吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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刑務所、相撲部屋、ライブハウス、元教団施設の歌声

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 刑務所

 野勝市の北に位置する屋絵図町は、山に囲まれた農地だった。昔から綿花の栽培が盛んで、その流れで紡績工場が建てられた。海外の安価な綿花により、繊維業界が廃れ、それと共に屋絵図町の経済も下降した。そこで、当時の町長がつぶれた紡績工場跡に刑務所を誘致した。それが、屋絵図刑務所である。
 屋絵図刑務所は脱走者が出ないようにするため、五メートル程度の高い塀があった。ゾンビが発生したときも、この高い塀のおかげで、ゾンビの襲撃にも耐えた。ただその際、刑務所内の刑務官と受刑者がゾンビに感染した。
 ゾンビに感染した刑務官と受刑者は、牢獄に隔離された。
 ゾンビが発生して、一年ほど、屋絵図刑務所は秩序を保つことができた。脱獄や暴動のリスクを考え、自治体が優先的に食糧が配布することに決めた。市民より受刑者を優先するのかという声もあったが、脱獄のリスクの方が問題視された。外にいるより安全という考え方をする受刑者も多かった。ところが、一部の受刑者が脱獄を試みた。
 刑務所内の一角の牢屋に、ゾンビになってしまった人間を隔離していた。その隔離していたゾンビに、受刑者が、火がついた布をくるんだ石を投げた。
 火は、隔離していたゾンビに引火し、数十人いた感染者は、次々と爆発した。火災報知器が鳴り、スプリンクラーが作動する。火が消し止められたが、爆発の衝撃で、建物と壁の一部に穴があいた。
 その穴を目指し、一部の受刑者は走り出した。
 壁にあいた穴から抜け出そうとした受刑者の足を掴んだ者がいた。
 ゾンビである。
 スプリンクラーで、速やかに火が消し止められたおかげで、爆発せず生き残ったゾンビがいた。それが受刑者に襲いかかった。
 受刑者は瓦礫を手にゾンビを倒した。
 スプリンクラーがやみ、刑務官が駆け寄ってきた。
 壁には穴があいており、受刑者達の手には爆発でできたコンクリート片があった。血と煙と腐った臭いがした。
 暴動が起こった。
 受刑者は外に出るために、出入り口を開けた。そこからゾンビが流れ込んできた。爆発の音に、ゾンビ達が引きつけられていたのだ。
 ゾンビが中に入ってきたため、扉を閉めようとしたがその前に爆発が起こった。
 刑務官から奪ったたばこを吸っていた受刑者がいた。久しぶりの紫煙を楽しんでいたところ、ゾンビが入ってきたと聞き、たばこを捨てて、慌てて逃げた。火のついた、たばこをゾンビが踏み、引火した。
 ゾンビは誘爆し、刑務所の出入り口の扉が壊れて閉まらなくなった。
 中に入ってきたゾンビは、炎に包まれながら受刑者を襲い、刑務所内にいた人たちは、ゾンビになってしまった。

 そんな屋絵図刑務所にも、歌声が届けられた。
 どこか懐かしい歌声に、ゾンビ達は刑務所に慰問にきてくれた歌手を思いだした。
 

 相撲部屋

 野勝市から東、田和利市、稲村台周辺十キロは、田和利市役所によって第一級危険地帯に指定されていた。稲村台には、荒船部屋と呼ばれる相撲部屋があった。元大関の荒船が親方を務める相撲部屋である。
 そこも、当然ゾンビに襲われた。
 力士は戦った。 
 力士は、力は強いが、ゾンビには弱い。力士は、ほとんど半裸状態であるため、ゾンビに噛まれゾンビになってしまった。
 荒船部屋所属の力士は、十五名、荒船親方を含めて十六名、そのうち一名を残し、ゾンビになってしまった。膝の炎症で自宅療養していた荒万力一人が生き残ってしまった。部屋の人間、親方を含め十五名がゾンビになった。

 力士は良く食う。だから、ゾンビになっても良く食った。
 十五名のゾンビ力士は、周辺の住人をむさぼり食った。何度か討伐隊を結成したが、すべて返り討ちになり、稲村台周辺はゾンビだらけになった。市は稲村台周辺を第一級危険地帯に指定し、バリケードを作り、人の立ち入りを禁じた。
 そんな第一級危険地帯に、乗り込む男が一人いた。荒万力である。荒船部屋唯一の生き残りである彼は、ゾンビになってしまった親方や部屋の仲間を葬るため、第一級危険地帯に一人乗り込んでいた。

 何度か死闘を繰り返し、荒万力は五体のゾンビ力士を葬ることに成功した。それでもまだ、親方を含め十名のゾンビ力士が残っていた。
 そんなゾンビ力士の頭の中にも、歌声が聞こえた。
 


 ライブハウス

 野勝市から西、材単市、材単駅周辺のビルの地下にあるライブハウス、ビックハリケーン、焼けたライブハウスの中に何体かのゾンビがさまよっていた。
 どのゾンビも全身にやけどのような跡があった。
 燃えたのだ。ゾンビは可燃性のガスを発生する。そのため燃える。ひどいと爆発する。燃えた後のゾンビは、徐々にだが再生する。再生と腐敗を繰り返しながら、ゾンビはガスを発生させる。
 焦げたギターが体にめり込んだゾンビがいた。
 ロックバンド、悪行明媚のギターリスト、小田実である。ガス肥大と放出を繰り返すうちに、肩からぶら下げていたギターが体にめり込んでしまったのだ。
 弦はすでに燃えて消えている。それでもときどき、小田は、焼け焦げたギターをかき鳴らすような仕草を見せた。鳴っているのだ。腐った脳みそで、焼け焦げたライブハウスで、ゾンビとなってしまった観衆に向けて、演奏をしているのだ。
 そんなゾンビギタリストになってしまった小田の頭の中にも、歌は聞こえた。
 小田は、しばらく、頭の中に流れてくる歌声に耳を傾けていたが、首をひねった。
 どうも、音楽性があわないようであった。

 
 元教団施設

 ほぉおおお、ほぉおおおお。
 ゾンビ達は地下の元教団施設で、歌を歌っていた。
 その映像を撮りながら、北浜は恐怖を感じた。その歌声は、日に日に鮮明になっている。何かやってはいけないことをしているような気がしたが、元市民合唱団の川山は、そんなことはみじんも感じていないようで熱心にゾンビに歌を教えていた。
「ほう、ほう、ほーたる来い。あっちのみーずは、にーがいぞ。こっちのみーずは、あーまいぞ。ほう、ほう、ほーたる来い」
 歌った。

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