吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

文字の大きさ
7 / 46

昼、散髪屋

しおりを挟む

 白い皿の上にはハッサクがあった。一瞬、坂木啓介は平和だった時代に戻ったような錯覚を覚えた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
 坂木啓介は慌てて答えた。
「庭のやつですか」
「ええ、洋太君が器用に、虫取り網を使って、二階からとってくれたんですよ」
 永井京子は、坂木の反応を見てうれしそうに笑った。庭の南側にハッサクの木が生えていた。長い間、手入れをされていなかったせいか、木は方々に伸び高くなり、弱々しく節くれだって上に上に、二階建ての屋根近くまで、のびていた。枝の先端に、まぶしいくらい黄色い実が付いていたが、よじ登るのもあぶないし、ハシゴもない、あったとしても、少しあぶないなと、放置していたものだ。
 洋太は、ソファーの上で足をぱたつかせ、すました顔で坂木を見ていた。
「そうか、そんな方法があったか、洋太君は偉いなぁ」
 洋太は、待ってましたとばかり笑った。
「それじゃあ、いただきますか」
 一切れ取り、皮をむいて口に入れた。果肉のつぶが勢いよくつぶれ、ほのかな甘みと酸味があった。
「うまいね」
 満足げに笑うと、一斉に手が伸びてきた。
 坂木啓介と永井京子と大川洋太の三人は、家族ではない。この家も三人のものではない。皆それぞれ家族を失い、ここに集まったのだ。
 坂木啓介は、年は六十八、短髪の白髪、散髪屋をしており、今もあちこちで出張散髪屋を開いている。
 永井京子は、三十代後半、肩までのセミロングをゴム紐でまとめている。色白で笑うと口元のしわがあがる。永井京子の髪も三ヶ月に一度ほど坂木が切っている。
 大川洋太は十才、駅の近くで父親と二人歩いていたところを、坂木と出会った。父親はすでに感染しており、正気を失いつつあった。坂木に子供を預け、父親は少し離れたビルに入っていった。
 三人はこの家に勝手に住んでいる。持ち主の人がどうなったのかはわからない。庭が広く、家の中をのぞき込めないような高めのブロック塀が頼もしい。坂木と洋太がこの家で暮らし、その後、永井京子が合流した。
 ハッサクを食べ終わった後、永井京子は台所で朝ご飯を作った。台所は少し暗い、台所の窓の、格子に、穴が開いたステンレス製の板をかぶせ固定している。通常の格子では、ゾンビが掴んで壊してしまうので、穴の空いたステンレス製の板をかぶせている。こうするとゾンビが握りしめるところが無くなるため、破壊しにくい。穴も開いているため通気性も良いし外も見える。鈴川ステンレス工業と言うところが考え作ったものだ。坂木が頼んで作ってもらった。
 電気とガスは共に止まっているため、あまり手の込んだ料理はできない。水に関してはなぜか出ているものの、感染が怖いので、トイレを流すときぐらいにしか使っていない。庭やベランダで雨水をため、濾過し煮沸して使っている。水道は使える地域と使えない地域があるらしく、高い場所にある地域や水道管の老化が激しい地域は使えなくなっているらしい。
 京子は台所に七輪を置き乾燥させた木をくべ、フライパンで目玉焼きを焼いている。最近では、卵も手に入る。まれに肉類も手に入れる事ができるが食糧事情が改善されているかというと必ずしもそうではない。あるところにはあるのだが、物流が完全に滞っているため、食料があっても全員に行き渡らない。坂木がいくつかの場所で定期的に散髪屋を開いているため、この家の食糧事情は比較的よかった。
 目玉焼きと庭で取れた野菜のサラダ、昨日の夜の残り物のジャガイモの煮っ転がし、一つのテーブルに三人で、ご飯を食べる。坂木にとっては十分すぎるほどの朝ご飯であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...