【完結】平凡な令嬢、マリールイスの婚約の行方【短編】

青波鳩子

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【3】婚約者レイフの友人の、婚約発表パーティへ

 
 
マリールイスの婚約が結ばれて数か月が過ぎた頃、ブルネル公爵家の一人娘カタリーナと、ストレーム侯爵家の三男グスタフの婚約発表パーティがブルネル公爵家で開催されることになり、エングダール伯爵家にも招待状が届いた。
カタリーナとグスタフはマリールイスの兄エーギルと婚約者レイフの同級生で、レイフが最も懇意にしている友人だ。
マリールイスは当然のように婚約者のレイフからエスコートの申し出を受けたが、憂鬱に感じている。
あれから、オークランス公爵家嫡男レイフが伯爵家のマリールイスに一目惚れをして婚約が調ったという噂が流れていた。

(どう考えても、噂の出どころはレイフ様だわ……。彼自身が語らなければ『一目惚れ』という言葉が出回るのはおかしいもの)

婚約が調ってから、レイフからティーサロンに連れて行かれたり、髪飾りを選ばせて欲しいという名目で王都の街歩きに誘われたりした。
どの場面でもレイフはとても紳士的な対応をしていたけれど、マリールイスはレイフと会うのが『外ばかり』ということに気づいた。
オークランス公爵家の広大な庭を案内してくれるだとか、マリールイスの家を訪れて一緒にお茶を飲むだとか、そうした人目につかない誘いは一度もなかった。
自分を見るレイフの瞳に、一目惚れをしたという『熱量』を感じることはなかった。むしろ、無関心さだけを感じている。
レイフは他者がいるところでは優しくマリールイスに話し掛けるが、二人きりの時は冷ややかだった。
特にマリールイスの口調や仕草に対し、『公爵家の僕が躾をしてやる』という姿勢で物を言ってきた。

(人に上手く説明することは難しいけれど、レイフ様が私に恋をしてないことだけは絶対確かだわ。恋どころかまったくの無関心。これは、本人である私にしか分からないものかもしれない)

婚約を申し込まれた理由が分からず、マリールイスはあれからずっと居心地の悪い思いをしていた。
兄たちが言うように、カタリーナ・ブルネル公爵令嬢と親しくしていたようだが、婿を取ることになった婚約披露パーティにレイフも招待されている。
ブルネル公爵家から、エングダール伯爵家宛に届いていた。
レイフとカタリーナの間に何か関係があったのなら、レイフの婚約者となったマリールイスの家族宛の招待状は送らないだろう。

そしてパーティの二週間前には、レイフからマリールイスにドレスが届いた。
婚約が正式に調ってすぐに、公爵家での採寸にマリールイスが呼ばれて行ったのだ。
公爵家には、王妃殿下や王女殿下御用達で予約が取れないことで有名なドレスメーカーが大勢でやってきていた。
こうしたパーティや舞踏会のために、マリールイスのドレスを公爵家持ちで作ると言われたが、こんな有名なドレスメーカーだとは思わずマリールイスは困惑した。

届いたドレスを広げると、エングダール伯爵家の人々は感嘆の声をもらした。
女性のドレスにあまり詳しくないエーギルやヨーアンにも、その生地がとても豪華で丁寧に織られていることが判るほどだった。
デザインも凝っていて、母は素晴らしいわねと呟いた。
マリールイスは、相変わらず腑に落ちないままだ。
自分に似合うとは思えない豪奢なドレスを前にしても、気分は少しも上がらない。
マリールイスを除くエングダール伯爵家の人々は、一周回って本当にレイフがマリールイスに一目惚れをしたのではないかと思い始めていた。




「マリー、ドレスもネックレスもとても似合って美しいよ」
「ありがとうございます。レイフ様も、とても素敵です」

ブルネル公爵家のパーティの当日、迎えに来たレイフは、マリールイスを見るなり笑顔でドレス姿を褒めた。それなのに、マリールイスにはその言葉が取って付けたように感じてしまう。
馬車に乗り込み、二人きりになるとレイフの態度が変わった。

「さっきはすぐに『ありがとうございます』と言ったよね。まずは『はい』と僕の言葉を受けてから、ありがとうございますと繋げるのだろう? いつになったら子供のような話し癖が抜けるのだろうか。パーティではしっかりしてくれよ? 恥をかくのは君だけではないのだからな」
「……申し訳ございません」
「だから相手の言葉を受けて『はい』と最初に言うんだ」
「……はい、重ね重ね申し訳ございません」

やはり、レイフが自分に一目惚れをしたなどというのは嘘なのだ、マリールイスはそう確信する。
マリールイスは自分の腿のあたりに目を落とした。
今夜のためにレイフから贈られた、光沢の美しいシルバーの生地のドレスはスカートが斜めに切り替えられていて、そこからヴァイオレット色の細かいプリーツとなっている。
落ち着いた栗色のまとめ髪に、髪飾りの代わりに控えめに白い生花を挿した。
レイフから髪飾りを贈られなかったので、豪華なネックレスが目立つようにという意味だと受け止めた。

ドレスと一緒に贈られたネックレスは、繊細にカットされたオークランス領の大粒のダイヤモンドに、こちらも細かくカットされた紫色のアメジストがダイヤの両サイドにあり、眩い煌めきを放っていた。
このネックレスは、レイフの母であるオークランス公爵夫人のものだったらしい。
今はこうしてマリールイスの白い胸元で輝いているが、マリールイスに贈られた物のようでそうではない。結婚すればオークランス公爵家の宝石が並ぶ棚に戻るだけだ。
そうして代々受け継がれる、公爵家の歴史の一部なのかもしれない。
レイフが贈ってくれたこのドレスは胸元が大きく開き過ぎているし、何もかも落ち着かない気持ちになった。


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