吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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夜、無人販売所と食事

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「おっ、結構入っているな」
 吸血鬼の山本権造は料金箱をふり、笑みを浮かべた。
 権造は野菜の無人販売所を勝手に設置していた。屋根のあるバス停のベンチをどけて、そこに棚を設置し野菜を置いた。

 とう立ちしかかっている大根とニンジン、春キャベツとネギ、今の時期だとそんな物ぐらいしかない。それを竹かごに入れて販売している。
 それでも、なかなかの売れ行きで、三日あると、だいたい空になる。
 中には、お金を払わず、野菜だけ持っていく人間も居るが、それはそれでかまわない。人間の食糧支援が目的なのだ。無料でも良いのだが、それでは逆に怪しまれる。だから無人販売所にした。これなら値段が安くても怪しまれないし、なにより、姿が見られないのが良い。
 金のためにやっているわけではないが、金が入っているとそれなりにうれしい。
 野菜は、野勝市から十キロほど北へ行った平野勝山にある人の居なくなった集落で作っている。十軒ほどの家がある場所で、逃げたのか食われたのか、廃墟になっていた。そこの畑で野菜を作っている。種に関しては、ホームセンターでは、もはや手に入れることはできないので、集落の家を探して手に入れた。いくつか、昔から育てられているような種があったので、それを育て、無人販売所で売り、花が咲いたら、その種を取っている。
 小さいながら金網で囲まれた鶏小屋があったので、そこに、鶏を入れ増やしている。それほど大きい小屋でもなく、おいておけばそれなりに育つ野菜と違って、鶏は何かと世話をしなくてはいけないので、鶏小屋の規模を大きくするか悩み中であった。
「腹が減ったな」
 権造は喉の渇きを感じた。

 四ノ宮良一は、小さな町中華屋の長男として生まれた。
 子供の頃から両親の働く姿を見てきた。油と香辛料の臭い、嫌いではなかったが、ずっとそれをやっていこうとは思わなかった。大学に入り、建築会社に入った。十五年ほど勤め、会社を辞め、人材派遣会社を立ち上げた。社長を二十年ほどやり、六十の手前でやめた。その間、結婚を二回ほど経験し、二回とも失敗した。東京の高層マンションで一人、悠々自適の生活をしていたが、ゾンビがあらわれた。最初は人ごとのように見ていた。日本は大丈夫だろうと、根拠も無くそう思っていた。
 いろいろなものが動かなくなった。郵便、宅配便、バスに電車、ATM、電話も徐々につながらなくなっていった。
 やがて、ゾンビが町中を普通に歩くようになっていた。
 とはいえ、高層マンションより安全な場所は思いつかなかったので、そこで立てこもるように暮らした。
 ある日、マンションの廊下を、どたばたと走り回る人間が現れた。ゾンビだった。噛まれたマンションの住人がそれを隠してマンションに入ったようだ。そいつは、すぐに他の住民によって捕まえられた。どうしていいかわからず、縛り上げてマンションの一室に閉じ込めた。ここも安全ではない。薄々だが、四ノ宮良一は気づいていた。
 あちこちで火災が起きていた。どうも、太ったゾンビは爆発するらしいという情報が流れてきた。
 食糧が尽きかけていた。近所のスーパー、コンビニ、どこに行っても食べ物はなく。ネットでの注文も受け付けていなかった。
 このまま、ここに居ては、まずいと感じ、四ノ宮良一は弟夫婦が暮らしている野勝市に行くことにした。
 宝石や時計を鞄に入るだけつめて、徒歩と電車で、弟夫婦が暮らしている野勝市にきた。弟夫婦は歓迎してくれた。まだこちらは、ゾンビがそれほどあらわれていないようで、ずいぶん平和に感じた。
 
 ある日、弟夫婦は避難してきた娘を迎えに行くといって、帰ってきたときには、三人ともゾンビに噛まれていた。
 徐々に三人ともおかしくなっていった。病院に電話をかけても繋がらなかった。警察も消防もすべて繋がらなくなっていた。テレビやネットは繋がっていたが、どれも悲惨な情報ばかりだった。外を見ると、ゾンビが町中をうろつき、人を見ると襲いかかっていた。家の中に、三人がいた。
 四ノ宮良一は、二階の扉に鍵をかけ、部屋に立てこもった。時々上がるうなり声、うろつき何かを探すような物音。ベランダから外に出ることも考えたが、外は外でゾンビがうろつき、町のあちこちで火の手が上がり、消防車やパトカーのサイレンがひっきりなしになっていた。
 やがて、消防車とパトカーのサイレンもしなくなった。
 ゾンビを引き寄せてしまうから鳴らさないようにと通達があったそうだ。
 町は静かに燃え、時々爆発音がした。
 立てこもっている二階の部屋の扉の外から、人の歩く音がした。ずっと、扉の前をうろうろしている。
 喉が渇いていた。腹も減っていた。外に出ようとベランダに出てみると、庭で弟の嫁が両手を垂らしうろうろとしていた。降りた瞬間に襲われそうで降りれなかった。
 喉の渇きは限界に達していた。金属バットを手に取った。
 四ノ宮良一はドアの前に立てておいたバリケードを取り除き、扉の鍵を外した。耳を澄ますと、廊下を移動しているような音が聞こえた。
 扉をゆっくりと開け、廊下をのぞき込む。弟が後ろを向いて廊下を歩いていた。
 白髪の交じったぼさぼさの頭、首筋は青白く、手指は、やけに、どす黒かった。
 金属バットを両手で握り近づいた。
 本当に、ゾンビ、なんだよな。四ノ宮良一は心の中で自問した。
 床が鳴った。
 四ノ宮良一の弟はゆっくりと振り向いた。うつろな目、頬に傷があった。うなり声を上げ、四ノ宮良一に向かってきた。
「ひぃ」
 四ノ宮良一は金属バットを振り下ろした。
 金属バットが目の下辺りに当たった。四ノ宮良一の弟は体をふらつかせた。
「お、おい! おい!」
 なんと声をかけて良いかわからず、大声で叫んだ。弟は、しばらくぼんやりとしていたが、四ノ宮良一に向かってきた。
 振った。
 側頭部に当たった。倒れた。
 上から何度も振り下ろした。
 弟は動かなくなった。
 弟は父親の中華屋を継いで、ずっと鍋を振っていた。東京に行ってから会う機会は減った。それでも、何年かに一度は、弟の店に食べに行っていた。親父の懐かしい味だった。 
 兄弟二人、学校帰り家に帰ったら、親父が、飯を作ってくれた。好きなもん頼んで良いぞ。親父は、よく冗談めかしてそんなことをいった。
 良一が、ハンバーグというと、僕コロッケ、と弟がいった。
「馬鹿野郎、うちは中華屋だぞ!」
 といいながら、器用にリクエストに応えてくれた。
 家族を、失ったのだ。
「ちくしょう」
 涙があふれ出た。

 それから、水をたらふく飲み、庭にいる弟の妻をバットで殴り殺した。弟夫婦の娘は家には居なかった。おそらく外に出たのだろう。そのうち復讐に来るのではないかと、四ノ宮は怯えた。
 二人の遺体は庭に埋めた。
 四ノ宮は一人ここで住むことにした。一時期、避難所にいたが、人の目がどうしても気になった。四ノ宮は弟夫婦を殺したのだ。
 食料品のたぐいは、近くの商店街で買うことができた。週に一度ほど持ってきてくれた。現金は、ほとんど持っていなかったので、宝石や時計を金に換えた。
 宝石のたぐいは価値自体は落ちていたが、それでも、それなりの金になった。時計は逆に価値が上がっていた。今の状況でも、それなりに役に立つうえ、作れる人間も、もうあまり居ないからだろう。
 四ノ宮は普段、二階の、立てこもっていた部屋で眠っている。そこがなぜか一番落ち着いた。
 いつものように眠っていると、目が覚めた。風を感じ、窓を見ると、窓が開いていた。
 閉めていたはずだ。
 暗闇が入ってきた。
 体は動かない。金縛りにあったかのように声も出せず体も動かせなかった。
 暗闇の中から人が出てきた。
 中年の、頭がはげ上がった男だ。
 山本権造である。
 権造は四ノ宮良一に覆い被さり首筋に、かみつき血を吸った。
 このはげ、吸血鬼なのか。そう思いながら四ノ宮良一は絶命した。

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