おっさんの転生珍道中

dai

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集落

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「おぉ!見えて来たぞ。あそこが兎人族の集落じゃないか?」

雪が降り視界も悪い中、柵で覆われた集落を発見した。
ここまでトランスから2日までの距離だ。ここまで来るのにそれなりの魔物と戦い、ボックスも潤った。

集落まで2、300メートルの所まで来た時にいきなり何者かに囲まれた。一応スキル(地図)を使いながら進んでいたので、敵ではないのはわかっていた。俺たちを囲んでいたのは兎人族だった。
兎人族は読んで字の如く、頭に兎の耳を付け、尻には兎のまん丸い可愛らしい尻尾が付いた見た目はほとんど人族に近いが人族ではなく獣人族になるらしい。
そして兎人族は長い耳を活かし遠い所まで音が聞こえる。遠くの音が聞こえるという事は素早く己の身を守れて、尚且つ先回りして行動出来るという事だ。なので俺たちが集落まで近づいているのがわかり警戒をしつつ囲み、様子を伺っている。もちろん手には槍を持ちいつでも攻撃出来るようにしている。
兎人族は俺たちが囲んでいる事を気付いているとは思っていないだろう。なのであまり刺激を与えないように声をかけた。

「すいませ~ん。こっちには敵意がないのと、兎人族の子供がいますので、武器を下げてもらってもいいですか?」

すると、周りからコソコソ話し声が聞こえて来る。多分相談をしているのだろう。
「お前たちは何しにこの集落まで来た?返答次第では無事でここから帰れると思うなよ」

ここは本当の事を言っといたほうがいいだろう。
メルを見える様に前に出した。
「この子の父親を探しています。この子の名前はメル。兎人族の集落にこの子の父親はいませんか?」

するとまたコソコソ相談し始めたが、その中の1人がメルの事を知っているのか声をかけて来た。
「もしかして、スフィア様とバルト様の子のメル様ですか?」
そういえば、メルの両親の名前を今まで聞いていないことに気付きメルに確認したら、母親はスフィアで父親がバルトという名だった。
この話しかけて来た兎人族はコルという名で、少し前にメルの両親に仕えていた事があり、メルの事も知っていた。

そこからなんとか怪しい者でない事をわかってもらい、兎人族の集落まで案内された。
この集落では100人ぐらいの兎人族と色々な獣人族が住んでおり、ここから奥に2日ぐらい行った所にメルの父親が治めている街があり、その街にも色々な獣人族がいるらしい。

今はこの集落で1番大きい建物に連れて行かれ、メルを上座に歓迎会とまではいかないが、料理が目の前に並んでいる。
「メル様、どうぞ遠慮なさらずにお召し上がりください」
メルを見ると、少し戸惑いながら料理を食べている。
たしか、メルの母親が亡くなる時に「あなたは王家の……」とか行ってた様な……

「スフィア様の事は本当に残念ですが、メル様が無事なお姿を見れて安心しました」
この集落をまとめている虎の獣人族が目に涙を浮かべて喜んでいる。この虎の獣人族の名はタイガ。見た目通りの名で少し拍子抜けだが、メルの父親の右腕で力も強く頭もいいみたいだ。

「お父上のバルト様には使いをやりましたのですぐに返事が来るでしょう」

それから、ここまでの道中の事を説明した。すると話を聞いていた獣人族が皆目に涙を浮かべ、メルの母親のスフィアを偲んで各々悲しんだり、悔やんだりしていた。

「メルの母親のスフィアさんは相当慕われていたんだな。あの時の事は悔やまれるけどメルを助け出す事ができて本当に良かったよ」
あの忘れもしないゴブリン討伐。あの頃はまだ力の使い方がまだわからず、もしちゃんとうまくスキルを使えていたらまた違う結果になっていたんじゃないだろうか。

メルはその言葉を聞き、「ダイキお兄ちゃん、ママが死んじゃったのは凄く悲しいけど、ママの分まで頑張る。そしてここまで連れて来てもらって本当にありがとうございました。」

メルにお礼を言われ胸に少しあった後悔が和らいだのを感じ、メルの頭を撫ぜた。

それからはどんちゃん騒ぎになり、獣人族だからなのか血が滾るのかわからないが、周りでは酒飲み大会みたいなのが行われている。
この集落でもトランスで飲んだ度数が高い酒や、フルーティーで香り豊かなワインみたいな酒もあり、セシルなんかは若い女性の獣人族と飲み比べをしている。

「ダイキ殿、お楽しみの所失礼します。少しよろしいですか?」


皆と少し離れた所で、タイガと2人で酒を交わしている。ミコとメルは出されたデザートに夢中だ。

「どうしました?」

「あまり楽しい話ではないのですが、聞いてもらえますか?」

何か雲行きが怪しい…… 

「俺でよければ聞きますけど……」

「話と言うのは、スフィア様とメル様が拐われた経緯の事です。助けて頂いて本当に感謝しております。そしてこれも何かの縁なのでお話しようと思いました。」

確かに、2人が拐われた経緯は知らない。俺はゴブリン討伐で偶々拐われていたメルを助けただけだ。

「そうですか。俺も気にはなっていたので、聞きたいです」



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