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【16話】母が薬を飲んだ理由
殿下が馬車停まりまで送ってくださった。
別れ際、
「僕はこれからご配慮王子という二つ名を返上できるように、堂々としていようと思う。そんなふうに言われていることは、僕にも原因があった。やはりどうしても、兄上たちには遠慮してしまう気持ちが拭えないでいた。でも、そのせいで大切なエルナを悲しませていた僕の罪を忘れないでいく。これから少しずつでも変わっていく僕を、エルナは見ていてほしい」
「フリッツ様……。私も何か思うところがあれば、すぐにフリッツ様にお話しするようにいたします」
「うん。本当に良かった。お母上に感謝したい気分だ。また次の茶会について連絡する」
「はい。今日はありがとうございました」
帰りの馬車も行きと同じくらいに揺れていたはずなのに、私は雲の上にいるようなふわふわした気持ちでいた。
心読みの薬を飲んだら、思いもしなかった殿下の本当のお心を知ることになった。
殿下のお心を覗くようなはしたない自分に恥ずかしくなった一方で、殿下から嬉しいお言葉をたくさんいただき、夢を見ているかのようだった。
それから伯爵家の家に戻ると、着替えも後回しにして母の部屋に向かった。
薬を飲んでから半日は心の声が聞こえるはずなのに、途中で聞こえなくなった理由を尋ねると、薬を飲んだらゴブレット一杯の水を飲むと言ったのは、効果が早く消えるようにするためだったと母は言った。
『エルナのことだから、変なことを思い浮かべる前に早めに効果が切れるようにした方が良いと思ってのこと』と満足そうに言う母に、少し意地悪を返したくなった。
母が何故、心読みの薬を使ったのかを尋ねた。
すると、従者棟に預けている、庭に迷い込んでいるのを母が保護した犬の心の声を聞こうしたというのだ。
すでに愛情が芽生えて手放したくはなかったけれど、テゾーロと名付けた犬が可愛いが故に、戻るべき場所を探してやりたかったという。
私が恐る恐る、テゾーロの心の声はどのようなものだったのかと聞くと、
『バウバウという鳴き声のバリエーションが聞こえただけで、何と言っているのかは全く分からなかった』と母は笑った。
私も驚きながらも笑った。
心読みの薬を使った理由に、どのような母の闇があるのかと考えていたのに力が抜けた。
本当はそれ以前にも使ったことがあったのだろう。
でもそれは、母が前に言っていたように、私がもう少し大人になれば教えてもらえるのかもしれない。
犬の心の声は、鳴き声のままに聞こえる。
あまり使い道のない知識が一つ増えて、母の友人のテゾーロに私も触れたくなった。
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