吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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夜、深井戸

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 夜、日が沈むと、山本権造は自然と目を覚ます。
 平屋の一軒屋、古い家の地下に権造は住んでいる。荒れ果てた不動産屋を調べ、地下室のある家を探しだし、もちろん勝手に住んでいる。土地の所有者がどうなっているのかはわからないが、今のところ誰もここを訪れた形跡はない。
 権造が元々住んでいた市内のマンションは、ゾンビが起こした火災により住めるような状況ではなくなった。廃墟と化したマンションには、ゾンビが住み着き、マンションの部屋では、ゾンビはガスをため込み風船のように膨らみ、ぷかぷかとただよっている。ゾンビのたまり場になっているような場所が市内に数カ所ある。それらは立ち入り禁止区域として市から指定されている。
 排除しようにも、狭い室内で鉄パイプを振り回して、万が一にも爆発してしまうとまずいので、今のところ放置している。
 
 権造は作業着に着替え、リュックを背負いシャベルと鉄パイプを持った。井戸を掘るつもりである。
 野勝市には、とくに足りていない物が二つある。飲み水と食糧である。水はゾンビの感染源の一つになっているため、人間は雨水をため濾過して飲んでいる。春先のこの季節なら問題は無いが、夏場の雨の降らない暑い時期になると、かなり厳しく、感染のリスクを冒してまで、水道水や川の水を飲む人間が出る。結果、少なからず夏場にゾンビを増やしてしまっている。
 そのために深井戸が必要なのだ。井戸は、あるにはあるのだが、どれも浅井戸で、雨水が地面にしみこんだような水では、感染のリスクがどうしても残る。そのため、地面の深いとこから取った水でなければならない。だが、深井戸を掘るためには、それなりの機材と作業音が出ることになる。音を出せば、ゾンビが寄ってくる。音が出にくいような工法もあるのだが、それをできる機材がないし、そもそも機械を動かす燃料がない。
 深井戸を掘ろうと思えば、手作業で大きな音を出さず行わなければならない。これもできなくはないのだが、水が本当に出るかわからないうえ、技術的な側面や人的な問題から、後回しになってしまっている。それを、権造はやっている。
 やり方はきわめてシンプルだ。
 頑丈なシャベルをいくつか持って、人が来なさそうな空き地を選び、ひたすら穴を掘る。本当は人間が大勢いる避難所に掘りたいところだが、そんなことをすれば、ちょっとばかり目立ってしまう。夜中、わんこそばをお椀に次々入れるように、シャベルで土を放り投げる男がいたら騒ぎになるだろう。
 シャベルですくった土を外に放り投げる。岩が出れば、手で握り引っこ抜く。大きな岩が出たら鉄杭を打ち込み、足で踏み抜いて砕き、手で引っこ抜く。水が出ようが、土が崩れて生き埋めになろうが、酸欠になろうが、気にせず掘り進めていく。吸血鬼の腕力と体力でひたすら掘り進めていくのだ。
 深く、三十メートル以上掘り進め、地下水が出たら、底に石を敷き詰め、あらかじめ作っておいたコンクリート製の土管を連ねていく。土を埋め戻し、後は、井戸にふたをしてバケツとひもを用意すれば、井戸の完成である。吸血鬼の力を持ってしても、一つの井戸が完成するのに、およせ二ヶ月ほどかかる。
 もっと他に簡単な方法があるのかもしれないが、権造はそれを知らない。室町時代から生きているが、人間の血液しか呑む必要の無い権造は、それまで井戸なんか掘る必要性などなかった。
 そんな、山本権造お手製の井戸が、市内に四カ所ほどあるが、まだ誰も使ってはいない。作業のしやすい人が居なさそうなところに井戸を掘ったため、まだ誰も井戸の存在に気がついていないのだ。
 どうすれば、井戸の存在に人間が気づいてくれるのか、何か良いやり方はないかと権造は悩んでいた。
 とはいえ、井戸は必要なのだ。数を増やせばそのうち誰かが見つけるだろうと、月明かりの中、権造は五つ目の井戸を掘るため、シャベルと、ゾンビ用の鉄パイプを持ち、夜を歩いていた。
 東の方で、かすかに闘争の物音がした。
 耳を澄ませる。 
 人の声、足音、殴打音。
 腐臭もする。
 権造はそちらに行ってみることにした。

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