上 下
3 / 30

ゼウスからのプレゼント

しおりを挟む
おぉ!と心の中で歓喜の声を上げ目を輝かせる俺。
それを見たゼウス様はここぞとばかりに渾身のドヤ顔をかます。

「そうじゃろうそうじゃろう、欲しかろう欲しかろう!今のこの世で言ったらこの力を持った者は一人もおらなんだぞ。感謝するがいいのじゃ!」

ふふんっと鼻息をフンスと吐き出し、俺の手を取ると思い切りバチンと両手で挟むように叩いた。

「ぎゃぁぁぁぁ!」

痛った!逝った!骨が逝った!

「泣くな泣くな。男が泣くなんて弱っちょろいことをするでない。それに赤子の声はやかましい」

ひぐっ…
何とか洩れそうになる嗚咽と涙をぐっとこらえる。

赤子の声はやかましいって…
赤子は泣くのが唯一の仕事なんだよ!
それに男の子がなんて…今の言葉は前世の世界で言ったら確実に炎上するぞ!
ネット民舐めたら痛い目見るぞ、まったく!

そんな言葉がしっかりと聞こえているのだろうが、ゼウス様は華麗にスルーをかましてまた笑う。

「まぁまぁ、そんなことよりじゃ。ほれ、おぬしの手のひらを見てみるのじゃ」

そんなことって…
はぁ~…まぁいいか。

俺は短い手を思い切り上に伸ばして右の手のひらを見てみた。
小さな手の平の右側に太陽、左側に三日月、それを真ん中から両断するように雷のような模様が走った入れ墨が刻まれていた。

あの、これは?
偏見かもですが、なんだかチンピラみたいで嫌なんですけど…それにちょっとダサいし…

「ちょっ、おぬっ、今なんと言った!!この美しい聖痕を見てチンピラ…ダサっ…」

神が逆立ち、ブルブルと震えながら拳を握るゼウス様。
あ、これはいかんやつだ…。

小学校のころ、絵がへたくそな奴の絵をみんなの前でバカにしたときの反応に酷似している。
そいつはハサミ持ち出して学校中を大暴れしていたっけなぁ…なんてくだらないことを思い出す。
これが走馬灯ってやつかな…

生後3か月、短いようで長い人生だった。
口は禍の元と言うが、今ほど痛感した瞬間はないだろう。

雷を纏い青白く発光する渾身の右ストレートが俺の眼前まで迫る。
さようなら、父さん、母さん、まだ見ぬ美しいであろう恋人。
目を閉じ最後を悟った俺。



「なんて美しさっスか!神々しささえ感じるデザインっスよねぇアルファ!」


残り数センチ、いや、数ミリのところで拳が止まる。

ナイスアシストだベータ!

今だ!ここを逃すな!
アドレナリン全開、脳みそフル回転!
能力全解放!!

いやぁ俺も目がどうかしてたようです!
たぶんあれだ、ほら、あまりの神々しさに目が眩んじゃってちょっと歪んで見えたからかなぁ。
こんなに美しいもの生まれて初めて、いや…前世でも見たことないですよ!
本当に美しいですよ、うん!
なぁ、ベータ?

「そうっス、そうっス!アルファも見る目があるっスね!」

あ、こいつはマジで崇拝してるやつだ。
目が輝いてやがる…

そんなベータの横で必死にへつらう俺を見て、しょうもないやつだというさげすんだ目で嘆息たんそくするゼウス様。

「まぁ…いいじゃろ。今回はベータの美しい心に免じておぬしもついでに許してやるが…次はないものと思うのじゃな」

ゼウス様の瞳の奥に宿る殺意と背中に見える「ゴゴゴゴ…」の文字は決して気のせいではないだろう。

だから命を懸けて従わせて頂きます。
肝に銘じておきます。
聖痕ありがとうございます。

「よかろう、ではその聖痕の効果じゃが、なんとそれを相手に見せるだけでわしの威光を使用することができるのじゃ!どうじゃ?すごいじゃろう?」

威光…ですか?
どういった効果かいまいちよくわからないんですけど…

「なんとも要領の悪い赤子じゃ。簡単に言えばおぬしの世界で言うところの水戸○門とかいう偉い爺さんの印籠だとか、遠山の○さんの桜吹雪みたいなものじゃ」

若干ネタが古い気がするのはまぁ…さておいて、見せれば相手が平伏すっていうあれですか?

「平たく言えばそうじゃな。じゃがまぁ今の能力レベルではそれだけという事じゃから、今後使っていけばレベルが上がって能力が向上していくんじゃ」

レベル…ですか?
能力にそんなものがるんですね!
ますます何かの異世界小説っぽくなってきた気がする。
しおりを挟む

処理中です...