16 / 46
昼、元教団施設
しおりを挟む
天と地の間に命がある。
何でも唱えよ。
神は何でも聞き届ける。
天と命と地、三層合わさる。
三層合掌。
天命地層会。
野勝市西区、坂道の狭い道を登り開けた場所に、天命地層会の本部があった。三メートル近くの高さがある白く塗った金属製の壁に囲まれており、入り口の扉上部には監視カメラがあった。映画監督の北浜のりぞうと志賀山万三郎の二人はそこに来ていた。道中、北浜のりぞうはびくびくと怯えながら、志賀山についていった。不思議とゾンビには会わなかった。
天命地層会は、野勝市を中心に活動していた宗教団体である。元は、仏教系の宗教団体だったが、他の宗教思想を取り入れ、信者を徐々に増やしていった。志賀山万三郎は、その天命地層会の元教祖だった男だ。
「ずいぶんと立派な壁ですね」
北浜のりぞうは白い壁を見上げながらいった。これだけの高さがあれば、軽く浮き上がるゾンビといえど容易には、のぼれない。
「ああ、ここを作るとき、マスコミ対策にな、壁を高くしたんだ。だが、一度も、奴らは取材に来なかった」
志賀山は残念そうな顔をしながらいった。
「なにか、やましいことでもあったんですか」
「あったね。だが、ばれなかった。その前に、ゾンビがあらわれてな、ま、昔の話だがね」
志賀山は入り口のタッチパネルを操作して扉を開けた。
なにがあったのか、北浜のりぞうは聞いたが、昔の話だと、志賀山は、はぐらかした。
中に入ると、広い敷地に畑があり、中央にいくつかアパートのような四角い建物があった。奥の方に果樹園があり、鶏小屋のような物もあった。どこかで、子供が笑っている声が聞こえた。
「結構広いですね」
「ああ、大枚はたいたからな」
北山のりぞうは、志賀山に案内され研究室と書かれた建物に来た。中に何人か、人が居て、何か実験を行っているようだった。
「ここで、ゾンビの研究を行っている」
「信者の方たちですか」
北浜のりぞうは小声で聞いた。
「元信者だ。教団は五年前に解散したからな」
「どうして、彼らはここに」
「他に安全なところはなかった。行くところのない元信者が何人も、ここに暮らしている。さ、こっちだ」
志賀山と北浜のりぞうは、いくつかとびらを抜け、地下室へ入った。
それは異様な光景だった。細かい網のフェンスを使っていくつかの区間に分けられた部屋の中に、青いローブのような服を着たゾンビが四十体ほどいた。
「ゾンビ、ですね」
「ああ、ゾンビだよ」
志賀山はうなずいた。
「いいんですか」
「なにがだね」
「いや、その、ゾンビをこんな風に、閉じ込めて、感染とか」
「感染しないように、みな気をつけている」
「気をつけてるって、危ないでしょう」
何体かのゾンビが金網につかまり、よだれを垂らしながらこちらを見ている。
「危ないからといって、医者は患者を診ないのかね。病気がうつるかも知れないからといって、患者を見殺しにするのかね」
志賀山はいった。
「そりゃあ、見てもらわないと困りますけど、でもゾンビですよ」
まだゾンビがそれほど蔓延していなかった頃、大勢の医者がゾンビになった患者に噛まれ、命を落としている。
「ゾンビだから、何だと言うんだね。彼らは生きているのだよ。私は彼らを救いたい。病に苦しむ彼らを救いたいのだ」
「治療できるんですか」
「無理だ。今のところめどがすら立っていない。それでも出来ることはある。そのために教団施設内に研究所を作ることにしたんだ。元だけどね。元教団施設内に、元信者を使って、ゾンビの研究室を作り上げたのだ」
「そんなもの、勝手に作って良いんですか」
「いいんだよ。そんな法律もないし、神様もいない、私の自由だ」
志賀山は胸を張った。
「その施設の映像を撮れと言うことですか」
「その通りだ。我々の活動を記録に残したいと思い。ゾンビ映画監督の君に白羽の矢を立てたのだ」
「いや、私は、まぁいいです。撮りますよ。機材は教団にあるんですね」
どうやったって誤解は解けそうにない。いちいち否定するのは、もう面倒った。だったら、本当にゾンビ映画監督になってやろう。北浜のりぞうは、そう覚悟を決めた。
「ありがとう、だが、元教団だ」
志賀山と北浜のりぞうは握手した。
何でも唱えよ。
神は何でも聞き届ける。
天と命と地、三層合わさる。
三層合掌。
天命地層会。
野勝市西区、坂道の狭い道を登り開けた場所に、天命地層会の本部があった。三メートル近くの高さがある白く塗った金属製の壁に囲まれており、入り口の扉上部には監視カメラがあった。映画監督の北浜のりぞうと志賀山万三郎の二人はそこに来ていた。道中、北浜のりぞうはびくびくと怯えながら、志賀山についていった。不思議とゾンビには会わなかった。
天命地層会は、野勝市を中心に活動していた宗教団体である。元は、仏教系の宗教団体だったが、他の宗教思想を取り入れ、信者を徐々に増やしていった。志賀山万三郎は、その天命地層会の元教祖だった男だ。
「ずいぶんと立派な壁ですね」
北浜のりぞうは白い壁を見上げながらいった。これだけの高さがあれば、軽く浮き上がるゾンビといえど容易には、のぼれない。
「ああ、ここを作るとき、マスコミ対策にな、壁を高くしたんだ。だが、一度も、奴らは取材に来なかった」
志賀山は残念そうな顔をしながらいった。
「なにか、やましいことでもあったんですか」
「あったね。だが、ばれなかった。その前に、ゾンビがあらわれてな、ま、昔の話だがね」
志賀山は入り口のタッチパネルを操作して扉を開けた。
なにがあったのか、北浜のりぞうは聞いたが、昔の話だと、志賀山は、はぐらかした。
中に入ると、広い敷地に畑があり、中央にいくつかアパートのような四角い建物があった。奥の方に果樹園があり、鶏小屋のような物もあった。どこかで、子供が笑っている声が聞こえた。
「結構広いですね」
「ああ、大枚はたいたからな」
北山のりぞうは、志賀山に案内され研究室と書かれた建物に来た。中に何人か、人が居て、何か実験を行っているようだった。
「ここで、ゾンビの研究を行っている」
「信者の方たちですか」
北浜のりぞうは小声で聞いた。
「元信者だ。教団は五年前に解散したからな」
「どうして、彼らはここに」
「他に安全なところはなかった。行くところのない元信者が何人も、ここに暮らしている。さ、こっちだ」
志賀山と北浜のりぞうは、いくつかとびらを抜け、地下室へ入った。
それは異様な光景だった。細かい網のフェンスを使っていくつかの区間に分けられた部屋の中に、青いローブのような服を着たゾンビが四十体ほどいた。
「ゾンビ、ですね」
「ああ、ゾンビだよ」
志賀山はうなずいた。
「いいんですか」
「なにがだね」
「いや、その、ゾンビをこんな風に、閉じ込めて、感染とか」
「感染しないように、みな気をつけている」
「気をつけてるって、危ないでしょう」
何体かのゾンビが金網につかまり、よだれを垂らしながらこちらを見ている。
「危ないからといって、医者は患者を診ないのかね。病気がうつるかも知れないからといって、患者を見殺しにするのかね」
志賀山はいった。
「そりゃあ、見てもらわないと困りますけど、でもゾンビですよ」
まだゾンビがそれほど蔓延していなかった頃、大勢の医者がゾンビになった患者に噛まれ、命を落としている。
「ゾンビだから、何だと言うんだね。彼らは生きているのだよ。私は彼らを救いたい。病に苦しむ彼らを救いたいのだ」
「治療できるんですか」
「無理だ。今のところめどがすら立っていない。それでも出来ることはある。そのために教団施設内に研究所を作ることにしたんだ。元だけどね。元教団施設内に、元信者を使って、ゾンビの研究室を作り上げたのだ」
「そんなもの、勝手に作って良いんですか」
「いいんだよ。そんな法律もないし、神様もいない、私の自由だ」
志賀山は胸を張った。
「その施設の映像を撮れと言うことですか」
「その通りだ。我々の活動を記録に残したいと思い。ゾンビ映画監督の君に白羽の矢を立てたのだ」
「いや、私は、まぁいいです。撮りますよ。機材は教団にあるんですね」
どうやったって誤解は解けそうにない。いちいち否定するのは、もう面倒った。だったら、本当にゾンビ映画監督になってやろう。北浜のりぞうは、そう覚悟を決めた。
「ありがとう、だが、元教団だ」
志賀山と北浜のりぞうは握手した。
0
あなたにおすすめの小説
終焉列島:ゾンビに沈む国
もちもちほっぺ
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
