吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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昼、養鶏場、避難所の霧島

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 養鶏場

 鶏舎は二棟あり、鶏は、トタンの屋根と金網の壁に囲まれた平飼いで飼われていた。
「何羽ぐらい、いるんですか」
 輪子は聞いた。
「ここだと、三百羽ぐらいですかね」
 金網越しに、白い鶏が歩く姿が見えた。
 昼ご飯を食べた後、輪子達四人は養鶏場の見学を行うことにした。養鶏場の持ち主の近藤道夫が案内をしてくれた。
「まだ余裕がありそうですね」
 堀田が言った。鶏舎はいくつかの区間に分かれており、鶏が入っていない区間もあった。
「ええ、まだ、ひよこを増やせていないっていうのもあるんですが、餌の問題がありますからね。あまり多くは増やせないんですよ。鶏用の作物を育てるなら、人間用の作物を育て方がいいですからね。その辺の雑草を刈り取って餌にしたりもしていますが、それだって命がけですからね。あと床材も足りないんですよね。普通だと、一度にたくさん育てて、一度に集荷するやり方をしますが、そういうわけにはいかないでしょ。避難所向けのものですから、小分けに育てて、小分けに出荷するというやり方をしないといけません。人手の問題もあるので、さぐりさぐりやってます」
 基本的に持ち主の近藤道夫さんとその家族で運用されていた。後は警備の人間が数人いた。
「ケージに入っていないんですね」
 なんとなく鶏というと、狭くて長いケージで育てられている印象があった。
「うちは元々、食肉用の鶏を作っていましたからね。食肉用の場合はだいたい平飼いですよ。一度に作って出荷して、掃除して、また作る。まぁ、ゾンビが出る前の話ですけどね」
「卵は作ってないんですか」
「卵は、ここじゃなくてもう一つの、鶏舎で育てています。ケージの設備がないので、平飼いで卵をとっています」
「へぇー、落ちている卵を拾うんですか」
「そういう場合もありますが、だいたいは、鶏が、産卵箱に入って勝手に産んでくれます。暗くて狭い場所で産む性質がありますんで、それを回収します。産卵箱は新しく大工さんに作ってもらいました」
「卵を産まなくなった鶏はどうなるんですか」
「ゾンビ以前は、業者に引き取ってもらっていたんですが、今の状況じゃあ、食べた方がいいでしょうね。肉は固くてあまりおいしくはないんですが、贅沢も言ってられませんからね」
「昔は、ゾンビが出る前は、そのまま食べていなかったんですか」
 堀田が言った。
「スーパーなどでは、通常は出ないでしょうね。固い肉が好きな人もいますので、そういう人向けに卸す場合もあるでしょうが、だいたいは加工品ですね」
「鳴き声はどうです。結構鳴いているようですけど」
 こっこっこっと、地面をつつきながら鶏は歩いていた。
「ええ、結構鳴きますね。まぁ、雌鳥なんで、そこまで大きな声で鳴きませんが、それでも、数が増えるとそれなりの音になりますから、ゾンビに聞こえないか心配なんですよね」
「鶏舎を板で囲っちゃうことはできないんですか」
「この時期だと、開けておかないと、蒸れて病気が出ちゃいますからね。きっちりとした空調設備でもあれば別ですが、そんなことはできないですしね。ゾンビ対策で、養鶏場の回りを壁で囲ってもらっていますから、それで、少しは音が漏れなくなるんじゃないかって期待してますけどね」
「雄鳥はいないんですか。ひよこを育てるために必要でしょう」
「雄鳥は別の場所で、音が漏れにくい場所で育ててます。それでも結構な音が出るんで、ひやひやもんですよ」
 近藤は苦笑いした。
 その後、輪子達は、大八車の警備をしながら、何日かかけステンレス製のパネルを運び込んだ。数日後、養鶏場をぐるりと囲む、ステンレス製の防壁が完成した。

 避難所

 霧島が朝目覚めると、脇腹の肉がごっそり落ちていた。
 寝間着の脇の辺りがぴたぴたするなと思い、さわってみると、柔らかい固まりがあった。寝間着をまくり、それを手に取ってみると、まだらに黒ずんだ、手のひらに収まるぐらいの、肉の塊があった。脇腹をなでると、ちょうどそのぐらいのサイズの穴があいていた。ゾンビに噛まれたところである。
 霧島は、しばし、寝床で呆然とした。妻はまだ横で寝ている。霧島は気づかれぬよう、腐り落ちた肉を持って、洗面所に入った。トイレに、これを捨てようかと思ったが、こんなもん捨てたらトイレが詰まると思いやめた。ビニール袋を探し中に入れ、ゴミ箱に入れた。
 そのあとトイレに入り号泣した。
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