吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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霧島、北のゾンビ、矢野と犬

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 霧島

「あなた、大丈夫なの」
 霧島の妻が言った。
「なにがだ」
 霧島は座っていた。食卓には何かが並んでいた。それが何か霧島には、よくわからなかった。
「顔色も悪いし、なんだか、とても、変よ」
 霧島の妻が言った。
「変? なぁにがへんなんだ」
 確かに何かが変だった。それがなんなのか、霧島にはぴんとこなかった。
「まさか、あなた、ゾンビに噛まれたんじゃあ」
 霧島の妻は怯えたような表情を見せた。
 ああ、そうだ。そういえばそうだった。ゾンビに噛まれたんだ。霧島は思い出した。
「そんな、そんなことはない」
 霧島は立ち上がった。
「あなた、こないで」
 霧島の妻はあとずさった。
「なぁーんで、そんなこというんだぁー」 
 霧島の頭に恥ずかしさと怒りがこみ上げてきた。
 拳を握りしめ、上にあげ妻の頭を殴りつけた。白髪交じりの妻の頭が下に落ちる。昔は、少し茶色の入った白髪染めを使っていたな。そんなことを思い出した。
 それから先はよく覚えていなかった。気がつくと妻の首をぎゅうぎゅうに握りしめていた。妻の顔はどす黒く変色しており、顔にはいくつもの噛み傷があった。
「わはしが、やったのか」
 霧島は自分の両手を見た。無数のひっかき傷があった。おそらく、首を絞められた妻がひっかいたのだろう。霧島は妻の顔を見ていられなくなり、自分の顔を両手で覆うと、顔と口の周りにべったりと血がついていることに気がついた。
「はあー」
 霧島は恐怖の声を上げた。時計を見ると、小一時間たっていた。


 夜、吸血鬼

「あれ」
 日が沈み、今日は何をしようかと、山本権造が地下室から出てきたところ、ゾンビがずいぶん増えていることに気づいた。
「増えているっていうか、集まってきている」
 権造は外に出て屋根に登り、感覚を研ぎ澄ました。
 北と南と東、西からはあまり来ていない。ゾンビの群れが野勝市に向かってゆっくり歩みを進めていた。住人もそのことに気づいているのか、町全体が緊張感をはらんでいた。
「これやばいな」
 何度か、ゾンビの群れが集まってきて人間の集落を襲うことはあったが、この数のゾンビが集まってきたことはなかった。
 これだけのゾンビに、野勝市の人間が対抗できるのかというと、微妙だった。ただのゾンビなら、問題ないだろう。だが、このゾンビは爆発する。どこかで火災が発生し、ゾンビに火がつけば、野勝市は火の海になる。そうなれば人は住めない。人が住めなければ、権造も移住しなければならない。
「とにかく数を減らさないと」
 権造は鉄パイプを片手に、ここから一番近い北方面に向かった。



 道

 矢野武雄は暗闇の中、逃げていた。
 夜、空は雲に覆われており、星の明かりも月の明かりもなかった。
 ゾンビの群れが北から南下してきているという情報は知っていた。避難所にいれば大丈夫だろうと思っていた。そもそも、避難所以外、逃げるような場所は思いつかなかった。
 ゾンビは次々と現れた。
 避難所として使っているホテルの周りには、防壁で囲っている。ただ、その防壁をゾンビは乗り越えてくる。このゾンビは少し浮くのだ。前にいるゾンビを踏み、三メートルほどの高さの防壁を乗り越えてくる。
 防壁の中に入り込んでくるゾンビと戦った。
 徐々に疲弊していく。最初の頃は交代しながら戦っていたが、いかんせんゾンビの数が多い、疲れていない人間がいなくなった。
 押し込まれてくる。やがて避難所の建物の中にまで入り込まれた。押し返そうとしたがうまくはいかない。三階建てのホテルの壁面にもガス肥大したゾンビが張り付いていた。窓ガラスが割れる音がして、中にもゾンビ達が入り込んでいる。
 ここは、もうだめだ。矢野はそう思った。
 矢野は東側の雑木林に向かった。そちらの方面にはゾンビが少なかった。家族も大切な人も、矢野にはいない。
 矢野は、壁に積み上げられていたゾンビの膨らんだ死体を踏みこえ、防壁の外へ出て、雑木林の中に逃げ込んだ。
 何体か、ゾンビが追ってきたが、雑木林の木に阻まれ、追って来られないようだった。

 雑木林を抜け、住宅地に出た。どこにいってもゾンビのうなり声が聞こえた。
 日が落ち、夜になった。闇が濃くなっていく。
 ゾンビのうなり声や、暴れる音、人々の叫び声が、夜の闇の中、良く聞こえた。矢野は住宅の庭先で身を隠していた。
 ゾンビは住宅を好む。家に入ってゾンビの待ち伏せをくらうのは恐かった。だから、身を隠せるブロック塀の庭木の間に身を隠した。
 夜とはいえ夏だ。喉の渇きが次第に厳しくなった。基本的に水道水はゾンビの感染リスクがあるため、飲まないようにしている。とはいえ、今飲める水というとそれぐらいしかなかった。
 矢野は辺りを警戒しながら、玄関口近くにある外に備え付けられている水道に向かった。
 水道の蛇口をひねろうとすると、何かがいることに気づいた。庭先に白っぽい何かがいた。
 一瞬血の気が引いたが、よく見ると犬だった。中型で、毛は、元は白だったのだろう。薄汚れて茶色っぽくなっていた。何の犬種かまでは、矢野にはわからなかった。
 その犬が、吠えた。
 甲高い声でキャンキャンと吠えた。
「おい、やめろ」
 矢野は慌てて、辺りを見渡した。あちこちにゾンビはいる。
 両手を前に出して、静かにするよう、犬にアピールしたが、もちろん効果は無い。犬は吠え続けた。
 矢野はたまらず、庭から外へ出た。
 住宅地の暗い通り道、当然街灯はついていない。争う音と、うなり声、ゾンビの臭気が漂っていた。
 あと、犬の鳴き声もついてきていた。
 矢野が振り返ると、小汚い犬がキャンキャンと鳴きながらついてきていた。
「くそ! あっちいけよ。俺は飼い主じゃねぇぞ」
 歩いて移動する矢野に犬は飛び上がってまとわりついた。 
 その音に、反応してゾンビが来ると思っていたが、意外なことにゾンビは一向にあらわれなかった。


 吸血鬼

 権造は野勝市目がけて南下してくるゾンビを退治していたが、数が多すぎた。なおかつ広範囲にばらけすぎいて、倒すのに時間がかかっていた。
 人の集まっている避難所などならゾンビも集まっているが、そこにいくと、夜だといっても、権造はかなり目立ってしまう。それは避けたかった。
 何とか人に見つからず、ゾンビを集める方法がないかと思案していたところ、男と吠える犬を見つけた。
 犬の鳴き声と人間の気配を感じたのか、ゾンビが集まってきていた。
 それを狩った。
 人間に見つからないよう、闇夜に紛れ、ゾンビの頸骨に鉄パイプを静かに打ち込んだ。
 ひととおり、集まってきたゾンビを倒した後、権造は他のゾンビを求めて移動した。夜明けの一時間ほど前まで、権造は倒せるだけゾンビを倒し、太陽が出る前に住み処に帰った。
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