【完結】『ご配慮王子』の本当の心を知りたくて

青波鳩子

文字の大きさ
15 / 17

【15話】心の声が聞こえなくても


「二つ年上の彼女のことは、幼馴染というほど親しかったわけではないが小さい頃からよく知っている。三大公爵家のどの家とも、それなりの付き合いがあった。今も、会うことがあれば普通に話をするよ。彼女は僕だけでなく兄上たちのことも、弟のように思っているらしいから。そしてリラローゼ嬢に未だ婚約者が決められていないのは、僕とはまったく関係がない。そろそろ公にしても良いとのことらしいから言うが、彼女は自身の護衛騎士と密かに想い合っている。だが、彼の父親は騎士爵であるものの、本人はいずれ自身で身を立てなければ貴族でいることもできない立場の護衛騎士との結婚が許されるはずもなかった。リラローゼ嬢は、公爵に内密に親戚筋に手紙を書いては、護衛騎士カール・アウラーを養子にとってもらえないかと頼んでいたそうだ。そして、母方の親族であるユンカース伯爵家の養子にすることを受け入れてもらえたという。公爵に内密にといっても、リラローゼ嬢の行動を公爵はすべて把握しており、最終的にはユンカース伯爵に公爵自らが裏で願い出て話をまとめた。ようやくリラローゼ嬢は、カール・ユンカースとなった護衛騎士との婚約が決まったんだ」

リラローゼ様は護衛騎士と恋仲だったとの話は、私の耳に入るようなことはなかった。
ケートマン公爵は、そのような噂が立たないように抑えていたのだろう。
それなのに、私も『ご配慮王子』という噂に踊らされていた愚か者の一人だった。

「そうだったのですね……。それなのに私は勘違いをしてしまい、お恥ずかしい限りで申し訳ない気持ちでいっぱいです」
「いや、それは仕方がないのだ。兄上の婚約者の令嬢たちも、僕の婚約者がリラローゼ嬢ならいいのにと口にしていたし、リラローゼ嬢が自分にはそんなつもりは全くないと言っても、その言葉さえリラローゼ嬢の『配慮』だなどと受け取られるだけだった。僕は配慮という言葉を嫌いになっていた」
「私は、そんな殿下の思いに至ることもできず、殿下のお心を覗くようなことを……」
「僕が伝えなかったのが、ただただ悪かった。僕は十二の頃からずっと君が好きだ」

あまりに真っ直ぐなその言葉に、返すべき言葉が見つからない。
常に冷静であれという婚約者教育が、少しも役に立たない。

「エルナ、君は僕の本当の心を知ったらこの婚約を解消してもらえるようにすると言ったね。それが誤解だと、エルナとの結婚を心から望んでいる僕の本当の心を知った今、どうしたいと思っている?」

殿下の青い瞳がまっすぐに私を見ている。
その澄んだ湖のような瞳は、どこにも迷いも嘘もないと感じた。
配慮などない、殿下のお心が私を望んでくださっていることを受け止められる眼差しだ。

「私も、フリッツ殿下のことを……お慕いしております。殿下と伯爵家の執務を行いながら、穏やかな日々を共に過ごせたらというものが、今の私の夢と希望です」

「エルナ、よかった……。君の別の声が聞こえ始めたとき、君を想うあまりついに僕は頭がおかしくなり、神から何かを試されているのかと思った……よかった……エルナ」

殿下はソファの背もたれに身体を沈めて、天井を仰ぐような姿勢になった。
すぐに体勢を戻し、

「そうか、エルナはそんなにも僕の本当の心が知りたかったのか……。なんだか嬉しいな。そのような薬を飲むのは勇気が要ったろうに」

殿下は花がほころぶように、心から嬉しそうに微笑まれた。
そんな殿下の素敵な笑顔をまっすぐ見ていられなくて、自分の膝あたりに目を落とす。

「心の声が聞こえなくても、エルナの表情を見ていると何となく判るものだね」

殿下のその言葉に、ハッとする。
私は殿下のお心が知りたいばかりにいつも上の空で、まっすぐ殿下のお顔を見ることもなかったかもしれない。
目の前にいらっしゃる、婚約者であるフリッツ殿下のお顔をしっかり見ていれば、殿下のおっしゃるように心の声が聞こえなくても、そのお心が分かったのかもしれないのに……。
私は自分の短慮に、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになった。

あなたにおすすめの小説

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

とある断罪劇の一夜

雪菊
恋愛
公爵令嬢エカテリーナは卒業パーティーで婚約者の第二王子から婚約破棄宣言された。 しかしこれは予定通り。 学園入学時に前世の記憶を取り戻した彼女はこの世界がゲームの世界であり自分が悪役令嬢であることに気づいたのだ。 だから対策もばっちり。準備万端で断罪を迎え撃つ。 現実のものとは一切関係のない架空のお話です。 初投稿作品です。短編予定です。 誤字脱字矛盾などありましたらこっそり教えてください。

【完結】大好きな婚約者の運命の“赤い糸”の相手は、どうやら私ではないみたいです

Rohdea
恋愛
子爵令嬢のフランシスカには、10歳の時から婚約している大好きな婚約者のマーカスがいる。 マーカスは公爵家の令息で、子爵令嬢の自分とは何もかも釣り合っていなかったけれど、 とある理由により結ばれた婚約だった。 それでもマーカスは優しい人で婚約者として仲良く過ごして来た。 だけど、最近のフランシスカは不安を抱えていた。 その原因はマーカスが会長を務める生徒会に新たに加わった、元平民の男爵令嬢。 彼女の存在がフランシスカの胸をざわつかせていた。 そんなある日、酷いめまいを起こし倒れたフランシスカ。 目覚めた時、自分の前世とこの世界の事を思い出す。 ──ここは乙女ゲームの世界で、大好きな婚約者は攻略対象者だった…… そして、それとは別にフランシスカは何故かこの時から、ゲームの設定にもあった、 運命で結ばれる男女の中で繋がっているという“赤い糸”が見えるようになっていた。 しかし、フランシスカとマーカスの赤い糸は……

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

やっぱりあなたは無理でした

あや乃
恋愛
愛する婚約者とその恋人に嵌められ、断罪された挙句惨めに捨てられた侯爵令嬢フローリア・コーラル。 修道院に向かう途中で不遇の死を遂げた彼女は願った、もう一度人生をやり直したいと―― 目覚めた時彼女の時間は半年前に巻き戻っていた。 今度こそ第一王子ジュリアンの心を取り戻し「愛する人から愛される」というささやかな願いを叶えたいと奮闘するフローリアだが、半年後フローリアが断罪されたあの日が再び訪れてしまう。 同じ光景、同じ台詞、何もかもが同じ……でもたった一つだけ違っていることがあって!? ※「小説家になろう」さまにも掲載中