クリスマスまでに帰らなきゃ! -トナカイの冒険-

藤井咲

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-12月15日- ルーの出発

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「おーい、ルー!」

漁師が海で泳いでいる立派な角を持ったトナカイを呼びました。

ここは南国のハロー島。
お日様と仲良しで、色とりどりの果物が年中とれます。海にぽっかりと浮かぶ島の地面はいつも青々とした植物でいっぱいです。
ぽかぽか暖かい島には様々な動物が現れます

ルーと呼ばれたトナカイはぷかぷか海に浮かんで楽しそうです。

「なんだい、漁師さん。嫌に慌てているね。
もっとのんびりしたらどうだい?」

トナカイのルーが言いました。
海にぷかぷか浮かんで時間を忘れているようでした。

「そんなこと言ったって、お前さんもう直ぐ仕事の時期じゃないのかい。
そろそろ準備をしないと遅れちまうよ」

漁師が心配そうにルーに尋ねました。

「大丈夫大丈夫、まだ余裕だよ。
なんたってまだ夏じゃないか。
この島はいいね、僕の国は時々お日様が来てくれるだけであとはいっつも雪の子の遊び場だよ。
油断したら寒くて凍えちゃうよ。」

笑いながらルーは自国を思い出しました。

「だ、か、ら、この島はずーーーっと夏なんだ!!
他の国の夏が終わってもずっとずっと夏だからルーの国の夏はもうとっくに終わってる筈だぞ」

「なんだって?!!」

それまで優雅に腹を天に向けて海を楽しんでいたルーは島に響き渡る大きな声で驚きました。
すぐさま海を出て、ぴんと立った耳で情報を集めます。

へびのトッポが森の中でお喋りしています。
「今年は何をお願いしようかな」
あひるの5人兄弟がけたたましく騒いでいます。
「僕はヨット!」「僕もヨット!」「「「私も!」「私も!」」」
人間が言います。
「今年も盛大に飾り付けをしないと」


「大変だ!」

トナカイのルーは漁師さんの言う通りだと思い知らされました。漁師さんは少し呆れた顔をしています。

「漁師さん、今日は何日なの??!」

「今日は12月15日だ。」

「そんな!あと10日しかないじゃないか!」

ルーは慌てて帰る準備を始めました。

漁師さんはルーに言いました。

「漁の途中まで方角が一緒だから、送ってあげよう。どうだ?」

「ほんとう??!」

ルーは一先ず安心して落ち着きを取り戻しました。
普通なら休み休み泳いで行って1ヶ月の距離を10日で行かなければならないことに途方にくれていたのです。
自分の不注意を恨みました。

ルーは漁師の小さな舟に乗り込み、ハロー島にさよならを言いました。
漁師の舟は黄色の縁に青の船体、船首には魔除けの目がついているカラフルな船でした。
漁師の舟はぐんぐんと浜辺から遠のき、あっという間に島は見えなくなりました。

ザブーン、ザブーン。
波が舟をゆらす度、トナカイの毛は海水を受けて水と遊んでいます。

「漁師さん、漁師さんはどうしてこんなに優しくしてくれるの?」

トナカイは不思議そうに尋ねました。

「どうしてって、お前さんが困っていたからさ」

「ふーん?僕はとても有難いけど漁師さんにとってのメリットは?大体いつもの漁場と反対方向じゃないか。」

ルーは漁師さんがルーの為だけに舟を出してくれたことに気づきました。

「困ったことを聞くやつだなあ。
俺は自分が出来る一番良い判断をしたいだけさ。
自分を偽ったり見て見ぬふりは簡単だけど癖になる。
そうなりたくないだけさ。
それとな、ルー。
例え気づいたとしても人の親切はただ「ありがとう」で受け取っていいもんさ、余計な心配は野暮ってもんよ。
そっちのほうがかっこいいだろう!」

ルーは少し納得できませんでしたが、素直に頷きました。
それから波に揺られて二人は太陽が海に落ちていくのを一緒に眺めました。

ルーが夕日に見とれていると、段々足元が濡れていくのを感じました。
舟の底を見てみると浸水しています。
ルーの重さで舟がゆっくりゆっくり沈んで水が入ってきたのです。

「こりゃ大変だ」

漁師が慌ててルーに降りるよう言いました。

ルーも慌てて海に飛び込みます。
漁師が舟の中の水を一生懸命出してようやく舟は元通り海に浮かびました。

「漁師さん、ごめんよ。」

「こりゃあ駄目だ、俺が送ってやれるのはここまでだな。」

「そんなあ…!」

ルーの住んでいる雪島まではまだまだ距離があります。

「あの岩場で一晩過ごしてから明日泳いでいけばきっと着くさ、達者でな。」

漁師はそう言って、元来た海を戻っていきました。

「うん、漁師さん、有難う。」

ルーは近くの岩場まで泳ぎ体中の海水をぶるぶるっと飛ばし、
自分の体と同じ大きさ程しかない岩場から漁師が帰って行くのを見送りました。
舟の灯が見えなくなるとルーは段々と暗くなってくる世界に悲しくなりました。
「有難うをもっと言えたら良かったかな?
かっこいいって大切なことなのかな?
明日は朝早く起きてずっと泳がないと。うーん、お腹がすいてきたなあ
皆に会いたいなあ」

ルーは岩場で大きな体を丸めて波の音を子守唄にして眠りにつきました。

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