吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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吸血鬼

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 駅近くの線路沿い、ようやく知っている道に出ることができ、小山は一息ついた。体中汗だけくで、全身が重かった。月の明かりも薄く、星もしばし雲に隠れていた。ごろごろと何かを転がすような音が聞こえた。またゾンビが転がっているのかと、目をこらすと、人影が見えた。
 人影は何か大きなものを引きずっている。タイヤの付いたなにか、大八車? 徐々に近づいてくる人影は、作業服を着た中年のはげた男だった。人間であることに気づき、小山の頬はゆるんだ。小走りに近づいた。
「あの、どうも、こんばんは、こんな夜中に何をしてるんです。その大八車で何を運んでらっしゃるんですか。私さっきずっとゾンビに追いかけ回されていたんですよ。はは、大変でしたよ」
 小山は男に早口に話しかけた。
「ゾンビだよ」
 男は答えた。小山が頬が一瞬ひくつく、いや、ゾンビがしゃべるわけがない。男がいっているのは大八車の中身の方だ。大八車の中には、ビニール袋に入ったゾンビが数体、乗っていた。
「す、すごいですね。わたし、さっきね下り坂で、追われて、あいつら、早くなるんですよ。階段で転がってくるし、どうやってあいつらやっつけたんです。しかもそんなにたくさん」
 男は後ろを振り返り、大八車から鉄パイプを取り出した。鉄パイプの先、十五センチほどが茶色いゴムで覆われていた。
「こいつだよ」
「へぇー、そんなのでいけるんですか。わたし、金属バット持ってたんですけど、うまくできませんでしたよ。コツみたいのあるんですかね」
 男は鉄パイプを軽く持ち上げた。
「力を入れず、首筋をなで回すような感覚で打てばいい。頭を打つと血が出るからな、首が良い」
「へぇ、慣れてるんですね」
 小山は少し違和感を感じた。まるで剣の達人のような言い方だが、見た目全く強そうに見えない。鉄パイプを持っている姿も、なんだが、本屋がホコリ相手に、はたきを上げているような頼りなさだ。
「あんた、ゾンビに噛まれただろう」
 男は言った。
「えっ」
 小山の脳裏に子供のゾンビが浮かんだ。膝が破れたズボンを見た。
「噛まれてなんかいませんよ。ほら噛み傷なんてどこにもないでしょ。ちょっと、竹藪でひっかいただけですよ」
 小山は笑って、自分の全身を男に見せた。
「臭うんだ。あんたの体から、ゾンビのにおいが流れているんだ。あんたは感染している」
「違う! わたしは!」
 男は鉄パイプを小山の首筋に打ち込んだ。軽く、すばやく、鉄パイプで首をなでまわすように打ち込んだ。頸骨がひしゃげ神経を切断した。小山は倒れ、心臓はしばらくすると止まった。
 男は、慣れた手つきでゴミ袋を二枚とりだし、小山の膝を折り曲げビニール袋に入れ、ビニール袋の口を閉め、もう一枚袋をかぶせ閉じた。男は小山の遺体を軽々持ち上げ、大八車に乗せた。
「身をもって体験したわけだ」
 ゾンビを倒すコツをな。男はつぶやいた。
 男の名前は山本権造、吸血鬼である。
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