帳簿に目を通し、顔色を変えた。
「これは…」
「太子妃様が私に対してどのような感情を持っているか、お分かりでしょう」
慕容瑾は書類を置き、深く息を吸った。
「わかった。母上のことは私が対処する。しかし、沐梅、もう一度やり直す機会をくれないか?」
「もう一度?」
「ああ、私たちの関係をやり直す機会を」
沐梅は彼をじっと見た。この男は本当に彼女を愛しているのだろうか?それとも、美しくなった彼女に惹かれているだけなのか。
「太子様、言葉よりも行動で示してください」
沐梅は静かに言った。
「あなたが本当に私を大切に思うなら、まずは私の安全を確保してください。そして…」
彼女は一瞬言葉を切った。
「私にもう少し時間をください」
慕容瑾は深く頷いた。
「わかった。必ず証明してみせる」
彼は去り際、もう一度振り返った。
「七日後、宮中の宴がある。出席してくれないか?」
「宴ですか?その宴には出席するなと…」
「ああ、以前の間抜けな私の命令は気にしなくていい。……母上の誕生を祝う宴だ」
彼の目に決意の色が浮かんだ。
「そこで全てを正そうと思う」
沐梅は考え込んだ。李鳳儀の誕生宴。敵の巣窟に自ら足を踏み入れることになる。危険だが、同時にチャンスでもあった。
「わかりました。出席します」
慕容瑾の顔に安堵の色が浮かんだ。彼は何か言いかけたが、沐梅が微笑んだだけで、彼の言葉はその場で息絶えた。
彼が去った後、沐梅は窓辺に立ち、夜空を見上げた。
「準備をしないと」
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