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夜、バス停、坂木
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夜
権造は、六月の梅雨空の合間を縫ってジャガイモの収穫を行った。今年は雨が多く、いくつか腐った芋があったが、それなりの収穫になった。ジャガイモとタマネギをセットにして、バス停の無人販売所に卸すと飛ぶように売れた。売り上げの計算をすると、出た商品に対して、入っているお金が少なかった。おそらく、金のない人間がいるのだろう。権造は、木の板に、ご自由におつかいくださいと書き、金を、かごの中に入れておいた。
六百年生きる吸血鬼である権造は、金を有り余るほどもっていた。今は全く使えなくなった銀行にもあったし、現金や貴金属という形で、様々な場所に資産を隠し持っていた。二、三百年ほど前に、美術品に、はまっていた時期があったため、出せば目立ちすぎて、出せないような美術品のたぐいも所有していた。
ようは金持ちなのである。
使い道もないため、金をどこかで落とさなければならないと、前から考えていた。小さな避難所などの郵便受けなどに、寄付金を入れたりなどしているが、避難所に入らず、住宅に隠れ住んでいる人たちも大勢いる。そういった人たちにお金の渡しようがなかった。バス停の無人販売所に置いておけば、少しはそういった人たちの役に立つだろう。
「そういえば、腹が減ってきたな」
権造は、野菜を無人販売所に並べながらつぶやいた。
帰り道
「少し遅くなっちまったな」
坂木啓介は、身長ほどの樫の棒をもち、リュックサックを背負い、ウェストポーチを身につけ、夜の道を歩いていた。
坂木啓介は散髪屋である。
今日は温泉施設に散髪屋として出張していた。高台にある温泉施設で、駐車場や併設された宿泊施設を利用して避難所になっていた。そこで髪を切って、帰りに、お風呂をいただいた。とろりとした良いお湯だった。
お土産に温泉まんじゅうを買ってきた。
温泉で蒸しているそうだ。
久しぶりの甘味だ。きっと二人も喜んでくれるだろう。
一緒に暮らしている永井京子と大川洋太の顔を想像しながら家路を急いだ。
なぜか、足が止まった。
目が急にかすんだ。さっきまで、月明かりのおかげで、それなりに見通せていた道が、ずぶりと見えなくなった。
曲がり角から、暗闇が這い出てきた。
それは、人の形を持っていた。四十とも五十ともいえる頭のはげ上がった中年の男があらわれた。
男は、近づき。
「こんばんは」
と挨拶をした。
急に辺りが明るくなった。月明かりが戻ったのだ。
「あ、ああ、こんばんは」
坂木は樫の棒を握りしめ、かろうじて挨拶を返した。
男は、坂木の手元をちろりと見てから、そのまま、ぺたぺたと歩いて行った。
坂木は震えた。
夏も近いというのに、腹の底から冷え込んだ。
「あれは、なんなのだ」
坂木啓介は樫の木にしがみつくような姿勢で、しばらく動けなかった。
山本権造は、年をとった、といっても、権造よりも、はるかに若い老人が歩いていたので、血を吸おうと近づいた。しかしやめた。
老人の手や、持っている荷物から、染みついたような消毒液の臭いがした。それから、たくさんの人の臭いと、温泉の臭いがした。あとついでに、まんじゅうの臭いもした。
温泉とまんじゅうの匂いは、よくわからないが、消毒液の臭いとたくさんの人間の臭いがする職業といえば。
「医者、かなぁ」
権造は、そう推測した。
人の命を救う医者だとしたら、襲うわけにはいかなかった。
喉の渇きは別の人間で潤すことにした。
権造は、六月の梅雨空の合間を縫ってジャガイモの収穫を行った。今年は雨が多く、いくつか腐った芋があったが、それなりの収穫になった。ジャガイモとタマネギをセットにして、バス停の無人販売所に卸すと飛ぶように売れた。売り上げの計算をすると、出た商品に対して、入っているお金が少なかった。おそらく、金のない人間がいるのだろう。権造は、木の板に、ご自由におつかいくださいと書き、金を、かごの中に入れておいた。
六百年生きる吸血鬼である権造は、金を有り余るほどもっていた。今は全く使えなくなった銀行にもあったし、現金や貴金属という形で、様々な場所に資産を隠し持っていた。二、三百年ほど前に、美術品に、はまっていた時期があったため、出せば目立ちすぎて、出せないような美術品のたぐいも所有していた。
ようは金持ちなのである。
使い道もないため、金をどこかで落とさなければならないと、前から考えていた。小さな避難所などの郵便受けなどに、寄付金を入れたりなどしているが、避難所に入らず、住宅に隠れ住んでいる人たちも大勢いる。そういった人たちにお金の渡しようがなかった。バス停の無人販売所に置いておけば、少しはそういった人たちの役に立つだろう。
「そういえば、腹が減ってきたな」
権造は、野菜を無人販売所に並べながらつぶやいた。
帰り道
「少し遅くなっちまったな」
坂木啓介は、身長ほどの樫の棒をもち、リュックサックを背負い、ウェストポーチを身につけ、夜の道を歩いていた。
坂木啓介は散髪屋である。
今日は温泉施設に散髪屋として出張していた。高台にある温泉施設で、駐車場や併設された宿泊施設を利用して避難所になっていた。そこで髪を切って、帰りに、お風呂をいただいた。とろりとした良いお湯だった。
お土産に温泉まんじゅうを買ってきた。
温泉で蒸しているそうだ。
久しぶりの甘味だ。きっと二人も喜んでくれるだろう。
一緒に暮らしている永井京子と大川洋太の顔を想像しながら家路を急いだ。
なぜか、足が止まった。
目が急にかすんだ。さっきまで、月明かりのおかげで、それなりに見通せていた道が、ずぶりと見えなくなった。
曲がり角から、暗闇が這い出てきた。
それは、人の形を持っていた。四十とも五十ともいえる頭のはげ上がった中年の男があらわれた。
男は、近づき。
「こんばんは」
と挨拶をした。
急に辺りが明るくなった。月明かりが戻ったのだ。
「あ、ああ、こんばんは」
坂木は樫の棒を握りしめ、かろうじて挨拶を返した。
男は、坂木の手元をちろりと見てから、そのまま、ぺたぺたと歩いて行った。
坂木は震えた。
夏も近いというのに、腹の底から冷え込んだ。
「あれは、なんなのだ」
坂木啓介は樫の木にしがみつくような姿勢で、しばらく動けなかった。
山本権造は、年をとった、といっても、権造よりも、はるかに若い老人が歩いていたので、血を吸おうと近づいた。しかしやめた。
老人の手や、持っている荷物から、染みついたような消毒液の臭いがした。それから、たくさんの人の臭いと、温泉の臭いがした。あとついでに、まんじゅうの臭いもした。
温泉とまんじゅうの匂いは、よくわからないが、消毒液の臭いとたくさんの人間の臭いがする職業といえば。
「医者、かなぁ」
権造は、そう推測した。
人の命を救う医者だとしたら、襲うわけにはいかなかった。
喉の渇きは別の人間で潤すことにした。
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